19 グリーンと蝶➁
今回のメンバーは……
メインメンバー:ステラ ブルー グリーン ピンク
控え:レッド ブラック
蝶がいる。
美しい模様が描かれた羽をはためかせ、空を飛んでいる。
「……」
木の幹にとまった。
他の昆虫たちとともに、樹液を求めて寄り集まっている。
「グリーン」
「……しー。しー。声が大きいんだってー」
「……あっ、ごめん」
グリーンは弓矢を手に取った。
彼女の弓はショートボウ。その中でも更に短い、極小の弓だ。
コンパクトサイズで持ち運びやすく、弓以外の武器も装備できる。
難点としては射程が短いこと。
スキルを使用しなければ、十メートル飛べばいいところだろう。
「……≪影縫い≫」
――キリリリリッ……シュッ!
地面に映った蝶の影を、的確に射抜いた。
ピタッ! 蝶がピタリと止まり、その場から身動き一つしなくなった。
「おおっ! やるねー」
「影縫いは、ローグ専用のスキル。彼女ならではの技ですね」
グリーンがニコニコしながら、蝶を虫かごに入れている。
「ごめん。ちょっとだけ、それ貸してくれる?」
「いいよー」
虫かごを受け取ると、ブルーとピンクのところへ持っていく。
「見てよ。ここ、縦に線が入ってるよ。これはタテツキアゲハだね。間違いない」
値段は一万したはずだ。高かったから、記憶に残っている。
すると、ブルーが答えた。
「その蝶は樹液を吸いません」
「え? そうなの?」
「はい。おそらく、タテキズオオムラサキでしょう」
うーん。よく見れば、そんな気がするような……。
「ステラちゃん。調べてきたんじゃないの?」
「数が多いし、似たようなのばかりで、覚えられないんだよ~」
「私も半分も覚えられませんでした。けっこう難しいですよ」
私たちが話してると、後ろから声がかかった。
「お嬢さんたち、お困りかな」
おじいさんが立っている。
「この人、誰なの?」
「知らない老人がいますね」
「……えっと、この人は」
「わしは昆虫大好きじいさん。昆虫を心の底から愛するものじゃ」
「だから、誰?」
「ギルドに護衛依頼があったから、受けてきたの」
このダンジョンの中で、昆虫採集したいそうだ。
日が暮れるまで、彼を護衛すれば、クエスト達成となる。
「ちなみに、そのカゴの蝶は、ヒトスジオオムラサキじゃ」
「……私も間違っていましたか」
うーん。蝶の道は奥が深いな。
☆
随分と虫の多い森だ。
蝶だけではなく、カブト虫のような甲虫、変わった色をしたクモなんかもいる。
植物も多い。
先ほどから、変な蔦のようなものが足に絡みついてきて、非常にうっとおしい。
ダンジョンの中の生物って独特のものが多いのだ。
あと無駄に大きくて、追い払うのも疲れる。
私たちは森の奥深くまで進んでいき、昆虫採集を続けている。
といっても、採集しているのはおじいさん。あとは、グリーン。
私たち三人は横から眺めているだけだ。
「わーい。とれたー」
グリーンはまた捕まえたのか。
彼女の虫かごはいっぱいになりかけている。
「好きなだけ取っていいよ。代わりのカゴも用意してあるから」
「やったー」
隙を見て、他の蝶と入れ替えて。
あとで、高値の蝶だけ、売りに出しちゃおう。
「……まさか、あの蝶を捕まえるとは。昆虫採集を五十年続けてきたわしのプライドが……」
ああ。おじいさんが気に病んでいる。
「……だが、あの娘がいれば、ひょっとすると……」
なんだ。何かひらめいたのか。
「どうかしたんですか?」
「実はこの森には、幻の蝶が棲んでおるんじゃ」
「幻の蝶?」
「ああ。国内でも数羽しか見つかっていない、本当に貴重な蝶なんじゃ」
おじいさんは、私に図鑑を見せてくれた。
「ジャイアントヒキサキアゲバ。変な名前だけど、綺麗な模様」
「そうじゃろう? わしも一度でいいから、この美しい蝶を見てみたいんじゃ」
「探します。いくらですか?」
「とても値段にはしにくいが。百万以上は……」
グリーンを呼ぼう。
「ねえ。グリーン。ちょっと、こっちに来てくれる?」
「なになにー」
「こういう蝶を探して欲しいんだけど」
彼女は絵を見て、少し考えると、
「それなら、さっき見たよー」
「ほんと?」
「うん。案内するよー」
そう言って、グリーンが走り出した。
「というわけなんで、ついてきてください」
「うっひょおおおっ! こんな簡単にヒキちゃんに会えちゃうの!? ヤバくね!?」
「落ち着いてください。変なキャラになってますよ」
「おお。すまぬ」
私たちは彼女を見失わないように、後を追っていく。
更に森の奥に進んでいき、木のない開けた場所に出た。
「あそこー」
グリーンの指し示す先には、目的の蝶がいた。
黄色い花の上に留まり、蜜を吸っている。
「目の錯覚かもしれませんが、大きくありませんか」
「いや、錯覚でもなんでもなく大きいよ。あと、下の花もめちゃくちゃ大きい」
「ジャイアントヒキサキアゲハは、体長2メートル近くある巨大な蝶なんじゃ」
もうダンジョンに棲む生物はこれだから。
蝶が羽をパタパタさせた。
ビュンビュンッ!
凄まじい風がこちらに吹いてくる。
「……早くなんとかした方がいいのでは?」
「でも、捕まえるなら、傷つけちゃダメなんだよね」
問題はない。こっちには、グリーンがいるのだ。
「グリーン。やって!」
「はいはーい」
彼女はショートボウを引き、狙いを定めた。
「≪影縫い≫」
キリリリリッ……シュッ! ストンッ!
ピタリッ! 蝶の動きが止まった。
幻の蝶、捕獲完了だ。
「おじいさん。これでジャイなんとかは、あなたのものですよ」
「……おおっ! ついに」
おじいさんが涙目になり、体を震わせている。
そして、ゆっくりと幻の蝶に近づいていく。
やれやれ。あとはお金をもらえば、一件落着だな。
そう思っていると……。
「……ねぇ」
「ピンク。どうしたの?」
「さっきから、地面が揺れてない?」
そう言われれば、そうだ。
最初は気にならなかったけど、だんだんと大きくなってる。
「ステラさん。あれを見てください」
「……へ?」
すると、正面の地面が隆起しはじめ、ピシピシと亀裂が走る。
そこから肉々しいフォルムの巨大な植物が姿を現した。
あれは、先ほどの花。幻の蝶が蜜を吸っていた花だ。
ということは……。
バリリバリッ! ムシャムシャッ!
あわわ。あの蝶、食べられちゃってる!
「……ああ。わしのヒキちゃんが」
もう蝶どころの騒ぎではない。
この巨大な植物のモンスターをなんとかしないと。
「キシャ――ッ!」
花の中央部は巨大な口になっていて、そこから奇声が聞こえてくる。
さらに、口からはヨダレがダラダラと流れ、地面に落ちると煙を上げている。
「シャー! キー!」
地面から蔦を伸ばしてきた。
どうやら、これがこのモンスターの攻撃方法のようだ。
かなりの太さの蔦を手足のように自由に動かしている。
そして、ムチのようにしならせて、私に襲い掛かってきた。
「はあああっ!」
刃に光属性を付加し、その剣で蔦を切り裂く。
――バサッ!
蔦の一本が地面に落ちた。
余裕だ。切れない硬さじゃない。
「はああっ!」
二本目。だが、数が多いな。
それによく見たら、一本目が再生してる。
すぐに二本目も再生するだろう。
もっとサクサク行かないと、ジリ貧だ。
「……ひぃ。わしのヒキちゃんが……」
「おじいさん!」
忘れてた。彼はけっこう前に出ている。
このままじゃ、危険だ。植物の蔦がすぐそこに迫っている。
「私が出ます。ウォーターカッター!」
水の刃が、おじいさんに迫る蔦を切り裂いた。
「彼は私が守りますから。ステラさんは、本体をお願いします」
「わかった」
ようし。特攻だ。
私は駆け出して、植物の本体である花のところまで向かう。
「キシャ―!」
右側と左側。左右から同時に仕掛けてきた。
さらに上から。そして、前からも。
道をふさぐつもりだな。
「ブレイブラッシュ!」
スキルを使えば、四本程度なら、一度に切り裂ける。
そのまま、スピードを落とさず前へ。
「はあっ!」
地面を蹴って、植物の体に掴みかかる。
それから、走って上に登っていく。
もう少しで、花が見えるはず。
「シャー!」
って、まだ蔦の数が増えるのか。
体の至るところから、生えてきて……。
四十……五十……六十……。
こんなにあったら、前が見えない。
とにかく、物量で押し切るつもりか。
「私がやるよー」
「何か手があるんですか?」
グリーンは弓を手に取った。
「ピンクさん!」
「パワーアップ! パワーアップ!」
グリーンに能力アップをかける。
「さんきゅー」
――キリリリリッ……
彼女は矢を上方向に。つまり、植物の頭上に狙いを定めている。
いったい、何をするつもりだ。
「くらえー! ≪アローレイン≫」
≪アローレイン≫
難度 ★★★★
属性 風
使用回数 8/8
成功率 90%
説明 敵の頭上から、数百の矢を雨のように降らせる。
――ババババババッ!
凄まじい数の矢が、植物の頭上から降ってきた。
前方を覆っていた蔦が、どんどん切れていく。
視界が晴れていく。
キン! キン!
その内の数本は、私に当たってる。
もちろん、弾いたが。
「ごっめーん」
だが、これで全ての蔦が切れた。
また、生えてくる前に、決めてやる。
「はあああっ!」
「キシャー」
……一本……二本。これなら余裕だ。切るまでもない。
私は左右に体を揺らして、二本をかわす。
敵の本体まで接着した。
終わりだ。
「ブレイブラッシュ」
「キシャ―」
植物が、しなしなと枯れていく。
たぶん、討伐できたってことなんだろう。




