18 グリーンと蝶①
「みんな! おっはよう!」
「おう」「おはようございます」「にゃあ」「おはよう」「……ん……」
「それでは、今日のミーティングを始めていくよ」
――パチパチパチパチ
先日、私たちは装備を作ってもらうために、新素材であるサタン鉱石を集めていた。
そして、無事に集め終わったので、装備を作ってもらったのだ。
これで、私たち『エレメタルクラウン』はパーティーとしてより強くなることができた。
さっそく、強化された装備を試すために、手ごわい相手とも戦っていきたい。
「みんな。装備は受け取った?」
「おう」「はい」「にゃあ」「うん」「……ん……」
うん。いい返事だ。元気があっていい。
ついでに、みんなに新装備の感想でも聞いていこう。
「レッド。新しい剣はどんな感じ?」
「ああ。最高だ。肌に馴染むっていうか、とにかくヤバいんだ。早く敵をぶった切ってみてぇ」
興奮してるな。
良質な素材を使っているといっても、普通の剣。
特殊な効果は何も付いてないわけだけど。
まったく文句を言わないな。本当に気に入ってるってことなんだろう。
「ブルーは? そのローブはどう?」
「はい。まず、ローブを金属で作るという発想が、私にとっては未知の世界で。加えて、シルクとほとんど変わらない手触り。職人というのは、魔法使いなのですね」
『加工がしやすい』とは聞いていたけど、まさか繊維のように編み込むことができるとは。
魔法にも強いと聞いてるし、サタニウムの応用力は半端ない。
「ピンクは?」
「うん。この衣、柔らかいけど、硬いんだよ」
「どういうこと?」
「触ってみて」
本当だ。普通にしていれば柔らかいのに、引っ張ってみると硬度が上がる。
要するに、きちんと防御力が上がる。防具としても使えるってことだ。
この金属、マジでどうなってるんだろう。
「さあて、次は……グリーンだね。どう? 感想は?」
グリーンは席に着いたまま、答えた。
「にゃあ」
「もう、感想が短すぎ。もっと具体的に言ってくれないと困るよ」
「にゃあ」
「ダメだよ。それじゃあ、分からない」
今日のグリーンはどうも歯切れが悪い。
いつもの元気はどこに行ってしまったんだ。
「グリーン、返事は『はい』でしょ」
「にゃあ」
仕方がない子だ。
私はグリーンの頭に手を置いた。
「……あれ?」
えらく小さい頭だ。
それに、よく見ると四本足だし。
首をゴロゴロすると気持ちよさそうにして……。
「って、これグリーンじゃないっ! ネコだよっ!」
「にゃあ」
なぜだ! なぜグリーンの席に猫が!
「……なあ。さすがに、そのネタは苦しくないか」
「私も見ていて辛いものがありました」
うん。私も恥ずかしかった。
でも、ついやってみたくなって。
「グリーンちゃんなら、朝から来てないよ」
「そうなの? いったい、どこに……」
「私にもよく分からない」
レッドとブルーにも聞いてみる。
「あたしが知るかよ」
「さあ、知りませんね」
なんだと。パーティー名も決まって、ようやく6人が一つにまとまりかけていたのに。
メンバーが一人欠けても誰も興味がないってことなのか?
――クイクイッ!
誰かが私の袖を引っ張っている。
「ブラック? どうかしたの?」
「……ん……」
「もしかして、グリーンの居場所が分かるの?」
そう聞くと、コクコクと頷いた。
おお。こんなときに、頼りになるブラック。
「……ん……」
「紙とペンを用意してくれって?」
言われたとおりに、渡してみる。
すると、サラサラとペンを走らせた。
どうやら絵を描いているみたいだ。
完成すると、私に見せてくれた。
これはなんだろう?
「蝶ではないですか」
「ああ、チョウね」
地図を描いてたわけじゃないのか。
「いや、知りたいのはグリーンの居場所なの」
――クイクイッ!
「え? ついてこいって?」
よく分からないが、ついていってみよう。
☆
私がブラックに連れられてやってきたのは、公園だった。
ここは近くに森が隣接していて、とても緑が豊か。
ちょうど、天気も晴れ渡っており、ポカポカ陽気な気分になれる。
「空気がきれいだね」
「……ん……」
公園の端の方に、よく知ってる女の子がいるな。
草むらの上に、うつ伏せになって寝転んでいる。
「もう、何やってるの? ミーティングだよ」
話しかけると、こちらを向いて眉をひそめた。
「……しー、しー。声が大きいよー」
そう言って、私に座るように指示した。
「……ねー。なんで、こんな場所で寝てるの?」
「……寝てるんじゃないよー。隠れてるのー」
「……隠れてる? 公園で?」
「……あれ」
グリーンの指し示した先には、一匹の蝶がいた。
花にとまり、蜜を吸っている。
「……あれを捕まえたいのー。虫カゴもここにあるでしょー」
なるほど。ブラックが描いた絵はこれか。
「……でも、網がないよ。手で捕まえるの?」
「……違うよー。これー」
彼女は背中にかけていたショートボウを手に取った。
「……見ててねー」
弓をつがえて、弦をひきしばる。
―ーキリリリリッ……
「……ん?」
素人の私でも分かる。
彼女はチョウを狙っているはずだが、少し狙いが外れている。
「……これでいいのー」
どうやら、彼女はスキルを発動させるようだ。
≪影縫い≫
難度 ★★★★
属性 無
使用回数 15/15
成功率 90%
説明 影を狙って攻撃。喰らうと、相手は動けなくなる。
――キリリリリッ! シュッ! ストンッ!
チョウの動きがピタリと止まった。
見ると、彼女の矢はチョウの影を完璧にとらえている。
「やったー。チョウをゲットー」
グリーンはチョウをつかむと、虫かごに入れた。
とても喜んでいる。
「チョウが好きなんだ」
「そうなのー。いろんな模様があって、わくわくするのー」
へー。彼女の意外な一面を発見した気分。
「ステラも一緒にやろー」
「ええ。私はいいかな」
苦手ってほどでもないが、昆虫をかわいがる趣味はないな。
チョウは見た目には綺麗だけど、よく見るとグロテスクだし。
「チョウがたくさんいるダンジョンもあるんだってー。連れてって欲しいなー」
「う、うん。考えておくよ」
適当に、相槌を打っておく。
とにかく、ミーティングに連れて帰らないと。
「あと一匹だけ、取ってきていいー?」
「仕方ないな。一匹だけだよー」
まあ、楽しんでるようだし、一匹だけならやらせてあげよう。
私は近くのベンチにでも座って待つことにする。
「ふむ。お嬢ちゃん、ちょっといいかな」
変なおじいさんに、話しかけられた。
「あそこのグリーンという娘は、お嬢ちゃんの連れかい?」
「はい。そうですが」
「あの娘は良い目を持ってるね。わしが保証しよう。あの娘は将来、昆虫採集のプロになれると」
「はあ。そうですか」
そんなこと、言われても困る。
というか、この人は誰なんだ。
「わしかい? わしは昆虫大好きじいさんじゃ。昆虫が心の底から好きなんじゃ」
「へえ。それは凄いですね」
「ところで、先ほどグリーンという娘が捕まえたチョウ。もしや、こんな模様をしてはおらんかったかの」
おじいさんが、標本を見せてきた。
こんな大きいもの、普段から持ち歩いているのか。
「え~、どうだったかな~」
「よく見てみなさい。ここのフチの部分が、こう白くはなっていなかったかな」
「……あっ」
言われてみれば、たしかに。
この標本のチョウとそっくりだ。
「やはりな。それはシロブチアゲハ。よく似た模様のソトブチアゲハと間違われるんじゃが。まさか、この公園に1羽しか存在しないシロブチだけを捕まえるとは。いやはや、彼女には恐れ入った!」
えっと、よく分からないけど、とにかくグリーンが凄いことをやったと。
「で、そんな話をなぜ私に?」
「三万出そう!」
「……は?」
「これでは不服か? では、倍の六万! これでどうだ!」
「ちょ、ちょっと、待ってください。どういうことです」
「あのチョウを譲って欲しいんじゃ」
「でも、六万って、六万Gのことですよね? まさか、チョウ一匹がそんなにするわけ……」
と言いかけて、やめた。
おじいさんはいたって真面目だ。彼はきっと本当に六万を払ってくれるだろう。
「……し、知らなかった」
チョウって、そんなに価値のあるものだったんだ。




