12 ブラックとアクセサリー➁
さて、今回のメンバーは……。
パーティーメンバー:ステラ レッド ブラック ピンク
控え:ブルー グリーン
レッドがキョロキョロと周りを見ている。
「おい。ブルーがいねーぞ。どこにいるんだ」
「今日はいません。控えだからね。町で待機してるよ」
「なんだと!? それ、大丈夫なのか」
レッドが焦っている。
たぶん私が指揮するので、それが嫌なんだろう。
ちょっと意地悪してみる。
「ごめんね。ブルーと離れ離れにしちゃって。つらいよね」
「どういう意味だよ」
「レッドはブルーのことが好き。みんな知ってるよ」
「だ、誰があんな奴! 好きでもなんでもねーよ!」
「でも、寂しいんでしょ?」
「違う! ブルーがいないと不安で……落ち着かねーだけだ」
要するに、寂しいってことじゃないの?
まあ、彼女をからかうのはこの辺にしておこう。
私たちは町から歩いて、山腹まで向かっていた。
鬱蒼と生い茂る森を抜けて、湖を通り過ぎ、開けた場所に出る。
「ここでいいかな。みんな、こっちに集まって」
三人を並ばせると、それぞれに魔法をかけた。
≪ステルス≫
難度 ★★
属性 光
使用回数 20/20
成功率 80%
説明 光の屈折を利用して、姿を隠す。
三人の姿が薄くなり、見えづらくなった。
私は仲間だから見えるが、第三者にはまったく認識できないはずだ。
「それから、これを付けて」
「なんだよこれ」
「お香だよ。付けると、魔物の鋭い嗅覚をごまかせるの」
けっこう、きつい匂いがする。
でも、人間はともかく、魔物は私たちのことを鼻で追えなくなる。
そして、私自身にも同様のことをやる。
「ばっちり。隠密行動ができるね」
「ステラちゃん。今から、何するの?」
時間がなくてバタバタしていたから、三人に目的を伝えていなかった。
「今回の目的は……あれです」
私の視線の先には、一匹のモンスター。
真っ黒い毛並みと、二本の太い角。
「牛?」
「そう。名前はダークバイソン。今から、あの魔物を私たちで倒すの」
このモンスターの体内には、闇属性の物質が眠っている。
それを今から倒して、ドロップさせるのだ。
「どう? すっごく単純明快でしょ? 分かりやすいね!」
「ああ。分かりやすいが……」
レッドが魔物を見上げながら、ごくりとツバを吞み込んだ。
「……なんか、あれ、でかくね」
「うん。私にも大きく見える」
前に見たダークバイソンよりも、遥かに大きい。
軽く数倍ぐらいの大きさはある。
もしかして、仕入れできなかったのはこれが原因か。
異常に大きくなりすぎて、手が付けられなくなったと。
「ブモオオオオオッ!」
「……おい。いきり立ってんぞ」
「私たちのことバレたんじゃ……」
それはない。
ステルスはちゃんとかかっている。
ダークバイソンもこちらを見ていない。
右に逸れた先。あの大木をにらんでいる。
ダークバイソンにも負けないほどの巨木なのだが、はたして……。
「ブモオオオオオッ!」
動いた。後ろ足で地を蹴ると、全力で突進。
激しい勢いで、私たちの横を通過すると、大木にタックルをしかける。
ズシャアアアアッ!
大木は縦に引き裂かれた。
「……おそろしい突進力だ」
あの大木のようには、なりたくないものだ。
「今の見たか? すげえタックルしてたが」
「大丈夫! 私たちには誰にも負けない絆の力があるじゃない!」
「まだそんなに付き合い長くないけどな」
「ねえ。ステラちゃん、本当にあれ倒せるの?」
「できる! なんとかする!」
それでは、作戦内容を説明しよう。
「今回のキーパーソンは、ブラック。あなただよ」
「……ん……」
「まずは、あなたが前に出て、ダークバイソンの突進を受け止める」
「おいおい、無茶苦茶なこと言ってんな。すげえ威力だぞ」
「できるの。ブラックは私たちの中で最も防御力に優れているんだから」
さらに重騎士という職業は、防御力に補正がかかる。
あの程度の突進なら、ほぼ無傷で受けられる。
それに、保険もある。
「ピンク。あなたはブラックに能力アップをかけて。踊り子という職業は、味方の能力を上げるのが得意なの」
「わかった」
ピンクは手をかざして呪文を唱える。
「ガードアップ!」
すると、ブラックの体が光り輝いた。
これで、防御力が50%アップ。
≪ステルス≫は解けてしまったが、特に問題なし。
「それじゃあ、ピンク。呪文を唱えて」
「え? でも、もうかけたよ」
「いいから。もう一度やって」
ピンクはふたたび呪文を唱える。
「ガードアップ!」
ブラックの体を覆う光が、桃色を帯びた。
これで防御力が100%アップ。
つまり、二倍になったということだ。
「え? どうして?」
「ふふふっ。驚いた? なんと踊り子は、能力アップを二回までなら重ね掛けできちゃうのだ」
「なんだそりゃ。ほとんど反則じゃねーか」
「あまり知られてないから、不人気職なんだけどね」
ただ衣装がかわいいだけの職業ではない。
ピンクの選択は決して間違っていなかったのだ。
「で、ブラックが受け止めたあとは、隙ができるでしょ? そこを私が攻撃魔法で弱らせる。最後は、レッドが仕留める。理解できた?」
「えっと、あたしが……」
「最後にぶった切ればいいの」
「よっしゃあ! 任せとけ!」
では、作戦を実行に移すとしよう。
「ブラック。頑張って」
「……ん……」
ブラックだけが前に出ていく。
あらかじめ、決めておいた定位置まで移動する。
私は木陰から様子をうかがっている。
「ねえ。大丈夫? 成功するかな?」
「いけるいける。いいから、見てて」
反対側に回り込んだレッドの手が上がった。
準備ができたようだ。
「ブラック! やって!」
「……ん……」
ブラックがスキルを発動した。
≪挑発≫
難度 ★
属性 無
使用回数 10/10
成功率 100%
説明 盾職の技。敵から攻撃されやすくなる。
パーティーの囮役である盾職には、必須のスキルだ。
もともと、能力アップをかけていると狙われやすくなるのだが。
このスキルを使うとほぼ確定で狙われるようになる。
「ブモオオオオオッ!」
来た。巨大な黒い塊が土煙を上げながら、突っ込んでくる。
吞まれそうなほどの迫力だ。
遠くから見てる私も、少し焦る。
だが、ブラックなら……。
ガキイイイイイイン!
壊れそうな音がしたが、彼女は吹き飛ばされない。
衝撃を上手に受け流し、その場に立ってる。
よし。ブラック、偉い。
次は私の番だ。
牛の横側から狙いを定める。
「セイントスピア」
手をかざして呪文を唱えると、光の槍が射出される。
同時に三発を放って、二発が命中。
ダークバイソンの体がよろめいた。あと一押し。
「よっしゃあああっ! 最後はあたしだあああっ!」
レッドが全速力で、走りこんできた。
そして、飛び上がって、剣を振り上げる。
「だりゃあああああっ!」
首を切りつけた。
まあ、あの大きさでは一刀両断とはいかないが、上出来だ。
「……ブモオオ……オオ……」
巨体はバランスを失って、地面に倒れた。
「……よし」
ダークバイソン。討伐完了だ。
☆
「……う……おも」
両手でやっと持てるほどの巨大な石をなんとか運んできた。
入口は……ギリギリだな。
「いらっしゃいませ……って、えええっ!」
店員が目を丸くして、客たちがざわざわしている。
これ営業妨害かな。ちょっとミスったかも。
「……よっこらせっと……ふう。なんとか店内に運び入れたぜ」
「お疲れさま」
「あたしがいて、よかったな。ステラじゃ運べなかっただろう」
「うん。助かったよ」
これが仲間の正しい使い方。違うけど。
「それ、どうしたんですか?」
「素材です。いわれた通り、入手して来ましたよ」
「ということは、あの魔物を……」
「はい。倒して来ましたよ」
まさか。あんなに巨大だと思ってなくて、多少は動揺したが。
でも、まあ結果オーライということで。
「……す……す……」
「あの、店員さん?」
「素晴らしい!」
え? なんだいったい。
「そうです。あなたは素晴らしいです。私は常々思っていたんですが、最近の冒険者と来たら、本当にだらしがない! 口を開けば、『面倒くさい』だの『割りに合わない』だの言い訳ばかりでまるで動こうとしない! 本当に口だけ達者な愚図どもなんです。もうウンザリしてたんですよ」
急に人が変わったように、饒舌になった。
ちょっと怖い。
「そこにあなたが現れた! 『一日で持ってくる』と言ってのけた。そのとき、私は思ったんです。ああ、また愚図が来た。死ねばいいのにって。ですが、それは大きな誤解でした。あなたは宣言通り本当に持ってきた。そればかりか、ここに来て愚痴の一つも言わない。目から鱗が落ちました。昨日の私をぶん殴ってやりたい」
どうしよう。
もう帰った方がいいかな。
「何か私にお礼をさせてください」
「それなら、アクセサリーを作って欲しいです」
「あんな安物じゃダメです! もっとあなたに見合ったものを……そうだ」
店員さんは棚から、アクセサリーを取り出した。
あれは、たしか……。
「差し上げます」
「ちょっ、もらえませんよ。それ三百万するんでしょ?」
「ああ。勘違いされてる? あれは吹っ掛けただけです。本当は誰にも売るつもりなくて、宣伝用に飾ってただけなんですから」
「それなら、尚更もらえませんよ」
「気が変わりました。あなたこそが真の冒険者。正しい使い方をしてくれると信じています。返してくれとは絶対に言わないですから。どうぞ、受け取ってください」
「……うぅ」
困ったな……。




