第38話 全てを操る者
「――《憑依》、発動」
誰にも聴こえぬ声でフォードはが呟くと、彼は《憑依体》の『煙』となり手近な敵へと接近。
目に見えず、気配も察する事の叶わぬ魔技に、たちまち新たな操り人形が誕生する。
【オルノート 二十三歳 傭兵 レベル35
クラス:マジックウォリアー
体力:343 魔力:314 頑強:242
腕力:245 俊敏:399 知性:352
特技:剣術 風魔術 土魔術
闘技:グランドブレイクなど八種類
装備:ハイウェアウルフソード×4 ハイウェアウルフ防具シリーズ 獣魔の灰鎧 マッドプラントの篭手】
新たに《憑依》した傭兵は、剣に魔術の効力を載せて戦う近接戦士だ。
オルノート(フォード)は風に包まれた長剣を振り回すと、近場の傭兵二人に斬りかかる。
直前に《土》魔術で足場を崩した剣撃は、相手の防御も回避も許さない。
相手の兜を破砕する。帰す刀で鎧を斬りつける。同時、剣に宿らせた風の魔術を最大限にまで高め、オルノート(フォード)は真っ向からもう一つの傭兵へと叩きつけた。
「戦技――『脳天粉砕斬』! くたばれ!」
「ぐああっ!?」
物騒な戦技名と共に放たれた風魔術付与の斬撃は、相手の兜ごと粉砕し相手の生命を奪った。
頭が西瓜のように爆裂し、頭部を失ったデュラハンのようにふらふらさまよう。
どっと一瞬遅れて倒れる相手には目もくれず、続いてフォードは風魔術を剣に付与、空いた左手でもう一本のハイウェアウルフソードを取り、二刀流で大斬撃。
「戦技――『旋風大切断』! 『牙突飛蓮翔』! 『グランドブレイド』!」
「ぐあっ!?」「あり得……っ」
円状の切断技、刺突の疾風技、軽地震を呼び起こす剣技、それぞれで三人の傭兵を圧倒。三人のうち二人の武器を破砕する。
「――おのれ! やらせるな! やらせるな!」
「――陣形変更! 《鶴翼の飛竜陣》!」
戦える六人の傭兵を叱咤し、グレスは大きく翼を広げた飛竜の如き陣形を取らせる。
そのうち一人が瞑目し静かに詠唱していたが、やがて活眼するや、大声量と共に魔術を発動させる。
「――[呪縛の神よ! 我は願う。冴え張る古の暗黒神よ、我に仮初めの加護を与え給え]! 『デッドリーエンプレス』!」
直後、膨大な魔力と共に六人の傭兵が黒い魔力に覆われ、姿形が変化する。
赤目に黒い突起物を何十と備えた化け物に。
亜音速の状態で、突起物を生やし、真っ向からオルノート(フォード)へと突撃する。
オルノート(フォード)がハイウェアウルフソードを叩きつけるが刃が折れ飛んだ。
ならばと、予備のハイウェアウルフソードを斬りつけるが硬い漆黒の怪物は刃を通さない。
二本目の剣も砕かれ、オルノート(フォード)は漆黒の怪物に組み伏せられ噛みつかれる。
そしてその喉、肩、腹、あらゆる箇所を噛み砕かれた。
オルノートは死んだ。
暴虐の限りを尽くさせ黄泉への階段へ突き落とされる。
だが中身のフォードは全くの無傷だ。
組み伏せられた瞬間、もうオルノートでは駄目だと即断したフォードは分離、《憑依体》である『煙』の姿となって、すぐそばの怪物化した傭兵へと《憑依》した。
【アミラス 二十二歳 傭兵 レベル34
クラス:アイスキャスター
体力:264 魔力:401 頑強:272
腕力:242 俊敏:336 知性:367
特技:氷魔術
闘技:フローズンランスなど九種類
装備:氷結獣の輝杖 獣魔の氷鎧 イビルアイの篭手
状態:ダースハイウルフェンの加護
(漆黒の魔物へと変化した状態。腕力、防御、俊敏が格段に上がり、常時、相手の武具を腐食状態にする)】
「ハハハハハハ! 弱い! 情報が筒抜けというのは弱いな!」
アミラス(フォード)は噛み砕いていたオルノートから口を放すと、隣の傭兵へと勢い良く噛み付いた。
相手は硬防御だはこちらも同等の漆黒の怪物だ。金属が軋むような音と共に相手の皮膚にひび割れ、相手が悲鳴を上げた瞬間、その肩口ごと噛み砕く。
乱れ飛ぶ――漆黒の怪物の血飛沫。
怪物化が解け、元の姿、土気色の鎖鎌使いへと戻る傭兵。
「ぐああっ、ぐああああっ!?」
その彼の喉元へアミラス(フォード)は容赦なく噛み付いた。
漆黒の怪物の牙は、安々と鎖鎌使いの喉元を噛み砕き、バギッ、ボギンッという音と共に断末魔さえ打ち消す。
血溜まりに沈む鎖鎌使いの傭兵。
「ば、馬鹿な!? なぜアミラスが裏切りを!?」
「仲間が次々と乱心だと!? これではキリがない!」
「ぐ、グレス様ぁ! 指示を! 指示をォ!」
漆黒の怪物状態になっても操られ、まるで敵わない状況に残った五人の傭兵たちが狼狽の声を上げる。
それはまるで絶望の嵐だ。
アミラス(フォード)はそれでも容赦しない。戦場で隙を見せるのは最も愚かな行為だ。その喉元へと、隙だらけの傭兵の一人へと近づき、アミラス(フォード)は、
また一人、
また一人、
また一人と、
狼狽する相手の喉元へ食らいつき、その首をへし折り崩れ落ちさせる。
高揚感のあまり、咆哮するアミラス(フォード)。
残った傭兵三人が恐怖と共に後ろに下がった。
絶好の機会だ。アミラス(フォード)は、一直線に、彼らの元へ駆け――。
寸前、首筋を――強烈な一撃で撃ち抜かれた。
「(っ!? なんだ!? 狙撃……!? どこから……?)」
漆黒の怪物の状態で、五感が鋭敏にもなっているフォードは知覚出来なかった事に困惑する。
不意を打たれに動きを硬直させられたフォードは、怪物の視覚で迷宮の様子を探る。
「(――いる! 一人、《隠蔽》の魔術で姿を隠した奴が! 伏兵か!)」
おそらくはグレスが保険に配置していた、『十六人目』の傭兵だろう。
姿も音も感じさせず、目測で百五十メートルはある距離を正確に撃ち抜く技量。
その威力。
貫通力。
間違いなく手練れの中の手練れだ。
首を撃ち抜かれたアミラス(フォード)は動けない。
その隙を漆黒の怪物の傭兵二人に襲われる。アミラス(フォード)の皮膚が食い破られる。
アミラス(フォード)はアイスキャスターとしての能力で、氷魔術で『氷風』を呼び起こし咄嗟に脱出する。
距離を取る。氷魔術で牽制しつつ態勢を立て直そうとするが――。
「――[愚かなる背信者には、天罰を。砕けよ、背信者!]」
直後、いきなりの大質量の一撃に、押し潰された。
背骨がボギバギバギッと粉砕される。
アミラス(フォード)は横目で背後から奇襲してきた相手を盗み見る。
――それは、巨大な巌のような男だ。
全身が筋肉の塊、その頑強そうな鎧が今にも破裂せん勢い。
全身が赤黒色のフルプレートアーマーに包まれた巨漢は、手に持った『ウォーハンマー』を振りかぶると、とどめとばかにアミラス(フォード)へと叩きつける。
轟音と共に迷宮の一角が揺れる。
頭部ごと粉砕され爆散するアミラスの体。
血飛沫が舞い迷宮の一角を赤く染める。
直後、フォードは『煙』の状態となって、元のフォードの体の中に戻った。
「ははははは! どうかなフォードくん! 私の側近の実力は! その身で、大いに味わってくれたかな?」
粉砕されたアミラスの死骸を見て、グレスが声も高らかに哄笑する。
「……なかなかの飼い犬をお持ちのようだ」
「ふふ、君はどうやら他者を《洗脳》、あるいは《魅了》して操る力を持っているようだな。だが私には通じんよ。その者たちは私の配下の中でも生粋の武人だ。――【レベル60】を超える強者。君の使うチャチな操り術などまるで効果がない」
「……」
己の力を誇示するかのように、グレスは最強の配下二人を指し示してみせる。
《隠蔽》し、得物も姿も判然としない『狙撃手』。
気配もなく、大質量のウォーハンマーを軽々と操る『鎧の巨漢』。
どちらもがグレスが金に物を言わせた名うての傭兵なのだろう。
かつてこれほどの相手を敵にした事はなかった。
「君の力は、なかなか戦闘に有益なものだ。だが私の切り札には敵わない。なぜならこの二人には『対洗脳法術』と『対魅了法術』の装備をありったけ持たせた。君の戦術は通じない」
「……念のいった話だ」
吐き捨てるようなフォードの口調に、グレスはいよいよ高らかに宣言する。
「さあ! 虫けらの如く踏み潰される弱者の気持ち――とくと味わいながら、死の世界へ旅立つがいい!」
瞬間、二刀流のまま構えたフォードへ、『鎧の巨漢』が大声と共にウォーハンマーを振り下ろしてきた。
冥王臓剣で迎え撃つが振動が伝わる。地面が陥没し膝に負荷が掛かる。
ひび割れした地面が爆裂し、フォードの意識が一瞬飛びかかる。
その隙を『鎧の巨漢』が横殴りにウォーハンマーで叩きつけてきた。
咄嗟にリバースソード改で受け流しかけたが、ウォーハンマーは強引に反らしを押し、周りの空気ごとフォードを吹き飛ばした。
強い。
段違いに。
おそらくはハンマー自体に強力な重力魔術がかけてある。そしてその力を『鎧の巨人』の圧倒的な膂力で活用――パリイごと粉砕する威力で以って相手を仕留めるのだ。
これまでにない重戦士、そして強武装。
フォードは吹き飛ばされながらリバースソード改を地面に投げ放ち、マダラオオグモの糸を引き寄せた。これ以上吹き飛ばないよう調整――。
しかしその瞬間、背後から『視えない何か』が激突しフォードの体を吹き飛ばす。
「(ちっ、狙撃手か)」
衝撃でリバースソード改から手が離れる。冥王臓剣で胴体への直撃だけは避けたが、脚甲に何かが突き刺さっていた。
頑丈なはずの脚甲が大きく抉れている。
「――狙撃手の攻撃力も一流か、金の力は偉大だな」
「ふはははは! そうだろうそうだろう!」
咄嗟にリバースダガー改を三本投げ放ち、狙撃したと思われる方へ投げたフォード。
だが反応がない。
狙撃されてから反撃し返すまで0・5秒あったかないかだったが、狙撃手はそれでも即座に位置を変え、反撃を阻止した。
その速度と判断力。技量。間違いなく一流だ。
もう疑う余地はない。
グレスが引き連れた傭兵は、全部で十七名――うち、段違いに強い者が『二人』いる。
視えぬ強烈な威力の『狙撃手』。
巨漢かつ強大なハンマーの『鎧の巨漢』。
これら二人を仕留めねば、勝利はない。
――普通ならば。
「ははは、ははははは! どうだね、フォードくん! 諦めて投降したまえ! 息子の知人でもある。命だけは助けてあげんでもないぞ? ん?」
半端な技などものともしない強者二人を従え、グレスは勝ち誇る。
だが、フォードは焦りも何もしなかった。
あるのは失笑。そして失望の感情だ。
「目に見えぬ狙撃手? 強大な鎧の巨漢? それがどうした?」
温い。それでもまだ温い。フォードを倒すならば、この百倍の戦力は必要だった。
なぜならフォードには、あるのだから。グレスを容易く破る手段が。
彼の愛しき者にして、弱点。このような事態に備え捕らえておいた、『彼ら』がいるのだから。
「――俺にはお前のためのとっておきの手駒がある。これを前にしてまだ余裕でいられるかな、グレス?」
そうしてフォードは懐に忍ばせていた腕輪を取り出した。そして静かな口調で宣言する。
「現われよ、我が下僕にして暴虐の使徒――汝、父である者を討ち滅ぼせ、【ルザ】」
お読み頂き、ありがとうございます。
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