↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

五章 一節

「……ふうぅ……」

 短くて長い一週間が過ぎ、弾真(だんま)は第一闘技場、そのフィールドへと続く控室にいた。ベンチにロッカーといった、最低限の設備が備えられた小ぢんまりとした部屋。弾真の他には、ホムラの姿があるのみだ。

 約束の時間までは、もう数分。そろそろフィールドに向かわなくてはならない。

「……すぅ……ふぅ」

 否が応でも、弾真は緊張を感じずにはいられない。

 (きずな)は強い。よく知っている。

 洗礼された剣術。特異な鎖状形態を持つ長剣を扱う技量。高い威力と発動までの早さを高レベルで両立させた炎の忌術(きじゅつ)。生半可な攻撃を無効化するバリアを全方位に張る忌操術(スキル)、《否退障壁(レフューズアーマー)》。

 そのすべては、衰えるどころか、ますます磨きがかかっている。先日の騒動を考えれば明らかだ。

 共に歩んでいた時は、あれほど心強い存在はいなかった。

 しかし、道を違えた今。……あの日、自分を蹴落としたその時からは、大きな脅威に他ならない。

 そんな人間が、戦いのフィールドで待っている。

「…………よし」

 眼鏡をもう一度丹念にかけ直し、弾真は立ち上がった。

「行ってくるよ、ホムラ」

 ホムラはしばらく弾真の顔を見上げた後、身を翻し、フィールドとは逆方向の扉へ向かい、部屋から出て行った。観客席にいる志吹(しぶき)宮子(みやこ)の元へと行ったのだろう。

 それを見送り、弾真はフィールドへの扉を開いた。細く、薄暗い道の向こうから、四角い光が入り込んでくる。

 一歩、一歩、一歩。光へと歩いて行く。その光が全身を照らす位置まで進むと、すり鉢状の闘技場と、たくさんの人で埋め尽くされている観客席が眼中に迫って来た。声援とも雑談とも取れる声たちが、吹き抜けから零れる青空からの熱と共に頭上から降ってくる。

 一週間前の騒動がこれだけの人を呼び寄せたのだろう。ともすると、以前の愛花(まなか)との試合よりも観客が多いかもしれない。

 弾真は、眼鏡を念入りにかけ直す。余計なものを見てしまわないように注意しながら、弾真はぐるりと観客席を見渡す。その一角にホムラの、さらには志吹と宮子の姿を、おぼろげながら見つけた。

 愛花の姿は、ない。

(……駄目だったか)

 この一週間、愛花とは模擬戦はおろか、まともに顔を合わせることすらなかった。ケータイもまったく連絡がつかず、メッセージを送っても、既読のサインこそあるが返信はない。時折出る授業でも、休み時間でも、愛花からは明らかに距離を置かれていた。

 残念ではあるが、弾真はこれもやむなしと無念を払う。愛花からすれば、格下である自分の試合をわざわざ見物する理由などないのだ。無論、一週間前の提案を受けることにも。

 それでも、この戦いから引くことが出来るわけでもない。弾真は、ゆっくり、前へと進む。かつての幼馴染の元へと。

「来たか、弾真」

 フィールドで腕組みをしながら静止していた絆が、静かに目を開いた。

「……ああ」

 フィールドの中央で数メートルの間合いを保ちながら、二人が対峙する。

「約束は覚えているか?」

「もちろん。この試合に負けたら、自主退学。だろう?」

「その上で、か」

 ゆっくりと、絆は腕組みを解く。

「……俺としては、再びお前を目の前にはしたくなかった。お前自身に、俺の気持ちに気付いて欲しかった。何も伝わっていなかったというのは、少なからず気落ちするな」

「……絆、君にもわかっているはずだ。僕たちは、もう気持ちを通じ合わせるような関係じゃない」

「お前のせいだろう。それはお前が俺を拒んでいるからだ、弾真」

「何にしたって、もう無理なんだよ。僕が君に負けたあの時から、僕たちが完全に違う道を歩み始めた時から、もうそれは決まっているんだ。……はっきり言っておくよ」

 小さく震えるほど、弾真は拳を握りしめる。

「僕は、君に守られるような人間じゃない。僕はそれを選べない。……君の言うような弱者であっても」

「…………残念だ」

 嘆息のように諦観を匂わせる、けれど迷いのない言葉を、絆の唇は紡いだ。

「ならば俺はお前のためにこの手を汚そうか。……そうして、お前に相応しい道を選ばせる」

「それなら僕は、それを拒む」

「拒んでみろ。出来るのならば」

 二人はほぼ同時に忌染核(コア)に意識を集中させた。

忌装(セットオン)、《ヒュペリオン》!」

忌装(セットオン)、《バーク》《スナール》!」

 忌染核(コア)から発せられた光が、鞘に収められた長剣と、ホルスターに収められた銃の形となり、両者の腰に具現した。

 それぞれが忌装具(ブライトギア)を抜く。絆は、剣を目線の高さで構える独特の戦闘態勢を取り、弾真もまた、銃口を相手に向けない固有の構えを取る。

 静かな十秒が訪れる。

 弾真は、心臓が早鐘を打っているのを感じていた。

(……落ち着け。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け……)

 意図せずに思い起こされる過去の情景を、呼吸に混ぜて吐き捨てる。それでもまた、絆の鋭い視線に過去を掘り出される。そして、またそれを捨てる。それを繰り返す。

 額に汗が伝っていく。弾真は目を閉じ、何度も同じ言葉を繰り返した。

(大丈夫だ。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着――)

 ブザーが鳴った一瞬後、弾真は目いっぱい閉じてい瞼をこじ開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。