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第七話「森林」

第七話「森林」


--------------------


その日は、少し早めに来られた。


からくり箱の前に座り、昨日の続きを開いた。


いつものスレとは別に、気になる書き込みが目に入った。


田中殿と堀田殿が後ろから覗き込んだ。

「忠清さま。別の話題を投げかけるんですか。」


「そうだ。」


画面には、こう書いてあった。



--------------------


207 名無しさん

YOMI2020今日も来るかな


208 名無しさん

>207 毎日来てるやん

もう住人やろ



209 名無しさん

ところでYOMI2020って前橋と関係あったりする?



210 名無しさん

>209 なんで急に



211 名無しさん

>209 忠清って前橋藩やもんな



212 名無しさん

ここで歴史ガチ勢ワイが一つ言わせてくれ

忠清って幕府の治水政策進めながら

自分の前橋城は利根川に削られ続けてたんよな


坂東太郎って知ってる?

利根川の異名やけど


前橋城、ガチで侵食され続けてたんや


瀬替え工事とか川普請とか莫大な出費が続いた記録が残ってる

幕府の仕事しながら自分の城が浸水してたとか


なんか切なくない?



213 名無しさん

>212 それ知らんかった

皮肉すぎやろ



214 名無しさん

>212 縁の下の力持ちどころか

縁の下が浸水してるやん



215 名無しさん

>214 草生えた



216 名無しさん

>212 忠清ってそんな苦労もしてたんか




--------------------



私は画面を見た。

「縁の下が浸水している……」


田中殿が後ろで笑いを堪えていた。

「忠清さま。」


「なんだ。」


「笑っていいんですよ。」


「……笑う話ではない。」


「そうですね。」

だが、少しだけ口元が動いた気がした。


しばらく画面を眺めた。


212番の方が書いてくれた内容は、正確だった。

正確すぎて、少し胸が痛かった。


私は田中殿と席を変わり、

書き込みたい内容を伝えた。


田中殿は文字を打った。



--------------------



217 名無しさん◆YOMI2020

>212

詳しいですね。


興味深いスレを見つけたので、少し寄らせてください。

前橋城と利根川の関係については、


調べれば調べるほど、複雑な気持ちになります。

幕府として全国の治水政策を進める立場にありながら、


自らの居城は坂東太郎に削られ続けた。

瀬替え工事、川普請、外曲輪の取崩し……


莫大な出費が続いた記録が残っています。

坂東太郎に悩まされ続けたのは、

他でもない酒井家そのものでした。




--------------------



田中殿が後ろで少し黙った。

「「悩まされ続けた」という書き方、

 少し当事者すぎましたね。

 すいません。

 軽く謝っておきますね。」


私は画面を見た。


確かに、そうだった。


--------------------



218 名無しさん

>217 また来た

おは



219 名無しさん

>217 急に一人称みたいやん

「悩まされ続けた」て



220 名無しさん

>219 それな

なんか感情入ってない?



221 名無しさん

YOMI2020って前橋出身やろやっぱり




--------------------



私は少し気持ちを落ち着かせて、

田中殿に内容を伝えた。



--------------------



222 名無しさん◆YOMI2020

>219 >220


申し訳ありません。

最近この件を調べすぎて、

少し感情移入してしまいました。




223 名無しさん

>222 正直でよろしい



224 名無しさん

>222 まあわかるわ

前橋城の話は気の毒やもんな



225 名無しさん

>222 YOMI2020も人間やったんやな笑



226 名無しさん

>225 草

いつも淡々としてるから機械かと思ってた



227 名無しさん

>226 今まで感情なさすぎやろって思ってた




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田中殿が言った。

「「機械かと思ってた」と書かれましたね。

 伝達なので、しょうがないですけど。」


「……そうか。」


私はしばらく画面を眺めた。


田中殿は気を取り直して、文字を打った。



--------------------



228 名無しさん◆YOMI2020


話を続けさせてください。

諸国山川掟という法令をご存知でしょうか。


1666年に制定された、全3条からなる法令です。

川沿いの山々の木を無闇に切ってはならない、

という内容が含まれています。



229 名無しさん

諸国山川掟?

なにそれ



230 名無しさん

>229 ぐぐれ



231 名無しさん

江戸時代に環境保護とかマジか



232 名無しさん

>231 意識高すぎやろ



233 名無しさん

今北産業



234 名無しさん

>233

・YOMI2020が感情移入してた

・諸国山川掟という法令

・江戸時代に環境保護



235 名無しさん

>234 乙



236 名無しさん

>231 これ現代の環境政策の先駆けやで

川沿いの木を切りすぎると洪水が起きる

それを江戸時代に理解して法令にしてたってことやから



237 名無しさん

>236 それ忠清時代なん?



238 名無しさん

>237 1666年やから家綱の治世やな

忠清が老中筆頭の頃や



--------------


「二三八番の方、正確だ。」


田中殿が言った。

「またガチ勢の方ですね。」


「そうだな。助かる。」



--------------


239 名無しさん◆YOMI2020

>236 >238

補足ありがとうございます。

諸国山川掟は全三条からなり、


・川沿いの山の木を切りすぎないこと


・田畑を荒らす開発を慎むこと


・川への土砂流入を防ぐこと

が主な内容です。


木を切れば山が荒れ、山が荒れれば川が暴れる。


川が暴れれば、田畑が流される。

それを防ぐための法令でした。




240 名無しさん

>239 またきた



241 名無しさん

>239 これ普通にすごくない?

江戸時代に川と山と農業の繋がりを理解してたってこと?



242 名無しさん

>241 現代でも通用する考え方やな



243 名無しさん

環境省より先に気づいてたやん



244 名無しさん

>243 草

それは言い過ぎやろ



245 名無しさん

でも坂東太郎に悩まされながら

川と山の環境守る法令作ってたって

なんか切ないな



246 名無しさん

>245 自分の城が削られながらか……



247 名無しさん

>245 YOMI2020が感情移入するのわかるわ


---------------


時間が来た。


田中殿が静かに言った。

「245番の方、「切ない」と書いていましたよ。」


「……そうか。」

私はしばらく黙っていた。


坂東太郎に削られ続けた城の話は、

書くつもりではなかった。

だが、書かずにはいられなかった。


「田中殿。」


「はい。」


「感情移入というのは、悪いことか。」


田中殿は少し考えてから言った。

「悪いことではないと思います。

 ただ、バレるのが早くなるかもしれません。」


「……そうだな。」


一時間ずつ、届けていく。


それだけだ。

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