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第六話「農政」

第六話「農政」


--------------------


その日は、仕事が長引いた。


からくり箱の前に来られたのは、いつもより遅い時間だった。


「忠清さま。」


田中殿が言った。


「なんだ。」


「今日は堀田さんも来ています。」


振り返ると、堀田殿が少し後ろに立っていた。


「忠清さま。私も見てもよいですか。」


「構わぬ。」


「ありがとうございます。」


堀田殿が近づいてきた。


画面を覗き込んだ。


「これが……下界の掲示板というものですか。」


「そうだ。にちゃんねるという。」


「にちゃんねる。」


堀田殿はしばらく画面を眺めた。


「たくさん文字が並んでいますね。」


「そうだな。」


「これは全員、別々の人間が書いているのですか。」


「そうだ。

 皆、名前を隠して書いている。」


「名前を隠して……」



--------------------



堀田殿はまた画面を眺めた。


「忠清さまは、ここに書き込んでいるのですか。」


「はじめはそうだったが、算用数字に慣れず、苦労するので、

 今は、田中殿に代理で打ってもらっている。」


「……大丈夫なのですか。」


「何がだ。」


「身元が、ばれたりしないのですか。」


「名前を隠しているから、大丈夫だ。」


「そうですか。」


堀田殿はまだ少し心配そうだった。



--------------------


画面を開いた。


昨日から今日の間に、続きが大きく伸びていた。



--------------------


187 名無しさん

YOMI2020今日来なかったな




188 名無しさん

>187 珍しいな

何かあったんかな




189 名無しさん

ここで歴史ガチ勢ワイが今までの流れをまとめるで


【YOMI2020がこれまで投げかけた話題まとめ】


①合議制

→忠清は独裁ではなく老中連署で政策を決めていた

→「左様せい」は合議制を信任していた証


②殉死禁止令

→死ぬことより生きて仕えることが真の忠義

→文治政治への転換の象徴


③宗門人別改帳

→キリシタン弾圧が名目だったが実質日本初の戸籍制度

→明治4年まで200年以上続いた


④東廻・西廻海運

→河村瑞賢が実行したが命じたのは幕府

→全国物流網の整備という国家プロジェクト


FA:忠清は有能だった



190 名無しさん

>189 乙

よくまとめた




191 名無しさん

>189 これ見たら確かに有能やな

なんで悪役になってんねん




192 名無しさん

>191 綱吉に嫌われたからやろ




193 名無しさん

>192 それだけで歴史上の評価変わるんか




194 名無しさん

>193 変わるで

歴史って勝った側が書くもんやし




195 名無しさん

>194 禿同

忠清は負けた側やからな




196 名無しさん

>189 ガチ勢神



197 名無しさん

>196 ワイも助かった



198 名無しさん

YOMI2020に影響されすぎて

忠清について自分で調べ始めてしまった



199 名無しさん

>198 わかる

思ったより面白い人物やな



200 名無しさん

200ゲット



201 名無しさん

>200 おめ



202 名無しさん

でも忠清が宮将軍擁立しようとしたのは

やっぱり権力欲やろって思う



203 名無しさん

>202 それは否定する証拠もないしな




204 名無しさん

>203 YOMI2020に聞いてみたい




205 名無しさん

>204 今日来るかな



--------------------


「随分と、増えておるな。」


私は画面を見ながら言った。


田中殿が言った。


「忠清さまが来ない間も、スレが動いていたんですね。」


「そうだな。」


堀田殿が画面を覗き込んだ。

「189番の方……今までの話をまとめてくれているのですか。」


「そのようだ。」


「……ありがたいことですね。」


「そうだな。」


私は少し胸が温かくなった。


頼んでもいないのに、まとめてくれた。


名前も知らぬ者が。


「田中殿。」


「はい。」


「一八九番の方に、礼を言ってもらえぬか。」


「もちろんです。」


伝えたい内容を伝え、田中殿は文字を打った。




--------------------



206 名無しさん◆YOMI2020

>189

まとめてくださってありがとうございます。

自分でも整理できていなかった部分が、

きれいにまとまっていて助かりました。


今日も一つ、話を投げかけさせてください。


飢饉対策と農政についてです。

家綱の治世後半、飢饉対策として農政に重点が置かれました。

これは寛永の大飢饉の反省から来たものです。



207 名無しさん

また来た

おは




208 名無しさん

>206 礼儀正しいな

このスレの良心やろYOMI2020




209 名無しさん

飢饉対策か

それも忠清時代なん?




210 名無しさん

>209 治世後半って書いてあるから忠清メインやろな



211 名無しさん

寛永の大飢饉って何




212 名無しさん

>211 ぐぐれ



213 名無しさん

>211 1640年代に起きた大規模な飢饉やで

多くの人が亡くなった



214 名無しさん

>213 kwsk



215 名無しさん

>213 それの反省から農政を重視したってこと?



--------------------



堀田殿が田中殿に小声で言った。

「田中さん。」


「はい。」


「「ぐぐれ」というのは何ですか。」


「あ、えっと……」


田中殿は少し考えた。

「グーグルというものがあって、

 それで調べろ、という意味です。」


「ぐーぐる。」


「はい。下界では、知らないことをすぐ調べられる仕組みがあります。」


「それは便利ですね。」


「はい。」


堀田殿はしばらく考えてから言った。

「「kwsk」というのは何ですか。」


「詳しく教えて、という意味です。」


「なぜそう読めるのですか。」


「……くわしく、の子音だけ取り出したものです。」


堀田殿は少し間を置いてから言った。

「……下界の者は、忙しいのですね。」


田中殿は笑った。

「そういうことかもしれません。」



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216 名無しさん◆YOMI2020

>215

そうです。


寛永の大飢饉、1640年代の反省として、

家綱の治世後半には農政に重点が置かれました。


治世後半というのは、

酒井忠清が大老として幕政を主導していた時期です。


食料の安定供給は政の基本中の基本です。

民が飢えれば、国は乱れます。




217 名無しさん

>216 それはそうやな

食料大事




218 名無しさん

>216 でもこれって忠清の手柄というより

当然やることやろって気もする




219 名無しさん

>218 常考

当然のことを当然にやるのが一番難しいんやで




220 名無しさん

>219 禿同

当たり前のことを当たり前にできる人間が有能なんよ



221 名無しさん

>220 それな

忠清の評価、どんどん上がってくな



222 名無しさん

>221 このスレ来る前と後で全然違う




223 名無しさん

>202 の宮将軍の話、YOMI2020どう思うか聞きたい




224 名無しさん

>223 ワイも知りたい



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時間が来た。


堀田殿が言った。


「忠清さま。」


「なんだ。」


「「当然のことを当然にやるのが一番難しい」と書いてありましたね。」


「そうだな。」


「219番の方、良いことを言っておられます。」


「そうだな。」


堀田殿はしばらく黙っていた。


「下界の者も、分かっている者はいるのですね。」


「そうだ。」


私は静かに言った。


「名前を知らなくても、分かってくれる者がいる。

 それで、十分だ。」


田中殿が静かに頷いた。


一時間ずつ、届けていく。


それだけだ。


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