第7話:ハツデート
★前回のあらすじ
二者面談。
もしこの世界に幸せな男ランキングがあれば、俺は堂々の1位を記録、どころか殿堂入りとなり、その名を刻むに違いない。
「ねぇ、まずはどこに行く?」
そう、なんと今日は、愛する彼女との記念すべき初デートの日なのだ。
デート…うん。なんて素晴らしい響きなんだ。
この言葉を生み出した人物には、是非ともノーベル賞を贈りたい。
「んー悩むなぁ。ショッピングもしたいし…あ!ねぇねぇ、映画とかどうかな?ちょうど気になってたのがあるの!」
ほら、周囲も俺たちを羨んでいるのか、先程から視線の雨が降り止まない。
だが悪いな。今回ばかりは幸せのお裾分けはできないのだ。
これは俺たちだけのものだからな。
「ねぇ?諸星くんは何か希望とかあるかな?」
なぁ、だからさ。
「…諸星くん?…ご、ごめんね、やっぱり…」
「ロングタイトとハイヒールは歩き辛かったかな…?」
頼むから、そんな目で見ないでくれ。
「諸星くん?」
…はっ!ダメだダメだ!自分にかまけて、彼女を放って置くなど言語道断。
そうだ、周囲の視線や俺の格好なんて、さしたることじゃないか。
そんな小さなことを気にして、初デートという最高潮に幸せなひと時を潰すなんてこと、あってはならない。
もしそんなことをする奴がいれば、俺が直々に出向いて有罪判決を下してやる。
「いや、大丈夫だ。でも歩き慣れてないのは確かだから…。」
「バランス崩さないよう、手を繋いでてもらっていいか?」
「う、うん!」
…ふっ、決まった。本来エスコートされる側が逆のような気もするが、まぁいい。
俺はカノジョだからな、うん。
「…それで、海晴は映画が観たいんだっけ?」
「うん。無限の廻天〜人魚の島のラスト・サバイバーって言うんだけど。」
…どういう映画なんだそれ?
「へぇ、面白そうだな。どんな映画か気になるし、早速行ってみようぜ。」
「い、いいの?他に見たいのとか…。」
「何言ってんだよ。どうせなら、お互いに観たいやつを観るのが一番だろ?」
「そ、そっか。うん!それじゃあそれにしよっか!」
「おう。」
『いやっ!もう誰も信じられないっ!』
『みんな、みんな結局最後には裏切るのよ!』
『当然のような顔で愛を囁くくせに、裏では利用することしか考えてない!』
『あなただって…きっと…。もう、嫌…。…どうして。私はただ、一緒にいたいだけなのに。』
『アリーカ!信じてくれ…ボクは君を裏切ったりしない。絶対に。』
『ウソよウソ!』
『ウソなんかじゃないさ。約束する。必ず君の元へ帰ると。』
『だからまた会えたなら、君に愛していると言わせてくれ。』
『…本当に?本当にまた会いに来てくれる?』
『あぁ。勿論。』
「いやぁ、面白かったな!特に、数千のサメの大群が、島で唯一の生き残った爺さんと友情を結び合うシーンはめっちゃ良かったな!」
「……。」
「…海晴?どうした?具合でも悪いのか?」
「…!う、ううん。大丈夫!ごめんね、面白くてつい余韻に浸っちゃった。」
「そっか。いやでもわかるわ、まじで良かったよな。もっかい観にこよっかな。」
「ふふ、楽しんでもらえたみたいで良かった。」
「おう!教えてくれてありがとな!おかげでいい出会いができた。」
「どういたしまして。」
…こうして思ったけど、やっぱり海晴ってセンスいいよな。服作ってる時なんかもそうだし。
いやまぁ、服作りと映画選びじゃ、そもそもの土台が結構違うけど。
なんつーの?こう…人の目というか、興味を惹きつける何かを感じ取る力がずば抜けてるっていうか。
うん。やはり俺の彼女はすごい。
…うん?待て、俺をカノジョにするのは果たしてセンスがいいのか?
…やめよう。考えていて悲しくなってきた。
「…それにしても…腹減ったな…。」
「もうお昼時だもんね。あ、ねぇねぇ。実は私が気になってるお店がこの近くにあるんだけど…よかったらそこ、どうかな?」
「お、なになに?なんて店?」
「えっとねぇ…。」
「それでは、どうぞごゆるりと」
"ス、パタン"
「やっぱりいいね、こういう雰囲気。私、一度古民家カフェってやつに来てみたかったんだ。」
「あ、あぁ。いい雰囲気だよなー。」
「諸星くん?さっきからどこか上の空だけど…大丈夫?」
「うぇ!?い、いや。なんの問題もない、ぜ?」
「ホントかなー?」
「ほ、ホントホント。俺、ウソつかない。」
「怪しい。」
「そ、そんなことないって。」
まずい。
これは非常にまずい。
いや平時だったらなんの問題もないが、今、ここにいるのは非常にまずい。
だが、待てよ?
アイツだって、いつでもここにいるわけじゃなし、そう焦ることでもないんじゃないか?
ましてここは個室。会計の時にさえ気をつければ、そうそう見つかることは…。
「お待たせ致しました。フォカッチャサンドと和栗モンブランで……。」
「……。」
「……?」
「…蒼也?」
「お、おう。奇遇だな…燐。」
「奇遇もなにも、ここはオレのアルバイト先だが。」
「んなこた知ってるよ!」
「…えっと…確か暁月くん、だったよね?」
「あぁ。」
「私、海晴優衣。諸星くんの、か、彼女です。」
「あぁ。話は蒼也からよく聞いている。改めて、オレは暁月燐だ。よろしく頼む。」
「よ、よろしく…!ねぇねぇ。諸星くんって普段、私のことどんな風に話してるのかな?」
「そうだな、よく聞くのは。」
「わぁわぁわぁ!ストップストップストーップ!」
「蒼也。店内で騒ぐな。」
「あ、はい、すみません…じゃねぇよ!」
「人の惚気話を勝手に漏らすんじゃねぇ!」
というかまず、俺の格好に対してはなにもないのか!?
「の、惚気なんだ…。」
「あ、そうじゃあ…いやそんなんだけどもっ!…燐!」
「今のはお前が自爆しただけだろう。」
「はい、全くもってその通りでございます!」
「…すまないが、まだ職務中の身だ。それに人が秘匿にしたいことをおいそれと話すわけにはいかない。」
「そ、そうだよね。ごめん。」
「気にするな。自分が他所でどのような話をされているかというのは気になって当然だ。それも親しい間柄なら尚更な。」
「だがオレからそれを話すのは憚られる。もし知りたければ直接本人に聞くといい。」
燐さん????
「う、うん。」
「蒼也、あまり羽目を外しすぎるなよ。」
「お前は俺の父親か何かか?」
「では、失礼する。」
"ス、パタン"
…燐の奴、マジで言いたいことだけ言っていなくなりやがった…。
「…ふふふ、仲が良いんだね。二人とも。」
「まぁ、昔からの付き合いだからな。仲が良いっつーか、互いに遠慮がないっつーか。」
「…いいなぁ。」
「何が?」
「なんていうんだろう?…そういうお互いに思ったことを言い合える友達がいるって、素敵だなぁって。」
「そう改めて人から言われると照れるな…。」
「ふふ。…私にはそういう子いないから。羨ましい。」
「…え?」
「…あれ?ごめんね、私、なにかおかしなこと言ったかな?」
「…おかしなことっつうより、俺はてっきり雲山がそういう関係なんだとばかり。」
「琴葉ちゃん?…うん。琴葉ちゃんはとってもいい子だよ。」
「いつだって、私のこと心配して、気にかけてくれる優しい子。」
「…なぁ。」
「ん?なに?」
「…何でもない。それよりさっさと食べようぜ!俺腹減った!」
「わわ、そうだった。いただきます!」
「いただきます!」
『琴葉となにかあったのか?』
そんな問いを投げかけようとしたのはきっと。
琴葉のことを語る海晴の顔が、泣いているように見えたからだ。




