第6話:クモヤマコトハ
★前回のあらすじ
初デート…?
人生山あり谷あり。
人生には良い時もあれば、悪い時もあるという、ことわざの一種だ。
悪い時はずっとは続かず、反対に良い時があっても油断してはならない。
まさに人生の教訓に相応しい言葉だ。
もしこの言葉を生み出した人間がいるなら是非とも一度話がしたい。
「単刀直入に言いますねぇ〜。」
「優衣ちと今すぐ別れてください。」
ここから山に辿り着くにはどうしたらいいだろうか…?
ーー9月19日 土曜日。駅前にて。
服装…よし。髪型…よし。匂い…よし。
これほど緊張したのは高校受験以来だろうか。
いや、高校受験でもここまでの緊張はなかったかもしれない。
なんて言ったって本日は記念すべき初デート(友達同伴)なのだ。
まさしく人生の一大イベント。
平静でいられるのなんて、仏くらいに違いない。
だが、みっともない姿を彼女に見せるなんてことはできない。
スマートに、かつ男らしくエスコートを…
"ピコーン"
おっと、噂をすれば俺の愛しき彼女からだ。
どれどれ…。
『ごめんね。今日だけど、体調崩しちゃって行くのは無理そう…。』
『埋め合わせは必ずするから、今日は琴葉ちゃんと楽しんできてね!』
「……。」
お、落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。
『そうか。体調不良は仕方ねーよ。俺のことは気にしないで、ゆっくり休んでくれ。』
『埋め合わせの件も、あんま気に病むなよ。遊びに誘ってくれるってんなら滅茶苦茶嬉しいけどな。』
『ごめんね。ありがとう!』
…残念だけど。仕方ないよな。
というかむしろ大丈夫なんだろうか?こういうのは見舞いとかに行ったほうがいいのか?
いや、人によっては逆に気を遣うから迷惑なんてこともあるみたいだし…。
「ふふ、随分と思い詰めた顔してますねぇ〜。体調でも悪いんですかぁ〜?」
「いや、体調が悪いのは俺じゃなくて…。…え?」
ピンクのフリルブラウスに同じくフリルがついた黒いミニスカート。
全身には余すことなくリボンやハートのが散りばめられており、首には十字架のネックレスが下げられている。
またピンクのインナーカラーが入れられた黒髪は左右二つに結われており、そちらもデカデカとしたリボンがこれでもかというほど主張している。
所謂、地雷系ファッションだ。
「なら良かったですぅ〜。じゃあ行きましょうかぁ〜。」
「え、いや、行くってどこに!?」
「どこってぇ〜…あ、そういえば自己紹介がまだでしたぁ〜。うっかりうっかりぃ〜。」
「はじめましてぇ〜、優衣ちのカノジョさん。私は雲山 琴葉。」
「優衣ちのお友だちですぅ〜。」
「え?は?…え!?」
ーー駅前、喫茶店にて。
「ここのパンケーキ、とっても美味しいんですよぉ〜。よかったら食べてみてくださ〜い。」
「へぇ、そうなんだ。」
「甘いのがダメならぁ〜、おかず系もありますからぁ〜。」
「あ、ホントだ。サーモンクリームチーズとかうまそうだな。」
「わかりますぅ〜?私もそれ結構好きなんですよぉ〜。」
「なら俺これにしよっかな。」
「わぁ〜い、是非是非ご賞味くださ〜い。」
「ん〜、私はなににしましょうかぁ〜?」
なんなんだろう、この状況。
というか、恋人がいるのに他の女の子と二人っきりというのは大分まずい状況ではなかろうか?
「決めましたぁ~。店員さ〜ん、注文お願いしますぅ。」
「サーモンクリームチーズパンケーキと、黒胡麻きな粉クルミパンケーキ、それぞれ1つずつ、お願いしますぅ〜。」
いやでも海晴は楽しんできてって言ってたし、なにより海晴の友達を無碍に扱うわけには…。
「あ、そうそう。実はですねぇ〜、私今日あなたに言いたいことがあって、優衣ちに会わせてほしいってお願いしたんですぅ〜。」
「言いたいこと?」
「はい〜。」
「単刀直入に言いますねぇ〜。」
「優衣ちと今すぐ別れてください。」
「………はい?」
「あ、はいってことは別れてくれるんですぇ〜?よかったぁ〜。」
「い、いやいやいやいや!別れないから!断じてしないから!」
「えぇ〜。」
「いや、ていうかなんで急に?俺、なんかした?どっかダメなとことかあった?」
「い〜え?いい人だと思いますよぉ?ちょっとおバカさんですがぁ〜。」
「ば、バカって…。」
「だってぇ〜、よくわかりもしないでカノジョなんて引き受けてるじゃないですかぁ〜。」
「うぐっ!それを言われると何も言えん…。」
「で、でも!それならなんで別れろなんて言われなきゃいけないんだよ!」
「…好きだからですよ。」
「…は?」
「ふふふ、ねぇ〜え、諸星さん。」
「諸星さんは石橋を渡る時ってどうしますぅ〜?」
「え?なんだよ急に。」
「いいから、いいからぁ〜。」
「…どうって…そりゃ、普通に渡るけど。」
「ふふふ、そうですよねぇ〜。」
「なぁ、それよりもなんで…」
「優衣ちはね。」
「石橋を叩いて叩いて叩いて叩いて。」
「それで最後には石橋と一緒に落ちていっちゃうような子なんです。」
「……。」
「諸星さん。」
「私はね、優衣ちにはもう、不幸になってほしくないんです。」
「それに、まだほんの少ししか一緒にいませんけど、あなたのことも結構好きなんですよぉ〜。」
「だから。」
「お互いが不幸にならないうちに、まだ幸せだったで終われるうちに。」
「別れてください。」
この子は本気だ。
本気で海晴の、俺たちを案じて忠告してくれている。
俺は自分が思ってるよりも、海晴について、何も知らないのかもしれない。
そして多分、この子に聞いてもそれは教えてくれない。
話していてわかる。この子はきっと、他人の心の内を勝手にひけらかすような子じゃない。
…なんか、どっかの誰かさんに似てるなぁ。
外面は全然違うけど。
「別れないよ。」
「……。」
「俺は、海晴のことについてまだ何も知らない。」
「これから先、それを知ることでお互いが不幸になるかもしれない。」
「けど。」
「それにびびって安全策に逃げてちゃ、きっと上辺だけの人間関係しか築いていけない。」
「…俺はそんなのは嫌だ。」
「海晴とそんな関係しか築けないなんて、それこそ人生にとっての最大の不幸だ。」
「だから別れない。別れたくない。」
「…きっと、後悔しますよ?」
「もう経験済みだ。」
「それにな、知ってるか?」
「…?」
「傷つくのを怖がって逃げたって、また別の傷ができるだけなんだよ。」
「……そう、ですね。私も、身に覚えがあります。」
「…あなたは。」
「"不幸になんかしない"とは言わないんですね。」
「あぁ。」
「…ふぅ。」
「…諸星さん。」
「おう。」
「もし優衣ちのことでなにかあれば、相談してください。」
「恋人ととして、これから先色んな障壁があるでしょうから。」
「そ、それって!」
「はい。もう私からはなにも言いません。」
「っし!」
「…そんなに喜ぶことですかぁ〜?たかだか一友達の言ってることですよぉ〜?」
「適当にはぐらかして無視しちゃってもよかったのにぃ〜。」
「え?いやそういうわけにはいかねーよ。」
「…どうしてですかぁ〜?」
「…友達のために真剣になってる奴を、煙に巻くなんて、ナンセンスだからな。」
「はぁ、かっこいいですねぇ〜。」
「ほ、惚れるなよ!?俺は海晴一筋だからな!?」
「はい、知ってますぅ〜。」
「ふふ、海晴のことよろしくお願いしますねぇ〜、カノジョさん。」
「お、おう。」
「あー美味かった!」
「ですねぇ〜…あ、そうだ、諸星さん。」
「ん?」
「実はここぉ〜、パンケーキだけじゃなくて、プリンも美味しんですよぉ〜。お土産として持ち帰りもできるんですよぉ〜?」
「へぇ。」
「ふふ、優衣ちなんて、パンケーキよりもこっちのプリンの方が好きなくらいでぇ…」
「ちょっと俺買ってくる!」
「…。ふふ、あらあらぁ〜。本当に好きなんですねぇ〜。」
「……。」
"プルルルルル、プルルルルル"
"プルルルルル、プルルルルル"
"ピッ"
「もしもし、琴葉ちゃん?」
『やほやほ〜優衣ち〜。』
「どうだった?諸星くんと話したんだよね?」
『えぇ、彼、いい人ですねぇ。』
「え!?も、もしかして好きになっちゃったりしてないよね!?」
『あ、それはないので安心してくださ〜い。』
『私、もっと真面目で男らしい人が好みなのでぇ〜。』
「よ、よかった。…それにしても、昨日も思ったけど、急にどうしたの?」
「諸星くんと二人っきりで話がしたいなんて。」
『…ん〜、純粋な興味?ですかねぇ。悪い男だったら友だちとして成敗してやりませんとぉ〜。』
「もう、諸星くんはそんな人じゃないよ。」
『はい。今日お話してよく分かりましたぁ。』
『……ねぇ、優衣ち。』
「なに?」
『諸星さんはちゃんと優衣ちのこと、好きですよ。大切に思ってます。だから…』
「ごめん。お母さんに呼ばれちゃったから切るね。」
『あ、ゆ、優衣…』
"ピッ"
「……知ってるよ。そんなこと。」
「それでも、やっぱり…」
"ピコーン"
「…諸星くん?」
『通知で起こしてたらごめん!具合どう?』
『全然起きてたから大丈夫だよ!体調も大分良くなってきたし。』
『よかった!あのさ、実は例の喫茶店のプリン買ったんだけどさ。』
『今から、そっちに行っていいかな?』
「…え?」
『勿論!ありがとう!嬉しい!』
「……ふふ。」
「…あ!ふ、服…着替えた方がいいよね?髪も整えないと!」
『諸星さんはちゃんと優衣ちのこと、好きですよ。大切に思ってます。だから…』
「…大丈夫。まだ大丈夫。」




