第4話:トモダチ
★前回のあらすじ
一難去ってまた一難
人は生きていく上で必ずしも、自分ではどうにもならない壁にぶつかることがある。
そんな時、みんなだったら誰に相談するだろうか。
親?兄姉?弟妹?友達?先生?
もしかしたらネット掲示板やSNSなんかで相談する人もいるかもしれない。
いつだって、頼れる相手がすぐ傍にいるというのは良いものだ。
一人で抱え込んだって、碌な結果にならないからな。
みんなも何かあったときは一人で抱え込まず、誰かに相談しろよ。
ところで俺も一つ、みんなに相談していいだろうか?
「さて、この写真について、一体どういう訳なのか、はっきり説明してもらおうか。」
どうにもならない壁がその"誰か"だった時、人はどうすればいいのだろうか…?
暁月 燐
努力は決して欠かさず、テストは決まって常にトップを走り続け、剣道部では1年生にしてエースの座を勝ち取り、誰にでも臆することなく意見を述べ、困った人間には老若男女問わず平等に手を差し伸べる…。
文武両道、眉目秀麗、質実剛健…まさに絵に描いたような完璧超人。
俺の同級生であり、幼馴染であり、一番の友達。
…そして、現段階の俺の人生においての一番の障壁だ。
何故かって?それはな…。
「えーっと…その、だな…。」
「あぁ、わかっていると思うが、一応言っておく。」
「オレに嘘や誤魔化しは一切通用しないからな。」
そう、これである。
燐にはどうしてか、嘘や言い訳は必ず見抜かれる。
これは俺の嘘が下手だとか、俺がわかりやすい性格をしているだとか、ましてや幼馴染で長年連れ添ってきたからとかではない。
いや、もしかしたらその部分の多分に含まれるのかもしれないが、それだけではない。
そもそも燐が嘘を見抜くのは対俺相手の話だけではないのだ。
どんな立場、性格、能力の相手だろうと、燐の前では欺きの言葉はその全てが無惨に散っていった。
まさしく生きた嘘発見器である。
なあ、燐よ。お前のその力はこんなところで腐らせておくようなものじゃないだろう?
もっと有意義に活用しようぜ?してくれ、頼む。
「…お前が海晴 優衣に好意を抱いているという話は、相談という体で、お前の口から聞いていた。」
「だから、付き合うことになった。という点については何の疑問もない。」
「あ、あぁ。その節は色々話聞いてくれてありがとな。」
「構わない、友人として当然の行いだ。あまり建設的なアドバイスもしてやれなかったしな。」
「いや、話聞いてくれるだけで俺は嬉しかったからさ。だから改めてちゃんと礼を言わせてほしいんだ。」
「そうか。だがそれはまた後で聞かせてもらおう。」
ぐっ、やっぱり話を逸らす手は通用しないか…!
「それで?何故昨日、女子制服を身に纏い下校していたのか。嘘偽りなく話してもらおうか。」
「…なんで。」
「蒼也?」
「なんで、そうまでして聞きたがるんだ?」
「他の奴らみたいに、興味本位とかゴシップ感覚とか、そんなたまじゃないだろ?お前はさ。」
そう、俺自身色々と混乱していて、今の今まで気付かなかったが、燐は人が隠したいことや言いたくないことを興味本位で無理矢理暴く奴じゃない。
勿論、不正や悪事を働いた場合は別だが…俺は別段悪いことをしたわけじゃない。
いや社会的常識から外れるようなことはしたかもしれないが…。
で、でも今は多様性の時代。裸でない限り、格好でとやかく言われる筋合いはない。…というか言わないでくれ、頼むから…言いしれぬ羞恥心がこみ上げてくるから。
「……そうだな。こちらの意向も話さず、一方的に問い詰めるような真似をしてすまなかった。」
「えっ?い、いや別に気にしてない…とは言わねぇけど。むしろ滅茶苦茶気にしてたけど…。ってそれは一旦置いておいて。」
「えーっと、取り敢えずこの問答はお終いってことでいいのか?」
「いや。それはちゃんと聞かせてもらう。」
「あ、はい。そうっすか。」
「……蒼也。お前はこの格好を望んで…違うな。この格好を好んでしているわけじゃないだろう?」
「そ、そんなことは…。」
ない、とは言い切れないけど…。
「おそらくだが、海晴 優衣に頼まれ、最初は断ろうとするも、何らかの諸事情が生まれ、彼女への好意から、断り切れず、写真のような状況になった…といったところか。」
お前はエスパーか何かか?
そこまでピンポイントに当てられると感動通り越してもはや恐怖だよ。
「…その反応は図星みたいだな。」
「っぐ!か、仮にそうだとして、何の問題もない、ことはないだろうけど…。少なくとも、双方が納得してるんだからいいだろ?」
「ならお前は彼女が100万円を要求してきたら?」
「…は?」
「宿題をやってくれ、一日500件はメッセージを送れ、自分より先に寝るな。」
「そんなことを言われても、蒼也、お前はそれを受け入れるのか?」
「い、いや、わけわかんねぇよ。そんなのケースバイケースだろ?」
「それに、海晴はそんなこと言わねぇよ。流石に怒るぞ?」
「彼女への侮辱に聞こえてしまったら謝ろう。だが問題はそこじゃない。」
「お前はこの先も、嫌なことを我慢し受け入れ続けるのか?」
「え?」
「いいか、蒼也。お前は海晴 優衣に好意を抱いている。だから大抵の願いには首を縦に振る。」
「……。」
「だが、好意を理由に一方が我慢を負う関係を、オレは恋人同士と呼ぶには些か疑問だ。」
「手前勝手なのは承知の上だ。親でもない奴からこんなことを言われるのも、酷く腹立たしいことだろうと理解している。」
「…もし今後も今のような関係を継続していくつもりなら。」
「オレはそれを肯定することはできない。」
…燐。
お前の言ってることは正しいよ。
だからこそ。
「俺は、海晴のことが好きだ。」
俺はちゃんとお前に伝えなきゃいけない。
「…けど、正直付き合うことになって、俺自身納得してないところとか、意味わかんないところとか、たくさんあるし。」
「女装だって、やりたいかやりたくないかでいえば、そりゃあ、やりたくない。」
「……。」
「…でもさ、だからって、全部が全部嫌なわけじゃない。」
「彼女が俺に何かを望むように、俺だって彼女にたくさんのことを望んでる。」
「もっと俺のことを見てほしい。」
「笑顔やかわいい姿をもっともっと見ていたい。」
「頑張りを否定したくない。」
「彼女の好きを応援したい。」
「俺の傍にいてほしい。」
「俺自身の手で幸せにしたい。」
「彼女の…恋人でありたい。」
「だからこれは俺のわがままでもあるんだ。」
「彼女の好きを独占したい、俺のわがまま。」
「何かを手に入れるのに、何かを我慢するのは当たり前だろ?」
「でも、それはきっと不幸とか、負担とか、そういうんじゃなくて…なんつーの?対価交換?費用対効果?…よくわかんないけど。」
「理想や願いを叶えるための努力…なんじゃねーかな。」
「ていうか、燐だって似たようなもんだろ!」
「…は?」
「俺のために、言いたくもないこと言ってさ、それだってある種、一方的な我慢だろ。」
「でも、俺だって、燐だって1mm足りとも疑ったりしねぇじゃん。」
「一番の友達だってさ。」
「……。」
「………ははっ、そう、だな。うん。」
「すまなかった。どうやらオレの取り越し苦労だったみたいだ。」
「いや、まぁハタから見たらマジで意味わかんない状況だろうし…納得してくれたんなら良かった。」
「あぁ。ただ流されているわけじゃないとわかって安心したよ。」
「人を何だと思ってんだよ。」
「ははっ、悪い。」
「……蒼也。」
「ん?」
「おめでとう。」
「……!」
「…っおう!」
「ちゃんと彼女に対して礼節を欠かさないようにな。」
「礼節って…。まぁ任せとけよ!カノジョとして、しっかり海晴のこと、幸せにしてみせっから!」
「頼もしい…ん?待て、カノジョ?」
「…あ、やべ。」
「おい、逃げるな!説明しろ!カノジョとはどういうことだ!」
「黙秘権を行使します!」
「却下だ。」
「…はい。」
…その後、俺は昼休みどころか、帰宅後もみっちり尋問と説教コースを受けることとなった。




