第29話:ブレーキ
★前回のあらすじ
向かい合わせ。
「……。」
「……。」
……勢いのまま来たのはいいものの、なんて切り出せばいいんだ。
「……琴葉ちゃんに言われてきたの?」
「うぇ!?あー……。」
これ正直に言っていいのか?
でも誤魔化したってすぐ気づくだろうし…。
「まぁ、そう、だな。」
「……そっか。」
「………。」
……はは、情けねぇ。
あんだけ啖呵切っといて、今さらびびって口ごもって。
……自分の気持ちをぶつけるのってこんなにこえーのな。
きっと今から言うとこは海晴を傷つけるものになる。
俺たちにとって望まない形で終わるかもしれない。
そうなるくらいなら、言わないほうがいいのかもしれない。
『お前がやってきたことへの意味付けは、これからの行動次第だ。』
『だが少なくともオレは』
『先の喧嘩も、今の会話も、無駄で無意味なものとは到底思えない。』
『お前とこうして話せて良かった。』
……あぁ、そうだよな。
それを決めるのは俺じゃない。
「海晴。」
「俺は、お前と話がしたい。」
「お前の口から聞きたい。」
「祭りの日の言葉の意味を。今のお前の態度を。」
「俺は……。」
「海晴のことがちゃんと知りたいんだ。」
「……嫌いに、ならない?」
「……海晴?」
「それを聞いて、諸星くんは私のこと嫌ったりしない?」
「……それは……。」
「……言えないよね。そんなこと。」
「知ってる。」
「だって…諸星くん、不確かなことは絶対約束しないから。」
「……っ、本当はね、言ってほしいの。」
「約束してほしい。保証がほしい。」
「おかしいよね。言葉なんてもう信じられない筈なのに。」
俺は、海晴を、海晴優衣を知らない。
この言葉の裏にどんな意味が隠されてるのか、どんな思いを封じ込めているのか、どんなものを背負って怖がっているのか。
俺は何も知らない。
……そんな俺が今の海晴に伝えられる言葉。
それはきっと、慰めの言葉なんかじゃない。
俺の…俺自身の本音だ。
「海晴。」
「俺は逃げない。」
「最後までお前と向き合い続けるよ。」
「………。」
この言葉が海晴に届くかどうか、信じてもらえるかなんてわからない。
でもこれが、今の俺に伝えられる唯一の言葉だと思うから。
「………。」
長い、長い沈黙。
俺はじっと待ち続けた。
急かしたりしない。目を背けたりしない。態度を崩したりしない。
ただじっと、待ち続けた。
「……私、は。」
「ずっと間違った努力を続けてた。」
「小さい頃ね、両親が離婚したの。」
「ずっと一緒って約束したのに。お互い大好きだった筈なのに。」
「気がついたら離れ離れになっちゃったの。」
「それからね。」
「独りになるのが怖くなった。」
「誰でもいいから、傍にいてほしかった。」
「でも時々どうしても苦しくて、本当に自分はここにいてもいいのかって考えちゃって。」
「そんな時、琴葉ちゃんと出会ったの。」
「嬉しかった。」
「独りぼっちだった私に手を伸ばしてくれた。」
「それから、私の世界は広がった。」
「一番の友達がいて、好きだった人と両想いになって。」
「……私は、そんな幸せをどうしても手放したくなかった。」
「好きな人たちとずっと一緒にいたかった。」
「だから頑張ろうとしたの。」
「両親が離婚したのは、私の頑張りが足りなかったからだって、そう思ったから。」
「私はね。」
「好きを言い訳にたくさん彼らに酷いことをしたの。」
「一番を求めて、行動を強制して、あの人たちから自由を奪った。」
「自分勝手なエゴを押しつけた。」
「最低な人間なの。」
「諸星くん。」
「………。」
「ずっと隠しててごめんなさい。」
「……私、諸星くんにだけは……好きな人にだけは知られたくなかった。」
「こんな浅ましくて、最低な人間だって。」
「知ってしまったら嫌われるんじゃないかって、怖かった。」
「ごめんなさい。」
「………。」
「海晴。」
「…っ。」
「顔を上げてくれ。」
「………。」
「なぁ海晴。俺は今の話を聞いて……」
「嬉しかった。」
「……ぇ…。」
「だって、今の話ってすげぇ話すのに勇気がいることだろうし、すげぇ怖かったと思う。」
「それでも、こうしてちゃんと俺に話してくれた。」
「ありがとな。海晴。」
「……責めないの?最低だって思わないの?」
「いや、まぁそりゃあ…それはどうなんだって言うのはあったけどさ……。」
「でも今の海晴はその行いを反省して、気をつけてるわけだろう?」
俺としてはもっとわがまま言ってくれてもいいくらいだけど、それはそれとして。
「……これは他の奴からの受け売りなんだけどさ。当事者でもないやつがどうこう言うのは違うっつーか。」
「そもそも間違いなんて誰にだってあんだろ。それが人を傷つけていい理由にはならねーけどさ。」
「間違いのあるなしが人を受け入れねー理由にはならねーよ。」
「……だからな海晴。」
「……。」
「俺の気持ちは変わらない。」
「お前はどうなんだ?」
「……私も。」
「私も、諸星くんが好きだよ。」
「本当はクリスマスだって一緒に過ごしたい。」
「冬休みも、色んなところに出かけにいきたい。」
「いっぱいっぱい色んなことがしたい。」
「もっと一緒にいたいよ。」
「ならそうしようぜ。」
「俺も、そうしたいからさ。」
「っうん。」
「……家まで送ってくれてありがとう。」
「おう!でも本当にいいのか?クリスマスパーティー来なくて。」
「うん。今日はみんなで楽しんで。」
「まぁ海晴がそう言うならいいけどよ。」
「ふふ、その代わり明日のデートではよろしくね。」
「お、おう!任せとけ!」
「それじゃあまた明日。」
「また明日な!」
"ガチャッ"
「……。」
私は家のソファへと寝転がるとそっと息を吐く。
「……良かった。」
諸星くんが私の話を受け入れてくれて良かった。
私を嫌わないでくれて良かった。
私から離れないでいてくれて良かった。
あの話をしなくてよくて良かった。
……私は。
カノジョになってほしい。その真意だけはどうしても伝えることができなかった。
嘘はついてない。
芝崎くんの言葉の意味は全部話した。
だから大丈夫。
これでいい。これでいいの。
「これで…良かったんだよね…?」
……それにしても。どうして琴葉ちゃんはこんなことしたんだろう。
結果的に良かったとはいえ、最悪の結果になることだって考えられた。
琴葉ちゃんは優しいから、私のために行動してくれたんだと信じたい。
信じたい、けど。
「もしかして……。」
一瞬、あってほしくない想像が脳裏を過る。
思わずメッセージアプリへと伸ばした手を止める。
聞けばなんて返ってくるだろうか。
知りたい。知りたくない。
知れば戻れなくなってしまう。
「……やめよう。」
……それでいい。
『だって、今の話ってすげぇ話すのに勇気がいることだろうし、すげぇ怖かったと思う。』
『それでも、こうしてちゃんと俺に話してくれた。』
『ありがとな。海晴。』
……どうしてかな。これで良かった筈なのに。
すごく……苦しい。
"ピッ"
「…すみません、こんなことに巻き込んでしまって。」
「ホントだよ。突然大事な話があるから集まれとかさ。おかげでクリスマスパーティがおじゃんだよ。」
「……今回ばかりは私に非がありますし、その態度は大目に見ます。」
「え?今回?いつもでしょ?」
「っとうに、あなたという人はこちらの神経を逆なでするのが上手ですね。」
「わぁ、ありがとう。」
「褒めてません。」
「……それにしてもさぁ、良かったの?」
「海晴さんに嘘ついて、無理矢理諸星君に会わせるなんてしてさ。」
「下手したら今の関係ですら壊れちゃうんじゃない?」
「まぁ僕からすればその方がいいと思うけど。」
「本当にひと言余計ですね、あなたは。」
「……正直に言うとわかりません。」
「今も本当にこれで良かったかって……ずっと考えています。」
「ずっと、ずっとそうなんです。」
「あの時こうしていたら、こうしなかったら。」
「どうしたらよかったのかなって。」
「………。」
"スッ"
「話はついたのか。」
「暁月さん。」
「茶菓子と茶だ。熱いから気をつけてくれ。」
「ありがとう、燐君。」
「ありがとございますぅ〜。あのぉ…急にお邪魔してしまいすみません。」
「構わない。それに急な訪問には慣れている。」
「諸星君とか?」
「それもあるが、祖母が中々顔の広い人でな。高い頻度で客人を招くんだ。」
「へぇ。お祖母さんって何してる人なの?」
「箏曲の家元でな。日本や世界中を飛び回って講師や奏者をしている。」
「すごい人ですねぇ〜。」
「あぁ。とても尊敬している。」
「ねぇねぇ、もしかして燐君も琴とか弾けたりするの?」
「和楽器であれば大抵は。祖母に教えられたな。」
「え!?聴きたい聴きたい。」
「私も聴いてみたいですねぇ〜。」
「わかった。少し待っていてくれ。」
"スッ"
「……不思議だよね。」
「何ですか急に。」
「んー。僕さ諸星君と燐君って幼馴染って聞いてたんだけど。」
「それにしては家と家とでそれなりに距離もあるし、学校が同じにしても二人っておおよそ正反対の性格してるじゃん。」
「共通の趣味とかもなさそうだしさ。」
「運命的な出会いをしたとか、相性が良かったとか、一緒にいて居心地が良かったとか、そんな感じじゃないですか?」
「琴葉と正反対だね。」
「し、づ、る?」
"スッ"
「すまない待たせた。」
「あ、おかえりー。…そうだ、せっかくだから本人に聞いてみよっか。」
「……?何の話だ。」
「ねぇ、燐君ってさ諸星君とどういう風に知り合ったの?」
「小学校で同じクラスだった。」
「あ…そうじゃなくてさ。」
「何かこう、仲良くなったきっかけとかさ。」
「きっかけか……。」
「……オレは。」
「蒼也のことが嫌いだった。」
「「……え?」」
『今日から俺は君のカノジョ』の次回更新は10月16日(金)となります。




