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今日から俺は君のカノジョ  作者: もち大福


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19/35

第19話:ミハルユイ

★前回のあらすじ

回想編その2。何やら問題発生…?

★前回のあらすじ

回想編その2。何やら問題発生…?


「あの…布が足りないって…どうして?ちゃんと人数分に合うように計算して伝えた筈だけど…。」


「ご、ごめん!発注欄のところ…店の人が6と0を見間違えちゃってたみたいで…」


「急いで再発注の連絡してみたんだけど、今からってなると正直期限までに用意するのは無理そうって…。」


「そんな…。」


「ごめんね、優衣!」


「…ううん。みのりちゃんが悪いわけじゃないし、仕方ないよ。私他に在庫がないか探してみるね。みのりちゃんは作業に戻ってて。一先ず足りているところからやっていこ?」


「う、うん。」


「…海晴。」


「あ、諸星くん。今のもしかして聞いてたかな?」


「あぁ…まぁ。…探すって言ってたけど当てはあるのか?」


「うーん…どうだろう。でもこのままだとどうしようもないし、頑張ってみるよ。」


「俺も手伝おうか?」


「ううん。諸星くんはみんなと作業進めてて。探すのは一人でもできるから。」


「わかった。なんかあったら言えよ。」


「うん。ありがとう。」


…って言ってもなぁ…。本当に大丈夫か?アイツ。










そんな俺の漠然とした不安は










ーー見事的中することとなる。













「ねぇ、ホントにヤバイよどうすんの?」


「つっても布が足りないんじゃ、そもそも進めらんねーだろ。」


「でもどこも売ってないんだろ?じゃあ無理じゃん。」


「えぇー!折角ここまでやったのにー。」


「仕方ねぇって。」


「でもさー。」


…あれから、俺たちは海晴の言うとおり、現状の範囲で進められる分だけの作業を行なったものの、肝心の不足分の布はどこも在庫切れか、そもそも売ってないかで見当たらず、完全な手詰まり状態となってしまった。


"ガラッ"


「あ、優衣!どうだった?」


海晴は静かに首を横に振る…ということはダメだったのか。


どうしたものか。こうして手をこまねいている間にも、期限は着実に迫ってきている。


流石に未完成の状態で行くなんてことはできない。


最低限全員が形になる感じにしなければ…。


「じゃあもう諦めようぜ。」


「…え…?」


「だってもうこれ以上どうしよーもねーだろ?」


「このままうだうだしてても解決するわけじゃなし、だったら今からでも方向性変えて、最初の手に切り替えようぜ。」


「諸星も言ってたじゃん。無理ならその時切り替えようぜって。」


「で、でも…。」


「確かに。」


「勿体無いけど、仕方ないよね…。」


「み、みんな…。」


「優衣、残念だけどさ、諦めよう?服なんていつでも作れるんだしさ?今回ダメでも、また来年があるじゃん?」


「…っ待ってよみんな!」


「まだ何か…そうだ!みんなで着なくなった服とか持ち寄ってさ、それを切って布にして…。」


「いやぁ…それは流石に。」


「後で元に戻るんならいいけどさ…。」


「だ、だったら…」


「海晴さん。」


「…っ!」


「そりゃあ気持ちは分かるけどさ。もうどうしようもないじゃん。な?」


その言葉に、周囲は次々に頷いていく。


多対一。


だがこうなってしまった以上は、みんなの言うとおり、仕方ないのかもしれない。


でも…本当にこれでいいのだろうか。


本当に他に方法はないのだろうか。


そう考えていた時だった。


「…優衣っ!」


「え?」


慌てて顔を上げ、声の行く先を見れば、すっと横を海晴がすり抜け、廊下へと飛び出していくのが視界の端に見えた。


瞬間、俺は。


「待ってよ!優衣!…え?」


海晴の後を追いかけようとする牧野の肩を掴んでいた。


「俺が行く。」


「は、はぁ?」


「みんなはここで待っててくれ。」


「ちょ、諸星くん!?」


制止の声も気に止めず、気づけば走り出していた。


そうしなきゃ、ダメだと思った。


きっと、俺じゃなくちゃダメだと思った。










彼女の本当の言葉を聞いてあげられるのは。













ーー扇ヶ丘学園 中庭にて。


「…海晴っ!」


「…諸星くん。」


「……あの、私…。」


「なぁ、ちょっと喉乾かないか?」


「…え?」






"ピッ"


"ガシャンッ"


「ほら。」


「あ、ありがとう…。」


「……。」


「……。」


「海晴はさ、実際のとこ、どう思ってんだ?」


「…何が。」


「だから、その。衣装のこと。」


「…仕方ない、と…思う。」


「何が仕方ないと思うんだ?」


「それは……みんなが……。」


「…海晴。」


「何?」


…海晴は多分みんなの意見が最もであると理解してる。このまま俺が何も言わなければ、きっと謝罪を述べた後、みんなの意見に同意を示すんだろう。


それも一つの正しい手段だと思うし、それが一番円満に解決すると俺は思う。


でも、それじゃあ納得できない。


「お前は自身はどうなんだよ。」


「どうって…。」


「お前自身は、諦めることを仕方ないって思ってるのかって聞いてんの。」


「そんなの………。」


「……思ってない。」


俺も。


「思いたく、ない。」


お前も。


「…だって…いっぱい頑張って、みんなもたくさん手伝ってくれて…。」


うん。


「…自分のやりたいことも目一杯できるって…そう、思ってたのに…。」


お前、服作り好きなんだもんな。


「…っこんなっ!…こんなことなんかで、諦めるのなんてっ。」


「そんなの、納得行かない。」


そりゃあそうだろうよ。


「…でももう期限も全然ないんだぜ?布だって足りないし。どうすんだよ?」


「期限はそんなに問題じゃないよ。基盤は出来てるし、後は布さえ足りれば全然間に合う。」


「マジか…でも、その布がなぁ。持ち寄りは流石に俺も嫌だし。」


「……私が、頑張って探す。」


「それ前にも言ってたよな。でもそれで無理だったんだろ。」


「っでも!もうそれしか方法が…」


「ない。なんてことねーだろ。」


「…ぇ…?」


「あるだろ?もっと別の方法がさ。」


「…それって…?」


俺は、別に服作りが好きなわけじゃないけど。


「まぁ、なんつーの?」


「お前はさ、もうちょっと周りを頼れよ。言い出しっぺだから遠慮してんだろうけどさ。」


「周りって…でもみんな聞いた時に断って…」


好きなことを否定される辛さも…否定しなきゃいけない辛さも。仕方ないって諦める辛さも。


「そうじゃねぇって。ま、取り敢えずさ。」


形は違えど、どれもちょっとだけわかるからさ。


「絶対に俺が何とかしてやるから、任せとけ!」


なんとなく、ほっとけないんだ。










ーー1-1教室前にて


「あ、あの諸星くん。ここって隣のクラスじゃ…。」


「まぁ見てろって。」


"ガラッ"


「悪い。2組の諸星だけど、燐いる?」


「燐…って暁月?」


「うん。」


「おーい、暁月。2組の奴が呼んでるぞ。」


「わかった。今…蒼也?」


「悪いな、作業中。」


「それは構わないが、何かあったのか?」


「あのさ、1組で布とか余ったりしてないか?こっちのクラス、布が足りなくて困ってんだ。」


「布?ちょっと待っていてくれ。聞いてみる。」


「あぁ、頼む。」


「…ねぇ、諸星くん。いいのかな…?」


「何が?」


「だって別のクラスにお願いするなんてそんなの…。」


「学校側から禁止されてるわけじゃないし、お互いがいいなら別にいいだろ。」


「すまない、待たせた。」


「おう。で、どうだって?」


「一反程であれば余っているそうだ。」


「マジ!?それ、貰っていいか?」


「あぁ。許可ももらった。」


「助かった!サンキューな!」


「構わないが…それだけで足りるのか?」


「あ。どうなんだ?海晴?」


「え?さ、流石に一反じゃ厳しい…かな。」


「だよなー。他も当たってみっか。」


「だったら2年5組を尋ねてみるといい。先日話した際、思った以上に布が余ったと言っていた。」


「お!じゃあ次はそこ行ってみるか。他はなんか心当たりあるか?」


「布と聞くと一番に思い当たるのは手芸部だな。ただ部費で購入しているものだろうし、譲り受けるのは難しいかもしれないな。」


「そっか。ま、でもダメもとで一回聞いてみるわ。色々ありがとな。」


「あぁ。」






「ごめんね、期待に添えなくて。」


「いいえ、お時間取らせてすみませんでした。」


"ガラッ"


「…結局、収穫があったのは1組と2年の5組だけかー。」 


「あとちょっとなんだけどな…。」


「まぁ、まだ手芸部があるしもうひと踏ん張りと行こうぜ。」


「……。」


「…なーに行く前から沈んだ顔してんだよ。」


「最初から諦めて立ってそれこそ仕方ねーだろ?」


「う、うん。」


「安心しろって。言ったろ?絶対俺が何とかしてやるってさ。」


「諸星くん…。」


「ほら、着いたぜ。」


「あ…。」


「まぁ、これに関しちゃ俺よりお前の方が説得できるかもしれねーし。取り敢えず一回聞いてみようぜ。」


「当たって砕けろって言うしな。」


「…砕けちゃダメだと思うけど…。」


"ガラッ"


「失礼します。」


「し、失礼します。」


「はーい…って優衣ちゃん?」


「さ、作業中にすみません。」


「それはいいけど…何かあったの?」


「あの、その…。」


「実は学園祭の衣装作りに必要な布が足りなくて。手芸部で余ってる布をよければ分けてくれないかなって。ダメですかね?」


「う、うーん。分けてあげたい気持ちは山々なんだけど…どうしよ?」


「バレたら先生に怒られそうだよね。」


「それにあくまで部活動で使うものだしねー。」


「そこを何とかお願いします!あともうちょっとなんです!」


「だからってなー。」


「…っせ、先輩。どうしてもダメですか?」


「優衣ちゃん?」


「無理を言っているのは分かってます。でも、それでも…。」


「っお願いします!私、どうしても諦めきれないです!」


「海晴…。」


「……はぁ。」


「先輩…。」


「…全くもう。本当はダメなんだからね。」


「そ、それじゃあ…!」


「可愛い後輩の頼みだしね。今回だけ特別。」


「……!」


「あ、ただし、先生には内緒ね?怒られちゃうから。」


「は、はい!ありがとうございます!」


「ありがとございます!」


「はいはいどういたしまして。ほら、出てった出てった。…優衣ちゃん。」


「……?」


「どんな衣装になるか、楽しみにしてるからね?」


「っは、はい!」



それからの俺たちは今までの遅れを取り戻さんとし、とにかく過密なスケジュールの中で日々を忙殺されていた。


時折、締め切り前の漫画家はこんな気持ちなんだろうかと多少の現実逃避も挟みつつ、それでも手を止めることなく、休むことなく、諦めることなく作業を進めた。


正直ここまで自分が頑張れるなんて、何かに取り組めるなんて、思ってもみなかった。


進展があったからといえばそうなのかもしれないが、多分きっと、それだけじゃない。


「海晴、まだ残ってたのか?」


「うん。期限を考えて、今日中にここまで進めておきたいから。」


「あんま無茶すんなよ?」


「大丈夫。」


「ホントかよ。」


「本当だよ。…知ってると思うけど、私ね、服を作るのが大好きなの。」


「でも、作るだけじゃなくて、自分の作った服を人に着てもらうことも好きだから…。」


「だからね、今私すごく楽しいの!服をたくさん作れるだけじゃなくて、私たちの作った服をみんなに着てもらって、それを色んな人に見てもらって…そう考えるだけでとってもわくわくするの。」


「だから大丈夫だよ!」


「…そっか。」


「諸星くん?」


「ここにボタンつければいいんだよな?」


「う、うん。」


「…あのね、諸星くん。」


「ん?」


「…なんというか、その…ありがとう。」


「…おう!…あっやべ刺さった。」


「も、諸星くん!?大丈夫!?て、手当てしないと…!」


「いや大丈夫だから落ち着けって!」


…俺はまだ自分の好きを見つけられない。


だけど。


誰かの…海晴の好きを、今は全力で応援したいと思ったんだ。










ーー扇ヶ丘学園学園祭当日。1-1教室にて


「ねぇ、シロップどこー?」


「あ、ごめん私持っててた。」


「真尋ー!どう?変じゃない?」


「うん、いいんじゃない?」


「机もうちょっとそっち寄せて。」


「海晴。」


「諸星くん。」


「衣装間に合って良かったな。」


「えへへ。徹夜したかいもあったよ。でも、おかげでちょっと眠いかも。」


「大丈夫か?それ?」


「うん!初日はパレードがあるし、歩いてたら目なんて覚めるよ。…それより…。」


「ん?」


「ふふ。やっぱりその格好似合ってるね。」


「そ、そうか?サンキュー。でもチャイナ服なんて初めて着たけど、こうして実物見るとやっぱカッケーな!なんか漫画に出てきそうだし。」


「てか、そういう海晴も似合ってるぞ。髪型も、いつもと違って新鮮だし。」


「あ、ありがとう…あの、諸星く」


「おーい、そろそろ移動するぞ。」


「お、行こうぜ、海晴。」


「う、うん!」


「…海晴。」


「……?」


「1位、絶対取ってやろぜ!」


「…っうん!」












とまぁ、カッコつけて意気込んでみたのはいいものの。


格好だけ取り繕っても所詮俺は、俺たちは、漫画の主人公のような存在ではなくただの一人の人間なわけで。


「衣装部門1位は…3年4組!」


"ワアアアアア"


どこまでも上手くいかないのが世の常だ。


でも俺にしては頑張った方だし。


作業もそこそこ楽しかったし。


そもそも海晴以外、そんな裁縫が得意な人間もいなかったわけだし。


この結果も仕方な…


「…頑張ったのにな。」


それは何の変哲もない言葉の吐露だった。


泣いているわけでもない。


叫んでいるわけでもない。


ただの言葉。


彼女が、海晴がふと口にした、たった一言。


でもその言葉は、何故か俺の心に酷く重く伸し掛かった。


得体のしれない何かが込み上げるような、胸のうちをずっとぐるぐると回るような、そんな感覚。


それが気持ち悪くて、俺は思わず言葉を吐き出してしまった。


「やらなきゃ、良かったか?」


「……諸星くん?」


「…っあ、いや…その…。」


「……頑張って頑張って、それでも越えられない壁があることを知って…。」


「自分の無力さを痛感して…今までのことは何だったんだろうって後悔して…。」


「やめたく、ならないのかな…って。」


海晴は目をぱちくりとさせ、驚いたようにこちらを見た。


当たり前だ。急にこんなこと言われたら誰だって混乱する。


…なんか滅茶苦茶恥ずかしくなってきた…。


「わ、悪い急こんな…」


「やめないよ。」


「……え?」


彼女は真っ直ぐ俺を見つめ、そして…


「やめないよ。好きだから。」


ーー笑った。












その時…俺の中の世界が動いた。


生まれて初めてだった。


こんなにも何かに目を奪われたのは。


綺麗だと思った。

 

君の言葉が、君のあり方が、君の笑顔が。


この世界の何よりも、愛おしく見えたんだ。


胸が苦しい。


でもこれはさっきまでのとは違う。


彼女の好きを応援したい。


頑張りを否定したくない。


笑顔やかわいい姿をもっともっと見ていたい。


もっと俺のことを見てほしい。


…あぁ、そうか。


俺は君が


海晴優衣が










好きなんだ。



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