第17話:ウソツキ
★前回のあらすじ
よろしい。ならば特訓だ!
俺は、昔から好奇心旺盛な奴だったように思う。
友達がサッカーの試合で得点を決めれば、あんな風にカッコよくシュートをしたいとサッカーを始め、TVで野球選手が活躍すれば、野球がやりたいと言い出す。
自分もあんな風にカッコよくなりたい、注目されたい。
そんな漠然とした思いをいつも抱えていた。
でも俺は
そのための努力が何より嫌いだった。
ーー14年前。
「母ちゃん!俺、プロゲーマーになりたい!知ってる?プロゲーマーってめっちゃお金貰えるんだぜ。ゲームしてるだけでお金も貰えるなんて、最強じゃね!?」
「…はぁ。蒼也、あなた前はサッカー選手になるって言ってたじゃない。アレはどうしたのよ?」
「やめた。なんか思ってたのと違うし、つまんねーし。別に友達がやってたから興味があっただけで、そもそも俺、元々サッカーそんな好きじゃなかったし。」
「蒼也、あなたね…」
「でも俺ゲームは好きだし!だから今度は絶対…」
「そう言って、いつも長続きしないじゃない。」
「それは…そりゃあ好きじゃないことなんて、続かなくて当然じゃん!次は、次は絶対大丈夫だから!」
「いい加減にしなさい。」
「…っ!」
「蒼也、あなたはいつもそう。失敗や周りとの差をそうやって言い訳ばかりして、知らん顔して、すぐ諦める。」
「言っとくけどね。」
「言い訳重ねて、自分から逃げてばかりいるような人間は、この先何をやったって上手くなんていかないわよ。」
「…何だよ、それ…。」
「…っ!もういいよ!母ちゃんのケチ!わからず屋!べーっだ!」
「あ、こらっ蒼也!どこ行くの!?」
ーー4年前。暁月家にて。
「…母ちゃんのバカ。何だよなんだよ、えらっそうに!」
「だが、沙代おばさんの言っていることは正しいと思う。」
「っ燐まで母ちゃんの味方すんのかよ!」
「オレは自分の意見を述べただけだ。」
「ちぇ。どいつもこいつも上から目線で説教しやがって。お前はいいよなぁ、才能があって。あーあ、俺もお前みたいに才能があればなぁ。」
「蒼也…」
「燐。」
「お祖父様。」
「そろそろ稽古を再開する。」
「はい。…すまない蒼也。」
「ん?あぁ。じゃあな。」
「あぁ、また明日学校で。」
才能があれば。
この頃の俺はそればかり考えていた。
才能があれば、もっと上手くなれるのに。
才能があれば、もっと活躍できるのに。
才能があれば、こんな思いしなくていいのに。
才能があれば、失敗なんてしなくてすむのに。
才能があれば、俺も
燐みたいな、特別な人間になれるのに。
ーー3年前。中学校入学式後、帰り道にて。
「んーー、やっと終わったぁ。こういう式ってだるいよなあ。」
「そうか?」
「お前は代表挨拶があったからアレかもしんねーけど、その他大勢はただ話聞いてるだけだからそうなの。」
「そういうものなのか。」
「そうそう。…あ、そういや燐、お前部活どうすんの?やっぱ剣道部?」
「あぁ。」
「だよなー。…俺も剣道部入ろっかな。」
「興味があるのか。」
「まぁ、そこそこ。今鬼滅◯刃にハマっててさ、あぁいうのやってみてーよな。」
「読んだことがないからわからない。」
「え!?燐、鬼滅読んだことねーの?勿体ねー。今度うち来いよ、漫画貸してやるからさ。あ、どうせならアニメも観ようぜ。ネトフリに入ってた気がするし。」
「あぁ、ありがとう。楽しみにしてる。」
ーー3年前。8月にて。
"コンコン"
「蒼也、入るぞ。」
『おう。』
"ガチャリ"
「失礼する。」
「おー、今手が離せねーから適当に…」
「蒼也。最近部活に顔を出していないようだが何故だ。」
"カチャッ"
"♪テッテッテ テテテテテテテレレーン"
「あー!チクショウ当たったー!最初からやり直しかよ…。」
「蒼也。」
「…んだよ。」
「最近部活に顔を出していないようだが何故だと聞いている。」
「…別に、飽きたんだよ。」
「飽きた?」
「そう。練習も地味だし。カッコいい技とかあるわけでもないし。」
「それに、燐みたいな才能があるわけじゃないし。」
「つーかいいだろ?俺は燐と違って大会に出るわけじゃないし、俺一人が練習に参加しないぐらい、何の影響もねーだろ。」
「俺は今新作のゲームをクリアするのに忙しいの。」
「蒼也は、剣道への興味は失ったのか。」
「…元々漫画に影響されただけで、大して好きでもなかったよ。」
「そうか。」
「話はそんだけか?だったら今日はもう…」
「それでは次にそのゲームに対する興味を失うのか。」
「…はぁ?」
「先程のはゲームオーバー音というものだろう。」
「そうだけど、それがどう関係あるっていうんだよ。」
「ゲームオーバーとはつまり課された課題を失敗したということだろう。」
「だ、か、ら、それがどう関係あるかって聞いてんだよ。」
「お前はいつもそうだ。」
「失敗したものや力量差を感じるものからすぐ目を逸らす。」
「事実を受け止めようとせず、逃げ道を探す。」
「本気じゃなかった。好きじゃないから、興味がないからやる気が出なかった。元々やめようと思っていた。自分に向いていない。才能がない。」
「出来ない自分を認めず、興味関心を失ったことを理由に他に縋る。」
「いいか、蒼也。それではいつまでも…」
"ガシッ!"
「何だよ、お前さ。結局説教しにきたわけ?」
「…だったら帰れよ。今すぐに。」
「俺が何をどうしようが俺の勝手だろ。上から目線で口出してくんじゃねーよ。」
"ゴツンッ"
「っいっっったぁぁぁぁ!おまっ、はぁ!?この状況で頭突きする奴があるかぁ!?」
「オレが何をしようがオレの勝手だ。」
「それ俺の台詞!」
「いいか、蒼也。」
「無視かよ!」
「オレはお前を説教しに来たんじゃない。」
「今までの言動や行動、そして先の発言。」
「オレはお前に対し非常に憤慨している。」
「何が飽きただ、何が才能だ。対して努力もしていないくせに、一丁前に悟った風を気取り、結局は逃げているだけじゃないか、この軟弱者!」
「はぁ!?っざけんなよ!」
「巫山戯てなどいない。至極真面目に意見を述べている。」
「そういうこったねーんだよ!あーもう!お前らはいっつもそうだ!自分たちが正しいですみたいな顔しやがって!ちょっとは相手の立場になって考えたことがあんのかよ!?」
「努力が足りない、頑張りが足りない、もっと頑張れだの、努力すれば、諦めなければきっとできるだの!」
「そんなのはな!元から才能がある奴だけなんだよ!やってできる奴は最初からそういう下地がある奴だけなんだよ!」
「お前はいいよな才能があって!あいにくと俺はお前と違って凡人何でね。お前みたいに何やったって成功する奴とは訳が違うんだよ!」
"ガシッ!"
「っ!」
「巫山戯るな、はこちらの台詞だ、蒼也。」
「才能がある?何をやったって成功する?」
「蒼也。お前は腰抜けなだけではなく、相当な節穴らしいな。」
「確かに人には得意不得意がある。どうしたって埋められない差だって存在する。それを才能と呼ぶのであれば、そうなのだろう。」
「だがな。」
「失敗しない人間も、必ず成功する人間も決して存在しない。」
「いいか蒼也。」
「オレはな、1の成功を得るため100の失敗を乗り越えている。」
「お前が1の失敗を経験している間に、オレは1000の失敗を経験している。」
「お前と違う…?当たり前だ。」
「オレはお前と違い、幾度となく失敗を繰り返し、その度に立ち向かい、経験を、努力を重ねてきた。」
「ただの一度足りとも、それを行わぬお前とでは、積み重ねてきた重みに、天と地ほどの差があるのは当然の帰結。」
「その積み重ねを見ようともせず、結果だけを見て才能の差だと宣っているのなら笑止千万。」
「誰も言わぬのならオレが言ってやろう。」
「お前はただ、言い訳を重ね、失敗を怖がっているだけの…」
「負け犬だ。」
初めてだった。いや、出会った当初は俺が気にしていなかっただけで、こんな目を向けられたこともあったのかもしれない。
でも、ソレをしっかりと認識したのは、この時が初めてだった。
苛立ち、不満、失望…そして
傷心し、悲嘆に暮れた眼差し。
「…ぁ…。」
俺は、一番大切な友達を傷つけた。
他でもない…俺自身の弱さで。
「燐、その…」
「蒼也。」
「練習にはお前が来たいと思った時に来ればいい。」
「…燐。」
「だが」
「来週の大会。それだけは来てくれないか?」
「…え…?」
「ダメだろうか?」
「…いや、いい、けど…そうじゃなくてっ!」
「ありがとう。…蒼也。」
「また明日。」
"ガチャリ"
「…燐…。」
俺は、どうすればいいのかわからなかった。
ただ、友達を傷つけてしまったという事実だけが、深く、深く突き刺さった。
ー3年前。剣道大会当日。諸星家にて。
「蒼也ー。今日大会の日じゃなかったの?」
「うん。」
「燐君、大会に出るんでしょう?いいの?応援に行かなくて。」
「……。」
「何があったかは知らないけどね、そうやって悩んで縮こまるくらいなら、まず行動してみなさい。あなた考えるよりも身体動かす方が得意でしょう?」
「母さん、こっちは真剣に悩んでんだけど。」
「そう。で?その悩みとやらはそうしていたら解決するのかしら?」
「…それは…。」
「ほら、掃除の邪魔だからどいたどいた。」
「……。」
『何が飽きただ、何が才能だ。対して努力もしていないくせに、一丁前に悟った風を気取り、結局は逃げているだけじゃないか、この軟弱者!』
『お前はただ、言い訳を重ね、失敗を怖がっているだけの…』
『負け犬だ。』
『来週の大会。それだけは来てくれないか?』
「…母さん。俺ちょっと出かけてくる。」
「…そう。いってらっしゃい。…蒼也。」
「ん?」
「頑張ってね。」
「…おう。」
ー3年前。剣道大会会場にて。
"パンッ!"
「1本!」
「っくぅ、惜しい。」
「流石3年生…上手いところで引いてきますね。」
「せ、先輩!」
「諸星くん!?」
「お前、今日来れないって…」
「…はぁ…はぁ…す…すみ、ませ…ん。はぁ…はぁ…。」
「お、おう。取り敢えず話は後で聞くとして、ほら水。」
「あ、あり、がと…はぁ…ござ、ぃ…ます。」
「…ふー…。あ、あの!それで試合は!?どうなってますか!?」
「お、落ち着けって…。…先鋒で勝って、次鋒、中堅で負けてるから、次副将戦…燐が負けたらうちの負けが決定する。」
「でもって、今副将戦は相手が1本先取してるから、下手したら次の試合で勝負が決まるね。」
「…燐…。」
"パッ!"
「始め!」
俺は食い入るように試合を見ていた。
両者の間には鋭い緊張が走り、互いに間合いを牽制し合う。
一方が刃を振り下ろせば、もう一方がそれを受け流し、反撃の一手を繰り出す。
どちらも互角。互いに譲らず、一歩も引かず、前へ出る。
…もし。
もし俺が、あの場にいたのなら。
俺は、彼らのような動きが出来ただろうか。
否。俺はあの場に立っていない。
それが答えだ。
俺は何故、あの場に立てないのだろう。
才能がないから?努力が足りないから?
きっとどれも当てはまるのだろう。
いくら俺に才能があったところで、俺はあそこには立てない。
いくら俺が努力をしたところで、俺はあそこには立てない。
だって、彼らは才能のあるなしであそこには立っていない。
だって、俺が努力を重ねている間も、彼らは努力を惜しまない。
「…あぁ、そういうことか。」
ようやく気づいた。
俺が何故、言い訳を重ね続けてきたのか。
俺が何故、逃げてばかりいたのか。
俺が何故、あんなことを言ったのか。
お前の言うとおりだよ、燐。
俺は怖かったんだ。
頑張っても、それでも届かない場所があると知ることが。
頑張っても、それが全部無意味であると知ることが。
俺は…
自分の無力さを痛感することが怖かったんだんだ。
「…はは…。」
「カッコわりぃ。」
それでお前のことを傷つけてちゃ、世話ないのにな。
「…っ!」
「頑張れ!燐!」
「……!」
「ちょっ、諸星くん!?剣道は声援禁止だから!」
「す、すみません…。」
なぁ、燐。
俺、お前に言いたいことがたくさんあるんだ。
"パンッ!"
「1本!」
「…っし、これで両者1本ずつ!」
「…暁月くん…!」
…頑張れ。燐…!
"パッ!"
「始め!」
"ジャーッ!"
"キュッ"
「…来てくれたんだな。蒼也。」
「あ、あぁ。」
「…その、残念、だったな。で、でもすげーじゃねぇか。対戦相手3年生だったんだろ?」
…あれ?俺何言ってんだ?
「それなのに互角に渡り合って、挙句の果て、1本とるなんて」
違う。俺が言いたかったのはこんなことじゃなくて…
「やっぱり燐は…」
「…燐、は…」
「才能がある。か?」
「…っ、ちが、そうじゃ…」
「うん。」
「…!…そうじゃないんだ。」
「…俺、燐のことずっと特別な存在なんだって、思ってたんだ。」
「…うん。」
「頭も良くて、運動もできて、みんなにも信頼されてて、いつだって真っ直ぐで。」
「正しい人間なんだって。…そう、思ってたんだ。」
「うん。」
「俺は、そんなお前が羨ましくて、眩しくて…」
「燐にできるのに、何で俺にできないんだろうって、比べて、嫉妬して。」
「うん。」
「…俺はずっと諦めたふりをして、逃げてたんだ。」
「自分が」
「誰かに比べて劣った人間であるって認めることが怖かった。」
「自分も」
「特別な人間なんだって思いたかった。」
「うん。」
「でも、結局…何も変わらなかった。」
「むしろ、自分がずっと惨めな存在に思えてきたよ。」
「…俺が、今までやってきたことって…なんだったんだろうな…。」
「蒼也…。」
「…燐。」
「ごめん。」
「俺は、お前のこと何も見てなかった。」
「こうだって自分の価値観の中で押し決めて、お前の積み上げてきたものを否定した。」
「本当にごめん。」
「………。」
「蒼也。」
「…っ!」
「…顔を、上げてくれないか。」
「……。」
「…蒼也、オレはな、嬉しかったんだ。お前が剣道をやりたいと言ってくれたことが。」
「…ぇ…。」
「漫画も、ゲームも、サッカーも…いつだってお前の好奇心の先に、オレの世界は入っていなかった。」
「…だから、自分の好きなものに興味を抱いてくれてことが嬉しかったんだ。」
「…結局、長くは続かなかったがな。」
「っう…ご、ごめん…。」
「謝る必要などないさ。オレが勝手に期待し舞い上がっていただけだ。」
「ただ、オレの今までをなかったかのようにされるのは、流石に堪えた。」
「……。」
「なぁ、蒼也。」
「……?」
「今日の結果を見て、お前はオレの努力は無意味だったと思うか?」
「……わかんねぇ。」
「だってお前、俺が見たときには強かったし。」
「……。」
「…だから、次。…次もっ、見に来っから!」
「そん時にさ…見せてくれよ。」
「努力の成果ってやつ。」
「あぁ、それは構わないが…対戦相手は引退している故、今回と比較するという意味合いであればそれは難しいと…」
「そういうこっちゃねーんだよ!ホントそういうとこだぞお前!」
「…はぁ、もう何か色々悩んでたこっちがバカらしくなってくる…。」
「蒼也。」
「あ?なんだよ?」
「先日はすまなかった。」
「…いいよ。つーかあれは俺が悪いみたいところあるし。」
「だとしてもだ。」
「だとするのかよ。」
「言葉が過ぎた。」
「…はぁ、んじゃ、お互いに悪いところがありましたってことで。」
「蒼也。」
「っ。まだ何かあんのかよ。」
「お前がやってきたことへの意味付けは、これからの行動次第だ。」
「……。」
「だが少なくともオレは」
「先の喧嘩も、今の会話も、無駄で無意味なものとは到底思えない。」
「お前とこうして話せて良かった。」
「…っホント…」
「そういうとこだよなぁ…。」
「…なぁ、燐。」
「なんだ。」
「俺、決めた。」
「もしまた、好きと呼べるものに出会えたなら。」
「そん時は、絶対諦めねー!」
「何があっても逃げずに向き合う。」
「だからちゃんと見とけよ!俺の勇姿を!」
「あぁ。楽しみにしてる。」
ーーそして、新たな決意を胸にかがけてからはや三年後。
俺は君に出会ったんだ。




