第16話:イソウロウ
★前回のあらすじ
一歩全身…?
この世に完璧なものなど存在しない。
どれだけ精巧に作られたものであろうと欠点はあるし、どれほど優れた人間だろうと弱点はある。
そしてそれは。
「……これ、新種の生き物?あ、空想生物かな?美術ではよくあるよね。」
「…花だ。」
「……まぁ、物事の捉え方や描き方は人それぞれだしさ、独自性があっていいんじゃないかな?」
「…空木…。」
「あれ?二人とも何して…うわっ、相変わらず絵はすげー下手だよな…」
「燐。」
この完璧超人である暁月燐も同様だ。
「ちょっと、諸星君?」
「いやだってホントのことだし。」
「言い方ってもんがあるじゃん。」
「お前に言い方をとやかく言われたくねーよ!」
「…空木、蒼也。」
「「ん?」」
「…頼む…オレに…」
「絵の修行をつけてくれ。」
ーー休日にて。
燐に教えを請われてから数日後。休日を迎えた俺たちは、空木の提案の元、彼の家を訪れることになったわけだが…。
「…確かこの辺だよな。」
「その筈だ。」
「とういうか、ここら辺って俗にいう一等地って奴だよな。アイツ、家まで金持ちなのかよ。」
世の中はなんて不平等なんだ。チクショウ。
いいもんいいもん俺にはかわいい彼女がいるもん。悔しくないもん。
「…蒼也、あれじゃないか?」
「ん?おわっ!…まじかぁ…。」
うん、予想はしてたけど…何というか予想以上だ。
建物の構造自体は白い壁でデザインされた、モダン系のシンプルな造りではあるものの、とにかく広い。でかい。横に。
というか庭にプールがある家とか、ホントに実在したんだな…。
「…これ、入ってもいいのかな…。」
「招かれている身だし、構わないだろう。」
「そうなんだけどさ、世界が違いすぎるといいますか。」
「何を言っているんだ。」
"ピンポーン"
「ちょっと!?俺まだ心の準備ができてないんだけど?」
「ならば今しろ。」
「この鬼コーチ!」
「今日のコーチはお前だろ。」
「俺ボイコットしてもいいか?」
「ダメだ。」
「酷い!燐の鬼!悪魔!」
「オレは人間だ。」
「知ってるよっ。」
『二人とも。いい加減漫才してないで入って来たら?鍵は空けてるからさ。』
「聞いてたのかよ…。」
「あぁ、お邪魔します。」
「お前はホント躊躇いないよな。…はぁ、お邪魔します。」
"ガチャッ"
…中もバカ広いな。廊下だけで俺の部屋が収まるんじゃないか?これ。
「空木、いるか?」
『今ちょっと手が離せないから、そのまま階段上がって、一番奥の部屋まで来てくれる?あ、洗面所は玄関入ってすぐ横にあるから。』
「わかった。」
「お、おう。」
"コンコン"
「空木。入るぞ。」
『どうぞー』
"ガチャリ"
「いらっしゃい、二人とも。ようこそ僕のアトリエへ。」
「…すげぇ。」
これ…全部絵を描く道具、なんだよな。
それに部屋一面を埋め尽くす絵。…これ全部空木が描いたのか?
「荷物は適当にその辺に置いておいてよ。」
「あぁ。それにしても圧巻だな。全て空木が描いたのか?」
「うん。そうだよ。実家には置きたくないから、基本出来たて絵は売るか、ここに置かせてもらってるんだ。」
「へぇ…ん?実家?」
「なぁ、ここ空木の家じゃねーの?」
「うん、そうだよ?」
「は!?じゃあここ誰の…」
「紫鶴、私今から出かける、ので…」
「全く、ノックくらいしてくれないかな?」
「琴葉。」
「「な、ななな…なんで…」」
「ん?」
「「諸星さんと暁月さん/雲山がここに!?」」
「あれ?知り合いだったの?」
「あぁ。」
「って、燐はもうちょっと驚けよ!」
「驚くもなにも、書いてあっただろう。」
「なにが?」
「表札に。雲山と。」
「言えよ!」
「…従姉弟?」
「そ。僕の父親と、琴葉の母親が兄妹同士でね、僕の放浪グセに難色を示した父さんが、雲山家に監視件世話役をお願いしたらしくて。」
「琴葉の父親の務めている会社は、僕の父親の会社の系列だからね。流石に上からの命令は無視できないってことで、僕は晴れて雲山家の居候になったってわけ。」
「本当は今すぐにでも出てってほしいですけどねぇ〜。」
「そんなことしたら監督不行届で智樹おじさんの立場が危ないもんね。というか改めて思うけど身内の猫被りって、痛々しくて見てられないよね。」
「諸星さん、暁月さん、友達は選んだ方がいいですよぉ〜?なんなら今すぐやめることをおすすめしますぅ〜。」
「え、長年連れ添ってきた二人の絆を断つなんて…最低だよ琴葉。」
「あ・な・た、とのです!」
「…お前ら仲悪いのか?」
「「うん/はい」」
…いや、逆に仲いいのか?これは?どっちだ?
「それよりも琴葉、君でかけるんじゃなかったの?」
「…はぁ。諸星さん、暁月さん、気をつけてくださいねぇ〜、彼ひじょーーに、性格が悪いのでぇ〜。」
「あ、はい。」
「それでは〜、ごゆっくりぃ〜。特訓頑張ってくださいねぇ〜。」
「あぁ。」
「ふふふ。」
"ガチャリ"
「ま、まぁなんか色々あったけど、取り敢えず始めようぜ。」
「よろしく頼む。」
「一先ず、最初はデッサンからだね。対象を観察する、特徴を捉える、紙に落とし込む。この基礎さえ出来れば、絵として形になる筈だからさ。」
"カチコチ カチコチ "
「う、うーん…対象の大きさとはピッタリ同じだから、観察自体は十分出来てると思うんだけど…」
「どこをどうしたらこれが出来上がるんだろうな。」
「…オレにもさっぱりなんだ。」
「なら今度は対象を更に絞って、その一部分だけ描いてみよっか。」
「あぁ。…む。」
「どうしたの?」
「飲み物が切れた。」
「なら、あんま根詰めてもあれだし、そろそろ休憩にしよーぜ。俺もなんか小腹空いてきたし。」
「それもそうだね。そうしよっか。」
「であれば、少し買い出しに行ってくる。なにが買ってきて欲しい物はあるか?」
「お、サンキュー。じゃあ俺コーラとカールで。」
「わかった。空木は?」
「え?んー…なら僕はコーヒーだけお願い。」
「ブラックでいいか?」
「うん。」
「わかった。行ってくる。」
「おー、いってらっしゃい。」
「よろしくね。」
"ガチャリ"
「…意外だよね。」
「ん?」
「燐君ってさ、基本何でも出来る完璧超人ってイメージがあったから。」
「その認識も間違ってねーよ。アイツムカつくくらい何でも出来るし。でもそれは、単に才能があるから、天才だからってわけじゃなくて…」
「人一倍…いや、誰よりも努力してるからなんだ。」
「前から思ってたけど、諸星君って、努力している人とか一生懸命な人とかに弱いよね。」
「そうか?」
「そうだよ。だって海晴さんを好きになったのも、そんな感じの理由でしょ?」
「た、確かに…。」
「…ね、この際だから聞いておきたいんだけどさ。」
「諸星君って、どういう経緯で海晴さんのことを好きになったの?」
「うえ!?きゅ、急になんだよ?」
「なにってまぁ…暇つぶし?燐君が帰ってくるまで、まだかかるだろうし。」
「えー…。」
「いいじゃん、教えてよ。」
「…ったく、仕方ねーな。」
海晴を好きになった経緯か。
それを話すにはまず
ーー俺が、どうしようもない嘘つきだったことから話さなければならない。




