第10話:ケンシュウ
★前回のあらすじ
赤点不可避。
「それじゃあ、ここから17時まで自由行動となる。みんな節度を保って行動するように。」
「よっしゃ、早速行こうぜ。」
「時間間に合いそう?」
「ねぇねぇそっちはどこ行くのー?」
「あ、電車来たよー!」
「諸星ー、海晴さん、何してんだよ早く行こうぜ。」
「優衣、こっちこっち!」
「ごめん!…わっ!」
「…っと、大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう、諸星くん。」
「どういたしまして。」
突然だが俺たちは今、京都に来ている。
ーー宿泊研修。基本的には、新入生が早く学校生活に慣れ、周囲の人間と良好な関係を築き上げるために行われる行事だが、俺たちの通う高校は他の学校のそれとは少し異なる。
学園曰く、自然や文化に触れて見聞を広め、集団生活のルールやマナー、自主性を養うことで、生徒の知見を高める云々カンヌン。
まぁ、要はプチ修学旅行みたいなもんだ。
…そう、旅行。学校行事の一環とは言え旅行。しかも…。
「じゃーん!どう?似合ってる?」
「いいんじゃね?」
「ちょっと男子ー。花のJKの和服姿だよ。もっとテンション上げてよ。」
「そうだそうだー!」
「…えっと、諸星くん…どう、かな?」
愛する彼女と一緒の。
「めっちゃかわいい。私服や制服もいいけど、着物姿もすっげーいい。似合ってる。」
ヤバい、幸せ過ぎて死にそう。すまん、母さん父さん。俺、今日が命日かもしれねぇ。
「そう?えへへ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい。」
あ、やっぱ生きる。齢100歳は軽く超える。
「…でも、折角なら諸星くんにも着てほしかったな。」
「そ、それはまた今度な?」
「…本当?」
「お、おう。」
「じゃあ約束だよ。絶対だからね?」
「あぁ…約束、な?」
海晴の目からとてつもない圧を感じる…。これがかわいいへの執念ってやつか?
心なしかすげー落ち込んでいるようにも見えるし…そんなに俺に着物を着て欲しかったのか。女物の…。
でも流石に今はな…それにシンプルに金がない。
うーむ…。
「…あ。わるい、ちょっと待っててくれ。」
「?うん。」
「お待たせ。…海晴、これ。」
「これって…ヘアピン?」
「おう。…俺とお揃いのな。」
俺は元々つけていたヘアピンを外し、買ってきた方へと付け替える。
女物だが、これくらいならまぁ許容範囲だろう。
なにより彼女とのペアルック。うん、素晴らしい。
「…カスミソウ。」
「ん?あぁ、そういえばそんな名前の花をモチーフにしてるって書いてあったな。」
「……。諸星くん。」
「うん?」
「ありがとう!」
「っどういたしまして。」
「…あ、おい、そろそろ行こうぜ。時間なくなる。」
「やばっ!優衣ー、諸星くん、そろそろ行くよー。」
「おー。…行こうぜ、海晴。」
「うん!」
「…どうしよう。」
気づけば俺は、知らない土地に一人立ち尽くしていた。
そう。
「…はぐれた。」
迷子である。
「そ、そうだスマホで現在地確認して、みんなに連絡取れば…。」
「…で、電池切れ…だと?」
詰んだ。え、これどうしよう?
落ち着け俺、なにか、なにか打開策を考えるんだ。
…そうだ!今は宿泊研修中。もしかしたら他の班もこの近くにいるかも。
そいつらからスマホを借りて連絡を取れれば…。
「…っし、そうと決まれば早速…」
"ドンッ"
「あ、すみません…。」
「オイオイオイオイっ!どこに目ぇつけてんだテメェ!?」
「一張羅が台無しじゃねぇか、あぁ!?」
あ、今度こそ詰んだ。
「す、すみません!」
「謝ればそれで済むと思ってんのか!?」
済ませて欲しいです…。
「なんとか言えよ!このっ…」
「おまわりさん、こっちです!早く!」
「…っち、次会ったら覚えとけよ。」
……。なんとかなった…のか?これは?
それよりも…。
「あはは、危ないところだったね、君。」
「えっと…さっきのはお前が?」
「うん。このままじゃ君、あの男にボコボコにされそうだったからさ。」
「お、お前…。」
「うん?もしかして手出し無用だったかな?だとしても僕に怒るのは筋違…」
「めちゃくちゃいい奴だな!本当助かった!ありがとう!」
「お前は命の恩人だ!」
「う、うん。いやそんなに大袈裟なものじゃ…。」
「俺、諸星蒼也。よろしくな!」
「あ、うん。よろしく。」
「それにしてもマジでヤバかった…お前が来なかったら俺は明日の朝日を拝めなかったよ。」
「オーバーだなぁ。」
「そんなことねーって。改めてありがとな!…えぇーっと…。」
「…紫鶴。」
「え?」
「空木 紫鶴。僕の名前。」
「よろしくね。諸星君。」




