10話 武勇伝語り
また迷惑な客が出たのか。そう思ったがどうも違うらしい。ディアラン婆さんが『アンタ達は中に入ってな!』と監視役達と触れ回り、私達はそれに従ったのでよくわからなかったのだが――どうやら賊が出たらしい。
「金銀財宝!?そんなものが、どこに!?」
「見てみたーい!」
「私達まで攫われるところだったんだって!」
「ヤダこわーい!」
「攫われたところで、別のところに売られるだけよ。売られずにすんだところで――今さら外に戻ってどうなるの」
「悪い奴はどうなったの?」
「そりゃあ旦那様の宝に手をつけようとしたんだから……」
「きゃー!?」
人の騒ぐ声しか私達は知らないので、ややのんきだと思う。けれど、知らないところで終わって、何やらわからないうちに解決したのだから、そんなものだろう。
なお、宝物庫は私達が出入りできるようなところではなく、館の区画や苦役区画とも違う場所にあるらしい。以前ここにいた監視役が手引きしたんだとか。館の外は一時猛威を振るっていた流行り病こそ落ち着いたものの、だからこそ発生した次なる貧困や飢えで大変な事態に陥っている、らしい。そこから脱しようと、裕福な屋敷などに賊が忍び込む事件が、実は最近多かったんだって。
そんな事を、何故私が知っているのかというと――
「――で、うだつの上がらねえ奴らが、もたもたもたもたやっているところに、飛び込んだのがこの俺だ!……おい、聞いてるか?セレ。俺がだぞ?俺が。そして、あっという間に賊を一発殴り飛ばし、鍵開けをしていた奴の背中を踏み蹴って――」
「ふうん、すごいすごい」
……聞いてもないのに、ゲゼルがぺらぺらと喋ってくれるからだ。
どうやら宝物庫は館の東にあるらしい。……大丈夫だろうか。機密情報なのでは?
まあ、普段何をやっているのか、本人達ですらよくわかっていない監視役達だ。たまの活躍を誇りたいのだろう。
宝物庫の資産を奪われたら、屋敷全体が傾くから深刻な事態になるのだろう。でも、私達娘奴隷としては、ろくでもない要求をしてくる客の方が目下の深刻な事態だ。知らないところでの大活躍より、客を追い払っている時の方が、頼りがいがある。今回の話は、どこか現実味がない。
「そこで俺の棍棒が――」
いかにもそういう荒事が得意そうな監視役を見かける事はあるけど、それに比べるとゲゼルは頼りなく感じる。でも、手足は長い。棍棒など獲物を持たせると、意外と強いのかもしれない。
「ともかく、今回の働きについて、旦那様はおおいにお喜びとの事だ。なんと、俺達監視役を労う宴を開いてくださるってよ。聞いたか?セレ。俺の活躍で!」
まるで自分の為だけに宴を開いてもらえるような口ぶりだ。
この男はいつもそうだ。こんな風に生きていられたら、楽なのかもしれない。
なお、またゲゼルの支給服の襟のラインが変わっている。今度は色が違う。何がどうなればそこが変わるのか、よくわからない。聞けば、ゲゼルは待ってましたとばかりに喋り出しそうだが、煩わしくてたまらない。
リャーラか――いや、あの新人の方が詳しいかもしれない。今度暇な時に聞いてみようか。……ん?でも、ゲゼルの言った事の、半分でも本当であるならば――まあ、活躍には違いない。ならば間違いなく、また支給服のラインの色かデザインが変わるだろう。……今日の色を覚えて帰っても、多分無駄だな。やっぱり聞くのはやめよう。
そもそも、ゲゼルの事で頭をわずかでも使いたくない。私は髪結いの編み込みの技術を上げる事に、今凝っているのだ。柔らかい髪でも硬い髪でも何でもござれと言えるようになりたい。
「なあセレ、お前らを守ってやったんだ。少しは俺に感謝したらどうだ?」
「感謝なら、してるって」
ゲゼルが求めている感謝が言葉ですむのなら――癪ではあるが、私としてではな、く娘奴隷代表のつもりでなら口にしてもいい。だが、どうせそんなものではすまないのだろう。絶対嫌だ。
「感謝が足りないだろ?な、セレ?」
「……やだ」
そう撥ねつければ、ゲゼルは顔を顰めた。やはり私が考えたような事を望んでいたのだろう。わかりやすくていいが、だからといって気分のいいものではない。
「別に無茶は言わねえよ。……『セレ』。……セレ。セレ、セレ……」
「だから、やめて!軽々しく私を呼ばないで!」
そもそも、ゲゼルと口をきいてやっているのも、『ゲゼル処理係』みたいな感じで他の娘奴隷から押しつけられているからだ。
娘奴隷達におもねるわけではないが、一日のほとんどを共に過ごすのは娘奴隷達とだ。快適になるかはともかくとして、不快な時間の割合を考えれば、ゲゼルの無駄話の相手で少し我慢するぐらいはいい。それによって、『役割を果たした』顔で、娘奴隷の待機部屋でそれなりに過ごせるし。
けれど、話を聞く以上の事となれば、話は別だ。
「なんだよ。逃げるなよ。……しやしねえよ。『ただ一つの名』を呼ぶだけだ。それだけ。……な?だったらセレ、お前だって別にいいだろ?」
「……触ってた」
「多少触るぐらいはいいじゃねえか。膝つきあわせて――なんて、何の申し送りだよ」
「……」
不愉快の程度について考える。ゲゼルの中身のない話を聞かされ続けるだけでも十分不愉快なのに、触られる?冗談ではない。
けど……『ただ一つの名』を。それも『ただ一人の人』から告げられる心地よさは代えがたい。やはり、『ただ一人の人』がゲゼルでさえなければとは、何度となく思う。
『セレ』と、ゲゼルが私に囁くその瞬間だけ、ゲゼルのそばにいてもいいと考えてしまう。……その瞬間だけだ。だとしても悔しい。
どうしてゲゼルなんかに。でも……私の『ただ一つの名』を呼んでほしい。呼ばれたい。
うー……っ。うむむむむ……
「――っ!店の準備が始まるまでだから。それに、変な事したら、戻るから」
「俺が嫌がる事、今まで一度だってした事あるか?」
「……」
それを本気で口にしているようだから、もはや恐れ入る。
私がゲゼルの事を許す事ができないのは、こういうところだ。……反省したってゲゼルを許してやるものでもないが、そもそもこいつには、反省の欠片すらない。
「俺はいつだって、お前の為になる事しかしてないだろ?お前をよくする事しか。……な?」
「一回、胸に手を当てて考えてみて」
「……?その言い方だと、俺に問題があるみたいにならないか?」
「問題があるから言ってるの!」
※ 完結まで執筆済! エタりよう無し!あなたを一人、孤独にはしません!
毎日一話ずつ更新中。
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