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孤高の彼女  作者: 赤虎
14/45

学祭

1


学祭の前日は全ての授業が休講になる。私は以前から少しずつ荷物を菊地宅に運び込んでいたけど、この日の午前中に布団、机・椅子、本棚等の重量物を業者さんに頼んで一気に移動させた。ただし、冷蔵庫、洗濯機、テレビはリサイクルショップに引き取ってもらった。二束三文にしかならなかったけどね・・・移動距離が僅かなので、自転車で先回りすると程なくトラックが菊地宅に着いた。荷物を教授と紗希に手伝ってもらい2階まで運び込む。それでも12時前に作業は終了した。午後に不動産屋さんの検収を受けて、それで終わり。7ヶ月しか住んでいなかったので汚れも破損もなく全く問題なかった。14時、アパートを退去した私は再度自転車で菊地宅に向かう。


「ようこそ、八屋君、疲れただろ?モカのいい豆が入ったんだけど」

「はい、いただきます!」


此処で新しい生活が始まるんだ。毎日とはいかないまでも、菊地教授のコーヒーが飲めるのが嬉しい。雑用を交代ですることになるから、僅かだけど自由時間が増える。問題は紗希の私に対する統制が強化されるかどうかだが・・・教授とコーヒーを飲んでいると、紗希が2階から降りてきた。


「一服できた?」

「できたよ」

「明日のことだけどね」


部活をしていない私と紗希は、明日からの4日間完全フリーな状態になる。この時間を活用して、他大学の獣医学科の展示を見学しようと計画していた。


「最初に自転車で武蔵野市に行って、そこを見学したら最寄りの駅に自転車置いて文京区に。此処で御弁当食べて、家に戻る・・・」


紗希のプランだと、明日は午前中に2校、午後は入手した資料の整理と検討、明後日の午前中に自分の大学見物して午後は予定なし、明々後日はバイト、学祭後の休講日は予定なし、というもの。明後日の午後と最後の日が引っかかるが・・・


「そんなとこだね・・・じゃ、私は部屋の整理しちゃうから」

「八屋君、今日の晩飯は買い物も含め紗希の当番なんだ。ゆっくり部屋の片付けしても大丈夫だよ。明日はお願いするね」

「分かりました!」


私はコーヒーカップを片付けると、2階に上り部屋の整理を始めた。


2


翌日、文京区にある某国立大学で獣医学科の展示を見た紗希は


「此処も大したことない。期待したんだけどね・・・帰ろ」


とのこと。


「でも、もう御昼だからさ、御弁当食べようよ」

「そうだね・・・お腹減ったしね」


学祭に行くのだから屋台で食べ物調達すればいいのだが、紗希は外食ができないし、私も高くて不味くて衛生管理に疑問がある学生屋台の食べ物を摂取したくない。で、2人共御弁当を準備してきたわけ。


「ハチ、着信してんじゃないの?」

「そうだね・・・はい、八屋です」

《メグ!今何処に居るの!》

「文京区」

《何故そんなとこにいるのよ!大変なことになってんだから!》

「何があったの?」

《メグがね、ミスコン予選の9位になって、本選出場になったんだから!》

「はぁ?」

《何か分からないけど、オタクが組織的にメグに投票したって皆言ってる。メグが最近トレンドの草壁ひとみに似てるからだって!とにかく、明日の13時にミスコン会場に来てよ、絶対に!》

「はぁ・・・」


「何があったの?」

「どういうわけか私がミスコンで本選出場になったって。で、明日の13時にミスコン会場に来いって・・・」

「ハチ・・・」


何か悪い予感がする・・・


「今日は帰って勉強しよ。その代わり、明日は面白いことしようか?」


紗希は悪魔の如き笑みを浮かべている。


「何する気なの?」

「ハチをミスコンの女王にする」

「何言ってんの!そんなことできるわけないじゃん!」

「ハチ・・・私達はプロのヘアメイクアーティストやスタイリストに直接アクセスできるんだよ・・・彼女達の協力があれば、学祭のミスコンなんてちょろいもんだよ」

「紗希・・・」

「私に任せて・・・」


紗希の暴走が始まった。もう誰にも止められない・・・紗希はスマホを取り出すと、専属のヘアメイクアーティストやスタイリストに電話し始めた。


「皆、普段は出版社の意向でしたいことできていないからね・・・皆自由にぶん回せるって喜んでたよ」

「・・・」

「そうそう、三島弁護士に守秘義務契約の確認してもらわないと・・・」


何か、紗希のおもちゃにされているような・・・その一方で、ミスコン優勝というこれまで考えもしなかった野望が湧いてきた。紗希と一緒ならできるかもしれない・・・


3


翌日の10時、私は紗希と一緒に都内の某事務所にいた。


「草壁ひとみのイメージは極力排除してね」


紗希が指示を出すと、スタイリストが数着の服を持ってきた。


「さて、どれがいいかな・・・今は秋の真っただ中だからね・・・これなんかどう?」

「それいいね。でもちょっと大人しいかな?」

「そうだね・・・その線でいくなら、靴替えないと・・・」

「確かに・・・合う靴を探してくるよ」


最初の案を何回か微調整して、皆が納得する服が決まった。


「よし、この服に合わせたヘアメイクするよ!」


鏡を見ると、草壁ひとみと違った別の私がいる・・・これならミスコン女王も夢ではないかもしれない・・・


「ひとみ、もう勝った気でいるの?」

「大丈夫だよ。私達が気合入れたんだから!絶対に勝てるよ!」


こんな気分になったのは初めてだ。大学へ向かう途中、どれだけの男共が私を注目し振り向いたか・・・勝てる、絶対に勝てる!


4


「それでは、エントリーナンバー29番、農学部獣医学科1年の八屋恵さんです!」


呼ばれた・・・私は立ち上がりステージの前に出た。


「ウソ!」

「あれがメグ?」


会場が騒然としている。当然だろう。何時ものジャージの私とは違うんだから。


「農学部獣医学科1年の八屋恵です。頑張ります!」

「それでは、歌をお願いします!」


えっ?歌が必須なの?聞いてないよ、そんなこと!どうしよう・・・


「水戸黄門!」


ステージの下から紗希が大声で叫んだ。そうだ、こうなったらこれしかない・・・ウケなければそれまでだ。


「水戸黄門でお願いします」

「はい、じゃ水戸黄門で!」


イントロが始まる。


明かりをつけましょ ぼんぼりに

お花をあげましょ 桃の花


会場から歓声が沸いた。やった!ウケた!


五人囃子の 笛太鼓

今日は楽しい 雛祭り


御内裏様と 御雛様

二人並んで すまし顔

お嫁にいらした 姉様に

よく似た官女の 白い顔


えっ、まだやるの?


金の屏風に 映る灯を

微かにゆする 春の風

少し白酒 めされたか

赤いお顔の 右大臣


着物を着換えて 帯締めて

今日は私も 晴姿

春の弥生の この良き日

なにより嬉しい 雛祭り


「メ・グ・ミ!」

「メ・グ・ミ!」


「あ~、次がありますから・・・」


「メ・グ・ミ!」

「メ・グ・ミ!」


「あの~、次は・・・」


司会が困惑している。ステージ下では紗希がサムズアップしている・・・勝った・・・


予選1位まで終わって、投票となった。投票は今日の17時まで。今夜中に開票して発表は明日の9時とのこと。そして翌日・・・


「それでは発表します!優勝は工学部情報処理学科2年の南部真帆さん!2位は農学部畜産学科2年の西念恭子さん、3位は農学部応用生物学科3年の東野由紀恵さんとなりました!皆さん、拍手!」


えっ?


「おい、メグミはどうしたんだよ!」

「おかしいじゃねぇか!何でメグミが入ってねぇんだよ!」

「え~とですね、八屋さんは1年生で、1年生が優勝した前例がありませんので・・・」

「関係ねぇだろ!」

「だったら、何故1年の予選出場を認めたんだよ!」

「審査やり直せ!」

「あの・・・これは実行委員会で議論した結果で・・・」

「ざけんじゃねぇよ!」


興奮した男子学生が1人ステージに上り司会の胸倉を掴むと、次々に学生達がステージに上り騒乱状態になった。警備員が抑えようにも多勢に無勢。収集がつかない。


「紗希・・・」

「男って、やっぱバカなの?」

「元気があっていいじゃないか」

「お父さん、いたの?」

「騒ぎを聞いてね。さて、そろそろ教授の出番かな・・・」


そう言うと教授はステージに上り大声で叫んだ。


「てめぇ等、これ以上騒ぐと全員留年させるぞ!」


一瞬で騒乱は止まった。


「結果に疑問があるなら、此処にいる連中から監視団を選んで、その監視の下で再度開票と審査をすればいいだろ!てめぇ等大学生だろが!幼稚園児じゃあるまいし、少しは頭を使え!」


皆無言で菊地教授の指示に従った。


「凄いね・・・」

「見直した・・・」


監視団による調査で分かったことだが、情報処理学科のオタク連中が南部真帆を優勝させるために深夜実行委員会に押しかけ開票を妨害し、1年生が優勝したことがないという事実だけを盾に私を無理やり失格させたとのこと。言うこと聞かなければ最終日のコンサートを実力で妨害すると脅して・・・更に、南部真帆がオタク連中を煽ったとオタクが白状したので、南部真帆は失格、ミスコンから永久追放になった。再開票と審査の結果、優勝は私、2位と3位は変わらずで、農学部が独占する結果になった。だけど、結果発表はスケジュールの都合でステージが使えず、学内VPNでの配信になってしまったけど・・・


5


紗希と帰宅途上、商店街を歩いていると、此処でも皆から注目された。あれ、あれは私をキモイ扱いした女子高校生達・・・私を遠巻きに見ながら何やら騒いでいる・・・それにしても人間って・・・中身は何も変わっていないのに、外見が替わると手のひらを返したように・・・


「よお!紗希ちゃん!新しい友達かい?」


青木のおじさんが店頭から声をかけてきた。紗希は例の悪魔の如き笑みを浮かべながらアイコンタクトしている。意図が分かった私は頷く。


「おじさん、紹介しますね。友達の草壁ひとみです」

「初めまして、草壁ひとみです」

「あっ・・・」


おじさんは呆気にとられぽかんと立ちすくんだ。紗希は笑いを堪えるのに必死のようだ。


「おじさん、私ですよ!ハチですよ!」


おじさんは私の顔を凝視している。


「・・・嬢ちゃん?・・・嬢ちゃんだよな?・・・」

「はい、ハチです!」

「ギャハハハハ!」


紗希は遂に大声で笑い出した。道行く買い物客は何があったのかと振り向く。


「何でそんな格好してるの?全然分からなかったじゃないか・・・」

「今日、学祭のミスコンがあったんです。私、知らない内に予選通過していて、それだったらと紗希に魔改造されました」

「魔改造って・・・正に化けたな、嬢ちゃん・・・で、結果はどうなったの?」

「私は失格したんですけどね、大勢の学生が異議を唱えた結果、再審査になりました。結果は明日発表されるそうです」

「そうかい・・・でもよ、大人をからかうもんじゃねぇぞ!」

「まぁまぁ、貴重なハチの晴姿を見れたんですからいいじゃないですか。折角だからツーショットしちゃいます?奥さんに見つかったら大変なことになるかもしれませんけど」

「・・・そうだな・・・折角だから・・・」

「じゃ、おじさんのスマホ、貸してください」


記念写真のようなものだ。写真を撮ってから、私達は歩き出す。


「ハチ・・・」


また何か企んでる・・・


「6連覇したら?」

「それ、院生は参加しないという不文律が・・・」

「誰が決めたの?」

「それは・・・」

「だったらいいじゃん」

「嫌だよ!私1人が院生で参加したら、暇だと思われるじゃない!」

「じゃ、4連覇だったらいいんだね?」


しまった!6連覇は罠だったのか!


「来年も楽しみだね!」

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