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孤高の彼女  作者: 赤虎
12/45

前期試験の後

1


バイトは問題なく終わり、前期試験も終わった。正直、試験は想定外に簡単だった。2年の試験も周囲の2年生は


「ダメだ・・・落した・・・」

「超難しい!」


とか嘆いていたけど、私は40分程度で全問回答し、30分確認して答案用紙を提出して退室した。紗希は私の15分前に退室していたけど・・・


「紗希!試験も終わったし、今日はお酒飲もうよ!」

「ダメだよ」

「何で?私がまだ18だから?」


私の誕生日は11月19日だ。今日時点で私はまだ18歳・・・


「違うよ」

「じゃ、何故?」

「短期的にせよ正常な判断能力を失い、常習化すれば脳萎縮を起こす、つまり、害にしかならない物を何故お金払って摂取しようとするわけ?信じられない」

「・・・」

「山崎先生を院長が何故ヘッドハンティングしたか知ってる?」

「知らない・・・」

「山崎先生、学生の頃は大酒飲みだったらしいよ。だけど動物病院に勤務するのを契機にお酒を断って、病院のすぐ近くに引っ越したんだって」

「何で?」

「分からないの?急患に直ぐ対応できるようにするためだよ。病院に着くまで何時間もかかって、その時酔っ払っていたら、運ばれてきた子は死んじゃうじゃない」

「・・・」

「そりゃオペの技術は院長に比べたら下手だよ。だけどそれは院長との比較であって、平均的な技量はある。院長は山崎先生の、獣医師としての真摯な態度を高く評価したんだよ。今の病院に勤務が決まったら、早速隣のマンションに引っ越したらしいしね。それが条件だったのかもしれないけどさ」

「そうだったんだ・・・」

「お酒飲めるのは今の内だから楽しめばいいけどさ、山崎先生のように止められる?」

「・・・」

「自信がないのなら最初から飲まなきゃいい」

「・・・」


ぐうの音も出なかった。紗希だけじゃない。院長も山崎先生も、動物達と真剣に向き合っているんだ・・・


「烏龍茶なら付き合うよ。だけど、私、居酒屋の食べ物は塩辛くて食べられないから」


そうだった!紗希は外食ができない!


「私ん家で飲もうか?今だったらお父さんも準備できるし」

「それが可能なら・・・」

「じゃ、そうしよう!」


2


前期試験の打ち上げは紗希の家ですることになった。私も紗希も、商店街で食べたい物を買う。紗希は刺身を中心に、私は好物の鶏唐揚げを中心に・・・


「あのさ、打ち上げはいいけど、僕の立場も少しは考えてくれよ」


菊地教授がいきなり不平を漏らす。


「僕はこれから採点しなければならないわけ。その結果、バカな親が怒鳴り込んでくることもある。単位を落したことで留年しようものなら提訴がどうのこうのと、大学の教授がすべきでない仕事が僕を待っているんだからね!」


私達は今日で”解放”されたわけだけど、教授にとってはこれからが大変なんだろう。採点は通常業務の範疇としても、バカ親対応なんか本来教授のする仕事じゃない、ってか、大学に合格した以上、一定以上の地頭があるはずだから単位を落すのは怠慢のせい、完全な自己責任だ。そんな自己責任案件に何故親がしゃしゃり出てくる?子供も親も恥ずかしくないのか?もっとも、厚顔無恥だからこそこんなことするんだろうけど・・・だけど、紗希の家で打ち上げをするのは軽率だったかもしれない。何時も温厚な教授がいきなり不平を漏らすとは、バカ親対策で相当ストレスが溜まっているんだろう。私も紗希も菊地教授の立場を考えていなかった。


「いいじゃん!それも給料の内でしょ!」

「あのな、30年前の大学教授は研究に没頭していればそれで良かったんだよ!今の大学教授は独法化されたこともあって、金を何処から持ってくるか、学生の就職はどうなるとか、さっき言ったみたいにバカ親の対応とか、研究に費やす時間が以前と比べて半減しているんだ!これが国家的損失でなくて何だって言うんだ!」

「そんなこと私の知ったことじゃない!文句あるなら立ち上がれ!」

「それができりゃとっくにしている!」

「言い訳するな!」


紗希と菊地教授の口喧嘩になってしまった。バカ親の対応というより、研究以外の案件に多くの時間を費やさざるを得ないという現状に対する不満が根底にあるのだろう。


「紗希・・・紗希の部屋で・・・」

「そうしよう!お父さんは1人で寂しく飯食いな!」

「ああ、望むところだ!」


何だか・・・でも、それでも私の眼には紗希と菊地教授は仲のいい親子に見える。例え血が繋がっていなくても、たった2年間の親子でも。私は父親とこうした本音の話をしたことがあるだろうか・・・血の繋がった親子・・・それは幻想なのかもしれない。


3


「ったく・・・」

「何か・・・教授に悪いことしちゃったような・・・」

「いいよ。一晩寝れば朝には忘れているから」

「そんなもんなの?」

「根に持って何時までもネチネチするタイプじゃないから、お父さんは。ところで、8月分の給与明細がさっき郵便で来たけど見る?私と同じはずだから」

「そうだね、見せて・・・あれ?時給単価がまた増えている・・・この金額だと、例の練習キット代差し引いても私が当初しようとしていたバイトと大して変わらない・・・」

「8月は7月より利益が増えたんでしょ?」

「紗希・・・院長と裏取引したでしょ?」

「まぁね。客が増えたら時給単価上げてくれとは言ったけど」

「それでSNSに書き込んだ・・・あっ!ファッションモデルのバイトって、将来開業する際の事前広告ってこと?」

「確かにそういう面もあるね。それより、打ち上げすんでしょ?早く食べようよ」


飲み物は烏龍茶だけ。それぞれ買ったおつまみを食べながら、紗希はあれがしたいこれがしたいと将来のことだけを話している。18歳までの記憶のない紗希にとって、過去の思い出話はできないのだから当然だ・・・それでも楽しい。私も過去形の話はあまり好きじゃないから。わたしも自分の未来を語れるようにならないと・・・


4


「メグ!凄いことになってるじゃない!」

「はぁ?」


紗希は統括教授に呼び出されていた。それで久しぶりにカフェテラスで読書していた私に友人達が声をかけてきた。


「知らないの?メグ、学年トップだよ。しかも全部Aで!」

「そんなわけないでしょ。トップは紗希に決まっているし」

「紗希はね、2番目」

「経済学がBだったらしい。他は全部Aだそうだけど」


あれだ。新自由主義コテコテの教授に対し、紗希は授業中にもっぱら宇沢弘文、時にはマルクスまで持ち出して反論していた。紗希と教授の言い争いで1コマ終わった日も何回かある。そうした闘いのあった日は、授業の後も紗希は


「動物達が幸せになるためには人間が幸せにならなければならないんだよ!そんなことも分からないのか、あの禿は!」


と暫くの間激高していた。


「何故そんなにムキになるの?聞き流して適当なレポート書けばA確実じゃないの」

「私は自分の考えに反したことは書かない!」


たぶん、紗希はレポートでも持論を展開し教授の主張を悉く否定したんだろう。


「あれだけ喧嘩したのにBって温情かな?」

「紗希の発言は筋が通っていたし、単なるイデオロギー論争じゃなかったから。禿も一定の評価をせざるを得なかったんでしょ」

「そんなもんかね?歯向かったんだからD喰らっても当然なのに」

「ちょっと、ここは幼稚園じゃない、大学なんだから、相手が教授であろうと正面から議論して当たり前じゃない。それを喧嘩とか歯向かうとか、おかしいよ」

「メグも紗希に洗脳されたか・・・」

「はぁ?」

「・・・私達これから合コンだから。じゃね!」

「紗希とせいぜい楽しんでね、ジャージの似合う優等生さん!」


何だかな・・・あの幼稚さ。あんな学生いらないよ・・・あんなのがいなければ、もっとまともな受験生が合格できたのに・・・私ははっとした。入学早々、紗希は私に彼女達と同じ幼稚さを感じたのだろう。今は私が紗希と同じ目線で彼女達を見ている・・・紗希の傲慢がうつったのか?


「ハチ、お待たせ!図書館に行こう!」

「何故統括教授に呼ばれたの?」

「3年で4年までの単位を取得して、4年で研究室に入ったらどうか、だって」

「それ、凄いじゃない!」


やはりそういうことか・・・同じAと言っても、私は単なるA、紗希はA+++だろうからな・・・ん?スマホに着信が・・・


「えっ!」

「どうしたの?」

「統括教授が研究室に来いって・・・」

「やっぱ来たか・・・」

「えっ?」

「首席を出し抜いて、2番目の私だけが飛級っておかしいじゃん」

「ということは・・・」

「そういうことだよ。早く行きな!」

「うん!」

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