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孤高の彼女  作者: 赤虎
11/45

想定外の月曜日

1


翌朝、紗希から電話があった。5時だけど・・・


「ハチ、昨日の夜事務所から連絡があったんだけど、昨日できなかった撮影、今日の朝からすることになったんだ。だから、朝練も自習もなしってことで」


今日は祝日だ。だけど、当然ながら紗希と朝練と自習をすることになっていた。それがなくなった!滅多にないチャンスだ!二度寝しようと私は布団に潜ったが、なかなか眠れない。6時近くまで何とか寝ようと頑張ったけど、無理だと悟った私は渋々布団から這い出した。一度目が覚めるとダメだ・・・このジャージは2日着ている。いい加減着替えようと思ったけど、どうせ今日も人は来ないし夕方買物に出かけるだけだからこのままでいいや・・・


朝御飯を食べて洗い物をしてから洗濯を始める。洗濯機のスイッチを押すと、私はPCを立ち上げた。折角できた時間だ。体操選手の菊地紗希と今の紗希の関係を調べよう。それにしても、体操選手の菊地紗希と今の紗希・・・めんどくさいな・・・紗希Ⅰと紗希Ⅱでいいや・・・まず、紗希Ⅰと紗希Ⅱが同一人物であると仮定した場合。この仮定は治療した医師団が記者会見で紗希Ⅰの病死を公言しているのだから成立しない。したがって、これは却下。次に、紗希Ⅰと紗希Ⅱが一卵性双生児もしくはクローンであった場合。この仮定が正しいならば、紗希Ⅰと紗希Ⅱの血液型は同じになる。同じ遺伝子情報なんだから当然だ。紗希Ⅱの血液型は本人曰くA型。まさか嘘じゃないだろう。したがって、紗希Ⅰの血液型を調べるだけでいい。私はGoogleに”菊地紗希 体操選手 血液型”と入力して検索した。結構ヒットするんだな・・・個人のブログなんて信用できないから、この記事だ。本人にインタビューした時の回答だから、間違いないだろう。それによると・・・B型!ってことは、紗希Ⅰと紗希Ⅱは一卵性双生児でもクローンでもない・・・あれだけ容姿が瓜二つでも全くの別人、他人の空似に過ぎないってことか・・・私の調査はたった2分で終了してしまった。よくよく考えれば当然だろう。詩織ちゃんが亡くなって1ヶ月後に紗希Ⅰが現れ、紗希Ⅰが亡くなった3ヶ月後に瓜二つの紗希Ⅱが菊地教授の前に現れる確率がそもそもゼロに等しいし、更にこの2人が一卵性双生児もしくはクローンだなんて確率的にあり得ない話だ。まして、何のために、20年前に紗希のクローンを作ったんだ?体操と新体操で世界制覇するために遺伝子操作され魔改造されたクローンだったら、紗希Ⅰを引退させずこっそり紗希Ⅱに入れ替えればいいだけのことだ。紗希Ⅱが菊地教授に保護される必要など全くない。しかも紗希Ⅱは体操をせず獣医師を目指しているではないか!これは私の妄想に過ぎなかったのか・・・まだ7時だ。大学から南に進むと国分寺崖線に沿って大規模な公園がある。時間があることだし、午前中は自転車で散策しようかな・・・


2


「何これ!パンクしてる!」


アパートの駐輪場で自転車を出し、跨った瞬間に違和感があった。


「もう!しょうがないな・・・パンク修理して、ついでに買物しよう・・・」


私は自転車を転がして桜町商店街の青木サイクルに向かった。


「あっ、まだ7時半・・・やってなくて当然だよね・・・」


どうする?パンクした自転車転がしてアパートに帰るのも面倒だけど、かといって2時間半もどうする?


「あら、ハチちゃん、どうしたの?」


店先を掃除するためか箒を持った奥さんが出てきた。


「おはようございます。実は、自転車がパンクして・・・」

「そうなんだ・・・よし、宿六を叩き起こすから!」

「いえ、そこまで・・・」

「いいのよ。今叩き起こすから待っててね!」


奥さんは家の中に消えた。暫くするとパジャマ姿のおじさんが出てきた。


「何だよ、嬢ちゃんかよ・・・パンクしたんだって?朝っぱらから・・・」

「グダグダ言ってないでさっさと修理しなさいよ!」

「分かったよ・・・」


青木のおじさんは店のシャッターを開けると、パンク修理の準備を始めた。


「ああ、ピンホールだね・・・しかも2か所・・・ちょっと待ってな・・・」


おじさんは寝呆けているようで、だけど正確かつ迅速に修理をしている。これが匠の技なのか・・・


「そう言えば、今の紗希のことですけど、初めて見た時どうでした?」

「ああ・・・そりゃびっくりしたよ。前の紗希ちゃんにそっくりだったからね。でも、俺はこう解釈しているんだ。菊地の旦那は4歳の娘さんを交通事故で亡くした。それを憐れんだ神様は1ヶ月後に前の紗希ちゃんを旦那の元に遣わした。その紗希ちゃんも18歳で死んじまった・・・だから、神様は前の紗希ちゃんとそっくりな今の紗希ちゃんを旦那の元に再度遣わしたんじゃないのかなって・・・」


私は無神論者だ。神がどうこうとか関係ない。だけど、こうでも解釈しないと、紗希Ⅰと紗希Ⅱが瓜二つだということを説明できない・・・


「そうですよね・・・きっとそうですよ」

「・・・修理できたよ。2個所だけど穴が近いから1,500円でいいよ」

「いいんですか?」

「だけど、次は場合によってはチューブ交換になるから覚悟しときな」

「えっ?」

「同じ個所で複数回パンクするとそこに負荷がかかるから直ぐにパンクするのよ。だったら、チューブ替えた方が割安だよ」

「そなんですか・・・」

「ああ、そうだ、これ貼っとく?」


おじさんは”防犯カメラ連動”と書かれたステッカーを渡してくれた。


「うちのアパートの駐輪場、防犯カメラありませんけど」

「でもね、これ貼るだけで悪さしようとしても防犯カメラがあるんじゃないかと思い込むから、結構効果あるみたいだよ」


確かに・・・ブラフだと思っても何処かに防犯カメラがあるかもしれないって思っただけで実行に移せない・・・


「これ、只で貰ったから」

「ありがとうございます。貼っておきます」


パンク修理は終わった。それでもまだ8時になっていない。私は紗希の生活リズムに付き合わされて四苦八苦していたけど、5時起きは時間を有効活用するために合理的かもしれない。まだ時間は十分ある。公園に行こう。

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