26話 連携
『コケッ!』
わざとイクネウの正面に立ち、嘴攻撃を誘発させるエース。振り下ろされる嘴を、タイミングよく後ろへ1歩下がることで躱す。そして、隙だらけのイクネウの後頭部へと、両手で持った剣を思い切り振り下ろす。両手に衝撃が響く。動きを止めた増援のイクネウは、羽を残し消えていった。
「鶏ばかりだな、ここは」
「でも経験値効率はいいですよ。他のフィールドと比べても3倍くらいは稼げているんじゃあないですか」
羽を拾いながら話すエースに、にこやかにジートが言う。ジートは増援のイクネウを既に倒していた。
「そうですね、今日中には間違いなく10レベルになると思います」
リンカも既に増援を倒していたようで、話に加わってくる。もう1人のパーティメンバーであるよっしーは、長剣では無く弓矢を使用しているせいか、未だ戦闘中である。
「お、流石リンカさん。倒すの早いですね。正直、リンカさんならヒーラー職も余裕なんじゃあないですか?ヤマザキオンラインでもサブアカでヒーラーくらいは作っていましたよね?」
「ええ、まぁ、ヒーラーでプレイした事はありますし、立ち回りもある程度把握していますけどね。ですが、このゲームのヒーラーは難易度高すぎます。1つのパーティだけならまだしも、大人数戦なんて私にはとてもとても…使えないヒーラーの風当たりは酷いなんてものじゃないですからねぇ」
うーん、といった表情でリンカは言う。エースはそれに頷きながら肯定する。
「あー、クソヒーラーは存在が罪、とかボロクソ言われたりしますからね。自信が無いならばやらない方が無難です。俺も自信が無い訳じゃあないですが、慣れるまではクソヒーラー呼ばわりされるのを覚悟していますから。まぁ、被ダメージ計算式が確立出来て、ヒーラーに慣れてきたら、そんな悪口絶対に許しませんけどね」
はっはっは、とエースは笑う。己のプレイヤースキルに絶対の自信が有るが故の言葉である。リンカも釣られてクスリと笑う。ジートは腕組みをして頷いている。
「ヒーラーは二極化するかもしれないですね。上はエースさんやピースさんの様なプレイヤースキルを持ったガチ廃人勢と、下はただ回復すればいいと思っている初心者のクソヒーラー勢とに。他はリンカさんの様にヒーラー職の難易度に気付いて職を変えたり、立ち回りを覚えて上位になったりしそうです」
「それ、ありそうですねー」
そこにイクネウを倒したよっしーが、弓を片手に戻って来た。弓職を希望していたよっしーは、その武器に慣れる為、弓矢を使ってイクネウの相手をしていた。
「よっしーも終わったか。弓矢はどうだった?」
「接近する前に敵を攻撃出来るのはありがたいのですけど、接近されてからが問題ですね。イクネウは攻撃パターンが分かっているので余裕でしたけど、初見の敵とか、避けにくい攻撃をしてくる敵とかには接近戦で勝てる気がしません。ソロでやる武器じゃあ無いですね、コレ」
エースはその言葉に、うむ、と頷く。
「当たり前の事だが、それがきちんと把握出来たのならば上出来だ。今度はジートに2体のイクネウを足止めしてもらって、それを相手にしてみろ。タンクと遠距離攻撃系の職は協力し合うのが基本だからな。ジート、お前は盾を構えて防御しているだけでいい。攻撃はヘイトを集めるだけ。あくまでも攻撃はよっしーね」
「それは楽に倒せそうですね。ジートさん、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします」
お互いに改めて挨拶し合う、ジートとよっしー。それを見て、エースはニヤリとし、呟く。
「楽に倒せればいいけどな、フフン」
『コケッ!』 『コケッ!』
2匹のイクネウを相手にガードとヘイト集めを行うジート。2匹の攻撃をなんとか盾で受けるが、その顔は苦々しい。そのうちの1匹によっしーは矢を射る。その矢は見事にイクネウに突き刺さる。しかし…
「うわっ、またこっちに来た!」
先ほどの1撃でヘイトがジートからよっしーへと移ったのだろう。射られたイクネウがよっしーへと向かう。ジートはそれに気付くと、背を見せるイクネウを走って追いかけ、長剣を叩きこむ。ヘイトがジートへと戻り、ホッとする時間も無く、もう1匹がジートの背中へ嘴で攻撃する。その衝撃でジートは思わず片膝を着く。
「ジ、ジートさん!」
「あいたた。気にしなくてもいいですよ、よっしー。フォローしますので好きなように戦ってみて下さい」
「は、はい!」
そう言うと、ジートは直ぐに立ち上がる。盾を構えて再び防御に専念し、敵の追撃を許さない。残りのイクネウを狩り終えているエースとリンカは、その様子を見ていた。
「予想通りですねぇ。MMO初心者にヘイト管理は難しいから仕方ないのですけども」
あらら、といった顔でよっしーとイクネウを見つめて話すリンカに、エースも仕方ないと言い、軽く笑う。
「ヘイト管理も計算と慣れだからな。仕方ない。敵によってヘイト管理も異なる場合も多い。ジートの長剣を食らって、ヘイトを維持していたあの鶏は、よっしーの矢を2発受けてヘイトが移った。よっしーが今出来る事はそれを覚えておく事だけだ」
敬語を辞めてフランクに話すエースに、そうですね、とリンカも頷く。更にエースは、しかし、と続ける。
「しかし、射撃の立ち回りは流石FPS出身者だな。射線にジートが重ならない様にしっかりと動いている。例え、矢をイクネウから外してもジートには決して当っていない。参考になるぜ」
よっしーと敵の動きをじっと見つめるエース。エースとて、FPS未経験者という訳では無い。フレンドリーファイア有りのFPSは今まで何度もプレイしているし、有名どころのゲームも抑えているつもりだ。だが、FPS廃人と言える程では無い。腕前は中級者と言える程度のモノだろう。間違っても上級者と胸を張って言えるモノでは無かった。そのため、大会に出ることが出来る程度の腕を持つよっしーの立ち回りは大いに参考になった。
そう見ていると戦いが終わった。ついでにエースとジートのシステムウィンドウからレベルアップの音も聞こえる。
「おつかれー、苦戦したみたいだな」
ねぎらいの言葉をかけると、よっしーは照れくさそうに笑った。
「いやぁ、ヘイト管理というのは難しいですね。ジートさんの足を引っ張ってしまいました」
「最初にしてはお見事でしたよ。敵がよっしーの方へ向かったのは、私のヘイト稼ぎが足らなかったのも原因ですし。後、先ほどの一戦でレベルアップしましたね。これでレベルは8。レベル10まで後少し。待ち遠しいですね」
現在ジートとエースはレベル8、よっしーとリンカはレベル7である。エースがステータスを確認していると、お、と声を上げた。
「新しいスキルを覚えた様だ。『オーラショット』か。試してみよう。じゃあ、またイクネウを呼ぶぞ。ジート、HPは大丈夫か?」
先ほど、ジートはかなりの猛攻を受けていた。ジートの残りHPは半分を切っている。必要ならばこのポーション使え、とエースは自分のポーションを片手に言う。
「ん~、大丈夫かと。イクネウならば自然回復のみでもやれますよ。今も少しずつ回復していますし」
MMOには時間の経過だけで僅かだがHP・MPを回復するシステムが有る場合が多い。このゲームも例に洩れずそのタイプである。回復量は、HPが5秒毎に1%回復、MPは10秒毎に1%回復といったところであろうか。十分な回復量である。
「そうか、まあヤバくなったらすぐ下がれよ。よし、またイクネウを探すか」
そう言い、4人は移動を開始した。




