27話 クラスアップ
『ポーン』、レベルアップを知らせる快音がエースとジートのシステムウィンドウから鳴り響く。
「ようやくレベル10だ。お、更にメッセージが届いているな。『クラスアップ可能レベルになりました。各地に存在する教会の礼拝堂で転職を行う事が出来ます』だとよ」
「ステータス画面の次レベルまでの経験値が潰されていますね。クラスアップしないとレベル上げも出来ないという事でしょうか」
ジートの言葉に、エースはステータスを見ながら『そうなんだろうな』と呟いた。
プレイヤー名:エース
ランク:冒険者
職業:なし
所持金(Y):600
Lv:10
経験値:―/―
HP:280
MP:280
STR:28
VIT:28
INT:28
MND:28
AGI:28
DEX:28
フィジカルボーナスポイント:27
プレイヤー名:ジート
ランク:冒険者
職業:なし
所持金(Y):850
Lv:10
経験値:―/―
HP:520
MP:280
STR:28
VIT:52
INT:28
MND:28
AGI:28
DEX:28
フィジカルボーナスポイント:3
「僕はレベル10までの残り経験値は、298ですね」
「私は346です」
現在レベル9であるよっしーとリンカが答える。それを聞き、エースは少し考える。このまま一緒によっしーとリンカのレベル上げを行うか、それともよっしーとリンカを他のチームに合流させ、自分たちは一足先にクラスアップを行うかである。
チームで経験値稼ぎを行うと、このようなバラつきはどうしても出てしまう。効率だけで言えばよっしーとリンカが他のチームに合流させた方がいい。しかし、今は時間が無い。エースは2人に残り時間を聞く。
「強制ログアウトまでは、後何時間だ?」
「2時間と10分です」
リンカがそう言うと、大体同じくらいです、とよっしーも答える。
このゲームは健康への配慮から長時間ゲームを続けることや、体調の急変などで強制ログアウトや、強制ログアウトまでの猶予時間が告知されるのは周知のとおりであったが、ログアウトまでの具体的な時間までは分からなかった。だが、実際にプレイする事でそれは把握出来た。1日の限界プレイ時間は約12時間(ゲーム内時間で24時間)、更に強制ログアウトはゲーム内時間の4時間前に告知される様である。無論、途中でログアウトするなどの休憩を挟む事で変動するだろうが、プレイヤーの身体への配慮が相当にされている事は確かだと言えよう。
「問題無いな。皆のレベルが10になるまでここで経験値を稼ぐ。全員、帰還石は持っているな?狩りを続けよう」
その後、エースたちは12匹のイクネウを苦も無く倒し経験値を稼ぐと、帰還石を使用。初期スポーン地点へと戻った。
「南エリアは駄目だな。途中で街道を見つけ、道なりに進んだが、関所にぶつかった。その関所でこう言われたよ。『ここの通行には特別な許可が必要です』ってな。この街の南門の門番と同じ事を言っていた。やはりイベントか何かが南エリアであるのだろうな」
教会へと向かう途中、同じく教会へと向かっていたティーガーに偶然出会う。ティーガーはエースに会うなり、そう話しかけてきた。
「南門と同じ様に迂回は出来なかったのか?」
「ああ、関所の壁沿いにかなり進んでみたが、通れそうな所は無かった。途中で全員のレベルが10になったから戻ったが、恐らくその先も迂回出来るような所は無いだろうな」
「経験値効率的には当たりの様だったが、ストーリー的には外れだな。お前と同意見だ、ティーガー。南はイベントかクエストの解放待ちのエリア。今は放っておこう。これからは、東と西、そして北エリアを攻略していく」
そう話しながら教会へと入って行くエースとティーガーたち。礼拝堂には真剣な眼差しでシステムウィンドウを見つめるエコーやビーたちの姿があった。
「よう、レベル10になったプレイヤーは俺たちが初めて…という訳じゃあ無さそうだな」
礼拝堂の隅に頭を突き合わせながら相談している見知らぬ5人のプレイヤーに目線を向けつつ、エコーたちへ声をかける。その声にエコーが頷く。
「ええ、我々が来た時には既に彼らは居ました。20分ほどここで待機していましたが彼ら以外に他のプレイヤーとは出会っていません。まぁ、とにかく今はクラスアップです。私は予定通り魔法系のクラス、メイジにしました。一次職は『メイジ』『ウォリアー』『ハンター』の3つのみ。次のクラスアップはレベル20だそうです」
「よくあるパターンだな。回復職も『メイジ』の派生に違いない。俺もメイジだ。他の皆は予定通りに決まったか?」
迷う暇も無くメイジを選択するエース。オールイーターの面々も迷うことなく一次職を選ぶ。メイジはエース、エコー、ピース。ウォリアーはジート、カーグ、ティーガー。ハンターはビーとナッシュである。また、よっしーはハンターを、リンカはメイジを選択している。
「これで、レベル20まではこの神殿に用は無いな。よし、皆聞いてくれ。クラスアップして、力を試したいところだろうが、今日のプレイ時間はそろそろ限界だ。皆も強制ログアウトまでの猶予時間が1時間を切っているんじゃあ無いか?フィールドで強制ログアウトしてしまったら目も当てられない。今日の残りの時間は、明日の攻略の準備に充てよう。イクネウの羽を売ったり、新しい武器や防具を買ったり、消耗品を補充したりとかな。で、明日の事についてなんだが…皆、朝からログインするよね?」
当然、当たり前、そのような言葉がエースに押し寄せる。因みに明日は平日である。
「よしよし、流石選ばれし者たち。それで、出来るだけ皆が同じ時間にログイン出来る様に、ログインする時間を決めておこうと思う。パーティ組むと経験値効率が良いからな。さて、1日の限界プレイ時間は現実時間で約12時間。お前ら、何時が良い?」
エースが皆に聞くと様々な意見が出る。
『朝は苦手ッス、12時から24時で』
『待ちなさい、ログアウトが遅いと夕食も遅くなります。就寝前の夕食は健康に良くありません。体の体調次第で強制ログアウトされる事も有るそうなので朝の6時から18時にしましょう』
『そりゃ、早すぎるだろ。寝坊する奴が多発するわ。主に俺。途中でログアウトして食えばいいんじゃね?11時から23時だ』
『ログアウトは効率が悪いぜ。わざわざ安全な地点に戻らないとログアウト出来ないじゃん。個人的には8時から20時がいいと思う』
『どのネトゲでも一番ログイン率が高いのは夜で、低いのは朝だ。MMOである以上他のプレイヤーとの交流は必須。昼の14時から夜中の2時。健康?知らん!』
一通りの意見が出ると、『どうするのですか、マスター』とエースに詰め寄ってくる。腕組をして皆の意見を聞いていたエースは、ああ、と頷く。
「…決めた。まずログイン時間は間をとって朝の9時。9時にログインして、皆で集まり、その日の大体のスケジュールを決める。その後、スケジュールを元に各自でゲームをプレイ。12時間ぶっ続けでプレイするもよし、途中でログアウトして食事や仮眠等の休憩をとり、夜中までプレイするもよし、好きにしろ。だが、休憩する場合は、事前に連絡入れてくれよ。妥協案だが、とりあえずこれでやってみよう。どうだ?」
エースの問いかけに全員は考えながらも納得する。
「そんなところだろうな」
「妥当ですね」
「9時ッスか。まぁ、今までのネトゲに比べれば、睡眠時間が有る分ヌルゲーッスけど」
「今までのネトゲでは、睡眠時間なんて有って無いようなモノでした。寝落ちしたらボイスチャットで叩き起こされていましたからねー。このゲームは本当に健康に気をつかっていますよね」
「そりゃ、初めて公開されたVRゲームだから当たり前だ。これで健康被害でも出してしまったら、VRゲームの未来が閉ざされるだろうからな。もしも、このゲームが常にログイン出来るゲームだったら、俺たち廃人は24時間永遠にログインするだろ?脳みそ酷使しすぎて、1、2週間くらいで全員御陀仏だな。ダッハッハ」
最後の声はティーガー。馬鹿笑いするティーガーに釣られて、確かに、と皆も笑う。エースも軽く笑うと、よし、と仕切り直す。
「そういう事で、明日は9時集合な。場所は広場の噴水前。遅れるなよ。じゃあ、解散するか」
うぇーい、という声を上げて、教会の礼拝堂を後にするオールイーターのメンバーたち。だが、エースとエコーは礼拝堂に残ったままである。
「それでは、彼らを勧誘してみますか」
エコーはニヤリと笑い、礼拝堂の隅に居る、5人のプレイヤーに目を向ける。
「ああ、勧誘出来ないまでも、情報交換くらいは出来ると良いんだがな」
エースの言葉に、そうですね、と返すエコー。2人は歩を進める。正直、勧誘の成功率は低いだろうと当たりを付けていた。ゲーム開始初日からクラスアップのレベルに到達した猛者である。そう簡単になびいてはくれないだろう。
「すいません、少しよろしいですか?」
丁寧にエースは声をかけた。5人はパッと顔を上げる。全員男性プレイヤーである。
「あ、はい。なんでしょうか?」
戸惑う5人にエースとエコーは笑顔を見せる。
「いやー、自分たちも結構なスピードで、レベルを上げたつもりでしたが、先客が居られましたので、挨拶をと思いましてね。自分のプレイヤー名はエースと言います。長い間この礼拝堂で相談しているようだったので、何かあるのかなと疑問に思いまして」
どうもどうも、とお互いに頭を下げ合う。日本人の性である。
「あー、そうなんですか。いや、私たちは5人パーティなんですけども、後4人仲間が居ましてね。どの戦闘職にしようか話し合いながら、そいつらを待っているだけなんですよ。もうすぐここに着くらしいんですけど」
「5人パーティと4人パーティでは経験値効率に差が出てきますからね。でも、凄いですね。初日に9人のグループですか。驚きました」
「いえいえ、そちらは10人以上のプレイヤーが居たじゃないですか。こちらこそ驚きましたよ。私たちはゲーム開始前からFacebookで仲間を集っていたグループなので全然凄くないですよ。実は20人くらいのβプレイヤーが集まってくれたのですが、他の2国にばらけてしまったのですよ」
20人と言われ、エースもエコーも思わず驚く。2人ともFacebookというリア充ツールからは程遠い存在である。
「ほー、20人、Facebookで。そうですかぁ。実はあわよくば、自分たちが作る予定のギルドに皆さんを勧誘しようかなと思っていたのですが、無理そうですね」
「んー、それはちょっと無理ですね。アハハ」
彼はごめんなさいね、といった感じで軽く笑う。エースも、いえいえ、と笑みを浮かべる。
「では、情報でも交換しませんか?我々は各方面のフィールドを軽く探索した後、南エリアで本格的にレベル上げをしていました。現状で調べることが出来る所は粗方調べていますよ。既に幾つかネットの攻略サイトに掲載していますが、南エリアについてはまだ書き込んでいません。あなた方から聞いた情報もサイトに載せたいのですが…どうでしょうか?」
少々お待ちください、と彼が言うと、残りの4人と相談する。数秒もせず、彼らは全員頷いた。あの場所には自分たち以外にも他のプレイヤーが何人もいた。ここで自分たちの情報を秘密にしていても、どうせ明日には、2chにでも書き込まれ大勢に知れ渡る。ならば、この情報を今活用すべきだ。彼らはそう判断したようだ。
「是非お願いします。私たちは北のフィールドの奥でレベル上げしていました。その場所の情報しか無いですけども、いいですかね?」
「もちろんですとも。それは私たちが知らない貴重な情報です。では、話しましょう。北以外のフィールドについてですけども…」
エースたちが差し出す情報は、既に攻略サイトに書き込んだ物、もしくは書き込む予定の物。得る情報は見知らぬ北の奥のフィールドについて。一方、彼らが差し出す情報は、ここで話さなくとも明日には知れ渡るだろう情報。得る情報は北以外の多くの未知なる情報である。両者とも笑顔で情報を交換していた。




