25話 リベンジ
「正直に言うと君が残ってくれるとは思っていなかった。もう1人の女の子と仲が良かったからな」
所持アイテムを売るか保管した一行は、南へと向かう為に西のフィールドを移動していた。12人のメンバーを各4人の3チームに適当に分けて行動を共にしている。エースが率いているパーティメンバーはジート、よっしー、リンカである。
「仲が良い、というよりも同じギルドメンバーだったからですよ。メンバー同士の仲が悪いとギルドそのものに問題が生じますので。ただ、あの子と一緒に行動するのは大変でした。自由行動になった途端、夜だからって理由で宿屋に入って行くのですもの。まあ、おかげでアイテムボックスを見つける事は出来ましたけどね」
リンカの言葉にエースは、ほう、と感嘆する。
「なかなかMMO向きの性格をしているな。MMO経験者かな?」
「ふふふ、そうですよ。ヤマザキオンラインで『にゃんこ愛好会』のギルドマスターをしておりました。エースさんのオールイーターには随分お世話になっていましたわ」
笑いながら、そう話すリンカ。エースとエコーが、えっ!と驚き、オールイーターの何人かも、へぇ、と興味ありげに耳を傾ける。
『にゃんこ愛好会』、全員が廃人とまではいかないまでも、かなりのやり込みゲーマーと愛猫家をギルドメンバーとして引き入れていたギルドである。もちろん、ギルドマスターであったリンカは廃人であり、そして誰よりも猫を愛している女性だった。
「おーっ!マジで!?にゃんこのリンカさん!?最初に言ってくれよー。マジで驚いた。他のギルドに対抗する為に連合を組んだり、ギルド戦で戦ったりしたよね。いやー、懐かしい!」
使用しているプレイヤー名は同じであるが、まさか同一人物とは思ってもいなかったエースたちは、驚きの声を上げた後、歩きながらワイワイと話を続ける。
「驚いたのはこっちの方ですよ。ゲーム開始直後にいきなり勧誘するのですもの。私も自分のギルドを作ろうかなって思っていましたけど、元のギルドメンバーでファンタジーオンラインに参加する人はいないし、せっかくのタイミングだったので、微力ながらオールイーターに参加させていただきました」
そう言い、頭を軽く下げるリンカ。エースは『リンカさんなら大歓迎ですよ』と答え、当時の事を振る返りながら他愛のない雑談に華を咲かせる。雑談の中エースは1人考える。
(自己紹介するなら最初に合った時にした方が良かったはず。今になって暴露する理由は…恐らく、それまで俺たちを様子見していたのだろう。確かに俺とこの女はヤマザキオンラインで交流はあったが、それはギルドマスター同士の連携という薄い関係だ。つまり、自分の正体を今まで黙っていたが、この時点で自分の事を明かしたという事は、とりあえずオールイーターに対して一定の評価を得られたって事か?…食えねぇ女だが、ガチ廃人を1人得られたのは大きいな)
エースとリンカの雑談にいつの間にかエコーも混ざっている。ヤマザキオンラインでリンカと交流があった者はギルドマスターのエースとサブマスターのエコーだけであったからだ。しかし、他のメンバーの事は知らないのは確かであろう。当時の何十人と言う規模であった他のギルドのメンバーなどいちいち覚えているはずも無いので、勧誘時の茶番にも気づいてないはずだ。
「エースさん、そういえば先ほどログアウトした時に、有名人がこのゲームに参加していると、リムたちから聞きました。何でも既にエースさんにお伝えしたので、エースさんから教えて貰えとの事でした。一体、誰なのですか?」
リンカとの会話が一段落した頃、ジートがエースに尋ねる。
「おお、そうだそうだ。FPSのグレアム・グレイや戦略ゲーの立川優樹、格ゲーのトッププレイヤーたちも参加しているらしい。ブログ読んでいたら見つけたってよ」
その言葉に、『ええっ!』と驚愕の声を面々。
「マジっすか!会う事が出来たらサインとか貰えないっすかね?」
「いや、貰うも何もゲーム内だからな、ここ。リアルに持って帰れないだろ。だから、握手してもらうとか、一緒にスクリーンショット撮らせてもらうとかだな。俺、グレイのファンなんだ。日本語通じるかな?」
何人かは激しく興奮している。エースたちはMMO廃人であるが、廃人であると同時に根っからのゲーマーなのである。つまりエースたちにとって、大会の上位に入賞するトッププレイヤーという存在は、ハリウッドスターの様なものなのである。ただ、もちろん、それに興味が無い者もいる。
「え、そいつら誰?有名人?」
「おいおい…よっしー、確かFPS出身だったよね。グレイの事は知っているよな?ティーガーに説明してやってくれ」
ティーガーがポカンとした表情で問う。エースはその質問をよっしーに振る。
「もちろん知っていますよ。『FPSの神様』グレアム・グレイ。最も規模が大きいと言われるFPSの世界大会で3連覇を成し遂げている男です。因みに、僕もこの大会に出場しましたよ。まぁ、2次予選で敗退して、アメリカにも行けなかったですけどね。立川優樹は…確か戦略シュミレーションゲーム大会の優勝者でしたっけ?ゲームニュースで見た気がします」
よっしーの解説にエースは、うんうんと頷く。
「そうそう、その通り。ティーガー、お前もMMOだけじゃなくて他の分野のゲームの情報くらいは知っておけよ。今の総理大臣は誰かとか、消費税が何%とか、そんなものは知らなくてもいい。せめてゲームニュースに目を通すくらいはだな…」
「分かった、分かった。気が向いたらそうするよ。そんなことより、もうすぐ南エリアだぜ」
うへぇ、といった顔でティーガーはエースの話をそらす。現に南のフィールドは目と鼻の先であった。
「1体いたぞ。イクネウだ」
南エリアに入った一行は、早速イクネウを発見する。
「成程、デカい鶏だな。行動パターンはどうだった?」
「確認できたのは嘴での前方攻撃と両翼によるサイド攻撃だけだ。とりあえず俺が戦うから、他の奴らは行動パターンを見ていてくれ。ん?いや、俺1人でいい。敵の増援が来たら、1人につき1体以上を相手にしないといけないかもしれないからな。タイマンで対処出来る事を確かめておきたい」
ティーガーは右手に木の長剣を、左手に木の盾を装備すると、地面を啄ばんでいるイクネウの前に立つ。イクネウはノンアクティブモンスター。この状態では、まだプレイヤーに襲いかかってはこない。
「始めるぞー!」
ティーガーが自分の頭上で右手の剣を振り回しながら、エースたちに合図を送ると、振り回す勢いのまま、イクネウの胴体に剣を振り下ろす。
『ゴケッ!?』
イクネウは悲鳴を上げ、バランスを崩したように倒れるが、直ぐに立ち上がり、ティーガーへと敵意を示す。
『コッ!』
「おっと」
正面を向いたイクネウが嘴を繰り出す。狙いはティーガーの胸部である。だが、ティーガーは後ろへと2歩下がるだけで攻撃を躱す。念の為、左手の盾を胸の近くで構えているが、イクネウの嘴はそれにすらも届かない。
嘴を躱されたイクネウは、その攻撃の勢いのまま、地面近くまで頭を下げる。その頭に向かってティーガーの剣が振り下ろされる…が頭に当たる寸前で剣を止めた。
「次だ」
今度はティーガーが素早くイクネウの左横に位置をとる。イクネウはティーガーを追い、左へ、左へと体の向きを変える。しかし、その都度ティーガーも回り込み、イクネウの左横から動かない。それに痺れを切らしたのか、イクネウは両方の翼を羽ばたく様に大きく広げる。
「うぐっ。いってーな、クソ」
下方から伸びてきた左の翼がティーガーの腹部へとヒットする。しかし、左横への位置取りを変えようとはしない。またも、イクネウは翼を広げ、攻撃をしてくるが、ティーガーは既に盾の構える位置を腹部へと変えている。ティーガーは盾に重い衝撃を感じつつも、右手で剣を振る。そしてイクネウの体へと当たる直前でまたもや止める。
「落ち着いて対処すればタイマンでも問題は無いようだな」
少々の距離をとり、ティーガーの戦いを見ていたエースは、そう呟く。この戦いの本質はイクネウを1人で倒す、という事では無い。ティーガーも言っていた様に、イクネウと戦ったことが無いメンバーが行動パターンを把握するための戦闘である。故に、ティーガーは最初の1撃以外の攻撃は寸止めに留めている。
「あ、また翼に当たった。結構リーチがあるな、あれ。気をつけないと」
「鳥の翼って通常時は折り畳まれていますからね。更に羽毛もあるせいで、距離を測りにくいのかもしれないですね」
戦いを見守りながら、気づいた点を声に出して確認していく。それに答える様に、ティーガーは様々な位置取り、避け方、防御、そして攻撃を試している。
「大体こんな所だな。初見かつ低レベルでは辛いだろうが、攻撃パターンが分かれば、何も怖くない敵だ。皆、パターンは覚えたな?」
全員が肯定の意を示す。それを確認すると、エースはティーガーに向かって声を上げた。
「ティーガー、もういいぞー。お疲れさん」
「オーケー、こいつは始末するぜ」
言うや否や、ティーガーは攻撃を繰り出す。計5発の攻撃が決まった所でイクネウは『コケッー!』と叫び、倒れた。
「あの時と同じ断末魔だな。敵の増援が来るだろうな…ほら来た、あそこだ!3、いや、4体来るぞ!」
辺りを警戒していたカーグが向かってくる敵を指で示し、声を張り上げる。
「ティーガーのチームは向かってくる敵を迎撃しろ。他のチームは邪魔が入らないように辺りの警戒を頼む。無いとは思うが、ティーガーたちが負けそうな時は、助太刀してやれ」
エースが指示を出すと、ティーガーのパーティメンバーが前に出て、ティーガーと合流する。それから30秒も経たずに、イクネウ4体がティーガーたちへと襲いかかる。
「手助けはいらない様だな」
ティーガーは楽勝。他のメンバーたちも危なげない立ち回りで戦闘を行っている。
「前回の敵の増援は3体で、今回は4体。これ多分、パーティメンバーの数にリンクしているな。面白いシステムだ。敵の数が多くなると経験値が稼げて、アイテムも稼げてで、中々美味しい。ただ増援の敵が来るまで少し時間があるのがネックだなー」
「ですねー」
エースの言葉にジートが相槌を打つ。ティーガーたちの戦いに他のモンスターが乱入しないようにと警戒をしつつも、戦闘を見守る。
『コ、コケ…』
倒れたイクネウは、その羽だけを残し消えていく。更なる増援が無い事を確認して、ティーガーはそのドロップアイテムを拾うと、リベンジ完了、と人知れず呟いていた。




