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23話 情報

 ゲーム世界に降り立つエース。場所はログアウトした所と同じ場所である。早速、自身のメールボックスを確認する。3通のメールが届いていた。

 1通目はナッシュからである。アイテムを売買することが出来る施設を見つけたという内容で、敵ドロップアイテムを売り、ゲーム内通貨であるYイェンを得ることが可能だという。また、装備品や、その他アイテムを購入する事も出来る店も見つけたとの事である。

 2通目はエコーから。夜のフィールドでのモンスターについて書かれている。夜の場合、モンスターの種類は変わり無いが、体感的な戦闘力は昼の数割増しされているらしい。しかし、雑魚の戦闘力が数割増しになろうと所詮は雑魚なので、問題は無いとのことだ。

 3通目は女性プレイヤーのリンカから。なんとアイテムボックスを発見したのだという。アイテムボックスの設置場所は、先ほど食事をした所の宿の中。宿泊すると個室に案内され、その個室の中にアイテムボックスがあったという。

 エースはメールを確認すると、早速チャットをコールする。まずはアイテムボックスを見つけたリンカである。


「エースだ。アイテムボックスを見つけたって?」


 チャットが繋がると、すぐさま本題に入る。その他の言葉は時間の無駄だ。


「あ、はい。見つけました。先ほど食事した所で宿泊すると、部屋に置いてありました。一緒に泊まったアヤちゃんも自分の部屋に置いてあると言っていました」


 アヤとはゲームスタート時の勧誘でオールイーターに入った、女性プレイヤーである。リンカとアヤは女性同士ということで一緒に行動していたのだろう。


「アイテムボックスの詳しい説明を頼む」


「えっと、アイテムボックスに触った瞬間、『チュートリアルが追加されました』というメッセージが届きました。それを読み上げますね」


 リンカはチュートリアルを読み上げる。内容はもちろんアイテムボックスについてである。簡便にまとめると、アイテムボックスは各宿泊施設に備え付けられているということ。アイテムボックスの初期値は100枠であること。異なるアイテムボックスを使用しても、使用者が同じプレイヤーであれば、アイテムボックスの中身は変化しないこと。逆に同じアイテムボックスでも、使用者が異なるプレイヤーであれば、アイテムボックスの中身は変化するということ、などである。


「成程、面白い」


 チュートリアルを聞き終わり、エースはそう呟く。わざわざ宿泊せねばアイテムボックスを使用できないという点は面倒だが、他は多くのMMOと似た内容である。エースの関心は、むしろチュートリアルの発生方法にあった。

 リンカはアイテムボックスに触った瞬間、チュートリアルが追加されたと言った。その様なチュートリアルの発生方法が他にもあるかもしれない。それが興味深かった。


「そうか、他に何かあったか?」


「ベッドがありました。横になると、『時間を進めることが出来ます。時間を指定してください』というウィンドウが表れました。試しに10分間だけ寝てみました。こう、なんというか…私の感覚では一瞬だったのですが、気が付くと確かに10分経過していました」


時間経過タイムコース機能か。洋ゲーのオフラインRPGではたまにあるが、オンラインゲームでは不可能だった機能だ。しかし、VRベッドはそれを可能にした様だな。昼夜の概念があるこのゲームでは使う奴もいるかもしれない。今までの常識を覆す、凄い機能であることには違いないが…我々からしてみれば意味の無い機能だな」


 自分がタイムコース機能で寝ているからといって、他のプレイヤーまでも寝る訳では無い。自分が一瞬で時間を飛ばしている間に、他のプレイヤーは研鑽を積むのだ。この機能は廃人にとって無用の長物である。

 エースは他には?と問う。リンカは、他には特にありません、と答えた。


「素晴らしい内容だった。引き続き情報収集にあたってくれ」


「あ、ありがとうございます。頑張ります!」


 エースはチャットを切る。『何で、お前たちゲーム初日から宿屋で休んでいるの?』という嫌味を言いかけた所だったが、思いとどまった。情報収集という目的は見事に果たしている訳だし、そもそも自由行動してもいいと言ったのはエースである。エースたちにはゲーム内で回復目的以外の休憩なんて発想は無かった為、アイテムボックスを見つけた彼女たちの宿泊という行動は、結果オーライだったといえるだろう。エースはその結果を評価し、褒めた。

 しかし、もしも、その行動が男性であったら、エースは『おいおい、お前ら何で、宿屋で休んでいるんだよ。だが、よくやった!』と、からかいながらでも褒めていただろう。エースは女性相手ではそれが言えなかったし、特に気の利いた事も言えなかった。多少は慣れたとはいえ、未だ女性との距離感を掴むのは難しい。所詮は素人童貞である。


「おーう、俺だ」


 次にエースはナッシュにチャットを繋げる。親しい友人との会話というのは気楽で良いものである。


「ご苦労様です!メールを見てくれました?北の大通り沿いにNPCの商店を発見しました。しかも24時間営業です」


 へぇ、とエースは相槌を打つ。


「ゲームだと当たり前だが、ここまでリアルティのある中世でファンタジーな世界だと、違和感あるな。コンビニじゃあるまいし」


 そうですね、とナッシュの頷く声が聞こえる。


「NPCは商売人の鏡ですな。とりあえずモンスターのドロップアイテムの売値ですけど、ブルーゼリーが5Y、ネズミの尻尾が7Yグリーンゼリーは10Yでした。そして、銅の武器や防具なども売っていました。それぞれ200Yから500Yくらいです。雑貨屋には、地図なんかも売っていましたよ」


 地図と聞いて、エースは大きく反応する。


「ゲーム世界全体の地図か?それとも、この街の地図か?どちらにしても絶対買いだな」


「この街の地図ですよ。そう言われると思って既に買いました。500Yと値は張りましたが、拡大も縮小も出来るし、自分の位置とかも表示してくれるしで、スゲー便利です。現実でも欲しいっすわ、これ。まあ、家の外なんかにほとんど出ないのですけど」


 世知辛い事を言うナッシュ。世界全体の地図もありましたが5千Yと手が届きませんでした、と続ける。


「街の地図の10倍か…随分な値段だな。ふむ、だが分かった。北の大通り沿いの店だな。俺も後で行ってみよう。助かったぞ、ナッシュ」


 礼を言った後、エースは『ああ、そうだ』と続ける。


「ナッシュ、このゲームには、元自衛隊員も参加しているらしいぞ。負けられないんじゃないか、レンジャー小隊の元隊員としては」


 ニヤリと笑いながらエースは言う。レンジャーとは地獄の様な訓練をクリアした者のみが得られる資格である。陸上自衛官の8%しかその資格を有していないことから、その訓練の過酷さが垣間見えるだろう。


「あはは、もう7年も昔の話ですよ。辞めてからはずっと家に引き篭もって、体を動かす事も殆ど無かったので、今の自分の戦闘能力は一般人以下です。まぁ、ただ、廃人としてMMOで負けられないのは確かですけどね」


 その言葉にエースは更に笑う。一般人以下などどの口が言うのか。筋力は衰えきっているだろうが、技術は体に染みついているはずだ。


「射撃に自信があるから、弓職を希望したのだろ?期待しているぞ」


「他の科目より射撃の成績が良かったのは確かですけどね。でも、弓職を選んだ一番の理由は、高校から自衛隊時代まで弓道やっていたからですよ」


 そういえば、とエースは思い出す。数年前、他のMMOをプレイ中に雑談していた際、ナッシュからその話を聞いたことがあった。


「それは以前聞いたな。色んな大会で良い成績を出していたんだってな」


 エースの言葉に、そんなそんな、と苦笑いで否定するナッシュ。


「どの大会でも入賞が精一杯でしたよ。それに、このゲームでは和弓では無く洋弓ですからね。少々勝手が違いますよ。7年ぶりなので、和弓も怪しいですが」


「それでも経験者には違いないさ。遠距離攻撃は頼んだぞ。さて、では俺は、北の大通りに向かってみるか。お前も情報収集を続けてくれ。居残り組に聞いたビッグニュースもあるが…後で皆が集まった時に話そう。聞いて驚くなよ?」


「それはそれは、期待していますよ。それでは、ご苦労様でした!」


 おう、お疲れ、と返事をして、チャットを切るエース。北の大通りを目指し歩きながら、今度はエコーへとチャットを繋げる。


「どうだ?」


「メールに書いた様に、昼に比べてモンスターが強化されていますね。50%増し、といったところでしょうか。ただ、経験値も増加しているので、雑魚の割になかなか美味しいですよ。エースもどうですか?」


 エースの一言を理解し、受け答えするエコー。戦闘中であろうか、武器がモンスターへ当たる打撃音も聞こえるが、エコーの声はそれを感じさせない。


「今は遠慮しておこう。俺は今から北の大通りにあるというNPCの商店に行ってみる。その後、情報収集に向かう予定だ。日の出頃にまた集まって、当分の予定を立てるとしよう」


「そうですか。ナッシュからのメールならば私にも届きました。私は皆と同じくらいのレベルになったら街へ戻る予定です。後、フィールドでプレイヤーを1人勧誘しましたので紹介します」


 そう言ってエコーは新人を紹介する。エースは、先ほどの打撃音は彼だったのか、と納得した。その新人とエースは、よろしくお願いします、とお互いに挨拶した後、チャットを切った。

 エースは歩きながらメールを作成する。リンカ、ナッシュ、エコーたちから得た情報を分かりやすく整えて、メールに書き込んでいく。複数人へのメール送信が可能であったので、フレンド登録した者全員の名を宛先に入力して、メールを送信した。宛先の入力はフレンドの名前をタップするだけの簡単な作業である。

 メールの送信が完了したことを確認すると、エースはNPCの商店へと小走りで向かって行った。

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