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24話 仕事は辞めて下さい

「毎度あり!また来てくれよ!」


「…ああ」


 真夜中なのに軽快な口調で礼を告げる店主。それに対してエースのテンションは低い。原因はドロップアイテムの買取り価格にあった。

 ナッシュに教えられた商店を見つけたエースは早速ドロップアイテムを売った。昼間の狩りで得たドロップアイテムはチーム内で均等に分配している。エースのインベントリにはブルーゼリーが65個、ネズミの尻尾が30個、兎の角が35個あったが、念の為それぞれ3割ほどの量を手元に置き、残りを売った。そして得られた金額は約650Yとかなり少ないものであり、その金も地図やポーションを買うために使ってしまった。店を後にしたエースの手持ちは約800Yである。


(ドロップアイテムの売値が安いな。恐らくこのゲームはクエストをクリアして報酬金をもらうタイプのMMO。多くのMMOと同じタイプだろうが、問題はオープンβにはクエストが実装されていない事だ。もしや、正式サービス待ちのプレイヤーとの差を付け過ぎないようにしているのか?…分からねぇな、そもそも正式サービスにアイテムや所持金を持ち越せるのかさえ、分からない。公式の発表を待つしかねぇか)


 他の商店へと入り、品物を見て回りながら、そう考えるエース。しかし、と思考は続ける。


(しかし、俺たちのレベルは上がったし、ボーナスのステ振りも決めている。既にスキルもいくつか覚えている。強い敵のドロップアイテムならば、そこそこ高く売れるはずだ。早く次のステージへと進まなければならないな)


 既に技もいくつか覚えている、との言葉通り、既にエースは長剣のスキル『スラッシュ』、短剣のスキル『ソニックアタック』、弓矢のスキル『ダブルショット』など覚えている。これは初期クラスである『クラス:冒険者』で得られるスキルのようである。オールイーターの全員が同じレベルで同じスキルを覚えたことから、それは間違いないだろう。無論、これらのスキルは既に何度か実践で試してあり、使用MPや、大まかな威力などは攻略サイトに書き込んでいる。

 また、現在のステータスも初期値の2倍以上の値となっている。最早、ホーンラビットが群れで襲い掛かってこようとも軽く殲滅出来る強さである。ドロップアイテムと経験値の効率を考えると、さっさと新しい敵を見つけ、狩りに勤しむ方が良いだろう。当然の事である。


「ん、店主、これを2個貰おう」


「あいよ、200Yだ」


 目立つ所に置いてあった『帰還石』というアイテムを購入する。敵が近くに居ない時に使用すれば、どんなに離れていても登録した場所へと帰還することが出来るアイテムだという。ちなみに、登録地点のデフォルト設定は初期スタート地点らしい。登録は1箇所のみであるが、便利なアイテムであることに変わりない。『転移石』という複数地点を登録出来るアイテムもあったが、こちらは1つ1000Yと手が届かない値段であった。


他にも便利なアイテムが無いか、見て回るエースにティーガーからのチャットがコールする。どうした、とエースが聞く。


「あー、戦闘職を決めることが出来る所を見つけたぜ」


「おお、やはりあったか。ん、なんだ?遂に見つけたってのに、テンション低いな」


 重要な情報を発見した割にティーガーの声はそこまで嬉しそうでは無い。


「見つけたのは良いんだがな、レベル10からなんだよ。戦闘職を決めることが出来るのは」


 はぁ、と残念そうに溜息を吐くティーガー。


「そうか、まあ、仕方ねえな。場所はどこにある?」


「南にあるデケー教会だ。スタート地点だった噴水のある広場のすぐ近くだ。灯台下暗し、だな」


 確かに広場の南には大きく美しい建物があった。それをエースは思い出した。


「そうだったのか。で、そこは本当に戦闘職を決めることが出来るのか?」


「礼拝堂に入るとチュートリアルが追加されたから間違いねぇよ。世界各地の教会内ではクラスチェンジやクラスアップが可能。それらはレベル10から可能っつー内容だった。文面からステータスの『クラス』が戦闘職に違いねぇ。レベル10になったら現在の『クラス:冒険者』からクラスアップ出来るだろう。一緒に居たジートとビーにも同じ内容のチュートリアルが追加されているぜ」


「成程な…」


 エースはそう言って頷くと、しばらく考えを巡らせる。しばらく黙って考え込んでいる所にティーガーが呼びかける。


「ギルマス?」


「…ジート、そこに居るか?この情報と先ほど俺がメールで送った情報を持って、ログアウトしろ。居残り組に情報渡して、速攻戻ってこい」


 ティーガーの呼びかけに数秒無言を貫いた後、エースは指示を出す。隣で聞いていたのだろう、ジートはすぐさま了解の意を伝え、ログアウトしていった。


「もう1度全員を集め、パーティを組み直す。その後、レベルを10まで一気に上げる。情報収集はもういい。次の目標はレベル上げだ。30分後に、初期スタート地点の広場に集まれ。他の奴らには俺からメールを送る」


「分かった」


 矢継ぎ早に指示を出したエースはチャットを切ると、メールを作り始める。集合場所、集合時間を書いて、フレンド全員へとメールを送信する。その後、エコーへとチャットで連絡を取る。エコーが勧誘した新人を連れて、集合せよという内容である。連絡を終えると、また商店の品をひと通り見て回り、時間に遅れないように集合場所へと向かって行った。



「全員集まったようだな」


 エースは皆を見渡す。ジートもエコーも既に戻って来ている。エコーが新しく勧誘したプレイヤーを入れて、オールイーター総勢16名がこの広場の一角に集まっている。


「まずは新人紹介だな。この方がオールイーターに新しく加入してくれましたー」


 エースの紹介で新人が、よろしくお願いします、と挨拶をする。既存のメンバーも拍手で受け入れながら挨拶を返す。


「さて、先ほどメールで伝えた通り、クラス冒険者を脱却するにはレベルが10必要だ。なので、今からレベル上げをする。夜は敵が強化されている為、日が昇るまでは雑魚敵で稼ごうと思う…思っていたんだが、空が白んできているな。フィールドにたどり着く頃には朝を迎えるだろう…ならば、南へ向かおうと思う。カーグ、どう思う?」


 その言葉に皆、空を仰ぐ。確かに東の空から光が侵食してきている。現在のゲーム内時間は朝の4時、夏至の日並に早い日の出である。そして、エースの質問にカーグは東の空から南へと視線を変える。


「たぶん問題無い。レベル2の時でも3人でイクネウ1体を囲めば倒せたからな。今のステータスならタイマンでも勝てると思う。あくまでも予想だがな」


「よし、全員で南のフィールドに行く。念の為、持っているドロップアイテムなどは売るか、預けるかしておこう。チーム分けは…」


 現在16人である為、4人チームを4つ作るか、そう思っている時、声をかけられる。スタート時に勧誘した男性でエイトという名のプレイヤーである。


「あの、すみません。明日は仕事があるので、リアル時間の22時頃になったら今日はログアウトしますね」


 エースはその言葉に瞬時に反応した。サッとエイトの方へと顔を向け、ニコリと笑みを作る。しかし、その眼だけは決して笑っていない。


「エイトさんって、社会人でしたか」


 確かめる様にエースは尋ねる。


「そうですよ」


 エイトは頷きも加え、肯定する。


「スタートダッシュの為、ギルドメンバーを強化するので」


「はい」


「仕事辞めてくれませんか?」


 その言葉にエイトを含めた何人かが凍り付く。もちろん、オールイーターの古参のメンバーで凍り付く者はいない。

 更に、エースは笑顔を張り付けたまま、言葉を続ける。普段、ギルドメンバーには使わない敬語を使う事により、威圧感も感じる。


「後、3人以上でパーティを組むと経験値が旨いので、出来るだけメンバーと同じ時間帯にログインしてください。しばらくしたら1日のスケジュール表を作るので、それを参考にしてください」


 予定表を作るから、毎日その通り行動しろ。そういう内容である。


「え、いや、え?」


 いきなりの事に困惑するエイト、自身に有ったギルドマスターへの印象からは想像もつかない事態である為だ。


「仕事を辞めて下さい。攻略ギルドなのでプレイ時間が短いと困ります」


 更に追い打ちをかけるエース。エイトは既に俯いてしまっている。


「いや…あの…それは…無理です」


「そうですか、残念です。他に仕事をされている方はいますか?」


 『無理』、その言葉を聞いた瞬間、エースの心の中にあるオールイーターのギルドメンバーからエイトははじき出された。最早、他人である。即座に質問を他の新人メンバーへと移す。


「あの、バイトを…」


「辞めて下さい」


 アヤという名の女性プレイヤー。女性さえ遠慮なく叩き切る。エースとアヤの目が合った時、アヤは視線を伏せた。先ほどのエイトの様に俯いたのである。エースは『これもダメだな』とアヤをメンバーからはじき出す。


「大学の授業が…」


「友人に代返して貰って下さい。大学なんて試験の時だけ出席して、単位さえ取れればOKです。もしくは授業時間は睡眠時間として活用してください」


 これはよっしー。大学生だったようだ。その手があったか、と頷いている。そのうち留年を繰り返す廃人になりそうだ。


「ニートです」


「引き篭もりです」


「ようこそオールイーターへ!歓迎する!」


 ニートと引き篭もりを手放しで歓迎するエース。彼らは廃人としての力を秘めた貴重な存在である。



「本当に申し訳ない。攻略ギルドとして、ギルドメンバーは常にログイン出来るプレイヤーでなければならないんだ」


 結局、オールイーターに残る新人はエコーが連れてきたプレイヤーを含め、4人。新人8人の内、4人だけである。出ていく4人にエースは深々と頭を下げ、謝っている。


「あ、いえ…」


 謝られる側の4人の顔は暗い。そこへピースが口を挿む。


「ってかさ、募集する時にさ、言ってたじゃん。ガッツリやり込みたい奴、最前線で攻略したい奴は来てくれってさ。何で仕事とか、バイトとか辞められないのに参加しちゃってるの?分かってた事じゃん」


 ピースの暴言に、彼らの顔が更に曇る。


「おい、何言っているんだ!この馬鹿が!黙れ、酷過ぎるぞ!」


「サーセン」


 エースは怒鳴りつけるが、ピースは悪びれもせず、腕を頭の後ろで組み、口だけの謝罪をする。


「済まない。だが、もしも、仕事を辞めて、ゲームをプレイする時が来たら、是非とも一報をくれ。その時はまた一緒にゲームをプレイしよう。歓迎する」


「あ、はい。ありがとうございます…」


「ああ、それでは、元気でな」


 別れを告げると、直ぐにエースは反転し歩き去って行く。残った新人のメンバーの中には、出ていく4人を心配そうに何度も振り返る者もいる。しかし、エースを含め、古参のメンバーは1度も振り返るようなことはしない。彼らの情はオールイーターのギルドメンバーにのみ与えられる。他人となった者には興味すらも無かった。



「おい、ピース」


 しばらく歩き、距離を確認すると、エースは新人のメンバーたちには聞こえない様な小声でピースに話しかける。


「…なんだい?」


 先ほど言い放った暴言への叱責…では無い。


「お前がああ言ってくれて助かったよ。ありがとよ」


 エースは黒い笑みを浮かべ、ピースに感謝を告げる。隣で聞いていたエコーは、確かに、と頷く。


「ピースが反感を買うような言葉を言って、それをエースが激しく窘めた。そのことで彼らの不満の多くはギルドマスターのエースでは無く、ピース個人に向かったでしょうね。私からも礼を言います。おかげで我々のボスに泥を被らせずに済みました」


「そんなつもりなんざ、さらさら無かったぜ。俺はただ言いたい事を言っただけさ」


 ピースは手をヒラヒラと振って否定する。だが、その顔はまんざらでは無い、という風にも見える。


「ふ、そうか。それなら、そういう事にしておこう。しかし、成り行きだったとはいえ、新人の選別を早くし過ぎたな。どうせならもっと有効利用すべきだった」


 4人のマンパワーを失ったのは痛い。勧誘に力を入れなければ、と言うエースだが、ピースは聞いておらず、うわの空でニヤニヤと笑っている。


「それにしても、あの女の俯いた時の顔は良かったなぁ。もっと追い込めば、どれだけ良い顔になったか、考えただけでゾクゾクするぜ。もったいねぇな、見たかったなぁ」


「…そ、そうか」


 どSのピース。その言葉を聞いて、多少の理解はあるエースもドン引きである。


「男たちの方も良かった。男色の気なんざ無いが、あの顔も中々のモノだった。仲間に裏切られた顔っていうのかな、あれは良いモンだ。VRってのは本当に最高だな。な、マスター!」


 爽やかな笑顔でサムズアップを向けるピース。どうやら本当に、言いたいことを言っただけの様である。エースは右手の中指で自分の頭をコンコンと叩き、苦笑いで言い放つ。


「…お前、やっぱりココおかしいわ」


 ピースはそれを聞き、ニヤリと笑うだけであった。

仕事をやり始めてから分かりました。「仕事辞めて下さい」って相当酷いセリフですね。廃人の時は、無職であることが当たり前すぎて気づきませんでした。

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