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22話 残りの4人

ステータス画面の『ランク』を『クラス』に変更しました。

 自身の体が横たわっていることに気付くエース。VRカプセルベッドの蓋が開いていることを確認して、上体をゆっくりと起こす。手を頭の上部で組み、グッと伸びをする。その後、体の節々をチェックする。どの部位も痛みや強張りなどは無い。


(良いベッドだ。いや、初期型のVRベッドが酷すぎただけか)


 ベッドから降りると、今度は立った状態でもう1度伸びをする。ふぅ、息を吐いて力を抜くと、パソコンを置いている部屋へと向かった。


「ただいま、状況はどうだ?」


 エースの帰還の言葉に『おかえりやでー』や『ギルマス!よくぞ、戻られました!』などの特徴ある返事が返ってくる。前者はジェイ、後者はオーキという名でゲームをプレイしている。


「おかえりなさい、マスター。只今の状況ですが…カオスです」


 疲れ切った声がエースを出迎える。リム、という名のプレイヤーである。


「おいおい、居残り組のリーダーはお前に任せていたはずだぜ、リム。まぁ、キャラの濃いあの3人を残した時点でカオスになることは、正直俺も覚悟していたがな」


 オールイーターで普段から騒々しい奴は4人いる。ティーガー、アイ、ジェイ、オーキだ。そして、オールイーターでβ版に参加出来なかった居残り組の者は、アイ、ジェイ、オーキ、リムである。居残り組のリーダーを任されたリムの気苦労は、容易に想像がつくだろう。


「す、すみません。ですが、予想以上にカオスなのです」


「はあ?とりあえず説明を…」


 エースがリムに説明を求めようとした、その時である。クスンクスンと女の子の泣き声が聞こえてきた。


「エースぅ、みんながいじめるの。助けてぇ」


「うわ…」


 その声にドン引きするエース。ジェイとオーキの愉しげな笑い声と、リムの溜息が聞こえる。


「あのね、私はファンタジーオンラインをプレイしちゃダメなんだって。ひどいよぉ。楽しみにしていたのにぃ。エース、かわいそうな私を慰めてぇ」


 声だけを聴いていれば、確かに可哀そうな女の子である。声だけを聴いていれば、だが。


「…悪いが俺には裏声で泣いているおっさんを慰めるなんて特殊な趣味は無い」


 エースはパソコンの前で目頭を押さえ、『まったくこいつは…』とこぼす。


「ふぇぇん、ひどいよぉ…チッ、つれねぇな、ギルマスはよ。だが、俺が落ち込んでいるのは本当なんだぜ?」


 女の子の声が一転し、野太い男の声に変わる。家庭を持っていたが、MMOのネカマプレイ中、裏声で男性プレイヤーを誘っている所を妻に見られ、妻と子に逃げられた悲しき過去を持つ男、アイである。


「もっとまともな落ち込み方をしろよ、アイ。状況を説明しろ、状況を」


「今のは多少舌足らずで喋ることで幼さを引き出し、ロリコンを釣る新しい釣り針だ」


 キリッとした口調で話すアイに『そっちの説明じゃねぇよ、馬鹿!』とエースが突っ込む。


「マスター、私から説明します」


 見かねたリムが助け舟を出す。


「エコーさんが戻られた際に、このゲームは性別を変更したプレイは出来ない事を伝えられました。アイはショックを受けていたようですけど、エコーさんの命令の下、攻略サイトへ情報を書き込む事で忙しく、落ち込む暇も無かったようです。そして、エコーさんがゲームに戻られた後は普通に落ち込んでいました。そこまでは、良かったのですけども…その時、ジェイとオーキが『ねぇねぇ、今どんな気持ち?ねぇ、どんな気持ち?』とアイを煽りに煽って…切れたアイが何故か裏声で泣き始めました」


 私ではどうしようも出来ませんでした、と嘆くリム。苦労人である。


「流石はジェイとオーキ、ひでぇ事をしやがる。いつもなら、もっとやれ、と言うのだが…てめぇら、今は遊びの時間じゃねーぞ。情報収集に2chの統制は、きちんとこなしているのか?」


「もちろんですとも。現にグレアム・グレイがファンタジーオンラインにβプレイヤーとして参加していることを突き止めましたぞ」


 それを聞くや否や、エースは『なんだと!』と叫ぶ。毎年アメリカで行われる超有名FPSゲームの世界大会を、3年連続で優勝し続けている男、それがグレアム・グレイである。人間の反射神経速度を超えていると噂される反応速度と正確な射撃、驚くほど緻密な立ち回りから『FPSの神様』の異名を持つ男である。エースも彼のゲームプレイをネットで見たことがあるが、他者を寄せ付けない圧倒的な強さは神の名に恥じないものであった。


「グ、グレイが何で日本のMMOに参加しているんだよ!ガセネタじゃあ無いだろうな?」


 グレイの名にエースが驚愕するのも無理はない。グレイはアメリカのプロゲーマー懸賞金ランキングの1位に燦然と輝く、プロFPSプレイヤーなのである。その人物が日本の、それもMMOに参加しているのだ。世界初のVRゲームの評判はアメリカでも取り沙汰されているという事だろう。


「間違いありませんぞ。つい先ほど見つけましたが、ゲームスタートの1時間ほど前に更新された本人のブログに、そう書かれておりました。このゲームの為だけに日本語を猛勉強したとも。どうやら彼のスポンサー企業である、アメリカの大手ゲーム会社から、かなりのバックアップを受けている様ですな」


「グレイだけや無い。こっちもついさっき手に入れた情報やねんけど、あの立川優樹も参加するで。こいつは2週間後の正式サービスから参戦や。日本の格ゲー界のトッププレイヤーも何人か参加しているみたいやな」


 最早エースは言葉も出ない。戦略ゲーの王者、立川優樹。トレーディングカードゲームや戦闘シュミレーションゲームなど、戦略的なゲーム要素のある日本の大会に出没しては、優勝を掻っ攫っていく戦略・戦術ゲームの王者である。更にジェイが格ゲーのトッププレイヤーたちの名前を言っていく。いずれもMMOプレイヤーのエースですら知っている有名人たちであった。


「ゲーマーのみならず、剣道や弓道、空手、柔道などの武術の有段者、元プロスポーツ選手、元自衛隊員って奴らもいる。恐らくこいつらは自分の技術でモンスターと戦いたいって奴らだな」


 アイも裏声を止めて、真面目に語る。よくもまあMMOに、ここまでの人物たちが集まったものである。


「そうそうたる顔ぶれだな。世界初VRMMOの名は伊達では無い、か。だが…」


 ふー、と長い息を吐き、肩の力を抜くエース。しかし、口元には笑みが浮かんでいる。


「楽しくなってきたな。他人との競争はMMOの醍醐味。ライバルが強い程、燃えてくるってもんだ。こいつら全員、オールイーターが食い散らかしてやろうじゃねーか」


『おう!』と4人の声が揃った。



 エースが現実世界に戻ってきて、30分程が経った。エースはオールイーターの攻略サイトや2chをチェックしている。流石はエコーといったところであろうか、攻略サイトにはオールイーターが手に入れた情報の中でも、公開しても問題無い情報が事細かに書き込まれている。2chもその情報で大盛り上がりだ。


「フィードの奥に行くと複数の敵が出現する事や昼夜の概念、飲食店や宿、ウィードドールがドロップしたレアアイテムらしき存在、そしてフレンドリーファイアが有りである事を攻略サイトに書き込むか。後は、ギルドメンバー募集の広告を載せるかどうかだな」


 攻略サイトを確認し終えたエースはそう呟く。それにリムが問いかける。


「既に7名の新人が入ったと聞きましたが、彼らはそんなに駄目でしたか?」


「見所のある奴は何人かいた。だが、半分くらいは途中で辞めるだろうな」


 廃人ギルドというのは、入って直ぐ辞めていくプレイヤーが後を絶たない。単純にゲーム好き程度のプレイヤーでは、廃人になどついていけないためだ。そのような人物は、『何だ、このギルドは。入るギルドを間違えた』と言うかの様に不満気に辞めていく。廃人など一般人には理解出来ない存在なのだ。


「いや、これはまだだな。募集広告は時期尚早だ。お前たち4人がゲームを始める前に、前に人が集まりすぎるのも問題だからな」


 悩んだ末、エースは否の結論を出した。ギルドの最大人数はMMOによって様々である。最大人数が30人程度のギルドしか作れないMMOもあれば、100人以上のギルドを作れるMMOもある。また、初期は少ない人数でしかギルドを作れないが、条件をクリアする事によって、最大人数を増やすことが出来るMMOも少なくはない。

 それら今までのMMOの経験を考えると、正式サービススタート時、つまりギルド設立が可能になった時のオールイーターの人数は、30人がベスト。もし、30人を超えるギルドが作れる事が分かったならば、その時にでも募集すればよい。

 その30人の内、オールイーターの中枢メンバーは12人である為、残りは18人。既に7人の新人メンバーがいるが、ギルドに残るであろう廃人候補のプレイヤーは半分程。残り14、5人ほど廃人候補を集める必要がある。しかし、この程度の人数ならば多少面倒くさい作業ではあるものの、募集広告を打たなくても集める事ぐらいは出来る。無暗に募集広告を打って、知名度に惹かれたプレイヤーが押し寄せ、ギルドメンバーになれなかった大勢から不満を持たれるよりかは、幾ばくかマシである。無論、これが何十人という規模で募集するのならば、直ぐに募集広告を打つ。エースにとって14、5人という人数は、なかなか微妙な数だった。


「エース、そんなに私たちの事を思ってくれるなんて」


 アイが嬉しそうな裏声を使い話す。エースに苛立ちや呆れよりも、疑問が生じる。こいつは本当にアイなのか?という疑問である。


「…昔はネカマプレイしている時しか裏声使わなかったのに、最近は俺たちとの会話でも使うようになったなぁ。ネカマプレイをやりすぎると二重人格が生まれるって聞いたことあるぞ。お前大丈夫か?おっさんの方の人格が薄れてきたりしてないだろうな?」


「大丈夫、大丈夫。おっさん、おっさん。最も二重人格になっても、今やVR治療で治る時代なんだから問題ないだろう」


 二重人格になっても問題無い、と声を戻して笑うアイに、『いや、その理屈はおかしい』と皆が突っ込む。


「お前のその性格の方は昔から変わっていないみたいだな。さて、俺はそろそろゲームの中へ行くぞ。お前らも引き続き情報収集等に当たってくれ」


 へーい、という返事が3つ。またこいつらの相手を1人でするのか、と嘆く声が1つ聞こえる。エースは苦笑しながら、頑張れ、と伝えるとファンタジーオンラインの世界に入る為、VRカプセルベッドへと向かって行った。

オールイーター12人全員をようやく登場させることが出来ました。そしてライバル候補たちも名前だけ登場です。

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