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21話 戦闘職

「タンク!タンク!VIT極振りのターンク!」


 カーグが手を大きく振りながら叫ぶ。


「うるせぇ!分かっているから黙れよ。タンク職だが、カーグの他に推薦したい者がいる。それはジートだ」


 エースはカーグのタンク職を認めたが、更にジートを推薦した。ジート本人は『何故、私を?』という顔をしていた為、エースは理由を説明する。


「理由はその体のデカさだ。お前の身長、何センチに設定したんだ?」


「最大設定値の210センチです。ああ、成程。確かに、この体は壁に最適ですね。分かりました、微力ですがタンクを務めましょう」


 ジートは自分の胸をポンポンと叩き、己の体の大きさを再確認する。身長だけでは無く、体重もかなり重くすることで、ジートは肉付きの良い巨体となっている。タンク職は壁役と称される事もある様に、肉壁となって敵からの攻撃を防ぐことが役目である。通常のMMOでは関係ないかもしれないが、VRMMOの当たり判定では体の大きな壁役がいると、壁役の後ろに大きな安全地帯が生まれるはずだ。その安全地帯は戦闘において大きなアドバンテージとなるだろう。逆に言えば、タンク職以外に向いていない。それを理解したジートはタンク職を快く引き受けた。


 その後、メンバーたちは希望する戦闘職に次々と立候補する。エコーはINT極振りの攻撃系魔法職。ティーガーはSTR極振りのアタッカー。ビーはAGIを特化させたスピード重視の戦士を目指すという。そして、ナッシュは弓職を希望するが、ステ振りは様子見。その他、新人メンバーたちも皆と相談したりしながら、様子見に徹したり、好みの戦闘職を希望していった。残りはエースとピースである。


「さて、俺とピースの戦闘職だが…俺たちはヒーラーをやる」


その言葉にエコーが『順当ですね』と言う。エースはそれに対し、軽く頷いて、話を続ける。


「MMOというゲームにおいて、ヒーラーという戦闘職は、タンクと1、2を争うほどの難易度だと俺は思っている」


 ヒーラーは、傷ついた味方を癒すだけの簡単な仕事。そう考える者は間違いなくMMO初心者である。正確には、ヒーラーの仕事とは味方を死なせない事。言い換えれば、ヒーラーとは味方全員のHPを管理する者である。

 味方たちに対して、ただ闇雲に回復魔法を唱えていればいいのではない。敵の攻撃力や戦闘パターン、味方の防御力やHP残量を的確に把握し、優先順位の高い者から回復させる。まずこれが相当に難しい。そのゲームに対する深い知識と経験、そして判断力が必要となるからだ。それに加え、自身のMPの管理。また、回復魔法は敵から敵対心ヘイトを集めるため、ヘイト管理も必要となる。これらが出来てようやく、一人前のヒーラーである。


「そして責任も重大だ」

 

 数ある戦闘職の中でも、タンクとヒーラーは共に守りの要である。どちらかが倒れると、パーティが全滅すると言っても過言ではない。パーティの是非は、タンクとヒーラーの腕に起因することが多く、エースの言う通り、これらの戦闘職は責任重大なのである。そのため、下手なタンクやヒーラーは酷い暴言を浴びせられたり、地雷プレイヤーとして2chに晒されることもざらにある。


「更に、だ。指揮官としての役割を担わなければならない」


「指揮官?」


 カーグが聞き返すと、そうだ、とエースは頷いてみせる。


「指揮官云々の前に、視野について話をしよう。VRMMOはプレイヤーキャラが自分自身である為、FPS視点だ。現実と同じく、右を向けば右を見ることが出来、左を向けば左を見ることが出来る。当たり前の事だ。しかし、MMOをプレイするには、それでは視野が狭すぎる。そう思わないか?」


 エースはカーグを初めとする全員に問いかける。それにカーグは答える。


「確かに、多くのMMOは第3者視点(TPS)だ。多少離れていようが、真後ろにいようが、画面にさえ映っていれば敵でも味方でも位置は把握できる。だが、VRゲームではそうはいかねぇな。今日、モンスターと戦ってみて分かったが、目の前にいる敵から視線を外すというのはかなり勇気のいる行動だ」


「ああ、現に俺たち北チームがモンスターと戦っていた時、横なぎに払った俺の剣が死角に居たビーに当たってしまった。フレンドリーファイア有りだぞ、このゲーム。しっかりダメージ入っていたからな」


 その言葉にビーが『痛かったッス~』と茶々を入れる。エースは片手を上げ、苦笑しながら、悪い悪い、と謝る。軽く謝ったところで話を続ける。


「パーティの最大メンバーは5人までだ。正直言って、この程度の人数ならば、視点と戦闘に慣れさえしていれば、どの戦闘職が指揮をしても問題は無いと思う。相当に慣れさえしていればな。問題は大人数での戦闘だ。もしも、大人数で挑むレイドボスやギルド戦が実装されれば…まあ、いずれ必ず実装されるだろうな。大人数戦はMMOの華だ。ゴホン、これが実装されれば、数十人規模の仲間を、場合によっては同数の敵をも把握し、仲間の指揮をとらなければならない。最前線に居ながらこれが出来るか?」


「そりゃあ、無理ってモンだぜ。前後左右全てに目が付いている訳じゃ無いんだからよ。成程、そこで指揮官の話が出る訳だな。確かに後衛職ならば前方にだけ集中していても戦況は把握でき、指揮を出せる。仲間のHPを管理するヒーラーならば、戦況の把握は必須。一石二鳥と言えるな。だが…大丈夫なのか?このゲームは、敵どころか、味方のHPバーすら表示されてない為、回復のタイミングは難しいだろう。更にゲームログも無い。ヒーラーは滅茶苦茶な仕事量になるぞ」


 不安視するカーグ。エースは、ふむ、と言って考える。


「自身のMP管理とヘイト管理をしつつ、仲間全てのHPと防御力を把握。また、大勢の敵の戦力を把握し、ゲームログやHPバーの見えない中、優先順位の高い仲間を即座に判断して回復させる。そして、指揮官として戦況に応じた指示を皆に出す。戦闘中にこれらを常に同時に行う…か。なんだ、今までMMOでやっていた事じゃあないか。なあ、ピース」


 さも当然とばかりに笑いながら、ピースに話しかけるエース。


「FPS視点に慣れるまで時間がかかるかもしれないが、他には特に変わっていない。問題無しだ。カーグ、心配はいらん」


 その言葉にカーグたち、古参のメンバーは『そういえば、そうだな』と納得する。忘れてはならないが、彼らは廃人である。今までやってきたMMOでは、全ての戦闘職を経験し、役割や立ち回りなどマスターしている。廃人ならば当然の事と言えた。

 しかし、それに納得しない者たちもいる。MMOで廃人プレイなどしたことがない新人メンバーたちである。


「いやいやいや、無理でしょ。そもそも仲間のHPバーが見えない時点でヒーラーの難易度は半端じゃないですよ。それを数十人も把握するなんて…」


 よっしーが片手をパタパタと横に振りつつ、否定する。それに対し、エースはフッ、と笑い、格好を付けながら語る。


「HPバーなど目安に過ぎない。HPバーが減った事を視認している時点で手遅れとなる戦闘もある。仲間に攻撃が当たった瞬間に回復出来るように、敵の攻撃を予測し、回復魔法を唱える準備をしておくものだ。なに、少々難しいが、慣れれば考えずとも出来るようになる」


「は、はぁ」


 説明を受けたよっしーは納得のいっていない声を漏らす。そんなよっしーにエースは『逆にこの程度も出来ていないと下手糞ヒーラーって呼ばれるぞー』と付け加える。


「私、ヒーラー選ばなくて良かった。聞いていると、やっていける自信が無いもの」


 新人メンバーの1人、リンカという名前の女性プレイヤーがそう呟く。彼女は攻撃系の魔法職とヒーラー、どちらを選ぶかで悩み、エースたちと相談した末に魔法職を選んでいた。エースにもその呟きは聞こえていた。


「んー、ヒーラーではないから、タンクではないからで安心していても意味は無いぞ。どんな戦闘職でも役割は必ずある。それを正確に認識し、常に戦闘でその役割を果たす。それが重要だ」


 もちろんです、とリンカは笑みを浮かべ頷いた。



「さて、これで大体の事は話し合いましたね。これからどうします?」


 頃合いを見て、エコーが切り出す。エコーの言う通り予定していた内容は全て話し尽くしていた。


「日が昇るまで、街で自由行動兼、情報収集だな。1人でもいいし、何人かで行ってもいい。アイテムを仲間に預けて、夜のフィールドに突撃しに行ってもいいぞ。とにかく情報を少しでも集めておいて損は無い。何か分かったらそのつど、チャットかメールを俺に寄こしてくれ。全員お互いにフレンド登録済ませたか?」


 フレンド登録が皆済んでいることを確認すると、食事の会計を済ませ、店の外に出る。


「私は1人でフィールドに行って、モンスターと戦ってみます。夜という状況がモンスターにどのような影響をもたらすのか興味がありますので。モンスターが弱ければ、そのままレベル上げをしておきます。私だけレベルが低いですし」


 エコーはそう言うと、ビーにアイテムを渡し、北門へと駆けていった。他の者も適当にグループを作り、街の探索に出ていった。


「さて、俺は1度現実に戻って、情報収集をするか。先ほどの報告会の情報も、攻略サイトにいくつか載せるとしよう」


 システムウィンドウからログアウトを選ぶとエースの体は淡い光に包まれ、ゲームから消えていった。

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