↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
さぁ、臥竜が空を駆けていきます。手には竜珠を握りしめて…
PR
84/428

この時ほど鍛えられていて良かったと感謝した日はないでしょう。※

 季常(きじょう)は、弟に関平(かんぺい)が職務を全うするのを監視させる為に、関平が馬に乗っている傍に待機させていた。


 敬兄(けいけい)を尊敬はしているが、自分はもっと才能があり、それを生かす所で働きたい。

 自分には野望がある。

 自分は王佐の才がある。

 それを、上手く使ってくれる主を得たい。

 もっと、自分の才能を認めてくれる主を……その為には力をつけ大きな戦を指揮し、勝ちたい。

 今回は敬兄が献じた策だが、それを生かし応用して、もっと敵に被害を与えるようにして……。


「張益徳(ちょうえきとく)将軍からの伝令です。進んできます。主将は夏侯元譲(かこうげんじょう)。思ったより広がってはいないようです……もう少ししたら囮(おとり)を動かしますか? 」


 伝令の声に返答しようとした瞬間、関平(かんぺい)が突然馬を逆方向に走らせ始めた!!

 つまり、草原を敵を背にし油を撒いている場所に敵を追い込む筈が、敵に向かって走っている。

 それだけでなく、関平は、


「伏兵よ!! 伏兵!! 貴方たちを火攻めにしようとしてるの!! 逃げなさい!! 」


と、叫び始めるではないか。


 季常は蒼白になる。

 何をしている!? この女は、何と……!?


「幼常(ようじょう)!! 今すぐあの女を捕まえろ!! 」

「わ、解りました! 兄上!! 」


 追いかけようとするが、馬は雲長(うんちょう)の最後の温情か、愛馬、赤兎(せきと)の子供である。

 ぐんぐんと速度が広がる。


と、別方向から白い髪を靡かせた青年が白馬に乗って現れ、関平の馬と並走し、手綱を奪い取り馬を停止させる。

 ようよう近付いてきた幼常に、それを押し付け、


「いけ!! 軍規違反の沙汰は、お前の上司たちと共に負わせる!! 下がれ!! 」


 押し殺した低い声で言い放った孔明(こうめい)は、何かを思い付いたように、関平の腕から矛(ぼう)を奪い取ると、馬の尻を蹴り飛ばした。


 そして、関平の叫び声に警戒した……内容は解っていないらしい……部隊が、じりじりと近づいてくる。

 それを唇をあげ、いかにも余裕のあるように見せた孔明の前に、一人出てきた武将。


「騒々しい軍隊だな……女子供を散々な目に遭わせる。物心もつかぬ自分の娘を戦場に立たせたり、娘を餌に逃走する。女子供をなぶるのは、劉玄徳(りゅうげんとく)の好きな行動だ。私はそう言うことをする下衆(げす)は何よりも嫌いだ!! 」


 がっしりとしているのかと思いきや、想像よりも清廉な物静かな印象。

 しかし、歴戦の武将だと解るのはごつごつとした手と、慣れた傷だらけの鎧、そして、片目を覆い隠す布。


 あぁ、彼は……。


 孔明は、漢王朝では高位の……本当の意味での将軍位を持つその人物に、拝礼(はいれい)をする。

 伏兵は息を飲み、そして警戒していた敵軍も呆気に取られる。


「……それは、何だ? 」

「現在は敵とはいえ、文武両道を心掛け、ただ一人曹孟徳(そうもうとく)に諫言できると言う……そして、あの時に助けて戴き感謝しております」

「あの時……」


 考え込んだ男に、孔明は微笑む。


「15年前、場所は徐州(じょしゅう)。姉妹を庇い、うずくまっていた……」

「……そなたか!! 」

「はい。私は、じ、常山郡真定県(じょうざんぐんしんていけん)の生まれ、趙子竜(ちょうしりゅう)!! 出身地を追われ追われて逃げ込んだ徐州で、再度虐殺に巻き込まれた!! 私は、曹孟徳に一矢報いる為に来た!! 貴方は一度だけお見受けした夏侯元譲(かこうげんじょう)殿でしょう!! 」


 孔明は、心の中で計算する。

 相手は歴戦の将軍。

 武器は、今孔明の持っている貧相な古びた物のみ。

 このような物でなど彼と数合打ち合えば、破壊されるに違いない……ならば。


「私のような若輩者では物足りないでしょうが、お手合わせを希望致します!! 如何(いかが)でしょうか? 」

「そなたのその武器、そして装備では私には勝てぬ」

「侮られるか!? では、こちらから参ります!! お覚悟を!! 」


 孔明は、愛馬を走らせる。

 そして打ちかかり、矛の長さを生かした戦いをする。

 しかし、刃を生かすことはなく、柄や逆の先端部での突き、払い殴打に終始する。

 そして、元譲(げんじょう)には解らないように、ジリジリと罠を仕掛けた方向に下がっていく。


「どうした!! 先程は大言を吐いていたが、腰が及び腰になっているぞ!! 」


 元譲の声に、


「元譲殿の方こそ、私のような若輩者に遠慮されているのですか? お優しいのは美徳ですが、甘い考えは自らの危険を引き寄せますよ……!? 」


 元譲の戟(げき)が降り下ろされると、孔明の矛の柄が真っ二つに折れる。

 その様子に曹孟徳軍から歓声が上がる。

 が、次の瞬間、想像だにしないことに固まった。


「隙あり!! 」


 孔明は、折れた柄を瞬間交差させ、元譲の武器を押し返すと同時に相手の馬に飛び乗り、走り始めた。


「な、な!! 」

「将軍!! 将軍!! 」

「皆の者追いかけろ!! 夏侯将軍を取り返せ!! 」


 兵たちが泡を食ったように、追いかけ始める。

 兵士がただ走っている前、孔明と元譲の乗る馬上では、孔明は折れた矛を投げ捨て、隠し持っていた小刀で、戦っていた。

 元譲も戟を捨て片手は手綱を振り絞ろうとし、それを孔明が阻む。

それが何度も繰り返され、一度はバランスを崩しかけた孔明を、その横に並走していた孔明の愛馬、月花(げっか)が元譲に突進し、助ける。


「お、お主……趙子竜ではないな? 」

「おや? どうしてそんなことを? 私が私だと名乗っているのです。それをどうして否定するのでしょう? 」


 戦いながら、舌戦を繰り広げる。


「7年前に会った趙子竜は、幼い子供だった。5、6才位だったな。金髪、青い目……酷い扱いを受けているのがありありと解る幼児だった」

「……そうでしたか? 私は、覚えておりませんが? 」

「で、お前は徐州にいたと言った。15年前とお主は言った。孟徳に何度も止めたが、強行した徐州の虐殺……思い出した。数人の子供を庇い立ちふさがる10才余りの少年……あれがお主か!? 」


 元譲は孔明を見る。

 唇を歪める。


「えぇ……あの時の『私』も私。そして、8年前の『私』も私ですよ。さぁ、無駄話もお仕舞いです!! 貴方には曹孟徳を止められなかった責任がある。そして、8年前に孤独感と絶望に打ちのめされ泣くことも許されなかった『私』を見ていながら救うこともなかった。貴方方の政治は自らの保身と金集め、何の罪もないごく普通の一般の民を苦しめ続けた董仲穎(とうちゅうえい)と同じ事‼ それを大義だ何だと大言を吐くだけなら、政(まつりごと)なんてくそくらえだ!! そんなのは、上が下を見下して、自分の政治が正しいと思い込んでいる思い上がりも甚だしい!! 」


 強い口調で断罪すると、並走していた馬に器用に飛び移り、元譲を見つめる。


「曹孟徳に伝えておけばいい。この趙子竜は、私の全てを奪おうとするものは全て貴方が昔やってくれたように、破壊し尽くし、消し去って、絶望の縁に立たせて見せると!! 貴方のやり方を踏襲(とうしゅう)するだけでなく、『孫子(そんし)』の注釈とやらをつけたと言うが、それがどうした‼ ……戦は生き物で、そして化け物だ!! 注釈とか偉そうなことを言っても、所詮は殺しあいを推奨するだけではないか!! 何が文学、芸術……そんなものは今は唯のゴミだ!! 文化人を気取るなら、もっと平穏な時代に生まれてくるんだな!! 戦乱を悪化させた張本人が、片腹痛い!! 」

「……」

「芸術が見たいなら……あぁ、来られましたね、お仲間が。……貴方方に、この戦場での芸術をお見せ致しましょう!! では」


 孔明は身を翻し草原の奥に姿を消す……と、次の瞬間周囲にばぁぁっと火が放たれる。

 その火の向こうで、


「芸術家の曹孟徳にお似合いですよ!! 火と煙の競演をお楽しみあれ!! 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。