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09 過去との邂逅

 あくる日も、そのまたあくる日も――凪《なぎ》は鏡に返事が届いていないかを確認し続けた。


 あのとき光の中に映し出された内容――あれは誰かが明確に『交信』を目的として書いたものに他ならない。

 ならばそれに対して返答を行った以上、また新たなメッセージが届くはずだ。

 凪《なぎ》は食事やトイレの時間も惜しんで、数分おきの確認を繰り返した。


「お……おぉっ!?」


 何百回にも及ぶ確認の末、歓喜の瞬間は三日目の朝に訪れた。



 “ 本当にこの鏡でお話できるのですね。

  私は天原《あまはら》村の城山《しろやま》菊枝《きくえ》です。

  こちらは昭和十二年ですが、

  平成というのは聞いたことがありません。 ”



 浮かび上がった文字に、凪《なぎ》は息を呑んだ。


 天原《あまはら》村は凪《なぎ》たちの住む中津《なかつ》町天原(あまはら)地区の合併前の名称だ。つまりこのメッセージは、過去の同じ場所から届いたことになる。


「うは……っ!」


 凪《なぎ》はすぐに返事を書くと、菊枝《きくえ》と名乗る人物に思いを馳せながらそれを送信した。




「――見てくれよほら!!」


 紗名《さな》に悟《さとる》、そして未久《みく》。

 グループチャットによる緊急招集を受けて自宅に集まった仲間を前に、凪《なぎ》は得意げな表情で鏡のメッセージを見せた。



 “ こっちの方が未来です

  そちらの時代より80年後です

  天原《あまはら》村も、今は中津《なかつ》町の一部です ”



「……これ、凪《なぎ》が書いたメッセージだよな」


「…………すまねぇ」


 悟《さとる》の冷静な指摘に、凪《なぎ》はうなだれた。


 皆の到着を待たずして、凪《なぎ》は既にメッセージを送ってしまっている。

 この交信方法の欠点――それは返事を送るために鏡を使うと、その時点で受信済みのメッセージが消えてしまうことにあった。


「スマホで撮っとけばよかったのに。凪《なぎ》ちゃん新しいの買ったばっかりじゃん」


「うん……次からそうするわ」


「むっ。次からじゃないのだよ、次からじゃ。チミは我が社に与えた損失をどのように考えているのかね?」


「はい……誠にごめんなさい」


 言いたい放題の未久《みく》に反論する元気もない。

 あれほど待ち焦がれた返事を、自らの手で消してしまった。その事実は、想像以上に凪《なぎ》の心にダメージを与えていた。


「すぐにまた返事が来るよ。だから——」


 頭を抱える凪《なぎ》を、紗名《さな》がそっと慰める。

 しかし――この紗名《さな》の言葉は単なる気休めでは終わらなかった。少しの時間を置いて、鏡の中のメッセージが再び変化したのだ。



 “ 八十年後の天原《あまはら》村は

  どうなっているでしょうか。

  五丈櫓(やぐら)は

  まだ立派に村を守っているでしょうか。 ”



「五丈……櫓《やぐら》?」


「このあたりに昔あった火の見櫓(やぐら)みたいだ。昭和十年竣工……当時は五丈の高さを持つ櫓《やぐら》は珍しくて、村を象徴する建造物だったらしいよ」


 悟《さとる》がスマホを片手に検索結果を読み上げる。


「まじか! そんなの知らなかった! 菊枝《きくえ》さん……ホントに八十年前の人なのか!!」


 俄然元気を取り戻した凪《なぎ》が猛烈な勢いで返事の作成に取りかかる。


「凪《なぎ》ちゃん! 写真写真!!」


「あ……いけね」



 一度返事が来てしまえばあとのやり取りはスムーズだった。

 スマホのチャットアプリのようにテンポよく、会話は順調に進んでいく。


 やり取りを重ねる中でわかったことは、菊枝《きくえ》は十一歳の女の子であること、こちらと向こうでは時代こそ違うものの日付や時刻は一緒であるということ、そして菊枝《きくえ》もまた、曳石《ひきいし》神社の鏡を使って交信を行っているということであった。


「同じ鏡だ……!」


 菊枝《きくえ》も凪《なぎ》たちと同様に、偶然反射した光を通じて、誰かの書いた文字に気付いたらしい。



 “ 神社の鏡を勝手に

  持ち出しているので、

  うしろめたい気持ちがあります。

  ばちが当たらないとよいのですが。 ”



 鏡の無断使用について気にしている様子の菊枝《きくえ》に、凪《なぎ》は急いで返事を送る。



 “ 大丈夫!

  その神社ってうちで管理してるはずだから、

  俺が許可するよ

  自己紹介が遅れたけど、

  俺は八尋《やひろ》凪《なぎ》って言います ”



「…………」


「…………」


「…………あれ?」


 突如、菊枝《きくえ》からの返信が止まった。

 これまでは一分とかからずメッセージが返ってきていたのだが、最後のメッセージからもう五分以上が経過している。


「……トイレか?」


「凪《なぎ》! 菊枝《きくえ》ちゃん、女の子なんだからね」


 デリカシーのない発言に、紗名《さな》からの叱責が飛ぶ。


 そうしてそこから更に数分――メッセージは再び更新された。



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