07 地下室
「は、入るのぉぉぉぉ!? やめとこうよー」
「私たち、ここで待ってるから」
紗名たちを地上に残し、凪と悟は階段を降りる。
その幅は大人一人がやっと通れる程度で、角度もきつい。凪たちはスマートフォンのライトを頼りに、一段ずつ慎重に階段を下った。
「ここが一番下、か……」
階段はそれほど深くまでは続いておらず、ある程度降りたところで広い空間が現れた。
「なん……だ、これ……。なんか食器みたいなのが散らばってる」
「天井、穴が空いてるな。空気穴か何かか――?」
「うわっ! 何か踏んだ! ……布?」
広さにして六畳間程度の石組みの地下室。その内部にはまるで誰かが暮らしていたかのような痕跡が残されていた。
「さあ凪、ちゃっちゃと調べようか。ここに住んでる『誰か』が戻ってくるとまずいし」
「……怖いこと言うなよ!」
散乱した道具類の状態からして、ここが使われなくなってから相当の期間が経過していることは伺えた。
しかし、そのあまりにも生々しい生活痕から本当に誰かが戻ってくるのではないかという気もしてくる。
凪たちは異様な雰囲気に呑まれながらも探索を進めた。
「え? ……おい、これ!」
雑多に積まれたがらくたの中から、凪が古めかしい銅鏡を拾い上げた。
歴史の教科書で見る写真そのままの銅鏡だ。直径二十センチほどで形状は丸く、裏面には装飾が施されている。
「鏡って、これだろ! これ絶対そうだろ! やっぱ……ここで正解だったんだ!」
記録に残された神社、いかにもな雰囲気の地下室、そしてそこに存在した銅鏡――全ての要素が線で繋がり、凪は興奮を隠しきれない。
「なあ悟! ここさ、他にも何かあったり――」
「悟くーーーーん! 凪ちゃーーーーん!!」
「ん? ……みっこ?」
凪の言葉を遮るように、未久の声が響く。
「どうしたのかな、未久。切羽詰まったような声を出して」
凪にはいつもと変わらない声にしか聞こえなかったのだが――そこは悟にしかわからない何かがあるのだろう。
「悟くぅーーーーん!」
「――大丈夫だよ、未久。今から戻る」
地上に向かってそう返事をすると、悟は凪の方へ向き直った。
「いったん――出ようか。上が気になる」
足元を確かめながら、降りてきた階段を引き返す。
地上に戻った二人を待ち受けていたのは、未久のふくれっ面だった。
「二人ともなっかなか帰ってこないから心配したんだよ!?」
「え? 中にいたのってせいぜい二、三分だろ」
「二十分くらい待ったよ!」
未久の言葉に、凪と悟は顔を見合わせた。
確かに『二、三分』ではないかもしれないが、それでもさすがに二十分というのは大げさだ。
「ほら見てよこれ!」
そう言って未久は二人にスマートフォンの時計表示を突き付けた。
「いや、入った時間なんて憶えてないけど――あれ? ずれてる」
「……俺のもだ」
未久の画面と凪たち二人の画面。その時刻表示には十五分ほどの差があった。
「こういうのって自動補正じゃないのか? ……あ、戻った」
「何だこれ――俺たちだけ時間の流れが違って……た?」
「もう帰ろうよ、なんかこわいーー!」
半べそをかき始めた未久を紗名が優しく抱き寄せる。
紗名からの訴えるようなまなざしを受け、凪は所在なさげに頭を掻いた。
「そうだな……鏡も見つけたし」
紗名が凪の持つ鏡に視線を落とす。
「それ、持って帰るの……?」
「ん? そのつもりだけど」
その返答を聞き、紗名はわずかに表情を曇らせた。
「そういうの持ち出すの、よくないんじゃない?」
神社の娘だからなのだろうか。御神体だとか、神具だとか、そういった物品の扱いについては人一倍敏感なようだ。
「大丈夫。記録によるとここはうちが管理していた神社なんだ。後でちゃんと戻しておけば問題ないだろ」
紗名はそれ以上何も言わなかった。
高く上った太陽と、蝉の声。
意気揚々と歩きだした凪を先頭に、一行は山中の神社を後にするのだった。




