27 終わらぬ地獄
ふと目を覚ます。
視界に映るのは、見慣れた自室の天井。
枕元に置いた目覚まし時計がカチ、カチと小さく時を刻んでいる。
――俺……
意識が定まらない。
あれ、いつ……寝たっけ。
――今、何時だ?
時刻を確認すると二十時三十分。
階下からはテレビの音と、家族の話し声がかすかに聞こえてくる。
今日は始業式があって……学校に行って、それから――
思考の途中で突然、脳裏に閃光のような映像が走った。
――そうだ。俺は……!
“あの出来事”が蘇る。
血と闇と、イザナミの微笑。
息が詰まり、吐き気にも似た嫌悪感が喉までせり上がった。
見たところどこにも怪我はないし、衣服も汚れていない。
しかし、猿合で起きた“あれ”が現実であることは、はっきりと認識できる。
「イザナミ……」
その名を口にした瞬間、意識が遠のきそうになる。
……どうしたらいい?
あのとき、彼女は三つの選択肢をあげていた。
ひとつ、ここで殺されてリセット――ダメだ。
ふたつ、自分以外の人間が全員殺される――それもダメだ。
となると――
凪の心に、最後の選択肢が浮かぶ。
「三番……俺が、おとなしくイザナミの言うことを聞いていれば……」
口にすると同時に、逃げ場のない絶望が襲う。
結局これもただの延命に過ぎない。選んだつもりで、何も選べていない。
十五歳の誕生日に、イザナギの神格が覚醒する――彼女はそう言っていた。
つまりその時が来ればやはり凪は殺され、生まれ直し、また彼女と出会う。
そして何も知らないまま、紗名の姿をしたイザナミと……。
それはいわば、形を変えた地獄。
そこには、いかなる解決も生まれない。
でも――無理だ。
あの選択肢の中で、他の道なんて選べない。
少しでも、長く。
そのためには、イザナミの機嫌を損ねないように過ごすしかない。イザナミの気に入るよう振る舞わなければならない。
だが自分にそれができるだろうか。
刻一刻と迫るタイムリミットを知りながら、正気を保っていられるだろうか。
ポン、とスマートフォンが鳴る。
「……っ」
画面には、チャットアプリの新着通知が表示されていた。
〈 さな 〉 それが、凪の選択なんだね
表示された文字を見て、凪の表情がひきつった。
返事をするべきかそうでないのか――
頭が真っ白になり、指が固まって動かない。
そのまま画面を見つめること数秒。
ふと、視界の端に違和感を覚えた。
窓の外。
カーテンの隙間から、ぼうっと淡い光が見える。
ここは二階で、外には人が立てるような足場はない。そう、人が立てるような足場は――
凪は震える手でメッセージを打ち込んだ。
〈 凪 〉 今日はもう寝かせてくれ
それだけ送信するとすぐに画面を閉じ、凪はベッドに潜り込んだ。
しばらくして、また通知音が鳴る。
ベッドの上に置かれたスマートフォンには、紗名からのメッセージ通知が表示されていた。
〈 さな 〉 そっか。おやすみ。明日からも、よろしくね。
窓の外の明かりが、静かに消えた。




