↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/33

17 廃墟の村

 曳石《ひきいし》神社までの道のりは、先日と同じ。

 しかしその先、猿合《さるごう》へ向かう道は荒れ果てていた。草木が生い茂り、道の形すらわからない。

 かつての登山道には手すりやロープの跡があるが、いまや朽ち果てて使い物にならない。


「これは……厳しいな。足元、気をつけろよ」


「うん、大丈夫」


 他愛のない会話でも、そこに誰かがいるという安心感が心の支えになる。

 紗名《さな》と一緒に来てよかった、凪《なぎ》は心からそう思った。



 やがてふたりは廃墟となった集落の一角にたどり着いた。


 打ち捨てられて数十年。今では人の立ち入ることのなくなったエリアに、家々の残骸が点在している。

 屋根が落ちたもの、壁の抜けたもの――まさに瓦礫の集まりだ。


 当然のことながら人の気配はなく、静まり返っている。

 しかしその様相は数十年の年月を経てもなお、当時の暮らしを生々しく実感させるものであった。


「紗名《さな》、大丈夫か」


「うん。なんか、怖いね……ひっ!?」


 野鳥の群れが一斉に飛び立つ。

 けたたましく風を切るその音は、予期せぬ侵入者の来訪に警告を発しているかのようだ。


 世の中から切り離されたようなこの空間。

 あちこちの建物、その一つ一つの内部から誰かに見られているような――

 ひょっこりと誰かが出てきてもおかしくない、そんな感覚に襲われる。


「あれ、かな……」


 善三《ぜんぞう》から聞いた情報を手がかりに、凪《なぎ》は城山《しろやま》家とおぼしき家屋を見つけ出した。


「紗名《さな》、ここで待っててくれ」


 不安げに頷く紗名《さな》を残し、凪《なぎ》はひとり家の中へと足を踏み入れた。

 土間と居室部分だけで構成された質素な造りの家。ここには当時菊枝(きくえ)とその両親の三人が暮らしていたという。


「これ……は?」


 崩れかけた壁の隙間に何かが挟まっている。

 それは八尋《やひろ》家の納屋にあったような古びた帳面で、壁と壁の間に埋もれるように存在していた。


 ――この位置からじゃ無理だな。床下から……


 凪は一度外へ出ると、家屋の床下へと潜り込んだ。

 狭い隙間に腕を差し入れ、手探りで帳面を引き寄せようとする。


「クッソ、あとちょっとなんだけど――」


 ミシッ


「凪《なぎ》ッ――!」


 外で紗名《さな》が短く声をあげる。

 その直後、家全体が軋むような音を立てて崩れ始めた。


「凪《なぎ》っ!? なぎぃーーーーっ!!」


 全壊した家屋を前に、紗名《さな》の悲痛な叫びが響く。

 轟音から一転、あたりは再び不気味なまでの静寂に包まれた。


「あ……あ……」


 呆然と立ち尽くす紗名《さな》。

 しかし次の瞬間、その耳がかすかな物音を捉えた。


「――ふぃー、あっぶな……!!」


 がらりと音を立て、瓦礫の影から凪《なぎ》が顔を覗かせる。

 その手にはしっかりと、帳面が握られていた。


「もう!! だから危ないって……!」


 紗名《さな》が駆け寄り、凪《なぎ》に詰め寄る。


「わりぃ。でも、お前は中に入んなくて正解だったな」


 実際のところ、間一髪だった。

 崩れ始めた時には、とても間に合うタイミングではないと思ったのだが……偶然にも、瓦礫は綺麗に凪《なぎ》の周囲を避けるように落下したのだ。


「もう! もう! もうっ!!」


 涙目になりながら、凪《なぎ》の胸に拳を叩きつける紗名《さな》。

 その姿が、凪《なぎ》に懐かしい記憶を呼び起こさせた。


 ――ちっちゃい頃はよくこうやって癇癪《かんしゃく》を起こしてたっけ。


 いつもしていたように、頭にそっと手を置く。

 その途端、張り詰めていた紗名《さな》の感情は一気に決壊した。


 大声をあげて泣きじゃくる紗名《さな》を、凪《なぎ》は無言で撫で続ける。


 高く上った太陽と、蝉の声。

 木々の間を抜ける風が、二人をやさしく包み込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。