14 八尋善三
次の日。
皆はまた朝から凪の家に集まり、菊枝とのやり取りを楽しんでいた。
交信が二日間空いたことに加え、キャンプの報告も山ほどある。
自動販売機のこと、シャワー設備のこと……菊枝がいちいち驚いてくれるものだから、凪たちは得意になって次々にメッセージを送った。
そうして時刻が正午を少し回った頃。
反射した光の中に、不穏な内容が映し出される。
“ 大人にみつかりました ”
いつになく荒い走り書きで、一行だけ。
凪たちはすぐに事態を察した。
大人とは、神社を管理している八尋家の誰かだろうか。菊枝は神社から鏡を持ち出していると言ったから、別の村人かもしれない。
いずれにせよ、見つかったのなら一大事だ。返信が途絶えて凪たちが心配しないように、急いでメッセージを書いてくれたのだろう。
“ 無理はするな
こっちはいつまでも待つから、
ほとぼりが冷めたら返事を入れてくれ ”
そう返信して凪は皆の顔を見渡した。
皆一様にひきつった表情をしている。
「大丈夫だ。そのうちまた返事、くれるよ」
そう言ったものの、一番不安を感じているのは凪自身だった。
曳石神社の管理を行ってきた家系の者として、神社のことで菊枝を余計なトラブルに巻き込みたくはない。
あの時、過去の八尋家に謝りに行かせればよかったのか。
いや、結局それも一緒だ。
どのみち怒られて、鏡を取り上げられていただろう。
自分がその場に行けないのがもどかしい。直接話せれば何か解決の方法もあるかもしれないのに……
「大丈夫、大丈夫だよ……」
張り付いたような笑みを浮かべながら、凪は自分に言い聞かせるように何度も呟く。
凪たちにできることは菊枝からの返信をひたすら待つことだけだった。
〈 みっこぉ 〉 凪ちゃーん、今日もダメぇ?
〈 凪 〉 …………ああ⤵
菊枝からの連絡が途絶えてもう五日になる。
その間、凪は毎日メッセージを書き続けた。
しかし鏡に光を当てても映るものは自分の書いた内容だけで、菊枝からのアクションは皆無だった。
〈 みっこぉ 〉 ねえ、もっかい見てみてよ
〈 凪 〉 いやさっき見たばっかだから
「……って、えっ?」
未久に促されて確認した光の中に、不可解な文字が浮かび上がっていた。
“ 昭和拾二年八月廿日
鏡ヲ再ビ封ズ
善三 ”
「これは……!?」
おそらく菊枝が『見つかった』という大人の手によって書かれたものだろう。
文字が左右反転している。鏡を封じるにあたり紙か何かで包んだ際に、書かれた文字が裏写りしたのだろうか。
光の中に現れた文字は菊枝からの反応ではなかったが、これではっきりした。
鏡は菊枝の手から離れ、どこか手の届かないどこかへしまい込まれてしまったのだ。
落胆する凪だったが、その内容には一部引っ掛かる点があった。
「善三……?」
――その名前は凪が生まれる遥か以前に他界した祖父の名前と一致した。
「じいちゃん……」
仏間の肖像画を前に、凪が語り掛けるように呟く。
祖父が亡くなった理由は鉄砲水だったと聞いている。
位牌に記された命日は――『昭和十二年 八月 二十七日』。
「昭和……十二年!?」
今日は八月二十日。
つまり今から一週間後に、昭和十二年の善三は水害により命を落とす――ということになるのだろうか。
凪はすぐに鏡を持ち出し、メッセージを送信した。
“ 八月二十七日、天原村で水害が起こります
時間は不明ですが
安全な場所に避難して下さい ”
鏡がもう封じられているのであれば見てもらえる望みは薄いのかもしれない。それでも凪は希望を捨てなかった。
第一報を送り、すぐにこの昭和十二年水害について調査を開始する。
まず行ったのはネットによる検索だが、情報はほとんど出てこなかった。
「くそっ、もっと情報があれば……!」
凪はメッセージアプリを起動し、祈るような気持ちで書き込みを行う。
〈 凪 〉 みんな! 力を貸してくれ!!
送信と共に、一斉に『?』のスタンプがついた。皆見てくれているようだ。
〈 凪 〉 昭和12年の8月27日、天原で大規模な水害が起こる
俺のじいちゃんもそれで死んだ
このままだと菊枝も危ない!何とか伝えてやりたいんだけど
〈 みっこぉ 〉 うええ~~~~!?!?
〈 凪 〉 とりあえず今わかってるのは水害だってことと、日付だけだ
それはさっき鏡で送っておいたんだけど
〈 凪 〉 どこからくるとか、どこに逃げたらいいとか、それも伝えてやれないかなって
〈 さな 〉 ネットとかに記録あったりするんじゃない?
〈 凪 〉 調べたんだけど全然情報ないんだよ
〈 久志岡悟 〉 図書館はどう?
〈 凪 〉 それだ!!!!
凪はすぐに家を飛び出し、町立の図書館へと向かった。




