11 夏空の下
「うわあーーーー!!!! ひろーーーーい!!」
「待ってよみっこーー!!」
山あいに賑やかな声が響く。
凪たちは夏休みを利用して中津町内のキャンプ場を訪れていた。
近場ではあるが、自然の中に身を置けば十分に非日常を味わえる。
思えば――凪があの帳面を見つけたのも、このキャンプの準備をしていたときのことだった。
それから神社で鏡を見つけ、メッセージに気付き、そして――菊枝という新しい仲間と出会った。
さすがにここへ鏡を持ってくることは出来ないので、今日と明日は交信もお休みにした。それは事前に菊枝にも伝えてあり、彼女も快く了承してくれた。
菊枝によれば、昭和十二年当時のこのあたりは人も寄り付かない山奥であったようだ。
集落もなく、当然そこへ至る道などもない。人口が今とは比べ物にならないほど少なかったことも関係するのだとは思うが、そのような誰も踏み入ったことのない土地などそれこそ当たり前にあったのだという。
現在この一帯は自然公園となっており、キャンプ場はその中に存在する。
電源や水洗トイレ、シャワー棟まで備えた快適なもので、料金を支払えば家電や調理器具などの揃ったロッジに泊まることも可能なのだが——中学生の財布ではテント泊が限界だった。
「――ここを今日のキャンプ地とするっ!!」
キャンプサイトに未久の勇ましい声が響く。
凪たちは受付を済ませると、川沿いの木陰にあたる部分に拠点を構えた。
なにせこの気温である。少しでも涼しい場所を確保しなければ倒れそうだ。
ありがたいことに他の利用客は見当たらず、場所は選び放題だった。
テントは凪の家と悟の家からひとつずつ。
それぞれ持ち寄ったものを男女で分かれて使用することにした。
テントの設営を行い、それが終わるとすぐに食事の支度に取り掛かる。
メニューは定番のカレーだ。
男子が飯盒炊爨、女子がカレーと、それぞれ分担して動き出す。
「うわっ! 吹きこぼれてきた」
「まだ開けちゃダメっ!」
焦って飯盒の蓋を開けようとする凪を、紗名がぴしゃりと制する。
「火から遠くして弱火の状態で——そうそう、それでそのままあと十分ぐらい。カレーの方ももう少しだね。あ、紙皿じゃ熱くて持てないか……みっこごめん、管理棟行って陶器のお皿借りてきてくれる?」
「らじゃー!」
テキパキと指示出しをする紗名は、生き生きとして見える。このところ少し元気がないようにも感じていたが、いつもの調子が戻ってきたようだ。
その様子を見て、凪の顔にも自然と笑みがこぼれた。
「なにニヤニヤしてんの?」
紗名が怪訝そうな表情で凪の顔を覗き込む。
「してないって」
「いや、めっちゃ気持ち悪い顔してた」
「はぁっ!? おま――」
「ねー悟くーん、凪がチョー気持ち悪いんですけどー」
「え? それはいつものことじゃないの?」
「悟ぅーーーー!!!!」
凪の叫びが、青く澄んだ空に吸い込まれていく。
里山の自然に抱かれて、凪たちの作業は賑やかに――そして着々と進んでいくのだった。
「かぁーんせーい!!」
ホカホカと湯気を立てるカレーライスを前に、全員の表情がぱあっと輝く。
飯盒の底が焦げてしまっていたり、カレーにも灰が混じってしまったりと、クオリティ的には微妙な仕上がりであったが……『みんなで作ったカレー』というのはそれだけでスペシャルな料理だ。
「……おいしい!」
「月並みだけど……なんで外で食うメシってこんなに美味いんだよー!!」
「悟くん見てこれみっこが切ったやつー!」
「うん。ヒトデ、上手にできたね」
「お星さまだよ!!」
凪たちは賑やかにカレーを堪能し――片付けを終える頃にはあたりはすでに暗くなり始めていた。
「早めに作って正解だったな」
「でしょー?」
「さて、あとは……風呂か」
キャンプサイト利用者もシャワー棟の使用は可能だ。
利用者が少ないとはいえ、拠点を無人にするのはためらわれる。凪たちは男女に分かれて順番にシャワーを浴び、一日の汗と疲れを洗い落とした。




