09 死闘
(もしかして……こいつがライラノスの言ってた、凶運ってやつか?)
右手の内側に奇術の種を忍ばせながら、ギャムレイはそのように思案した。
突如として出現した老人は、いかにも不吉な気配を漂わせている。真っ黒に染めあげたフードつきマントというのも見るからに怪しげであったし、フードの陰から覗く青白い顔も亡霊のように薄気味が悪かった。
「お前さんが、この大層な宝石の持ち主だってのか? 言っちゃ悪いが、こんな立派なお宝を手にできるような人間には見えねえな」
真紅に燃えさかる宝石を握りしめたまま、ダルドロがそのように言いたてる。
雑木林にたたずむ謎の老人は、陰々たる声でそれに答えた。
「しかし、それが事実です……この者どもはわたしの留守に忍び込み、その秘石を盗み出したのです……」
「ああ、そうかい。じゃ、これからこの盗賊どもをふん縛って、衛兵さんに突き出すところなんでな。お前さんも同行して、この宝石が自分のもんだって証を立てるがいいさ」
ダルドロの物言いに、トゥーイが「おいおい」と声をあげた。
「何をうだうだ抜かしてるんだよ? 俺たちには関係ねえ話なんだから、そんなもんはさっさと渡しちまえよ」
「ふん。それで丸く収まるんなら、俺もそうしてえところだがな。俺の鼻が、そうさせてくれねえんだよ」
ダルドロは不敵に笑いながら、手斧を握りなおした。
「この老いぼれからは、どうしようもねえほどの殺気が匂いたってやがる。この宝石を返そうが返すまいが、俺たちのことは放っておかねえ。……そうなんだろう?」
「……その秘石は、儀式に必要であるのです……その儀式を完成させるには、秘石の聖性を守らなくてはなりません……」
そんな謎めく言葉を語りながら、老人は口を吊り上げて微笑んだ。
それで老人は、いっそう不吉な存在に成り果てる。フードの陰に瞬くその双眸は、ぶすぶすとくすぶる熾火のように燃えていた。
「そして、秘石の聖性を守るには……それを目にした人間の魂が必要となるのです……」
周囲の茂みが、ガサガサと鳴った。
トゥーイは舌打ちをしながら、グリギの棒を握りなおす。
「こいつも手勢を伏せてやがったのかよ。ったく、ライラノスの星読みってのも馬鹿にできねえもんだな」
「おい、気を抜くな。こいつは……何か妙だぞ」
ダルドロの言葉と同時に、ギャムレイは異臭を嗅ぎ取った。
胸が悪くなりそうな、おぞましい臭い――これは、腐臭である。
そして、ペテルが子供のような悲鳴をほとばしらせる。
その視線を追ったギャムレイも、思わず立ちすくむことになった。
茂みから、信じ難いものが顔を覗かせている。
それはずんぐりとした図体に細長い四肢を持つ、腐肉喰らいのムントであったが――腐肉を喰らうムントが、腐肉と化していたのである。
その顔などは半分がた腐り落ちて、白い頭蓋骨が見えている。
そしてその双眸は、青白い鬼火のように燃えさかっていた。
「こいつは、屍鬼だ! 辺境に巣食う妖魅だよ!」
トゥーイが恐怖を押し殺した声で言い放った。
「だけど、こんな人里に近い場所に妖魅なんざ出るはずがねえし、しかも今は昼っぱらだ! 手前……妖魅を操る妖術使いか?」
「ほう……ずいぶん妖魅にお詳しいのですな……ですが、これらの者たちが妖魅呼ばわりされるのは、あなたがたが正統なる神々を闇の向こうに追放したからに他なりません……」
老人が不気味な喜悦を孕んだ声で応じると、トゥーイはぎりっと奥歯を噛み鳴らした。
「手前の正体がわかったぞ! 座長、こいつは邪教徒だ! 手前は邪神を崇拝しながら四大神を邪神あつかいする、イカレ野郎だよ!」
「へえ。長生きすると、けったいな連中に出くわすもんだな」
ダルドロは感じ入った様子もなく、ぎょろりとした目で周囲を見回していく。こちらが語らっている間に、茂みの奥から続々とムントの屍骸――屍鬼が姿を現したのだ。
そして、荷車の向こう側からはあわれげな悲鳴が聞こえてくる。
おそらくダルドロたちに撃退された盗賊たちが、屍鬼に襲われているのだ。とたんに、ダルドロは眉をひそめた。
「また囲まれちまったのかよ。おい、シャントゥ。お前さんは、狼と大鷲でピノたちを守ってくれ」
シャントゥは「承知した」と荷車の陰に消えていき、狼も狂暴なうなり声をあげながらそれに続いた。
こちらの側だけでも、屍鬼の数は十体以上に及んでいる。
中にはほとんど白骨と化しているものや、腹から臓物を垂らしているものもいるのだ。それは現実が悪夢に塗り潰されたかのような、おぞましい光景であった。
「おい、妖術使いとやら! その化け物どもを俺たちにけしかけようってんなら、この大事な宝石を粉々にしちまうぞ?」
ダルドロが左手に握りしめた真紅の宝石を掲げると、妖術使いの老人はくぐもった笑い声をこぼした。
「そのときは、より凄惨な死をくれてやるだけよ……どのみち貴様らを滅さねば、秘石を浄化することもできぬのでな……」
ダルドロの言葉に怒りを覚えたのか、老人は表面上の丁寧さをもかなぐり捨てた。
「しかしまずは、貴様らだ……その不浄の手で神聖なる秘石を穢した罪は、万死に値する……」
屍鬼の群れが、草むらに倒れ伏した盗賊たちのほうにのろのろと近づいていく。
するとトゥーイが裂帛の気合をあげて、もっとも手近な場所にいた屍鬼へと躍りかかった。
黒き颶風と化したグリギの棒が、ムントの腐った頭部を強打する。
すると、ムントの首は呆気なく千切れて吹き飛んだが――残された胴体は動きを止めることなく、前足の爪で盗賊の咽喉もとを引き裂いた。
そして、草むらに落ちた生首のほうも、双眸を青く燃やしたままがちがちと牙を噛み鳴らす。
この世ならぬ妖術で蘇ったムントたちは、首を失っても死ぬことはなかった。
「おいおい、こいつは険呑だな。不死身のダルドロ様も真っ青だぜ」
この期に及んでも豪放さを失うことなく、ダルドロはそのように言い捨てる。
すると、横合いから一体の屍鬼がダルドロに襲いかかった。
全身が腐り果てているとは思えないほどの、俊敏な動きである。
決して身軽ではないダルドロはそれをかわすこともできず、宝石を握りしめた左腕で顔面をかばい、その前腕に牙を立てられることになった。
「座長!」と、ペテルが悲痛な声をあげる。
しかしダルドロは痛痒を覚えた様子もなく「ふん」と鼻を鳴らすと、左腕に噛みついた屍鬼の身体を大地に叩きつけた。
それだけで、そちらの屍鬼も首がねじ切れる。
しかしやっぱり魂を返すことなく、ダルドロの腕にぎりぎりと牙を食い込ませたままだ。
ダルドロはそれを黙殺して、地面の胴体に手斧を振り下ろした。
その一撃で、屍鬼の胴体はぐちゃりと二つに弾け飛ぶ。人間で言うと、上半身と下半身が生き別れになった格好である。
それでダルドロは弾け散った腐汁にまみれることになったが、おかまいなしで上半身のほうを蹴り飛ばした。
上半身も下半身も、地面の上でびくびくとのたうっている。たとえ死なずとも、その姿では立ち上がることもままならなかった。
「ふふん。殺せなくても、動けなくすりゃ同じことだ。シャントゥに比べりゃあ、つまらねえ芸だぜ」
ダルドロは、左腕に噛みついた屍鬼の頭部に手斧の柄の尻を叩きつける。
すると顎の骨が砕けたらしく、屍鬼の頭部も地面に落ちた。
ダルドロの毛むくじゃらな左腕は、鮮血にまみれている。
しかしダルドロが頓着することなく、景気のいい声をあげた。
「わかったな? とにかくこいつらもぶっ倒して、動けなくしろ! ちっと臭えのを我慢すりゃあ、どうってことねえぞ!」
「おう! まかせとけ!」
そのように応じるトゥーイも、すでに盗賊の生命を奪った一体を仕留めた後であった。トゥーイの棒で胴体を打たれると、そちらもぐちゃぐちゃに弾け散っていたのだ。
「こいつらは腐ってるから、身体も脆い! ただ、動きだけは素早いから、気をつけろ!」
トゥーイはグリギの棒を振りかぶり、二体目の屍鬼を叩き潰す。
しかし、これでようやく三体だ。残る屍鬼どもは盗賊たちに襲いかかり、あちこちから断末魔の絶叫が響いていた。
「ギャムレイ! こっちは大丈夫だから、ペテルを頼む!」
新たな屍鬼へと襲いかかりながら、トゥーイはそのように叫んだ。
いつしかペテルはその場にへたりこみ、子供のように震えていたのだ。盗賊相手には果敢に戦ったペテルも、妖魅が相手では勇気が尽きてしまうようであった。
(って言っても、俺の奇術でどうこうできるような相手なのか?)
ペテルの巨体を背後に庇いながら、ギャムレイは周囲を睨み回す。
トゥーイとダルドロもこちらに屍鬼を近づけないことを優先してくれているようだが、多勢に無勢であるのだ。ダルドロのかたわらをすりぬけた一体が、こちらにひたひたと忍び寄っていた。
(ま、俺にはこれしかねえからな!)
ギャムレイは最前までと同じように、ペテの油と火種を屍鬼の顔面に浴びせかける。
すると――首が吹き飛んでも平気で動いていた屍鬼が倒れ込み、苦悶にのたうち回った。
(あん? 意外に効いてるじゃねえか)
ギャムレイは内心で小首を傾げつつ、次なる屍鬼に同じ攻撃を仕掛ける。
するとそちらも呆気なく倒れ込み、鉄板をかきむしるような雄叫びをあげつつ暴れ狂った。
「おのれ……貴様、穢れた炎の使い手か……」
茂みの奥で悠然とたたずんでいた老人が、暗い怒りをひそめた声をあげる。
ギャムレイは次の獲物を物色しながら、「あん?」と応じた。
「穢れた炎ってのは、どういう言い草だよ? どんなもんでも、炎は炎だろ」
「炎とは、精霊のもたらす聖なる力である……それを人の手で生み出すなど、大神への冒涜に他ならん……」
「そいつはつまり、魔術で炎を生み出せってことかい? あいにく、こっちは奇術師なもんでね」
ギャムレイは、三体目の屍鬼に炎を飛ばす。
すると、何体目かの屍鬼を倒したトゥーイが威勢のいい声をあげた。
「そういえば、妖魅には火が効くって話だったんだ! お前にも見せ場がきたじゃねえか!」
「へん。客もいねえ舞台なんざで、どれだけ見せ場があってもなぁ」
と、ギャムレイが息をつきかけたとき、すぐ背後から悲鳴が轟いた。
突如として出現した屍鬼が、ペテルの肩に喰らいついたのだ。ギャムレイは「手前」と怒号をあげて、その屍鬼にも炎の奇術をくらわせた。
屍鬼は地面に転落し、その場で死の舞踏を踊り始める。
ペテルは血まみれの肩を押さえて、子供のように嗚咽をもらした。
「ギャムレイ! 上だ!」
トゥーイの声に顔をあげたギャムレイは、目の前に迫るムントの牙を見た。
炎の奇術を仕掛ける間隙もなく、ギャムレイは「うわあ!」と後ろざまに倒れ込む、その上に、屍鬼がのしかかってきた。
ギャムレイは右手で屍鬼の咽喉もとを押さえたが、その手の平がずぶずぶと腐った肉の中に沈みこんでいく。
そしてその上では鋭い牙が噛み鳴らされており、たまらない腐臭を孕んだ腐汁がギャムレイの顔に滴ってきた。
屍鬼は腐肉の塊であるのに、とてつもない怪力である。
そして片腕しかないギャムレイは、これ以上動きようがない。この腕の力が尽きたならば、目の前の牙に顔面を噛み裂かれてしまうはずであった。
(くそっ! こんなところで、死ねるかよ!)
ギャムレイは渾身の力で、屍鬼の腐った咽喉もとを握り潰した。
そして、その内側に待ちかまえていた頸椎を握りしめ、なんとか顔面から反らそうとする。
すると、その腐った頭部が粉々に砕け散った。
横合いから駆けつけたトゥーイが、屍鬼の頭部に棒を叩きつけたのだ。
その勢いで、屍鬼はギャムレイの上からずり落ちる。
ギャムレイは倒れ伏したまま懐をまさぐり、腐汁で湿った手で何とかラナの火を灯しながら、屍鬼の胴体にペテの油を浴びせかけた。
炎に包まれた胴体は、無言のままじたばたと身悶える。
そのとき、新たな悲鳴が響きわたった。
トゥーイの左足に、別なる屍鬼が牙を立てたのだ。
ギャムレイはもういっぺん懐をまさぐり、そちらの屍鬼の顔面に奇術を仕掛ける。
それで屍鬼は倒れ伏したが、トゥーイもまたがっくりと膝をついた。
「しくじったぜ……ま、お前らを見捨てるわけにもいかねえしな」
トゥーイは泣き笑いのような顔で、そう言った。
その左脛は無残に噛み裂かれて、白い骨が見えてしまっている。もはや立ち上がることもままならない深手であった。
「そら、俺にかまってるヒマはねえぞ」
トゥーイの目が、頭上に向けられる。
その視線を追ったギャムレイは、「くそったれ」とつぶやいた。ギャムレイたちが背後にしていた荷車の上に、三体の屍鬼が立ちはだかっていたのだ。最初の屍鬼は、そこからペテルに襲いかかったわけであった。
「荷車の向こう側に陣取ってた連中が、こっちに出向いてきたわけだな。どうりで数が減らねえわけだぜ」
そんなトゥーイのつぶやきを圧する勢いで、狼のうなり声と大鷲の甲高い鳴き声が聞こえてくる。荷車の向こうでシャントゥたちを相手取りつつ、余剰の敵勢がこちらに加わったようであった。
ペテルはいまだに嗚咽をあげており、トゥーイは立つこともできない。
ギャムレイは新たな火種を手に、ゆっくり身を起こした。
(三匹を同時に仕留めるのは、まあ無理だろうな。だったら、一匹でも多く道連れにしてやるぜ)
そんな覚悟を固めるギャムレイのもとに、三体の屍鬼が同時に跳びかかる。
ギャムレイもまた三つの火種を同時に放ったが、命中したのは一発だけだった。
残る二体は聞き苦しい咆哮とともに、ギャムレイの眼前に迫る。
そうしてギャムレイが半ば死を覚悟したとき――新たな人影が割って入った。
ダルドロである。
二体の屍鬼は、ダルドロの禿げあがった頭と逞しい右肩に牙を立てた。
火花のように、鮮血が弾け散る。
しかしダルドロは、陽気に笑ったままであった。
「そら、さっさと片付けろよ」
笑顔のダルドロにうながされて、ギャムレイは炎の矢を射出する。
それで二体の屍鬼は、順番に地面に落ちた。
頭と右肩を噛み裂かれたダルドロは、毛むくじゃらの全身が血まみれだ。
頭などは皮膚がめくれて、頭蓋骨が見えてしまっている。
それでもダルドロは笑っていたが――その黄色い乱杭歯の狭間から、突如として大量の鮮血が噴きこぼれた。
それと同時に、分厚い胸板から刀剣の切っ先が顔を出している。
背後から忍び寄った盗賊の小男が、ダルドロの背中を刀剣で刺し貫いたのだ。
そしてその小男も咽喉笛を噛み裂かれており、すでに屍鬼と化していた。
「んぐ……」と不明瞭な声をあげて、ダルドロはその場にひざまずく。
それであらわになった小男の顔面に、ギャムレイは炎を浴びせかけた。
小男は剣の柄から手を離し、獣じみた絶叫をあげながら倒れ込む。
それを横目に、ギャムレイはダルドロに取りすがった。
「座長、しっかりしろ! あんたは、不死身なんだろ!」
「へへ……俺は石頭なだけだよ……ま、タネをバラしちまうと……俺は生まれつき、痛みを感じねえ身体だったのさ……」
血まみれの顔で豪放に笑いながら、ダルドロは胸もとから生えのびた刀剣の切っ先を拳で小突いた。
「だから今も、痛くも何ともねえんだが……これじゃあ、さすがに助からねえな……座長が真っ先にくたばるなんざ、不甲斐ないこったぜ……」
「座長!」と、ペテルもにじり寄ってきた。
その厳ついが幼い顔は、新たな涙に濡れている。
「だ、駄目です! 死なないでください! 俺たちには、座長が必要なんです!」
「無理を言うんじゃねえよ、ペテル……ベラがくたばってもどうにかできたんだから、俺なんざいなくてもどうとでもなるさ……」
ダルドロは左腕をのばして、ペテルの胸もとを力なく小突く。
すると、その手から赤い宝石がこぼれ落ちた。ダルドロは、まだそんなものを握りしめていたのだ。
「ピノを……よろしく頼むぞ……」
最後まで陽気に笑ったまま、ダルドロの瞳から光が消え失せる。
ペテルは凄まじい咆哮をほとばしらせると、草むらに落ちた宝石を拾い上げ、猛然と身を起こした。
「おい! これを見ろ!」
ペテルは憤激の形相で、茂みの向こうにひそむ老人をにらみつける。
そして、その怪力で宝石を握り潰した。
とたんに、茂みの向こうから怪鳥のごとき悲鳴が響きわたる。
「よくも秘石を……その痴れ者を、八つ裂きにするのだ……!」
屍鬼と化した盗賊たちが、ひたひたと近づいてくる。
それを突っ切って、ペテルは突進した。
まるで、怒れるカロンのごとき突進である。
盗賊たちの振るった刀剣がペテルの腕や背中をかすめたが、その突進は止まらなかった。
ペテルが向かっているのは、首魁たる老人のもとだ。
すると、ひときわ体格のいい盗賊の屍鬼が素早くペテルの前に立ちはだかった。
ペテルは手斧を、屍鬼は刀を振りかざす。
ペテルの手斧は屍鬼の頭を吹き飛ばし、屍鬼の刀はペテルの頭に生えた巨大な角に激突した。
すると、ペテルの角はもしゃもしゃの茶色い髪ごと吹き飛ばされる。
ペテルは角ばかりでなく、その髪も作り物であったのだ。
そして、ペテルの頭には一本の毛も生えておらず――
その頭頂部には、人間の親指ほどの小さな角がちょこんと生えていた。
「ペテル! よけろ!」
ギャムレイが叫んだが、間に合わなかった。
ペテルが足を止めたため、残る屍鬼たちが追いついたのだ。
それらの刀剣が、ペテルの巨体を串刺しにした。
しかしペテルはかまわずに、再び突進した。
三体の屍鬼を引きずって、同じ勢いで突進したのだ。
妖術使いの老人は「ひっ」と情けない声をあげて、身をひるがえそうとする。
その首筋に、ペテルの手斧が叩き込まれた。
老人の生首が吹き飛んで、横合いの樹木に叩きつけられたのち、地面に落ちる。
すると、すべての屍鬼がその場に倒れ伏した。
妖術使いの死によって、妖術も解除されたのだ。
「ペテル!」
動けぬトゥーイをその場に残して、ギャムレイはペテルのもとに駆けつけた。
三本の刀剣に串刺しにされたペテルは、茂みの中でくずおれる。
ギャムレイは唇を噛みながら、ペテルのもとに膝をついた。
ペテルは、幼子のような顔で泣いていた。
「ごめんなさい……俺がこんなに臆病な人間じゃなければ……座長も死なずにすんだかもしれないのに……」
「関係ねえよ。お前と座長が、ピノを守ったんだ」
ギャムレイは、ペテルの丸太のような腕に触れた。
ペテルは胸と腹に三ヶ所も風穴をあけられているのだ。もはや手の施しようもなかった。
「それに……隠し事をして、ごめんなさい……」
はらはらと涙をこぼしながら、ペテルはそう言った。
ギャムレイは腹の底からせりあがってくる激情を呑みくだして、「ははん」と笑ってみせた。
「仲間の素性は詮索しねえのが、俺たちの仁義だろ? 虚言じゃなくって隠し事なら、何も謝る必要はねえさ。……そんなちっぽけな角じゃ、見世物になんねえもんな」
ペテルは口もとを震わせながら、幼子のようにはにかんだ。
そしてそのまままぶたを閉ざすと、二度と開くことはなかった。




