39 明智の推理
明智は、自分の思考が深く深く研ぎ澄まされていくのを感じた。今なら全てが分かるような気がする。春木の方を向き話し始めた。
「春木企画官、あなたは同期の吉田部員と同様、自衛隊施設の防護性能の確保が不十分なことについて問題意識を持っていたはずだ。ただ、地道な改善を模索していた吉田部員と違い、あなたは一気に防護性能の確保を図れないかと考えていた。そんなとき、あなたは遠藤と出会ったんでしょう」
春木は何も言わない。明智が続ける。
「おそらく、遠藤はあなたにこう言ったんでしょう。日本は平和ボケしている。このままではいつまで経っても防護性能の確保に必要な予算は取れない。だが、一つだけ方法がある。実際に自衛隊施設がNBCテロ攻撃を受け、防護性能の不十分さが明らかになればいいのだと。抜本的な改革のためには犠牲が必要だと。そして、あなたは悩んだ末それに乗った」
春木は無言のままだ。遠藤はニタニタ笑っている。
「自衛隊施設の攻撃に役立つ情報を遠藤に提供するとともに、現状の自衛隊施設を可能な限り脆弱なままにしようとした。そして、吉田さんの動きを妨害した。あなたのことを同志だと思っていた吉田さんは、さぞ怒ったでしょう」
「春木企画官、あなたは同期の吉田さんを何とかして仲間に引き入れたかったのではないですか? だから門野を使って逐次動向を探り、そのタイミングを狙った。それが、3月23日の赤羽の会合後だったのではないですか?」
春木は、驚いた顔をして明智を見た。すぐに目を逸らそうとしたが、明智の漆黒の瞳に見据えられ、何故か目を離せなかった。
† † †
春木の目をまっすぐ見つめたまま、明智が聞いた。
「春木さん、あなた、吉田さんと若い頃にあの公園でよく会って飲んでたんですよね? それで、門野を使って、会合後の吉田さんをあの公園に呼び出したんですよね?」
「ど、どうして探梅公園のことを知ってるんだ!」
春木が叫んだ。明智が静かに答える。
「単なる勘ですよ、春木さん。あなたは吉田さんと同期だ。そして、吉田さんの奥さんによると、吉田さんは若い頃、東京勤務時代にあの公園で同僚と飲んでいたそうです。その同僚は、あなたじゃないかってね」
明智は一欠片の優しさもない笑みを浮かべた。
「そもそも、どうして『あの公園』というだけで、公園の名前が分かるのですか? 僕自身、あの公園の名前を知らなかったのですが。探梅、梅見のことですね。風流な名前ですね」
春木が口をパクパクして何か言おうとしたが、明智は構わず続けた。
「その風流な梅の花が咲き誇る公園で、あなたは吉田さんに計画を打ち明けた。仲間になるよう持ちかけた。だが、拒否された」
明智は、京都の仏壇に飾られていた吉田部員の写真を、涙を流す吉田の老母を思い起こした。
「そして、怒って帰ろうとする吉田さんを階段前で呼び止め、突き落として殺害した」
春木が立ち上がった。大声で叫ぶ。
「違う、違うんだ! もう一度説得しようと、私は吉田を呼び止めてアイツの肩を掴んだんだ。そうしたらアイツが私の手を払いのけて、その時にバランスを崩して背中から階段に落ちたんだ。俺は殺してなんかない!」
「では、どうしてすぐに救急車を呼ばなかったのですか?」
「そ、それは……」
「どうせ、あなたは吉田さんに『このことは防衛監察本部に通報する』とでも言われたんじゃないですか? あなたは、吉田さんが死んでしまった方がよいと考え、救護措置を行わず、偽装工作を遠藤に頼んだんでしょ? 遠藤にとってはいい迷惑だったでしょうが」
春木は口ごもる。明智は話を続けた。
「当初、遠藤は、門野を同行させて位置情報を把握していた永山副長をオートバイで襲い、自衛隊施設の防護性能に関するリストを奪うことだけを考えていたはずです。おそらく、僕の後ろに立っている2人のどちらかがオートバイに乗り、どちらかがトラックで待機していたのでしょう」
遠藤がニヤリと笑った。
「そして、あなたから連絡を受けた遠藤は、2人に指示し、防犯カメラがない場所でトラックの荷台にオートバイを乗せて探梅公園に向かい、階段で意識不明あるいはすでに亡くなっていた吉田さんを路上に移動させ、トラックから降ろしたオートバイで吉田さんを轢いた。その後は、あなたもトラックに同乗して移動したんですかね。途中で下ろしてもらうか、この愛珍まで送ってもらうかした後、タクシーでも使って自宅に帰ったんでしょう」
春木はもう何も言わなかった。倒れ込むように椅子に座った。




