38 円卓の攻防
「ふむふむ、明智警部補は東大卒の警察庁採用なんじゃな。採用1年目で研修中か。小林警部補は元々は交通畑なんじゃな」
遠藤がタブレットを持ち出してきて、データを見ながら話し始めた。
「……なんと、5年前に妻子を交通事故で亡くしているのか。それはご愁傷様じゃのう」
それを聞いた明智が、驚いて左隣の小林を見た。小林が明智を見て苦笑する。
「突然だった。夫として、父親として、交通警察として、何もしてやれなかったよ」
小林は、遠藤に話しかけた。
「どこからそんな情報を仕入れてきたんだ?」
「ほっほっほ、それは秘密じゃ。お、料理ができたようじゃな」
店員の1人が様々な料理を運んできた。円卓中央の回転テーブルに並べる。ご丁寧に炒飯とカニ玉もあった。
料理を並べ終わった店員は、小林たちの椅子の後ろに回り、もう1人の店員の横に立った。
「さあ、いただくとしよう。といっても向かいのお二人は犬食いじゃな。ほっほっほ」
遠藤は笑いながら箸を取った。箸の先端を2人に向ける。
「どこまで知っとるんじゃ?」
「……」
小林と明智は無言で遠藤を睨みつけた。遠藤が小林たちの後ろに立っている店員に顎で指図した。店員が小林の顔を殴りつけた。
「こ、小林さん!」
「……大丈夫だ。心配ない」
叫んだ明智に、小林が優しく声をかけた。左の頬がジンジンする。口の中が切れたようで、うっすら血の味がする。今の衝撃で付け髭が取れてしまった。
「ほっほっほ、注意は一度きりじゃ。次はないぞ」
店員が、拳銃を小林の頭に向けた。小林は無言で遠藤を睨み続けた。
「待て、僕が話す。銃を下ろさせろ」
明智が静かな声で遠藤に話しかけた。遠藤が笑った。
「ほっほっほ、学生服のヒヨッコが教えてくれるのか。楽しみじゃのう」
そう言うと、遠藤が箸で青菜の炒めを小皿に移して食べ始めた。店員は拳銃を下ろした。
† † †
「さて、どこまで知っているのかな、ヒヨッコくん?」
「全てです。聞きたいですか?」
明智は静かに微笑んだ。心の中で燃え上がっていた怒りの炎が、すうっと消え、心が凍てつき研ぎ澄まされていくように感じる。いつもの温かみが消えたその笑顔は、まるで彫刻のようで、冷たく、美しさが一層際立った。
小林は、明智の変化に驚いたが、明智が時間稼ぎをしようとしていることを察して、見守ることにした。
「ほっほっほ、大言壮語じゃなければいいがのう。面白い、聞かせてもらおうか、その『全て』とやらを」
遠藤が乗ってきた。明智は、静かな声で話し始めた。




