37 潜入
スーツ姿に付け髭をつけた小林と、黒の詰襟の学生服に茶髪の明智は、愛珍のドアを開けて店内に入った。
店内は、4人掛けのテーブル席が5つほどと、奥に回転テーブル付きの大きな円卓が一つあった。春木は、その円卓に1人で座っており、他に客はいない。
小林と明智は、入り口近くの4人掛けテーブルに向かい合って座った。中華風の背もたれの高い椅子で、思ったより重い。店内は全てこの椅子のようだ。華奢な明智は、椅子の位置を合わせるのに苦労していた。
少しすると、厨房から店員が水の入ったコップを持って出てきた。先ほどトラックから荷物を下ろしていた男性だ。
メニューを机に広げて、小林が明智に聞く。
「慧一郎、何食べる?」
「そ、そうだなあ、天津飯にしようかな、お父さん」
あまりに自然な小林の演技に驚きつつ、ちょっと顔を赤らめながら明智が答えた。店員が困った顔をした。
「うちの店、天津飯ない。炒飯と、カニ玉ならできる」
「じゃ、じゃあそれで」
などと話し、適当に料理を注文した。注文を終えると、小林と明智がちらっと奥の円卓を見た。春木もちらっとこちらを見たが、特に気づいていないようだ。そうしていると、店内の奥から老人が出てきた。春木に向かい合って円卓に座った。
老人は70代前後、年齢にしては大柄で、優しそうな丸顔に福耳。頭ははげ上がっている。
小林と明智は、部屋の隅に置かれているテレビを見るふりをして、春木と老人の会話に耳をそばだてた。
† † †
「……遠藤さん、いつやるんですか?」
「ほっほっほ、まあ、そんなに慌てなさんな」
「そう仰ってもう半年。補正予算の編成が始まります。このままだと来年の本予算に先送りになってしまいます。以前、私からお伝えした候補、ご検討いただけましたか?」
「検討しとるよ。まあ、上位3ヶ所から絞りこむ感じかのう」
「被害は最小限に、効果は最大限にしていただきたい」
「ほっほ、まさに偽善じゃなあ。その最小限は、果たして何十人かな? あの2人は入っとるのかな?」
「……」
「さてと……」
そう言うと、遠藤と呼ばれた老人が、指をパチンと鳴らした。
それを合図に、厨房から拳銃を持った2人の店員が小林たちのテーブルの前に出て来た。身構える小林たちに、先程注文を取りに来た店員が無表情で伝えた。
「店主が呼んでる。向こうの席へ。そうしないと、死ぬ」
「慧一郎、こいつらの言うとおりにするんだ」
小林が明智に小声で言った。
† † †
「遠藤さん! こ、こいつらは一体?」
「まあまあ、春木さん、落ち着いて。お客人に席を譲ってあげなさい」
遠藤と呼ばれた老人は、慌てる春木をなだめて、自分の横に座るよう促した。そして、2人の向かいに小林と明智を座らせた。
小林たちの後ろに拳銃を持って立つ店員に、老人が指示をした。
「料理と飲み物をこちらへ。あと、今日は早いが店じまいにしよう」
それを聞いた店員の1人がドアのところへいって少しだけ開けると、外のノブに掛けていたプレートを「準備中」にした。そして、ドアを閉めて鍵をかけ、厨房へ入って行った。
老人は、円卓の向かいに座らされた小林と明智に挨拶した。
「初めまして。赤羽南警察署の小林警部補に明智警部補じゃったかな」
「お前が遠藤か」
小林が睨みながら言った。店員の1人が小林の両腕をつかんで背もたれの後ろに回し、手首を結束バンドで締め上げた。明智も同じように拘束する。そして、2人のスマホを取り上げた。
その様子をニタニタしながら眺めていた老人が2人に話しかけた。
「ほっほっほ、ワシが遠藤じゃ。今晩はゆっくりしていってくれ」




