550.地図 part2
550.地図 part2
母さんにこれからの方針を話した所、想定していなかった言葉が返ってきた。
このまま南と西の皇家へマナスポット修復を働きかければ、最悪はティリシアが2つに割れると氷結の魔女は言う。
「母様はこのままだと、ティリシアは内戦になると……本気で考えているんですか?」
「あくまで、その可能性があるって話よ。流石に私も本当に内戦までいくとは思って無いわ。ただね、欲望ってヤツは、時に信じられない行動をとらせる事がある。アンタも知ってるでしょ」
確かにオレも何度か見た事がある。グレートフェンリルのググ領で、騎士団長の座を巡って権力闘争に巻き込まれた時。国外追放を言い渡された際のフリードもそうだった。
アルジャナのイリルでも、ミスリルの売買で領主が欲に塗れて出ばって来た。
善意と悪意、何が発端だとしても、欲に溺れた者は目先の利益に固執していた気がする。
「でも内戦なんて……そんな……一体どうすれば……」
「そうねぇ……この件はアル、アナタが表に出るのは控えた方が良いわ。どんな結末が訪れるとしても、魔族の未来は魔族自身が決めるべきよ。対話で全てを丸く収めるのか、圧をかけて言う事を聞かせるのか……それとも血を流してでも豊かな土地を望むのか…………勿論、全てを見なかった事にして、現状を続けていくのでも良い」
「要は使徒ではあっても、他種族である妖精族の始祖が魔族の未来を決めるべきでは無いと、そう言いたいのですか?」
「ええ、そうよ。それにアルは冷たいと思うかもしれないけど、魔族の未来への責任なんて誰にも負えない……当の魔族以外にはね。だったらどんな決断をするにせよ、本人達に決めさせるべきだわ」
「本人達に決めさせるって言っても、具体的にどうやって?」
「地図とクエンを処分した後、東西南北 全ての皇家にありのままを話すしか無いでしょうね。その上で、こちらの条件として、今回知り得た情報の破棄の対価として、マナスポットの修復を約束する。受けてくれるのであれば窓口は、カナリス伯爵に努めてもらうのが良いわね」
「そこまで大々的にやって、フォスタークに使徒の件が漏れませんかね……」
「それこそ今更ね。敵対してる相手に使徒の件を知られちゃってる以上、遅かれ早かれフォスタークの耳に届くのは間違い無いわ」
「そんな……」
「アル、腹を括りなさい。こうなった以上、いつでも独立出来る準備は整えて、その上で少しでも情報が漏れるのを防ぐべきよ。本当は後5年もあれば、2つ目の開拓村に移住が始まるでしょうから、ヨシュアはそこまで引っ張りたかったんでしょうけど……しょうがないわね」
「分かりました……」
納得は出来ないが、母さんの言う事は的を射てる……恐らく、遠くない先に使徒の件はフォスタークの耳に入るのだろう。
必死に心の整理を付けていると、母さんは不機嫌そうな顔で更に口を開いた。
「次に同じような事があったら、ちゃんと周りに頼るのよ。良いわね」
「はい……気を付けます」
「じゃあ、この件はもう良いわ。次の件よ!」
むむむ……他に何か言われるような案件ってありましたっけ??
「アシェラに聞いたわよ。アンタ、明日のミュラーに私とライラを置いて行くつもりだったでしょ! 近接戦闘ができなくても、騎士ていど何人いても私の脅威にはならないわ! 舐めないで頂戴!」
むぅ……いや、そりゃ、チビさんのドラゴンアーマーに加え、母さんの魔法の腕があれば、そうそうピンチにならないでしょうけど……最悪はミュラーの街の騎士団全部と戦う可能性があるわけで……物量でこられたら流石に荷が重いのでは?
なるべく機嫌をそこねないよう、オブラートに包んで話したのだが、氷結さんは納得してくれなかった。
曰く「アンタ、私を……魔王を舐めてるでしょ」から始まり、「1つの街の騎士なんて、直ぐに戦えるのは精々1000人でしょ。上等じゃない。私が全部 物言わぬ躯に変えてやろうじゃない!」と、謎の魔王ムーブ全開で訴えてくる。
いや、だから……皆殺しにするなら、コンデンスレイで良いわけで……せめて被害は最小限にしたいって言うか……
「そんな真正面からやり合うつもりは無いんです。出来れば隠密行動で全てを終えられると嬉しいって言うか……」
「アンタが何て言おうと私は付いて行くわよ。良いわね? 置いてったりしたら許さないんだから。アシェラも、アルが置いていこうとしたら、私に教えなさい」
「分かりました、お師匠……」
結局、こうなった氷結さんを止める事は誰にもできなかったのである。
因みに、ライラも勿論 参加するらしく、明日のミュラーの街 潜入作戦は、オレ、エル、アシェラ、ライラ、氷結さんの5人での行動となったのは特筆しておく。
◇◇◇
次の日の朝、朝食を摂った後の事。
「さぁ、アル。とっとと行くわよ。サッサと行って、ちゃちゃっと終わらせましょ」
こう話すのは安定の氷結さんである。まるで近場にお使いでも行くかのようなノリだ。
「母様、そんな軽く言われても……一応、これから戦いに行くんですから」
「もぅ、アルは深刻ぶっちゃって。相手が主って言うなら兎も角、そこらの騎士でしょ? 緊張する理由なんて無いじゃない。立ちはだかるヤツは問答無用で倒せば良いんだから、何を緊張する必要があるのよ」
確かに母さんの言う事は一理ある。倒すつもりであれば、騎士が何人来ようとオレ達の脅威には成り得ない。
いつもは見つからないようにだとか、怪我をさせないように気を配っているからこそ、面倒なのだから。
「ハァ……分かりました。じゃあ全員 顔を隠すため、マスクの着用をお願いします。それとやっぱり無駄な殺生は極力減らしたいんです。領主館の中に入ったら、アシェラを先頭に進みましょう。アシェラ、騎士は出来るだけ殺したく無い。なるべく「睡眠」を撃ち込んで無力化してくれ」
「分かった! 向かってくる騎士は、ボクが全員ぶっ飛ばして寝かせる!」
あー、ぶっ飛ばすのはデフォなんですね……本当は「睡眠」だけ撃ち込んで欲しいんですけど、手間をかけさせてアシェラを危険に晒したくもないわけで……
「分かったよ。でもなるべく軽めのヤツで頼むな。お前の拳だと、そこそこの威力でも死んじゃいそうだからな」
「分かった、軽くぶっ飛ばす!」
本当に分かってるのでしょうか、この娘は……心配だ。騎士の汚ねぇ花火なんて見たくないですよ? 頼みましたからね、アシェラさん。
全員の準備が完了したのを確認した後、ミュラーの街から2時間ほどの距離にある、昨日作った領域へ飛ばしてもらったのであった。
「ここは……洞窟? 兄さまは昨日、ルイスをここから運んだんですか……良くこんな洞窟を見つけられましたね」
「範囲ソナーを打ったら、運良く見つけてな。キラースパイダーの巣になってたから、掃除してから領域を作ったんだ」
「なるほど、キラースパイダーですか……」
エルは嫌そうな顔で辺りを見て、急に落ち着かない様子を見せている。
お前、虫ダメだっけ? そう言えば、以前エルフの郷を助けた際、マンティスの主が最悪だったって言ってたな……凄く気持ち悪かったっとも言ってたし、もしかしてあれで虫が嫌いになったのか?
「じゃあ、そろそろ行こうか。本当は夜襲が良いんだろうけど、クエンの顔はオレとアシェラしか知らないからな。暗いと判断つかないし、明るいうちに攻めるぞ」
エルだけで無く、全員が小さく頷いている。
メンバー全員が人族である事から、向こうに動きが察知されないよう、街道では無く空を駆けてミュラーの街を目指したのである。
◇◇◇
移動を始め、2時間が過ぎた頃。ミュラーの街を目前に控え、今は早目の昼食を摂っている所だ。
「さてと、アル、作戦を教えて頂戴」
「分かりました。今回の作戦は電撃戦です。最優先でクエンと執事のグースの身柄を押さえ、地図の原本と複製した物があれば、それを奪取 または破棄します。その際、壊れた空間蹴りの魔道具も出来れば回収したいですが、そっちは努力目標です。無理そうなら諦めようかと……その後は2人を始末した後、素早く撤収して作戦終了です」
「なるほど……概要は分かったわ。で、具体的にはどうするつもりなの?」
「はい。先ずは全員で空を駆け、領主館の屋根に取り付きます。そこで僕が範囲ソナーを使ってクエンとグースの位置を特定。次に僕、エル、アシェラで領主館に突入しますので、母様とライラは退路の確保と騎士への陽動をお願いします」
「ちょっと待ちなさい。私は昨日、アンタ達と一緒に殴りこむって言ったわよね? それが何で留守番になってるのよ。おかしいじゃない」
「えっ、いや、そうは言ってもですね……ライラは兎も角、母様はバーニアも使えないじゃないですか……万が一混戦にでもなったら、屋内で接近戦が出来ないと流石に危ないんじゃ……」
何とか理屈で言いくるめようとしても、コイツは頑なに首を縦に振らない。
いつもは文句を言いつつも、理屈で説明すればここまで食い下がらないのに……
「母様、今回は何でそんなに引いてくれないんですか? いつもなら説明すれば、文句は言っても引き下がってくれるじゃないですか。今回だけ何でここまで頑ななのか意味がわかりません」
理由を言わないとオレが納得しないと悟ったのだろう。母さんは眉尻を下げ、面倒臭そうにしながら口を開く。
「ハァ……アンタが日和らないかと思ったのよ……」
「は? 僕が日和るって……どう言う事ですか?」
「地図の奪取に関しては良いわ。アンタ達3人なら、少々の困難なんて簡単に弾き飛ばすでしょうし、そこは心配してない。問題はクエンとグースって執事の処分よ。アンタ、本当に命を奪えるの?」
母さんの言葉はオレが思ってもいない事だった。
「そのつもりです。あの2人は野心が強すぎます。きっと生かしておけば、僕達にとっても魔族にとってもマイナスになる事しかしないでしょうから……」
「話を聞いて思ったけど、その手合いは生き汚いわよ。自分の仕出かした事でも、いざその時になったら間違い無く命乞いをするわ。それこそ何を犠牲にしてでもね。アル、私はアナタが優しい子だってのは良く知ってる。そんな優しいアナタは、目の前で泣きながら許しを乞う者を、本当に殺せるのかしら?」
「だ、大丈夫です……ルイスを嵌め、僕が使徒だと知った後でも、自分の行動に何の反省もしなかった。いくら僕でも、あの2人を生かしておくのは後々に大きな禍根を残すのは分かっていますから……」
母さんはオレの真意を探るように見つめ、更に口を開く。
「さっきも言ったけど、その手合いは相当 生き汚いわよ。きっとどうしようもなくなったら、泣きながら土下座くらいは平気でする。悔い改める言葉と共にね……そんな相手をアンタは本当に殺せるの?」
うっ……これは非常に返事をし難い。オレも過去には盗賊や悪党を殺した事はある。
しかし、目の前で泣きながら土下座でもされて、更に反省を述べる相手を殺せるのかと問われれば……
「大丈夫……大丈夫です……僕は出来ます……」
「ハァ……やっぱり私も付いて行く。反対は無しよ。良いわね」
「……」
くそっ、何で母さんに言い切れないんだ……自分の中の甘さに苛立ちつつ、直ぐに返事を出来なかったオレは、結局 母さんの同行を許すしかなかったのである。




