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宴会

 酒の席で、改めて隊長と副長からの自己紹介があった。


「俺は雷術と剣で戦う、いわゆる魔法剣士だ。階級はつい先月だが、金となった。つまり、凄腕で指折りの戦士というわけだ。すごいだろう、ハルト君」


「そだね」


「反応が薄いな……」


 切なそうに言うな。既に醜態をさらしてくれてるからなあ。金級を剥奪されないよう気をつけるべきじゃないかな。


 胡散臭そうに見ていると、いきなりはっとした表情を浮かべてカーツィアルさんは口元をにやりとさせる。


「さては、マリエラに手を出されそうになって不愉快なんだな? 可愛らしいところもあるじゃないか」


「え、そうなの? やだ嬉しい」


「ちょっとマリエラ?」


 ああ、飲んでるのね。もう酔った? 頬を僅かに染めて、わざわざ椅子を寄せてから僕の肩に腕を回す。そうして引き寄せて、頬ずりまで始めてしまった。


 時と場所をわきまえてくれませんかね。酔っ払いに期待しても無理か。


「何だ何だ、マリエラも満更でないのか。見たところ後十年もすれば成人だろうが、マリエラからすればほんの僅かな時間だな。式を挙げるなら、呼んでくれよ」


「ユーリは呼ぶけど、カーツィはどうしようかなー」


「土産話には期待してくれ」


「酷いな!」


 手癖が悪いらしいから弄る側なのかと思ったけど、カーツィアルさんはもしかして弄られる側なのか? 本人は楽しそうだ。笑って木製のジョッキを掴み、エールをあおっている。


「さて、私の番と行こう。マリエラの伴侶候補ならば、ユーリと気安く呼んでくれ」


「伴侶候補て……」


 気恥ずかしいじゃないのさ。


 何処まで本気なんだろうね? 本人は、うふふふとか笑いながら抱き付いて離れないけど。この酔っ払い共は……。


「私は剣一筋の女だ。剣の腕なら赤獅子で一番の腕だと自負している。階級はマリエラと同じ銀だ」


 ユーリさんはすっと手を伸ばしてくるので、握手を交わした。握った手はしっかりしており、見た目の細さから受ける弱さなど微塵もそこには無かった。


 彼女は酔ってるのか酔ってないのか、今一わからないな。


「今回はコカトリスが相手だが、以前魔獣を一対一で葬った事もある。期待してくれ」


「魔獣?」


 初めて聞く単語だな。魔物とはまた違う意味合いを持つのかな?


「魔物の中でも強力なもの、特に魔族からかけ離れている魔物をそう呼ぶのだが、初耳だったか?」


「うん。それじゃキマイラとかも魔獣って呼ぶの?」


「そうだな。ドラゴンはさらに別格なので含まないのだが、他にもヒュドラやバジリスク、ケルベロスなども魔獣と呼び分けているな。奴らは格別の強さを持つ。だから単に魔物と言ってしまって、派遣された戦士が全滅した例があるのだ。以来そのような、少数で戦うには向かない魔物を魔獣と呼称する事になった」


 なるほどなるほど。一口に強い魔物と言っても、幅が広過ぎるってわけだね。だから強い魔物の中でも特別強力な魔物は魔獣と呼んで、その単語だけで理解が及ぶように区別してるんだな。


「私が戦ったのは魔獣の中でも比較的弱いヘルハウンドだがな。炎を吹く大型の犬の魔獣だが、知っているか?」


「聞いた事くらいならあるよ。すごいね」


 ゲームや物語では定番の魔物だけど、あれを一人で倒したのか。大概雑魚扱いだったりして強くなさそうな印象を以前は抱いていたけど、今ならわかる。大型犬が鋭い爪や牙、炎の息吹を吹きながら襲いかかって来るんだ。弱いはずがない。


 距離があれば炎を撒き散らし、接近戦になれば牙と四肢の爪で応戦。犬だから当然素早いし、大型なのだから力も強いだろう。想像するだけでもその強力さに身震いするようだ。


 キマイラに比べれば確かに弱くはある。しかし、とても一人で戦えるような相手だとは思えなかった。そんなヘルハウンドを一人で倒してしまったのなら、彼女も相当な手練れだと言える。さすが副長を務めるだけはあるね。


「姐さん、あんな事はもう勘弁ですぜ」


「腕の良い癒術師が見つかったから助かったようなもんじゃないですか」


「隊長なんか泣きっ放しだったからな」


「いや、その……済まん」


 隊員達に突っ込まれまくっとるな。余程心配したんだろうね。


「皆に突っ込まれまくっているな、ユーリ。むふふふ……ふごっ!」


 拳が飛んだ。カーツィアルさんが言うと違う意味に聞こえてしまうんだよなあ。字面がまずい。


「姐さん、俺達で良ければいつでもお相手します!」


「十回でも百回でも喜んで!」


「よし、全員外に出ろ。相手してやる」


「冗談ですぜ!」


 ああ、抜刀しちまった。


「今夜は眠りたくないのだろう? 私の愛剣で応えてやろう。望み通り突き合おうではないか」


 赤獅子の男連中は、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。そしてそれを追うユーリさん。発端のカーツィアルさんは椅子ごと後ろに倒れて動かないし、女性陣は慣れているのか笑って、或いは呆れて見ているだけだ。


 平和な光景……なんだよな?




 適当なところで僕とマリエラは部屋に引き上げた。そしてまたも風呂を作って、嬉し恥ずかしの混浴。もう当たり前になってしまってるな。


 部屋は炎術と水術で作ったスタンドライトで暖めているから寒くない。でもそのせいか、風呂から上がったマリエラが服も着ずにベッドで横たわっている。色っぽいどころじゃない。酔ってる事もあるだろうけど、こりゃ問題だな。


 ついでだ、実験させてもらおう。


 乗り物酔いは、癒術でも治せた。なら、アルコールによる酔いはどうだろう? イメージは、身体を害する異物の除去だ。ただ、そのままでは強過ぎる反応に身体がやられる可能性がある。だから保護も同時に行う。


 魔力を集中させた手の平で、青い光の風が渦を巻く。球を形成した風は発動と同時に広がってマリエラを包み、その身体へと作用した。とろんと惚けた表情がはっきりとし始め、その紅の瞳がこちらに向く。


「酔いが覚めちゃったけど、ハルト君の仕業?」


「上手くいったみたいだね」


「心地好かったのにー」


 まあ、そりゃそうか。そのために飲んでるんだからね。


「これは代わりに、相応なものをもらわないとだね!」


 吸いたいんだね、もうわかってるよ。酔った状態で吸われるのは危険だから、治せるか試したところもあるからな。


 その後は唇も血も奪われて、いつもの通りに気を失った。







 翌日は、午前中にエルドロードを出発した。組合の出した三台の馬車に、赤獅子の五台が続く。


 昨日兵隊も出立したらしく、これで充分な戦力が目的地のミードに揃う事になる。兵は百名程だそうで、第一陣と僕ら第二陣の戦士を合わせた約百八十の戦力だ。


 守るだけでなく、討伐にも余裕を持って向かえるだろうな。赤獅子の戦士達も表情が明るい。


 北に行く街道はほぼ真っ直ぐで、左右には草原が広がる。最後尾をレストに乗って向かう僕とマリエラは、その景色を楽しみながら魔法談義に花を咲かせていた。


 その内容は主に技術的な話だ。魔力の無駄を減らす方法や素早く魔法を発動するやり方など、専ら僕が弟子として教わっている。


 ただこれは他の様々な事と同様で、多少の助言は出来ても繰り返して少しずつ習熟していくしかない事柄のようだ。スポーツにしても芸術にしても一朝一夕にはいかないけれど、それと同じだった。


 ただ、僕は魔眼のおかげで魔力の動きが見える分有利だ。マリエラの中で魔力が滞る事無く綺麗に、速やかに魔法を形作っていく様をしっかり見る事が出来る。けれど、見るのとやるのとではあまりに違い過ぎる。魔力をひたすら循環させて、或いは外で旋回させて、暇があれば何かしら扱うようにする。そんな事でとにかく慣れて、腕を磨く。


「何事もそうだけど、地道にやってくのが一番の近道なんだね」


「そういう事だね! ハルト君は素直だし急かないし、きっと良い魔法使いになるよ!」


 非常に照れ臭い。




 一つ目の村を抜けて道程の半分程を進んだところで、僕らは野営の支度に入った。ここまで戦闘も無く、予定より速いペースで来ているそうだ。


 とは言え馬の休憩は必要不可欠。しっかり休ませるためにも、今日は予定通りのこの場所までにしておく事と決まった。


 早い到着だったので、僕は料理でもしようかと考えた。ついでに、多めに仕込みをしてしまおうかな。と言うのも、パスタ生地とニョッキをたくさん作っておきたかったんだ。あらかじめ作っておけば、僕のバッグは状態をそのまま保存出来るから後が楽になる。


 そんなわけで、その二種類をいっぱい作った。必要な器具はバッグから出すふりで水術と地術で作るし、力が要る作業は魔術で補える。前世でやった時より楽な作業だ。人目を引いてしまった事だけが、少し面倒だったかな。


 マリエラも興味深そうに見てたけど、ニョッキはともかくパスタは珍しくないはず。何だろう?


「ハルト君、料理出来るんだ……」


 そういう事かい。前世では一人暮らしで、自炊もやっていたからな。ネットで調べながら色々作ってみたもんだ。そして一度作ったものって案外覚えているものでね。


「やってみると、案外面白いよ」


「私は何やっても駄目だったんだよねー、あははは」


 基本を知らずにアレンジしちゃうとか? 料理って基本さえ抑えておけば食べれない物なんて出来ないんだけど、そこを間違っちゃうと悲惨なんだよね。


「興味あるなら、一緒にやる?」


「今日は見てるー」


 あらそう。


 今夜のメニューはラビオリにしようかな。挽き肉が無いから肉を叩きまくってミンチに。ニンジンと西洋ネギのリーキをみじん切り。それに塩とハーブを入れて味を整えたところで、この間も使ったチェダー風のチーズと一緒に生地で包んで四角に切っておいた。


 スープは定番だけど、今回もトマト。具にはマッシュルームとハプリカに燻製肉を使う。炒めて煮込んで味を整えて、ある程度のところでラビオリを投入。茹で上がったら完成だ。


 野営での夕食だし、これにパンを炙って用意したら充分だろう。飲み物は、僕は果汁を入れた水だけどマリエラには赤ワインを用意した。こんな物を何で持ってるかって?


「それは野暮ってもんさ」


「飲んじゃ駄目だからね!」


 畜生!


 トマトスープのラビオリは、大層気に入っていただけました。


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