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挽歌  作者: 卜貝了一
4/8

第三章 初戦前夜

 1


 一月十日、夕刻。

 ネルリは街中のネコたちを集めて大規模な集会を開いていた。

「静粛に、静粛に――ゴホン。お前たちを集めたのは他でもない。イヌたちとの決戦に備えてお前たちの士気を高め、志を統一するためである。今回は団の垣根を越えて集まってもらったので、一部まだ意思の疎通が取れていない状況かと思う。そんな中で一致団結して敵を倒すことこそが、我々の至上命題である」

 ネコたちはネルリの言葉を受けて一斉に雄叫びを上げた。鳴き声が収まったところでネルリは再度口を開いた。

「イヌたちの忠誠心と統率力には凄まじいものがあるニャ。そこで我々も、組織を編成することにした。GG、スケコマ四郎、ボル七、ピロ助、前へ出るニャ」

 ネルリに指名された四匹は集団を掻き分けネルリのもとへと集まった。

「たった今からこの四匹を四天王に任命する。それぞれオイラの手足となって働いて欲しいニャ」

 四匹は同時にコクンと頷いた。

「ところでネルリの親分、嫌がらせ対決ってぇのは具体的に何をするのでしょう?」

 黒ネコのGGが尋ねた。それを受けてネルリは口を開いた。

「うむ。それは――」

ネルリは昨晩の夢を思い出していた。


 2


「ネルリ、ネルリ……私のことを覚えているな? 私は今度のイヌ対ネコの戦いの世話役、梵天である。今日は戦いの詳細について説明に参った」

 ネルリの夢枕に、またしても梵天が現れたのだ。

「ゴロニャーン。梵天殿、ご無沙汰ニャン。して、詳細と仰るのは?」

 ネルリは反射的に梵天の足元へ擦り寄った。

「うむ、それについて今から説明する。まず時間は一月十一日と二月二十二日の朝七時から昼十一時までとする。続いて場所だが、一月はイヌ側リーダー・ハチツーのホームである山の麓町、二月はお前のホームである港町が決戦のバトルフィールドである。最後に勝敗を決める条件だが、これは相手のリーダーに「まいった」と言わせれば勝ちである。ホームとアウェーでそれぞれ一勝ずつとなった場合は、釈迦如来による判定とする。よいな?」

 梵天はしゃがみこんでネルリの頭を撫でた。ネルリは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

「かしこまりニャン!」


 3


 ――そして現在。

「……という訳ニャ。何か質問のある者は?」

 ネコたちは異議なしと言わんばかりに各々あくびをしてはペロペロと顔を洗っている。

「よし。次に作戦を説明する。たった今、この四匹を四天王に任命した訳だが、それに合わせて全隊をそれぞれ四つの班に分けて行動するニャ。GG班とボル七班は攻めを担当、敵を取り囲んでネッコネコにしてやるニャ!」

 GGとボル七はウンウンと頷いた。

「――続いてスケコマ班とピロ助班は守りを担当、オイラのガードをよろしく頼むニャ!」

 スケコマ四郎とピロ助もコクコクと頷いた。

「それでは明朝、開戦の五分前には山の麓町にある空き地に集合。それまで各自待機ニャ。ゆっくりと英気を養うように」


 4


 その晩、GGはスケコマ四郎を呼び出した。

「こんな時間にどうしたニャ? みんな明日に備えて寝ているニャ」

 スケコマ四郎はあくびを噛み殺した。

「お前を呼び出したのは他でもないニャ。今回のバトル、何のために戦うか知っているニャ?」

 GGはペロペロと顔を洗いながらスケコマ四郎に問いかけた。

「うぬ? それは――何だろうニャ。たしか勝った方にはお釈迦様からご褒美が貰える……違ったかニャ?」

 スケコマ四郎もペロペロと顔を洗いながら答えた。

「そうか……そこまでしか把握してないニャ? ならば真実を教えてやるニャ――ネルリの親分は、他でもないネルリの親分ご自身のためだけにご褒美を独り占めするつもりニャ!」

 GGはカッと両目を見開いた。スケコマ四郎も驚いて目を丸くした。

「そんな馬鹿ニャ! ネルリ団長に限ってそんなことはあり得ないニャ! 何を根拠にそんなことを言うニャ!?」

 スケコマ四郎は尻尾をゆっくりと左右に振りながらシャーッと威嚇した。

「まぁ待て。落ち着いてよく聞くニャ。十ヶ月前、ネルリの親分がネコネコ団のリーダーに就任したことは知っているニャ?」

「それは新米の俺でも聞いたことがあるニャ。たしか当時のリーダーが負傷して寝たきりになってしまった……それでネルリの親分が新リーダーに選ばれた。違うニャ?」

「そう、その通りニャ。そして昏睡状態の続いていた前ネコネコ団長・ボドカは、その息子たちの祈祷によって意識を取り戻した。ここまではいいニャ?」

GGはビロードのような毛並みを綺麗に舐めて整えた。

「把握したニャ。で? それがどうしたニャ?」

 スケコマ四郎は先を促した。

「いいか、よく聞くニャ。ボドカ前団長が敵に襲われたのは、迂闊にも敵の縄張りに入って囲まれてしまったネルリの親分を助けるためだったのニャ! そしてネルリの親分はその責任から逃れるために、今度のイヌたちとの抗争に勝ってボドカ前団長の身体と精神を全快させようとしているニャ!」

 スケコマ四郎は「ガーン!」とショックを受けて、口をあんぐりと開いた。

「そ……それは本当か!? まさか……そんな……」

「確かな筋から聞いた話ニャ――お前はどうするニャ?」

「ど、どうって……ハッ、まさかお前、ネルリの親分を糾弾するつもりじゃあ!?」

「そんなことはしないさ。今回のバトル、お釈迦様がネルリの親分をリーダーに選んだ以上、彼をリーダーの座から引きずり下ろすことは難しいニャ……正攻法ではね」

 GGはスケコマ四郎の目をじっと覗き込んだ。

「まさか……ネルリ団長に何かする気なのか……!?」

「いいや、何もしないさ。ただ、ネルリの親分には『アクシデント』に遭ってもらって『ご退場』いただくだけニャ」

 スケコマ四郎はゴクリと唾を飲み込んだ。

「ど……どうしてそれを俺に話したニャ? 裏切り者だとリークされるとは思わないニャ?」

 GGはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「スケさんはそれ程愚かではないはずニャ」


 5


山の麓町を夜の静寂が包もうとしていた。

サトルが未確認飛行物体に誘拐されてからというもの、ハチツーはエリカの家に居候として一時的に置いてもらっていた。

ハチツーにはやるべきことがあった。それは、イヌ軍のリーダーとして街のイヌたちに連絡事項を伝達することだった。

ハチツーは部屋の出入り口におすわりすると、エリカの方を見てクゥンクゥンと鳴き始めた。

「あら、どうしたの? ハチツー。もしかして外に出たいの?」

 ハチツーは尻尾を振りながらハッハッと舌を出して息をした。

「そうよ、きっとそうだわ。ご主人様の帰りを外で待ちたいのね」

 エリカの読みは半分当たっていた。しかしながら、ハチツーの主人であるサトルは、おそらく自分の意志で帰ってくることが叶わず、今もどこかで軟禁状態にあるだろう。そのため今ハチツーに求められていることは待つことではなく、積極的に戦い、そして勝つことであった。

「待ってね、今ドアを開けてあげる」

 エリカはハチツーのためにリビングと玄関のドアを開いた。

 ハチツーは夜の闇に身を躍らせた。それを見届けたエリカは、寒さに身を震わせながらハチツーに声をかけた。

「いい、ハチツー? 気が済んだらドアを引っ掻いて知らせるのよ。すぐ迎えに来るから」

 エリカはそう言うと玄関のドアをそっと閉めた。

 ハチツーはエリカを見送ると、夜の静かな空気に五感を研ぎ澄ませていった。そして、すぅっと息を吸い込むと、ワォーンと遠吠えをした。

「街のイヌたち、聞いてくれ。いよいよ明日、ネコたちとのバトルは初日を迎える。初戦の舞台はここ、山の麓町である。実は特別なゲストも呼んである。皆、手筈通りによろしく頼む」

 それを聞いた街のイヌたちは、口々に「ガッテンだ!」「任せろ!」と遠吠えした。

「尚、皆を縛り付けている鎖やリードの類は、梵天殿のチカラによって七時少し前から十一時までの間だけ無力となるので安心してくれ。それでは明日、開戦の五分前に公園に集合。武運を祈る。通信終わり」

 ハチツーはその晩、家の外で寝ることにした。エリカはハチツーを家の中に誘ったが、ハチツーは頑なに断った。その姿がエリカから見て主人の帰りを待つ忠犬のように思え、エリカの涙腺を揺さぶった。

「ハチツー……ちょっと待ってね。せめて風でも凌げれば……」

 エリカは家の中に入っていった。十分程してエリカは再び現れた。その両手には大きなダンボール箱が抱えられていた。

「これ、使いなさい。ないよりはマシでしょ。本当に頑固者なのね」

 エリカはダンボール箱を庭にセットした。ハチツーはありがたく恩恵に与ることにした。

「もう……。一途過ぎるのも困りものね。家に入りたくなったらいつでも知らせるのよ」

 エリカはダンボール箱の中で伏せるハチツーの顔を両手で優しく包み込み、くしゃくしゃに撫で回した。ハチツーはそれに答えるかのようにハッハッと舌を出し、小さく「ワン」と鳴いた。

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