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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
決戦魔獣王城
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そして決着へ


--- カイン王隊 ---


シェリルの詠唱完了の少し前。


魔獣は知っていた。

この獲物を仕留めることができれば、

必ず他の者に動揺を与えることが出来る。

その動揺は隙を生む、それが勝利へと導くのだと。

魔獣は確信していた。

その爪が愚かなる獲物の背中をえぐり取る事を。

そして、その爪はバーバラの背中へと吸い込まれていった。

この時魔獣は知った。

それが虚像であることに。

爪は虚しくも空を切り裂いた。

その瞬間、爆音が轟いた。

 「ズドーン」

魔獣は何が起こったのか分からなかった。

分かっていたことは、己の身体が真後ろへと飛ばされている事

のみだった。


バーバラはカイン王に精気の巻物を発動したことを報告した後、

次の行動に移っていた。

思いつきであり、事前に考えた計画ではない。

最後の1体の石像を守るために、考えた苦肉の策だった。

石像から離れて座り込むと投影の魔法陣*1を描き出した。

魔法陣を覚え始めた頃、何度となく繰り返し描いていた。

それは身体に染み付き、目を瞑(つむ)っても描くことが出来る。

まさか、こんなところで役に立つとは思いもしなかった。

霧が晴れ始めている場所まで移動し素早く虚像の魔法陣を描く。

そして、すぐ近くにもう一つの魔法陣を描いた。

その魔法陣は、衝撃の魔法陣*2だった。

それが終わると、霧の深い場所を探し、実像の魔法陣を描いた。

そして、魔法陣を描いている様子を再現するかのように座り込み

その時を待った。

それは、見事に成功した。

魔獣は虚像を標的として選んだのだ。


カイン王、キャスバル王子、エッグ王子は見ていた。

爆音と共に霧の中から飛び出してきた魔獣を、、、。

魔獣は上半身をひねり着地の態勢を取ろうとしていた。

3人の反応は素早かった。

最も近くにいたのはエッグ王子だった。

真正面から飛んでくる魔獣に対して、剣を突き出した。

魔獣は残った手の爪をつかって、空中でそれを受け止めた。

そしてそのまま激突する。

エッグ王子はその勢いで吹き飛ばされた。

魔獣は着地すると、しゃがみ込むように低く構えた。

その時、視野の左端に動く影をみた。

首をひねり、その方向を素早くみる。

それはキャスバル王子だった。

キャスバル王子は近づきながら、剣を下段に構え、

頭の上へ流れるように剣を振り上げようとしていた。

魔獣は迎え撃つように向きを変え、

同時に爪をその方向へと向ける。

爪は尋常ではない速さで移動し、キャスバル王子の剣を

上から抑え込んだ。

そして、その反動で近づくキャスバル王子の胸に向けて

爪を突き出した。

魔獣は獲物を仕留めた事を確信した。


カイン王は魔獣が吹き飛ばされた時、

魔獣からもっとも離れた位置にいた。

最初の接触はエッグ王子だ。

瞬時にそう判断すると、キャスバル王子の反対側へと移動した。

魔獣はエッグ王子に激突した。

そして、こちらに背を向けるように向きを変えた。

フェイントなどの動作がなかった。

こちらには気が付いていないようだった。

一瞬、罠の可能性が脳裏を横切ったが、

この機会を逃す訳にはいかないという考えがそれを抑え込んだ。

そして、魔獣に向けて飛んだ。


魔獣は、己の死角から近づく死神の鎌に気が付かなかった。

いや、気が付くのが遅れたのだ。

それを知ったのは、首筋の毛に剣身が触れた瞬間だった。

魔獣は理解した。

己の上方から死神は近づいていたのだ。

気配を殺し、気が付かれぬように背後に回り込み、

鋭い鎌を首筋にあて、そして一気に切り落とす。

それはまさに死神だった。

視界が外側から内側へと失われて行くのが分かった。

己の爪が獲物の胸に突き刺さるのを確認することなく

視界は閉ざされた。


4人は魔獣の抜け殻の周りにいた。

キャスバル王子は膝をつき、傷口を押さえている。

ドレアルは、治療の巻物を使いその傷を治そうと懸命だった。


その時、声が聞こえた。

???:「その魔法では、たいした効果はありません。

    傷が深すぎます。

    私が診ましょう。」


4人は声のする方をみた。

そこにはバーバラがいた。

彼女は、足取りのおぼつかない若者を支えるように

寄りそっていた。



--- レミューズ隊 ---


全員がパインが崩れ落ちるのを目撃していた。

この時、レミューズとサールは魔法障壁の補修中だった。

アリスは手を伸ばし、今にもパインに向かって

駆けだそうとしていた。

それをシェリルが止めた。

その時、アリスは視界の端に移動する何かを見た。


それはジェイルだった。

ジェイルは魔獣に向かって、全力で走っていた。

そして、パインの元に近寄ると、渦雷の剣を手にした。

剣を構えると魔獣にむかって突進した。


魔獣は足元から真っ黒い霧のように変わり始めていた。

消え去るまでに詠唱を止めなければならない。

止める事ができなければ、ダイクーンの二の舞になってしまう。

しかし、今から行動しても遅いだろう。

ジェイルに全てを託すしかなかった。


薄れる意識の中でパインはジェイルを見ていた。

パイン:(だめだ。

    ジェイル、だめだ。

    その剣を使うな。

    全てを吸い尽くされてしまう。)


---

渦雷の剣、それは使用者の精神体を吸収して発動している。

渦雷の剣に蓄えられた力は消費された使用者の精神体を

補てんするものでしかないのだ。

つまり、一時的に使用者の精神体が激減するのだ。

通常の魔法と違い、魔法が発動しないのではない。

必要な量になるまで、精神体を吸収し続ける。

使用者を選ぶ剣なのだ。

---


パインには分っていた。

ジェイルには耐えられないと。

パインはすがるように、ジェイルに手を伸ばした。


ジェイルは剣柄を強く握りしめ、そして大きく振りかぶり、

魔獣めがけて剣を振り下ろした。


その時、全員が聞いた。

???:(皆、良く戦いました。

    それこそが私の求めるものなのです。)


突然パインの伸ばした手が光った。

光の束が伸び、渦雷の剣と繋がった。


渦雷の剣が魔獣と接触した。

ジェイルは霧となった魔獣を通り越し、

その勢いを殺せず床を転がる。

レミューズ、サールはその光景をみたときに絶句した。

最悪の事態を想像していた。

それは、炎に包まれたルシード王国であった。


しばらくの間のあと、霧の様に変化する魔獣の周りに

火花が散った。


後にジェイルは語っている。

パインが崩れ落ちるのを見たとき、何かが弾け飛んだ。

その後は、無我夢中でよく覚えていないと。


--- クライム王国 ---


その頃、クライム王国では大騒ぎになっていた。

アムート山脈が見渡せる広場に人々が集まり、

その異様な光景に見入っていた。

大半の人が魔導士であったが、中には物好きな一般の人も

混じっており、希少価値の高い望遠鏡を持ち出し、

それで眺める者もいた。

望遠鏡を貸し出す商売まで始まり、

そこはまるでお祭り騒ぎだった。


雲一つない青空に、巨大な真っ赤な丸が描かれており、

その周りを巨大な鳥が円を描くように飛んでいた。

そして、アムート山山頂からその円に向かって真っ白い

煙が伸び、真っ赤な円の近くで、その煙が集まり、

ゆっくりと鳥のような形を創り出していた。


望遠鏡をのぞいていた者達は、口々につぶやいた。

 「ドラゴンだ!!」


赤い丸へ向かう白い煙は形を変えた。

それはまるでドラゴンのような形をしていた。

そして、真っ赤な丸は、次第に赤黒くなり、

最後には真っ黒な穴へと変わった。

白い煙は、次第に薄れていった。

巨大な鳥は旋回をやめ、アムート山山頂の方へと

飛び去って行った。


さらにそれを眺めていると、アムート山山頂の側の煙が

灰色から黒へと変化し、その穴の中へと流れ込んだ。

煙が全て流れ込むと、その穴は次第に小さくなった。

そして、なにも無かったかのように消え失せた。

最後には何もなかったかのような青空があった。


---


カイン王隊は、帰還の巻物改を使い、魔獣の城を脱出した。

レミューズ隊も同様に脱出した。

しかし、レミューズの唱える転移の魔法が完了する直前、

パイン、アリス、シェリルの3人がその場から消え失せた。



*1:投影の魔法陣

 自身の姿を他の場所に映し出す魔法。

 これには、実像の魔法陣と虚像の魔法陣をつかう。

 実像の魔法陣にある物を虚像の魔法陣に

 映し出すというものだ。

 虚像の魔法陣を描かなければならない為、実用性に乏しい。

 但し、時と場所を限定するならば、その効果は計り知れない。

 初歩の魔法文字のみで作り出す事が可能なため、

 魔法陣の初歩で教わるものの一つであり、

 魔導士であるならば知らない者はいない。


2:衝撃の魔法陣

 炎の魔法である火の玉を作り出す魔法の派生系魔法陣。

 火の玉を安定させることが出来ずに、

 急速に膨張し消え去った失敗作の魔法陣である。

 その時に魔法陣を中心に物体を移動させるほどの

 力が発生する。

 ダメージは皆無であり、まず使われることはない。



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