エピローグ
カイン王国の宮廷前の広場には多くの人々が集まり、
魔獣王討伐の祝賀会を行っていた。
一段高くなった壇上には、キャスバル王子、エッグ王子、
ドレアル、ジェイル、サールの5人が並んでいる。
進行役:「我々は、ついに魔獣王を倒し、
平和な時代を手に入れました。
それを成し遂げた英雄達を紹介しましょう。」
会場は、拍手と歓声が渦巻いていた。
進行役:「まずは、ルシード王国のキャスバル王子様。
つづいて、カルラド王国のエッグ王子様。」
マスタードレアルさん。
ジェイルさん。
最後に、サールさん。
なお、ここには居られませんが、
カイン国王様、バーバラさん、レミューズさん、
パインさん、アリスさん、シェリルさんの
計11人の英雄達です。」
この時、会場の興奮はピークに達していた。
丁度その頃、城門の前で3人の男女が集まっていた。
3人は深々とフードをかぶり、それが誰なのかは判らなかった。
女1:「本当に宜しいのですか?」
男:「構わん。
これが使命だと分かったのだ。」
女1:「お供します。」
男:「いや、2人は、やつを補佐してやってくれ。」
女1:「いえ、その命令には従えません。
なんと言われようとついて行きます。」
女2:「ならば、供は任せよう。
補佐は私が。」
男:「わかった。
もう、そのような権限もないしな。
供と言わず、一緒に使命を果たそうではないか。
補佐の件、任せた。」
男は何かを女に手渡したのち、2人で城を後にした。
祝賀会は続いていた。
そこに現れたのはレミューズだった。
進行役:「あっ、英雄の一人、レミューズさんが到着しました。」
レミューズが速足で壇上へと上がる。
進行役:「レミューズさんに質問してみましょう。
魔獣王との戦いについて何かありますか?」
レミューズ:「いや、まずはこれを読み上げてくれ。」
進行役:「これは?」
レミューズ:「カイン王からの伝言だ。」
そして、数枚の紙を渡す。
進行役:「どうやら、カイン国王様より何か発表があるようです。
それでは、読み上げます。
魔獣王との戦いも終わりを迎えた。
この様な日を迎えることができたことは、
討伐隊の面々とそれを支えてくれた全ての人々の
協力の賜物だと言える。
カイン国に住む者にも長きに渡り苦労を掛けたことを
この場を借りて詫びよう。
この勝利は多くの人命の上に成り立っている。
生き残った者はそれを忘れずに生きてほしい。
さて、めでたい事は続くものだ。
我が国は3国の合意の上、独立国となった。
これは、魔獣王討伐の功績として与えられたものだ。
そこで、私は・・・。
えっ、これはどういうことですか?」
進行役は取り乱した様子でレミューズを見つめる。
レミューズ:「その通りの事だ、そのまま読み上げてくれ。」
進行役:「えー、申し訳ありませんでした。
続きを読み上げます。
そこで、私は退位することを決断した。」
会場は、一瞬の沈黙からざわめきへと変わった。
進行役:「国は王のものではない。
その国に暮らす国民のものであり、
王は元首にすぎないのだ。
退位にあたり、元首となる者が必要となる。
私は君主制をやめ、選挙による任期制で決めることを
宣言する。
選挙の方法については、レミューズに一任する。
なお、炎の剣を国の宝とすると共に元首の証とする。
最初の元首は、英雄の一人でもある
ジェイルを推薦したい。
彼は、プリティベアーズの創業者でもあり、極めて高い
商才を持っている。
彼であるならば、この国を豊かにする方法を考えて
くれるだろう。
:
:」
この時レミューズは、あの時の事を思い出していた。
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連合暦20年7月28日、カイン王国軍議室
バーバラはカイン王への報告の前に
レミューズの待つ軍議室へと入った。
バーバラ:「またせた。
ここでの話はカイン王に報告するつもりだ。
問題があるならば、話す必要はない。」
レミューズ:「お前ならば、どうなるかは予想がつくだろう。
判断は任せる。」
バーバラ:「さっそくだが、何が判ったのか聞かせてもらおう。」
レミューズ:「魔獣との戦いは永遠に終わらない。」
バーバラ:「そう思うか?」
レミューズ:「巫女がやろうとしていた事も理解できる。
黒を白く染めようとしたんだ。」
バーバラ:「あぁ、あの白き魔獣の話だな。」
レミューズ:「残念だが、あれは只の延命にしかならない。
この戦いを終わらせるためのたった一つの方法は、
人間の全ての個が白に染まる事。」
バーバラ:「そうだな。
それは確かに難しい。
個であるが故の問題だ。
しかし、絶対に不可能なことではないだろう。
そう思わないか?」
レミューズ:「巫女の言葉を思い出してほしい。
個は奥底で1つに繋がっていると言っていた。
白き魔獣の言っていた巨大なスープの入った鍋を
思い出してほしい。」
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巨大なスープの入った鍋がある。
そこに、善、悪、創造、破壊等のエキスを注ぎ込む。
混ぜてはいけない、自然に混じり合うのを待つのみ。
その中から、魔獣、幻獣、精霊、人間が生まれたのだ。
元は、同じというわけだ。
精神体は1つでもあり、複数でもあるのだ。
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バーバラ:「まさか!!」
レミューズ:「そう、この言葉は魔獣とつながっていると
考える事もできる。
だとすると、魔獣の復活を阻止することは、
ほぼ不可能と言ってもいいだろう。
人は押し付けられて変わるものではない。
個がそれを理解し、変わらなければならない。」
バーバラ:「個の黒い部分が魔獣の糧となっているということか。
我々は意味の無い戦いをしているのか?」
レミューズ:「その話をする前に考えてほしい。
人間は何故子供を産むと思う?」
バーバラ:「人間は寿命が存在する。
人間という種を後世に残す為だろう。」
レミューズ:「半分正解だが半分不正解だ。」
バーバラ:「何?
では何だと言うのだ?」
レミューズ:「子孫を残すだけならば、無性生殖でも可能だし、
寿命が無ければ解決する事だ。
有性生殖である理由、それはより優秀な個を
産みだすためだ。」
バーバラ:「進化か!!」
レミューズ:「そう、進化だ。
それもまた創造なのだ。」
バーバラ:「なるほど...。」
レミューズ:「巫女は、『創造主は、私達が白く染まるか
黒く染まるかを眺めているのです。』と言った。
創造主は人間に個を与えた。
創造と破壊。
その中で個は変化していかなければならない。
肉体的にも文明的にも精神的にもだ。
白く染まるか?
黒く染まるか?
全ての個が完全に同じ色に染まってしまったら、
それはもはや個ではないだろう。」
バーバラ:「!!」
レミューズ:「これは、個を試しているのではないだろうか?
創造主が始めた個という新しい試み。
そう考えると全てが繋がってくる。
おそらく、これは個で有り続ける為の戦いだ。」
バーバラ:「なるほど。
この戦いは、個であり続けるための一つの
過程でしかないということか。」
レミューズ:「そう。
しかし、一つに染まってしまったら、
それはもはや個ではない。」
バーバラ:「答えなどあるのだろうか?」
レミューズ:「私には答えを導き出すことはできなかった。
しかし、未来の個ならば、、、
もしかしたら可能かもしれない。」
バーバラ:「そうか。
ならば、それでいい。
我々は我々のやるべきことを成すだけだ。」
レミューズは笑顔を見せた。
レミューズ:「そう答えると思っていたよ。」
バーバラ:「この事は、パイン達も知っているのだろうか?」
レミューズ:「おそらくは、知っているだろう。
パインとアリスが戻った時の顔をみただろう。」
バーバラ:「あぁ、あれは決意に満ちた顔だった。」
レミューズ:「そう、あれは何かを
成し遂げようとしている者の顔だ。
我々は今この時の勝敗を見ている。
しかし彼等は違う。
遥か先の未来をも見ているのだ。」
バーバラ:「つらい使命だな。」
レミューズ:「あぁ、そうだな。」
バーバラ:「ならば、我々は何をすべきかだな。
考えはあるのか?」
レミューズ:「今、この時にできる事。
そう、未来の個に残す事だ。
生き残るために、
個であり続けるために、
答えを見つける時間をつくるために。」
それは、ルシードやズールが通った道でもあった。
バーバラ:「巫女と未来の個に託すしかないという事か、、、。
最後に一つ教えてくれ。
確かにお前の頭の良さは認める。
しかし、以前のお前よりも
さらに磨きがかかっているように思えるのだが、
特別なことでもやったのか?」
レミューズ:「どうやら、気が付いていたようだな。
さすがだ。
前にザイムで会った時があっただろう。
パイン達と一緒に来た時だ。
あの時にシヴァと接触した。」
バーバラ:「あぁ、覚えている。
真実の目を使った時だな。」
レミューズ:「そうだ。
あの後から声が聞こえる。
いや、声が聞こえるというよりも閃きと言った方が
しっくりくるかもしれない。
自身が組み立てた結論ではなく、答えが閃く。
これは自身が導きだした事ではないという意味で
声と表現した。」
バーバラ:「それは、経験や知識からでた閃きではないのか?」
レミューズ:「経験や知識ではないだろう。
全ての閃きが声だとは思ってはいないが、
しかし明らかに知らない事が閃く事もある。
その場合は検証し、同じ答えにたどり着く。
この様な事話したところで誰も信じるとは思えん。
それ故に黙っていた。」
バーバラ:「巫女になったと言う事か?」
レミューズ:「いや、巫女ではないだろう。
シヴァと接触したことで、
初代ルシード王の言葉で言うところの
『真実へと導く者』
として選ばれたのかもしれない。」
バーバラ:「そうか。
ところで、先ほどの個の戦いの件だが、
あれも閃きの一つなのか?」
レミューズ:「いや、おそらく違うだろう。」
バーバラ:「わかった。
この件は、よく検討した上でカイン王に
報告するかどうかを決めることにする。」
レミューズ:「そうか、良い選択だ。」
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英雄達はそれぞれの道を歩み始めた。
それは長い歴史の中では瞬く間の出来事でしかない。
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[カインとバーバラ]
ジェイルが元首となったあと、魔獣王討伐の英雄の一人として
王宮正面の広場に石像が建てられた。
その後、カイン王の功績は伝説として語り継がれることとなる。
しかし、カイン王とバーバラの行方を知る者はいなかった。
レミューズがそれを知っていたのかは定かではない。
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[サール]
英雄となり、サールの知名度は一気にあがった。
そして、猿顔好きの妻と2人の子に恵まれた。
ドレアル、レミューズと共に魔法陣研究に努め、
ドレアル亡き後、魔法陣研究所所長として生涯を閉じた。
尚、子供たちが猿顔であったかどうかは定かではない。
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[レミューズ]
レミューズはジェイルが元首の間、補佐を務め、
その後、魔法陣研究所にて魔法書作りを続けた。
ドレアル亡き後、膨大な魔法書を残すと、
使命があると言い残してカイン国を後にした。
その後の足取りを知る者はいない。
レミューズはサールに対して様々な言葉を残しており、
サールはそれらを残らず記録していた。
知るという事に対して、
「知識は記憶することではない、理解する事だ。
物事の本質を知り、知識とするのだ。」
失敗し愚痴を言った時、
「何故、分からない事を知っている者に聞かない。
誰も、お前が知っているのか、知らないのかを
知るすべを持たないのだ。
質問しない、それは他者から見れば知っているのと同じ事だ。
勝手に分かったつもりになって失敗する。
それは最も恥ずべきことだ。
『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』
という言葉があるが、まさにその通りだ。」
話をはぐらかそうとした時、
「思慮深い者に使ってはいけない。
それは直ぐに見破られるだろう。
その行為は己の評価を下げるだけだ。
それは信用を無くすことを意味する。」
他者を引き合いに出す事に対して、
「他者は関係など無いことを知るべきだ。
それは己の逃げ道を作り出しているにすぎない。
己が何をするのか、何を成すべきかなのかであり、
他者は関係ないのだ。」
:
:
旅立つ前には、警告のような言葉もあった。
「人は知識を持つが故に最も愚かな生き物である。
人は知識の範囲、あるいはその繋がりでしか、
考えることが出来ない。
真実は知識の外にあるかもしれないのだ。
最も愚かな行為は、それを無視して結論をだすことだ。
そして結果を見て後悔するのだ。
真実が常に幸せとは限らない。
知識の外にあるものに警戒せよ、そして備えよ。
人の知識が人の住めない世界を生み出すのだ。」
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[ジェイル]
祝賀会の翌月ジェイルは元首となった。
巷では元首という言葉になじめず、
ジェイルの事を別称で呼んだ。
『英雄王ジェイル』と。
ジェイルの商才とレミューズの補佐によって国は栄えた。
しかし、ジェイルは結婚することなく生涯を終えた。
その墓石には魔獣王と戦った英雄達の名前と共に、
一文が刻まれていたという。
「我が生涯はシェリルと共に」
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[パイン、アリス、シェリル、シロ]
祝賀会の最中、巫女の神殿では、パイン、アリス、シェリルと
シロが白く光る扉の前に集まっていた。
小部屋の中に魔法陣が描かれているのが見えた。
少し前まではパインは治療を受けながら、もがき苦しんでいた。
パインが想像していた以上に筋肉の損傷が大きかったのだ。
アリス:「パイン、もう痛みはない?」
パイン:「ありがとう、だいぶ楽になったよ。」
そう言って、自分の腰からお尻の辺りを撫でた。
その時、パインは、ふと思い出した。
パイン:「そう言えば、星型のあざ。」
アリス:「えっ?
星型のあざがどうしたの?」
パイン:「いや、ジェイルがアリスの身体に星型のあざが
あるんじゃないかって言っていたのを
思い出したんだ。」
アリスは顔を赤らめ怒鳴った。
アリス:「まっ、まさか、話したんじゃないでしょうね!!」
パイン:「いっ、言ってない、言ってない。
アリスのお尻にあざがあったなんて、
絶対に喋ってません。」
アリスの顔がみるみると真っ赤になる。
アリス:「んもー、パインったら、知らない!!」
アリスは顔を真っ赤にして部屋の隅へと行ってしまった。
焦ったパインはシロを呼んだ。
パイン:「シロ、頼む、何とかしてくれ。」
シロはニヤニヤ笑いながら言った。
シロ:「貸しにゃ。
あとで返してもらうにゃ。」
パイン:「んー、わかった、わかった。
頼むよ。」
シロはゆっくりとアリスの足元へ近づくと、
アリスの足にまとわりついた。
しばらくすると、アリスがしゃがみ込んだ。
その時のアリスの顔はいつもの穏やかな顔に戻っていた。
シロはそれを確認すると言った。
シロ:「アリス、頼みがあるにゃー。」
アリス:「なに?
シロちゃん。」
シロ:「次の時も、ネコがいいにゃ。
絶対に覚えておくにゃ。」
アリス:「はい、はい。
絶対に忘れないから大丈夫。」
そう言って、シロを抱き上げる。
アリスの機嫌が直ったのをみて、
パインはシェリルの方を見た。
パイン:「シェリルさん、本当にこれでよかったのですか?」
シェリル:「はい。
これは巫女が成すべき使命ですので。
それに今回は一人ではありません。」
シェリルは下を向き、片手でお腹を優しくさすった。
突然、何かの合図のように扉の光が赤く変わった。
アリス:「どうやら時間みたいね。
次の時代へ向けて、しゅっぱーつ!!。」
そう言い、右手を高くつき上げる。
そして3人と1匹は、開かれた小部屋の中へと入って行った。
そう、新たな魔獣王が生まれるその時代まで、
長い長い眠りにつくのだ。
--- おまけ ---
パイン、アリス、シェリルはこの後およそ480年後と
950年後に魔獣王と戦った。
そして950年後、魔獣界は白き魔獣によって黒が薄められた。
同時にゼロスは白へと浄化された。
しかし、それは戦いの終わりではない。
ゼロスが黒に染まる時、新たなる道が開かれる。
それは、1万年後かもしれないし、10万年後かもしれない。
しかし、言える事がある。
個が変わらなければ、いずれ魔獣王が復活するのだ。
アリスと出会い、運命の渦に巻き込まれたパイン。
彼が幸せだったのか、不幸だったのかはわからない。
2人の間に生まれた希望。
それはお互いがお互いを心から信頼し、
共に己より相手を優先し、決して裏切らないことだった。
己の全てを託せる相手、より深い絆、精神的に絡み合った絆。
全ての個がその関係で結ばれたならば、、、。
それこそが、創造主の求める答えの一つなのかもしれない。
これで、パイン、アリス、シェリルの物語は終わりとなります。
長い間、駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
この場を借りてお礼申し上げます。
まだいくつか謎が解明されていないものがあります。
巫女の神殿や、ゼロスの正体などです。
これらについては、続編で書くつもりでいます。
駄文でよろしければ、お付き合いいただけると幸いです。
それでは、続編でお会いしましょう。




