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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
決戦魔獣王城
99/99

エピローグ

カイン王国の宮廷前の広場には多くの人々が集まり、

魔獣王討伐の祝賀会を行っていた。

一段高くなった壇上には、キャスバル王子、エッグ王子、

ドレアル、ジェイル、サールの5人が並んでいる。


進行役:「我々は、ついに魔獣王を倒し、

    平和な時代を手に入れました。

    それを成し遂げた英雄達を紹介しましょう。」

会場は、拍手と歓声が渦巻いていた。


進行役:「まずは、ルシード王国のキャスバル王子様。

    つづいて、カルラド王国のエッグ王子様。」

    マスタードレアルさん。

    ジェイルさん。

    最後に、サールさん。

    なお、ここには居られませんが、

    カイン国王様、バーバラさん、レミューズさん、

    パインさん、アリスさん、シェリルさんの

    計11人の英雄達です。」

この時、会場の興奮はピークに達していた。


丁度その頃、城門の前で3人の男女が集まっていた。

3人は深々とフードをかぶり、それが誰なのかは判らなかった。


女1:「本当に宜しいのですか?」

男:「構わん。

  これが使命だと分かったのだ。」

女1:「お供します。」

男:「いや、2人は、やつを補佐してやってくれ。」

女1:「いえ、その命令には従えません。

   なんと言われようとついて行きます。」

女2:「ならば、供は任せよう。

   補佐は私が。」

男:「わかった。

  もう、そのような権限もないしな。

  供と言わず、一緒に使命を果たそうではないか。

  補佐の件、任せた。」

男は何かを女に手渡したのち、2人で城を後にした。


祝賀会は続いていた。

そこに現れたのはレミューズだった。

進行役:「あっ、英雄の一人、レミューズさんが到着しました。」

レミューズが速足で壇上へと上がる。


進行役:「レミューズさんに質問してみましょう。

 魔獣王との戦いについて何かありますか?」

レミューズ:「いや、まずはこれを読み上げてくれ。」

進行役:「これは?」

レミューズ:「カイン王からの伝言だ。」

そして、数枚の紙を渡す。

進行役:「どうやら、カイン国王様より何か発表があるようです。

    それでは、読み上げます。

    魔獣王との戦いも終わりを迎えた。

    この様な日を迎えることができたことは、

    討伐隊の面々とそれを支えてくれた全ての人々の

    協力の賜物だと言える。

    カイン国に住む者にも長きに渡り苦労を掛けたことを

    この場を借りて詫びよう。

    この勝利は多くの人命の上に成り立っている。

    生き残った者はそれを忘れずに生きてほしい。

    さて、めでたい事は続くものだ。

    我が国は3国の合意の上、独立国となった。

    これは、魔獣王討伐の功績として与えられたものだ。

    そこで、私は・・・。

    えっ、これはどういうことですか?」

進行役は取り乱した様子でレミューズを見つめる。

レミューズ:「その通りの事だ、そのまま読み上げてくれ。」

進行役:「えー、申し訳ありませんでした。

    続きを読み上げます。

    そこで、私は退位することを決断した。」

会場は、一瞬の沈黙からざわめきへと変わった。

進行役:「国は王のものではない。

    その国に暮らす国民のものであり、

    王は元首にすぎないのだ。

    退位にあたり、元首となる者が必要となる。

    私は君主制をやめ、選挙による任期制で決めることを

    宣言する。

    選挙の方法については、レミューズに一任する。

    なお、炎の剣を国の宝とすると共に元首の証とする。

    最初の元首は、英雄の一人でもある

    ジェイルを推薦したい。

    彼は、プリティベアーズの創業者でもあり、極めて高い

    商才を持っている。

    彼であるならば、この国を豊かにする方法を考えて

    くれるだろう。

      :

      :」


この時レミューズは、あの時の事を思い出していた。


-----


連合暦20年7月28日、カイン王国軍議室


バーバラはカイン王への報告の前に

レミューズの待つ軍議室へと入った。


バーバラ:「またせた。

     ここでの話はカイン王に報告するつもりだ。

     問題があるならば、話す必要はない。」

レミューズ:「お前ならば、どうなるかは予想がつくだろう。

      判断は任せる。」

バーバラ:「さっそくだが、何が判ったのか聞かせてもらおう。」

レミューズ:「魔獣との戦いは永遠に終わらない。」

バーバラ:「そう思うか?」

レミューズ:「巫女がやろうとしていた事も理解できる。

      黒を白く染めようとしたんだ。」

バーバラ:「あぁ、あの白き魔獣の話だな。」

レミューズ:「残念だが、あれは只の延命にしかならない。

      この戦いを終わらせるためのたった一つの方法は、

      人間の全ての個が白に染まる事。」

バーバラ:「そうだな。

     それは確かに難しい。

     個であるが故の問題だ。

     しかし、絶対に不可能なことではないだろう。

     そう思わないか?」

レミューズ:「巫女の言葉を思い出してほしい。

      個は奥底で1つに繋がっていると言っていた。

      白き魔獣の言っていた巨大なスープの入った鍋を

      思い出してほしい。」


-----

巨大なスープの入った鍋がある。

そこに、善、悪、創造、破壊等のエキスを注ぎ込む。

混ぜてはいけない、自然に混じり合うのを待つのみ。

その中から、魔獣、幻獣、精霊、人間が生まれたのだ。

元は、同じというわけだ。

精神体は1つでもあり、複数でもあるのだ。

-----


バーバラ:「まさか!!」

レミューズ:「そう、この言葉は魔獣とつながっていると

      考える事もできる。

      だとすると、魔獣の復活を阻止することは、

      ほぼ不可能と言ってもいいだろう。

      人は押し付けられて変わるものではない。

      個がそれを理解し、変わらなければならない。」

バーバラ:「個の黒い部分が魔獣の糧となっているということか。

     我々は意味の無い戦いをしているのか?」

レミューズ:「その話をする前に考えてほしい。

      人間は何故子供を産むと思う?」

バーバラ:「人間は寿命が存在する。

     人間という種を後世に残す為だろう。」

レミューズ:「半分正解だが半分不正解だ。」

バーバラ:「何?

     では何だと言うのだ?」

レミューズ:「子孫を残すだけならば、無性生殖でも可能だし、

      寿命が無ければ解決する事だ。

      有性生殖である理由、それはより優秀な個を

      産みだすためだ。」

バーバラ:「進化か!!」

レミューズ:「そう、進化だ。

      それもまた創造なのだ。」

バーバラ:「なるほど...。」

レミューズ:「巫女は、『創造主は、私達が白く染まるか

      黒く染まるかを眺めているのです。』と言った。

      創造主は人間に個を与えた。

      創造と破壊。

      その中で個は変化していかなければならない。

      肉体的にも文明的にも精神的にもだ。

      白く染まるか?

      黒く染まるか?

      全ての個が完全に同じ色に染まってしまったら、

      それはもはや個ではないだろう。」

バーバラ:「!!」

レミューズ:「これは、個を試しているのではないだろうか?

      創造主が始めた個という新しい試み。

      そう考えると全てが繋がってくる。

      おそらく、これは個で有り続ける為の戦いだ。」

バーバラ:「なるほど。

     この戦いは、個であり続けるための一つの

     過程でしかないということか。」

レミューズ:「そう。

      しかし、一つに染まってしまったら、

      それはもはや個ではない。」

バーバラ:「答えなどあるのだろうか?」

レミューズ:「私には答えを導き出すことはできなかった。

      しかし、未来の個ならば、、、

      もしかしたら可能かもしれない。」

バーバラ:「そうか。

     ならば、それでいい。

     我々は我々のやるべきことを成すだけだ。」

レミューズは笑顔を見せた。

レミューズ:「そう答えると思っていたよ。」


バーバラ:「この事は、パイン達も知っているのだろうか?」

レミューズ:「おそらくは、知っているだろう。

      パインとアリスが戻った時の顔をみただろう。」

バーバラ:「あぁ、あれは決意に満ちた顔だった。」

レミューズ:「そう、あれは何かを

      成し遂げようとしている者の顔だ。

      我々は今この時の勝敗を見ている。

      しかし彼等は違う。

      遥か先の未来をも見ているのだ。」

バーバラ:「つらい使命だな。」

レミューズ:「あぁ、そうだな。」

バーバラ:「ならば、我々は何をすべきかだな。

     考えはあるのか?」

レミューズ:「今、この時にできる事。

      そう、未来の個に残す事だ。

      生き残るために、

      個であり続けるために、

      答えを見つける時間(とき)をつくるために。」

それは、ルシードやズールが通った道でもあった。


バーバラ:「巫女と未来の個に託すしかないという事か、、、。

     最後に一つ教えてくれ。

     確かにお前の頭の良さは認める。

     しかし、以前のお前よりも

     さらに磨きがかかっているように思えるのだが、

     特別なことでもやったのか?」

レミューズ:「どうやら、気が付いていたようだな。

      さすがだ。

      前にザイムで会った時があっただろう。

      パイン達と一緒に来た時だ。

      あの時にシヴァと接触した。」

バーバラ:「あぁ、覚えている。

     真実の目を使った時だな。」

レミューズ:「そうだ。

      あの後から声が聞こえる。

      いや、声が聞こえるというよりも閃きと言った方が

      しっくりくるかもしれない。

      自身が組み立てた結論ではなく、答えが閃く。

      これは自身が導きだした事ではないという意味で

      声と表現した。」

バーバラ:「それは、経験や知識からでた閃きではないのか?」

レミューズ:「経験や知識ではないだろう。

      全ての閃きが声だとは思ってはいないが、

      しかし明らかに知らない事が閃く事もある。

      その場合は検証し、同じ答えにたどり着く。

      この様な事話したところで誰も信じるとは思えん。

      それ故に黙っていた。」

バーバラ:「巫女になったと言う事か?」

レミューズ:「いや、巫女ではないだろう。

      シヴァと接触したことで、

      初代ルシード王の言葉で言うところの

      『真実へと導く者』

      として選ばれたのかもしれない。」

バーバラ:「そうか。

     ところで、先ほどの個の戦いの件だが、

     あれも閃きの一つなのか?」

レミューズ:「いや、おそらく違うだろう。」

バーバラ:「わかった。

     この件は、よく検討した上でカイン王に

     報告するかどうかを決めることにする。」

レミューズ:「そうか、良い選択だ。」


-----


英雄達はそれぞれの道を歩み始めた。

それは長い歴史の中では瞬く間の出来事でしかない。


-----

[カインとバーバラ]

ジェイルが元首となったあと、魔獣王討伐の英雄の一人として

王宮正面の広場に石像が建てられた。

その後、カイン王の功績は伝説として語り継がれることとなる。

しかし、カイン王とバーバラの行方を知る者はいなかった。

レミューズがそれを知っていたのかは定かではない。


-----

[サール]

英雄となり、サールの知名度は一気にあがった。

そして、猿顔好きの妻と2人の子に恵まれた。

ドレアル、レミューズと共に魔法陣研究に努め、

ドレアル亡き後、魔法陣研究所所長として生涯を閉じた。

尚、子供たちが猿顔であったかどうかは定かではない。


-----

[レミューズ]

レミューズはジェイルが元首の間、補佐を務め、

その後、魔法陣研究所にて魔法書作りを続けた。

ドレアル亡き後、膨大な魔法書を残すと、

使命があると言い残してカイン国を後にした。

その後の足取りを知る者はいない。


レミューズはサールに対して様々な言葉を残しており、

サールはそれらを残らず記録していた。


知るという事に対して、

 「知識は記憶することではない、理解する事だ。

 物事の本質を知り、知識とするのだ。」


失敗し愚痴を言った時、

 「何故、分からない事を知っている者に聞かない。

 誰も、お前が知っているのか、知らないのかを

 知るすべを持たないのだ。

 質問しない、それは他者から見れば知っているのと同じ事だ。

 勝手に分かったつもりになって失敗する。

 それは最も恥ずべきことだ。

  『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』

 という言葉があるが、まさにその通りだ。」


話をはぐらかそうとした時、

 「思慮深い者に使ってはいけない。

 それは直ぐに見破られるだろう。

 その行為は己の評価を下げるだけだ。

 それは信用を無くすことを意味する。」


他者を引き合いに出す事に対して、

 「他者は関係など無いことを知るべきだ。

 それは己の逃げ道を作り出しているにすぎない。

 己が何をするのか、何を成すべきかなのかであり、

 他者は関係ないのだ。」


   :

   :


旅立つ前には、警告のような言葉もあった。

 「人は知識を持つが故に最も愚かな生き物である。

 人は知識の範囲、あるいはその繋がりでしか、

 考えることが出来ない。

 真実は知識の外にあるかもしれないのだ。

 最も愚かな行為は、それを無視して結論をだすことだ。

 そして結果を見て後悔するのだ。

 真実が常に幸せとは限らない。

 知識の外にあるものに警戒せよ、そして備えよ。

 人の知識が人の住めない世界を生み出すのだ。」


-----


[ジェイル]

祝賀会の翌月ジェイルは元首となった。

巷では元首という言葉になじめず、

ジェイルの事を別称で呼んだ。

 『英雄王ジェイル』と。


ジェイルの商才とレミューズの補佐によって国は栄えた。

しかし、ジェイルは結婚することなく生涯を終えた。

その墓石には魔獣王と戦った英雄達の名前と共に、

一文が刻まれていたという。

 「我が生涯はシェリルと共に」


-----


[パイン、アリス、シェリル、シロ]

祝賀会の最中、巫女の神殿では、パイン、アリス、シェリルと

シロが白く光る扉の前に集まっていた。

小部屋の中に魔法陣が描かれているのが見えた。


少し前まではパインは治療を受けながら、もがき苦しんでいた。

パインが想像していた以上に筋肉の損傷が大きかったのだ。

アリス:「パイン、もう痛みはない?」

パイン:「ありがとう、だいぶ楽になったよ。」

そう言って、自分の腰からお尻の辺りを撫でた。

その時、パインは、ふと思い出した。

パイン:「そう言えば、星型のあざ。」

アリス:「えっ?

    星型のあざがどうしたの?」

パイン:「いや、ジェイルがアリスの身体に星型のあざが

    あるんじゃないかって言っていたのを

    思い出したんだ。」

アリスは顔を赤らめ怒鳴った。

アリス:「まっ、まさか、話したんじゃないでしょうね!!」

パイン:「いっ、言ってない、言ってない。

    アリスのお尻にあざがあったなんて、

    絶対に喋ってません。」

アリスの顔がみるみると真っ赤になる。

アリス:「んもー、パインったら、知らない!!」

アリスは顔を真っ赤にして部屋の隅へと行ってしまった。


焦ったパインはシロを呼んだ。

パイン:「シロ、頼む、何とかしてくれ。」

シロはニヤニヤ笑いながら言った。

シロ:「貸しにゃ。

   あとで返してもらうにゃ。」

パイン:「んー、わかった、わかった。

    頼むよ。」


シロはゆっくりとアリスの足元へ近づくと、

アリスの足にまとわりついた。

しばらくすると、アリスがしゃがみ込んだ。

その時のアリスの顔はいつもの穏やかな顔に戻っていた。

シロはそれを確認すると言った。

シロ:「アリス、頼みがあるにゃー。」

アリス:「なに?

    シロちゃん。」

シロ:「次の時も、ネコがいいにゃ。

   絶対に覚えておくにゃ。」

アリス:「はい、はい。

    絶対に忘れないから大丈夫。」

そう言って、シロを抱き上げる。


アリスの機嫌が直ったのをみて、

パインはシェリルの方を見た。

パイン:「シェリルさん、本当にこれでよかったのですか?」

シェリル:「はい。

     これは巫女が成すべき使命ですので。

     それに今回は一人ではありません。」

シェリルは下を向き、片手でお腹を優しくさすった。


突然、何かの合図のように扉の光が赤く変わった。

アリス:「どうやら時間みたいね。

    次の時代へ向けて、しゅっぱーつ!!。」

そう言い、右手を高くつき上げる。


そして3人と1匹は、開かれた小部屋の中へと入って行った。


そう、新たな魔獣王が生まれるその時代まで、

長い長い眠りにつくのだ。



--- おまけ ---


パイン、アリス、シェリルはこの後およそ480年後と

950年後に魔獣王と戦った。

そして950年後、魔獣界は白き魔獣によって黒が薄められた。

同時にゼロスは白へと浄化された。

しかし、それは戦いの終わりではない。

ゼロスが黒に染まる時、新たなる道が開かれる。

それは、1万年後かもしれないし、10万年後かもしれない。

しかし、言える事がある。

個が変わらなければ、いずれ魔獣王が復活するのだ。


アリスと出会い、運命の渦に巻き込まれたパイン。

彼が幸せだったのか、不幸だったのかはわからない。

2人の間に生まれた希望。

それはお互いがお互いを心から信頼し、

共に己より相手を優先し、決して裏切らないことだった。

己の全てを託せる相手、より深い絆、精神的に絡み合った絆。

全ての個がその関係で結ばれたならば、、、。

それこそが、創造主の求める答えの一つなのかもしれない。



これで、パイン、アリス、シェリルの物語は終わりとなります。

長い間、駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

この場を借りてお礼申し上げます。


まだいくつか謎が解明されていないものがあります。

巫女の神殿や、ゼロスの正体などです。

これらについては、続編で書くつもりでいます。

駄文でよろしければ、お付き合いいただけると幸いです。


それでは、続編でお会いしましょう。



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