救出作戦2
バーバラが3体目の石像を発見した頃、
カイン王、キャスバル王子、エッグ王子の3人は、
魔獣に対してフェイントを交えた波状攻撃を繰り返していた。
魔獣の動きは小さく、そして素早かった。
カイン王は信じていた。
機会は必ず訪れると。
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連合暦20年8月14日夜
魔獣王討伐隊がカイン王国を出発する前日、
カイン王、レミューズとバーバラの3人の軍議の後に、
キャスバル王子、エッグ王子、ドレアルの3人がカイン王に
呼び出された。
軍議室には、カイン王とバーバラが座っていた。
霧の魔法については、秘密にすることとした。
これはバーバラの提言であった。
会話や考えが読まれる可能性を考えた場合、
知るものを極力少なくすることが望ましいということだ。
万が一ということを考え、これは採用された。
軍議は夜遅くまで続けられた。
そして以下の事が決定した。
1)攻撃に関しては、魔獣の注意を引く事と魔獣の手数を
減らす事であり、極力防御を優先とする。
2)一人を補助役とし、回復の巻物、補助魔法を唱える。
魔獣の視認を良くするために、光の魔法を魔獣に付ける。
3)攻撃役の3人が魔獣を取り囲み、波状攻撃を仕掛ける。
4)魔獣の注意を攻撃役の3人が引き受けている間に、
解呪役が石像を探しだし、解呪を行う。
5)機会があれば攻撃を行うが、その役は最も剣術に優れた者
とする。
最終的に攻撃役は、カイン王、キャスバル王子、エッグ王子。
補助役はドレアル。
解呪役はバーバラに決まった。
そして、剣術に最も優れた者は、カイン王だった。
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カイン王:(いずれ痺れを切らして、
大振りになるときが必ず来る。
それを待って、攻撃を仕掛ける。)
それは、予想よりも早く訪れた。
攻撃役の3人は、魔法で強化された履物を履いていた。
それはバランスを保ち、滑りにくくする効果を
付与したものだった。
余程の事がない限り、バランスを崩すことは無い。
ところが、エッグ王子が着地の瞬間バランスを崩したのだ。
魔獣はその時を逃さなかった。
鎌を大きく振りかぶると、エッグ王子に向けて回転するように
振り回した。
この時、キャスバル王子は予め予測していたのか
エッグ王子の傍らに立っていた。
剣身で攻撃を正面から受け止める。
いや、受け止めたのではない。
剣身の背に左腕の小手を宛がい、顔の前に置いた。
そして、鎌の刃を鍔の近くで受け止めた。
小手を支点にして柄頭を持ち上げ、同時に膝を曲げ中腰になる。
剣先は頭の上を通り越し、頭の後ろに伸びた。
鎌の刃はそのまま滑るように剣先へと流れて行く。
この時エッグ王子は、体制を立て直しキャスバル王子を
支える体制に入っていた。
カイン王はこの光景を目にした時、それを理解した。
これは偶然ではない。
2人が機会を作り出しのだと。
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連合暦20年8月14日夜、軍議終了後
キャスバル王子とエッグ王子は、不機嫌だった。
エッグ王子:「これでは、我々は完全に脇役だな。」
キャスバル王子:「確かにそうだな。
これでは父上に顔向けできない。」
エッグ王子:「その通りだ。
死は恐れん。
何とかならないものか。」
キャスバル王子:「ならば、2人で可能な作戦を考えないか?」
エッグ王子:「それはいい。
早速始めるとしよう。」
2人は、作戦に支障をきたさない範囲で可能な方法を考えた。
そして導き出した答えが、攻撃の機会を作る事だった。
1人がわざと隙を作り、魔獣の攻撃を誘う。
残りの1人がその攻撃を受け流すというものであり、
カイン王はその機会を見逃さないだろうと考えたのだ。
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キャスバル王子の構えた剣身の上を、
鎌の刃が滑るように流れて行く。
魔獣は己を支点にしてコマの様に回転する動きをしていた。
カイン王は、その一瞬を見逃さなかった。
魔獣に突進した。
そして、飛び上がると同時に鎌を持つ腕に
渾身の一撃を叩き込んだ。
回転した力は、剣の威力を確実に増大させていた。
剣身はチーズでも切るように、魔獣の肘に吸い込まれた。
剣身は腕の反対側から出現すると、腕を肘部分から両断した。
それは見事としか言いようのない切り口だった。
支えを失った腕と鎌は、勢いを残したまま
霧の中へと消えていった。
一瞬の間を置き、魔獣の腕から血が噴き出した。
バーバラは、尋常ではない速度で近づいてくる
巨大な黒い影を見た。
反射的にしゃがみ込んだ。
何故しゃがみ込んだのかはわからないが、
身体が勝手に動いたのだ。
そして、頭の上を何かが通過するのを風として感じた。
その物体は1体の石像に激突し、石像の破片が飛び散った。
それは巨大な鎌だった。
それは石像に深々と突き刺さっていたのだ。
一瞬の思考停止の後、涙が溢れ出た。
バーバラ:(ここで、止まるわけにはいかない。)
涙でぼやける視界のなか、バーバラは最後の1体の近くに
移動し、精気の巻物を発動した。
バーバラ:((精気の巻物を発動しました。))
カイン王:((わかった。))
その返事にバーバラは安堵した。
カイン王達は、無事なのだ。
魔獣は存在しない腕を見て、一瞬うろたえた。
そして、失った右腕を突き出して吠えた。
身体の芯がびりびりと震える。
突き出された魔獣の腕の肉が盛り上がり、
切断面を覆って行く。
3人は動けなかった。
魔獣の咆哮は、腕の治療を行う時間を確保するには十分だった。
咆哮の衝撃から立ち直った3人は、波状攻撃を続けた。
魔獣は左手の爪を使い、その攻撃をかわし続けた。
しばらく攻撃を続けた後、実感できる程に
疲労が溜まっていることに気が付いた。
カイン王は、ここが大きな分かれ道と判断した。
そして2人を見た。
2人の動きが目に見えて鈍くなっている。
毎回、全力で攻撃しているのだ。
当然、疲労が蓄積しているだろう。
このままの調子で攻撃を続ければ、
先にこちらの体力が尽きてしまう。
魔獣が攻撃してこないのならば、
こちらも無理に攻撃する必要はない。
そして決断した。
カイン王:((魔獣はこちらの体力の消耗を狙っている。
出来る限り体力を温存しろ。))
魔獣とのにらみ合いが続いた。
カイン王は完全に防御に徹していたわけでは無かった。
隙を探り、機会を伺っていた。
しかし、魔獣は隙を見せなかった。
この時、カイン王は霧が晴れてきているのを感じていた。
明らかに視界が良くなってきている。
キャスバル王、エッグ王子の動きを視認できる。
壁際が見えな事が唯一の救いだった。
あの僅かな霧のどこかにバーバラは居る。
解呪の時間を稼ぐことが我々の本来の目的なのだ。
このまま時間が過ぎ去るのは好都合だったが、霧が晴れ、
バーバラに攻撃が移ったら。
そう考えると不安がよぎる。
バーバラは剣術が出来ないわけでは無い。
しかし、本職は魔導士なのだ。
不意を突かれた場合、反応できるかが気がかりでだった。
今は、霧が少しでも長く晴れない事を祈るしかなかった。
魔獣はゆっくりと回りながら、3人を吟味するように見つめた。
そして、エッグ王子の方をみるとそのまま動きを止めた。
にらみ合いが続いた。
ぴりぴりと刺すような緊張が続いた。
どのぐらいの時間が経ったのだろう?
一瞬だがエッグ王子の緊張が途切れた。
魔獣はその瞬間を見逃さなかった。
膝を曲げ、しゃがみ込むと一気に飛んだ。
それはまさに獣の攻撃だった。
大きく口を開き、エッグ王子の首筋めがけて飛び掛かった。
エッグ王子は反射的に左に飛んだ。
考えて行動する時間は無かったはずである。
幾度となく繰り返された剣術の訓練が、
実を結んだ瞬間でもあった。
魔獣の右腕は存在しない。
その方向へ回避することが最も安全だと身体が知っていたのだ。
長年に渡り繰り返された動きが身体に染み付き、
考えることなく身体が反応したのだった。
魔獣は空中でエッグ王子の首筋を凝視していた。
同時に左腕を肩めがけて突き出し始めていた。
肩を抑え込み、首筋に牙を突き立てる。
それが魔獣の描いた攻撃だった。
しかし、エッグ王子は右側へと移動していた。
それを追う様に左腕を伸ばす。
魔獣の誤算はエッグ王子の動きが
予想以上に早かったことである。
大きく伸びた左腕はエッグ王子を捉えることは無かった。
魔獣は爪を伸ばし、床に突き立てるとその勢いを殺した。
そしてエッグ王子の方向へと視界を移した。
その時、移動する視界の片隅に見た。
視界の中にそれを見つけたのだ。
攻撃を仕掛けた相手はバランスを崩し、
態勢を立て直そうとしている。
残りの2人はそれを助ける為に移動しているようだった。
魔獣は絶好の機会だと判断した。
そして吠えた。
同時刻、カイン王は魔獣がエッグ王子に飛び掛かるのを見て、
援護するために動いていた。
視界はエッグ王子と魔獣を捕らえていた。
エッグ王子は攻撃を避けるように移動し、
寸でのところで魔獣の攻撃を避けたのが見えた。
魔獣は着地するとエッグ王子の方に顔を向けた。
そして頭を上げ吠えるのが見えた。
まるで犬の遠吠えのようだった。
その時、背中に衝撃を感じた。
痛みで身体中の筋肉が固まり、勢いでバランスを崩した。
1回転して受け身をとると、片膝をついた。
カイン王:(まさか、後ろから攻撃を受けたのか?
いや違う。
この痛みは魅了。)
そう、それは魅了だった。
対魅了用の魔法陣が発動し、激痛が襲ったのだ。
カイン王は魔獣の方を向いた。
しかし、魔獣の姿はそこにはなかった。
魔獣は標的を新たなる獲物に変え、
移動を開始していたのだった。
魔獣は四つ足になり、身体を縮め、まるで獲物を狙う獣の様に
気配を殺して移動した。
先ほど視界に入った新たなる獲物。
その獲物の後方へと向かう。
辺りには、まだ霧が残っており身を隠すのは容易かった。
そして、その獲物を目で捕らえた。
それはバーバラだった。
バーバラは、魔法陣を描いているようだった。
こちらに背を向け、魔法陣と思われる物の上にしゃがみ込み、
手を動かし続けている。
一気に左手の爪を突き刺した。
爪は適格にバーバラを捉え、背中に滑り込んでいった。




