救出作戦1
連合暦20年8月16日、カイン王隊
レミューズの合図と共に扉を開け、中へと入った。
部屋の中は霧で覆われており、魔獣の気配は感じられなかった。
ゆっくりと、そして慎重に一歩進んだ。
その時、頭の中に声が聞こえた。
(汝、ここに立ち入ることは許されず。
その身をもって、罪を償え。)
突然、強烈な不快感、嫌悪感が襲った。
それはまるで身体中を無数の虫が蠢くような感覚だった。
しかし、それはすぐに収まった。
また声が聞こえた。
(面白い、我が呪を防いだか。
ならば、この鎌をその身にくれてやろう。)
霧の中、重い足音を轟かせ、巨大な黒い影が、
こちらに近づいてくる。
カイン王、キャスバル王子、エッグ王子が一歩進み出ると
剣を構えた。
ドレアルが魔法を唱える。
赤い光が現れ、その光の玉がふらふらと巨大な黒い影に
向かっていった。
バーバラは無音の魔法*1を唱えた。
この魔法を唱えたのはバーバラが独断で決めたことだった。
そして、回りの音が聞こえない事を確認すると、壁に近寄り、
黒い影を避けるように壁伝いに移動を始めた。
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連合暦20年8月14日夜
魔獣王討伐隊がカイン王国を出発する前日、
バーバラ、レミューズは謁見を申し出た。
謁見は許可され、2人は軍議室にて、しばらくの間またされた。
バーバラ:「例の件だが、カイン王にお話しした。」
レミューズ:「そうか。
それで何か仰られたか?」
バーバラ:「あれ以降、考えを巡らされているようだ。」
レミューズ:「それで、お前はどうする?」
バーバラ:「最後までお供するつもりだ。」
レミューズ:「そうか。」
レミューズはこの回答を予想していたのだろう。
落ち着いた口調で言った。
レミューズ:「ならば、私は流れに身を任せるとしよう。」
バーバラ:「そうか。
すまない。」
レミューズ:「何故謝る。
これは我らに与えられた使命なのだ。」
バーバラ:「そうだな。」
少しして、カイン王が現れた。
カイン王:「準備が整ったのか?」
バーバラ:「はい。」
カイン王:「そうか。
ならば奇策とやら、そろそろ説明してくれないか?」
バーバラとレミューズは、カイン王から対策を検討するように
言われていた。
それは、大河の水差についてだった。
作戦は討伐と救出と2面作戦であり、大河の水差は1つしかない。
つまりどちらか一方でしか大河の水差は使えないということだ。
大河の水差の聖なる水は、魔獣王城での戦いには欠かせない。
魔獣王と西の門番の戦いの両方で必要であるならば、
当然、魔獣王との戦いで使うべきである。
このため西の門番との戦いで、呪術を防ぐ方法が必須となる。
その対策の検討を指示されていたのだ。
バーバラ:「はい。
今回の作戦は、魔獣王討伐と救出を
同時に行う必要があります。
そのために最大の脅威である呪術に対して対策が
必要となります。
レミューズの調査により大河の水差の聖なる水に
解呪の効果を確認しています。
過去の魔獣王との戦いにおいても呪術対策として
聖なる水を撒く事によって解決されたようです。
しかし、ここで大きな問題が発生します。
魔獣王討伐と救出の2つの部隊に分けた為、
どちらか一方の隊は聖なる水の加護が
受けられない事になります。
幸いレミューズは水属性を修得しております。
そこで魔獣王城内を聖なる水の霧で満たす事により、
同様の効果を得ます。
しかし霧の魔法の範囲はそれほど広くありません。
そこで、魔法連動*2を使用します。
それは事前に城の至る所に魔法陣を描いた魔法紙を
貼り付けることにより実現します。
レミューズが霧の魔法を唱えるとそれに反応して、
近くの魔法陣が発動し、霧の魔法の効果を現します。
これが次々に連動し城内を霧で満たします。
この霧は2つの効果を現します。
1つ目は本来の聖なる水の効果である解呪の効果。
2つ目は視覚を奪うという事です。
幸いなことに、今までの魔獣との戦いで、
魔獣も人と同じく目で物を見ていることが
分かっています。
しかし、これは諸刃の剣であり、我々の視覚も
奪われることとなります。
そこで霧の濃さを調整した上で光の魔法を使います。
魔獣本体あるいは携帯する武器に赤い光を灯し、
その位置を確認します。
これはマスタードレアルが行います。
魔獣を迎え撃つのは、カイン王、キャスバル王子、
エッグ王子の3人となります。
防御を中心とし率先して攻撃する必要はありません。
これはあくまで時間稼ぎとなります。
魔獣の意識が3人に向けられている間に、
私バーバラが霧に紛れて石化した者を探します。
血呪草が燃え尽きれば、呪術の維持効果が失われ、
聖なる水の効果で石化は解呪されるでしょう。
全ての解呪が成功した段階で、帰還の巻物を使用して
石化した者達を帰還させます。
その後、我々も転移の魔法で帰還します。
以上です。」
カイン王:「解呪にかかる時間は?」
レミューズ:「それは私が答えましょう。
血呪草が無ければ、
一時(いっとき,2時間)というところです。」
カイン王:「では、血呪草が残っていた場合は?」
レミューズ:「解呪することはできません。」
カイン王:「それは、血呪草を全て焼却しつくさねば、
解呪できないという意味か?」
レミューズ:「いえ、そうではありません。
そうですね。
例えば、血呪草の呪いの維持の力を10とします。
そして聖なる水の解呪の力を5とします。
血呪草の力を削ぐ、つまり燃やす事によって、
その力を5未満にすることができれば、
解呪することができるようになります。
この力の差は解呪の時間に影響します。」
カイン王:「良く分かった。
解呪が完了するまでの間、門番の注意を
こちらに向けておけば良いというわけだな。」
バーバラ:「はい。
キャスバル王子、エッグ王子と共に注意を引き付けて
ください。」
カイン王:「分かった。
しかし、一時とは難儀なことだ。
果たして可能なのか?」
レミューズ:「精気の巻物を準備しました。」
カイン王:「精気の巻物*3だと!!
いかにして手に入れる事ができたのか?」
バーバラ:「それは私が。
法に則り、討伐隊員全員の親族に対して
告知を行ったのですが、アリスの父である
シュルトス公爵が提供を申し出たのです。」
カイン王:「そうか、シュルトス公爵が、、、。
気にはなっていたが、どうやら和解できたようだな。
それで、精気の巻物を使用した場合、
どのぐらいになる?」
レミューズ:「精気の巻物の効果は範囲で、その効果は
全ての物に対して同様に作用します。
実際に効果を体感した訳では無いので、
正確ではありませんが、文献等から予想すると、
解呪までの時間は、
およそ四半時(しはんとき、30分)というところだと
思われます。
しかし、効果範囲が狭いため、
石像の体数にもよりますが、
石像を集める時間と解呪の時間の合計になります。」
カイン王:「なるほど、わかった。
キャスバル王子、エッグ王子、マスタードレアルを
呼んでくれ。
これから作戦を考える。
なお、解呪時間に関しては3人には話さぬように。」
バーバラ:「御意。」
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カイン王、キャスバル王子、エッグ王子は、
ドレアルの放った光を中心に、
三角形の頂点になるように散開し、
一人ずつ交代で魔獣に攻撃を仕掛けた。
全ての攻撃はその素早い動きで防がれたが、
魔獣の意識を向ける事には成功していた。
その時、バーバラは慎重に辺りを探っていた。
そしてすぐに1体の石像を発見した。
石像の上半身は砕け、修復不可能なように見えた。
バーバラ:(最低でも5体の石像を確認しなければ。)
そう考えると、すぐに次の石像を探す。
2体目、3体目もすぐに見つかった。
2体目は首が無かった。
3体目は足しかなかった。
さらに奥へ進む。
そして、外へと続くであろう扉の前で4体目と5体目を発見した。
その2体は奇跡的に無傷に見えた。
バーバラ:(どうやら、この2体は無事なようだ。)
1体は外に続く扉に手を差し伸べるように手を伸ばしていた。
もう1体はその石像を庇う様に背を向け、内側に向かって
剣を構えている。
その2体を近づけるように移動しようとした。
その時、気が付いた。
1体の石像の背中に大きな切れ込みがあった。
バーバラ:(まだ、助かるかもしれない。
この2体を救出しよう。)
バーバラ:((2体を救出します。))
カイン王からの返事は無かった。
咄嗟にバーバラはカイン王がいるであろう方向を振り向いた。
そこに見たものは、尋常ではない速度で近づいてくる
巨大な黒い影であった。
*1:無音の魔法
この魔法は術者の発する音を消す効果がある。
しかし、その弊害として外部の音も聞こえなくなる。
このため一般的には、殆ど利用されることは無い。
密談用の魔法陣の基礎になっている。
*2:魔法連動
基本的に魔法は発動したもののみが効果を得る。
魔法陣も同様でり、その発動条件が存在する。
術者がいる場合は、術者の発声が発動条件となる。
魔法陣の場合は、様々な方法で発動を制御できる。
例えば、魔法陣の中に入った場合や魔法を感知した場合等
である。
魔法連動は、特定の魔法の効果範囲内に魔法陣を作る。
その魔法陣はその魔法を感知した場合に発動するように
作られており、指定した魔法を発動する。
これを繰り返すことにより、より広範囲に魔法の効果を
得る方法である。
*3:精気の巻物
精気の魔法陣は神聖魔法の1つであり、
光属性魔法の効果を増幅する。
巻物の製作には大量の魔晶石を使用する。(レベル4)
記録では今までに3本作られている。
その内の2本はルシード王宮が所有していたが、
既に2本とも使用されていた。
残り1本はどこかの大富豪が入手したと伝えられる。
*4:巻物のレベル
巻物にはレベルが存在する。
これは魔晶石の使用量に応じたレベルである。
転移の巻物に使用する魔晶石の量を1とし、
使用量が10倍になる度にレベルが1上がる。
レベル4だと1000倍の魔晶石を使用することになる。
なお、これは1回の魔法陣発動時に使用される量である。
魔晶石の消費を抑える為にレベル毎に生産量を
制限しているが、それはレベル2までであり、
レベル3以上は国王の許可が必要とされる。




