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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
決戦魔獣王城
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玉座の間へ

連合暦20年8月16日昼すぎ、玉座の間前


目の前には巨大な両開きの扉があった。

パイン:(ついにここまでやってきたんだ。)

パインは、初めての魔獣王との対峙に武者震いが

止まらなかった。

しかし、パインにはわかっていた。

これは終わりではなく始まりだという事を。


玉座の間の扉を前にアリスはノームの話を思い出していた。

それは、ベンヌと繋がったパインも知っている事でもあった。


---


それは、巫女の話から始まった。

巫女とは、人間の奥底に繋がる大いなる意識を表に

出せる者だと教えられた。

大いなる意志は、精神体の集まりであり、全ての源であった。

幻獣を従えたのが巫女である故に、召喚士ともよばれた。

性別は特に関係がないということだ。

そもそも、幻獣や精霊に性別は意味を持たない。

幻獣との契約は、血の契約で行われた。

それは、巫女の子孫にも従う契約であり、同じ資格を持つ者が

多数いた場合、その選択は幻獣に一任するというものだった。


そして、幻獣、精霊、人間対魔獣の戦いが始まった。

その戦いは、ほとんどが幻獣と魔獣の戦いであったため、

彼等は、これを幻魔(幻獣vs魔獣)大戦と呼んでいた。

戦いは幻獣側に有利に進んだが、決定打は無く消耗戦が続いた。


魔獣は、死ぬことはない。

それは、幻獣、精霊、魔獣のいずれにも言えることであった。

肉体を持たず、精神体である彼らに本当の意味の死はないのだ。

さらに、精神体は1つであり、その一部が実体化したのが

魔獣王や魔獣である。

精神体は常に生み出されているため、

それを全て消し去ることは不可能ということだ。

しかし、精神体にダメージを与えられないわけではない。

あまりにも小さな精神体は、意思を持つことができず、

時間と共に結晶化してしまう。

それが魔晶石の元になっているのだ。

ここまでの事で分かるように、精神体が魔法の源なのだ。


精神体は元は全て同じものであるが、そこに意思というものが

生成されることにより成っている。

つまり、破壊の意思を多く持つ精神体が魔獣であり、

創造の意思を多く持つ精神体が精霊ということになる。

そもそも、魔獣の意思の全てが破壊というわけではない。

大小の違いはあるものの創造の意思も含まれているのだ。

魔獣を異世界に封じ込めることにより、

全てが解決するようにも思えるが、

仮に異世界に閉じ込めたとしても、

魔法陣により召喚する事が可能であった。

いずれ魔獣王を召喚する者が現れることは容易に想像できる。

また、魔獣が道を作る事もありえるが、

これは新たな魔法文字を作り出す事によって対処可能だった。


そして、幻獣と精霊の協力もあり、その計画は立案された。

魔獣の意思に創造の意思を混ぜることによって、中和することが

可能ではないかと考えたのだ。

しかしそれは魔獣を無にすることではなかった。

さらに、それにはとてつもない量の精神体が必要となる。

いかにそれを集めるかが問題となった。


異世界を作る魔法はとてつもない量の精神体を消費する。

これには、全ての幻獣が1つとなり、

異世界を創造するしかなかった。


さらに、異世界へとつなぐ道を作る必要があった。

道を創るためには、集中する必要があり、

その間は完全に無防備になる。

その役には炎を司るイフリートが自ら志願した。

道は、魔獣王がこちらの世界へ来るたびに

作り直さなければならなかった。

イフリートが、その方法を用意することになった。

これが炎の幻獣のみが道を作れる制約となった。


そして、運命の日がやってきた。

イフリートは、己の右手を剣に変え、空間を切り裂いた。

そして異世界への道を作り出した。

しかし、魔獣の攻撃はイフリートに集中した。

そして、異世界への道を作りだすと同時に、

剣に変えた右手を切り落とされたのだ。


魔獣の精神体は、異世界へと吸い込まれていったが、

イフリートも無事では済まなかった。

完全に消滅することはなかったが、

再生するまでには、想像を絶する歳月が必要となった。

切り落とされた右手は、霧となって拡散していった。

そのままでは、結晶化してしまう。

炎の幻獣ベンヌがそれを繋ぎ止めたのだ。

そして、それをイフリートの巫女(炎の巫女)に閉じ込めた。


魔獣を異世界へと封じ込めることに成功したが、

幻獣もただでは済まなかった。

異世界を作り出した事により、創造主の怒りを買い、

幻獣もまた異世界へと追放された。


さらに、ベンヌは人間を守るため永遠の命を捨てた。

ベンヌが幻獣を捨てた為、ベンヌの巫女との契約が終わったが、

息子のハルバールと契約を結ぶ事となった。


魔獣を異世界へ送るためには、イフリートの巫女に閉じ込めた

イフリートの剣が必要だった。

そして、イフリートの巫女を未来へと送ることとなった。

それは、巫女の進む時間を遅らせるというものだったが、

時の魔法を受ける者には、記憶の封印が必須であった。

世界には破壊の精神体も存在している。

それが、長い時間をかけて浸食して行く。

それを防ぐための記憶の封印なのだ。

時の魔法を唱える者にはその代償として急速に時間が進む。

この役にはシヴァが選ばれた。

そして、巫女達は眠りについた。


長い時を経て魔獣の王が復活した。

しかし、魔獣の王の城の門番を倒すことが出来なかった。

巫女達と幻獣達は考えた。

4つの門番の内、北門の守りの魔獣は完全なる破壊ではないと

気が付いたのだ。

それは、守りの魔獣の破壊の精神体を薄めることだった。

それを実行に移した。

そしてついに守りの魔獣は、魔獣の王の元を去った。

北門の門番はいなくなった。

これまでの戦いで巫女達も只ではすまなかった。

生き残ったのは、イフリートの巫女、シヴァの巫女の

2人のみであった。

そして、長い時間をかけ、守りの魔獣を白く染めることに

成功したのだった。

そう、白き魔獣のことである。


さまざまな幻獣と契約した巫女達は、多くの子孫を残していた。

しかし、時代が進む毎に巫女の血は薄まり、巫女はおろか

召喚士さえも存在しない状況となってしまった。

唯一の巫女が、時代を超えた巫女のみとなった。

後にアンジェラと呼ばれた氷の巫女は、

ダイクーンの崩壊に苦しみ、記憶の封印を拒否したのだった。

そして、徐々に浸食されていった。

新しい記憶から浸食され、精神的な年齢が後退していった。

ついには子供の頃の記憶のみとなり果てた。

シヴァは氷の巫女は使命を達成できないと判断した。

そんな時に、ズールが現れたのだ。

全てを知る代わりに2つの契約を結ぶこととなった。

・炎の巫女の子孫を守る事。

・魔獣の王と戦う者達を真実に導く事。

ズールは多くの事を成し遂げた。

しかし、思いもよらぬ事が起こった。

炎の巫女の子孫が病にかかったのだ。

ズールは、契約を守るために己を犠牲にして、

炎の巫女を守ったのだ。


その後は、アリス達が経験したことだった。

そして、最後に語られたのは驚くべき内容だった。

その話を聞いた時、アリスは思った。


 この戦いは永久に終わらないと。


---


レミューズ:((これより、魔獣王との戦闘の準備を始める。

      準備が完了次第、扉を開けて突入する。

      突入後は指輪での会話はやめ、

      パーティー会話のみとする。

      カイン王、問題が無ければ始めます。))

カイン王:((こちらは何時でもかまわない。

     始めてくれ。))

レミューズ:((分かりました。))


レミューズは、大河の水差を傾け、水を床に流し始める。

床は水たまりのように足元に広がって行く。

ある程度水が広がった所で言った。

レミューズ:((アリス。

      シヴァを呼び出してくれ。

      完了したら私の合図で突入する。))

アリス:((はーい。

    パインお願い。))

パイン:((わかった。))

パインが呪文を唱えると、パインとアリスの指輪が光だした。

それを待って、アリスは優雅に舞い始めた。


この時レミューズはアリスを赤い目で見ていた。

レミューズは前から疑問に思っていた事があった。

それは、アリスの手にあるという魔法陣である。

その小さな魔法陣を使って、より大きな幻獣を呼び出す。

これは明らかに魔法陣の法則を無視している。

召喚の魔法陣は召喚対象の大きさに合わせなければならない。

これを否定することは魔法陣の考え方を変えなければならない。

一体どうやって?

我々の知らない何かが存在するのだろうか?

この探求心と行動力こそが天才と呼ばれるレミューズを

作り上げたのだろう。


アリスが踊り始めると、レミューズはそれをじっと見つめた。

そしてすぐに理解した。

アリスの踊りに合わせるように、足元に巨大な魔法陣が

描かれて行ったのだ。

踊りは魔法陣を描くためであり、手のちいさな魔法陣は

それを実現するための魔法陣だということを。


踊りを終えた時、アリスの後ろにシヴァが現れた。


皆、驚いた。

シヴァの召喚で辺りが凍り付くのではないかと考えていた。

しかし、シヴァは冷たいどころか、温かく、その顔は慈悲に

溢れた優しい顔をしていた。

心が落ち着く。

それは、まるで母親に抱かれているような、そんな感じだった。

それによって、全員が高ぶる心を落ち着かせることができた。


続けてレミューズが呪文を唱える。

床に溜まった水が霧のようになり、辺りに充満する。


カイン王隊の周辺でも床の水が霧の様に変化し、

辺りを覆っていった。

バーバラ:((成功だ!!。))

レミューズ:((分かった。

      あとは頼んだ。))

ジェイル:((カイン王、ベルノを頼みます。))

ジェイルのその声は、まるで絞り出した叫びにも聞こえた。


レミューズは扉を睨み付けると強い口調で言った。

レミューズ:((よし、突入する。))

その言葉を合図にシヴァが動いた。

シヴァが扉を開け、突入した。

残りの者達も後に続く。


それぞれが、それぞれの思いを込めて、

最初であり最後の戦いへ向かうのだった。


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