幻影2
連合暦20年8月16日
レミューズ隊は最も近い階段から上へ向かう事を決めた。
階段の手前まで行くと上を見上げる。
階段は1階と2階の中ほどでL字型に曲がり2階の床へと
消えていた。
まず気になったのはその大きさだ。
他の作りは巨大であるにもかかわらず、階段の段差や幅などの
作りが明らかに小さい事だった。
まるで人間サイズの者のみの為に作ったようであった。
レミューズ:((こ階段は何故こんなに小さいんだ?))
シェリル:((何か理由があるのかもしれませんが、
残念ながらその理由は判りません。
もしかしたら、人間と戦う事を前提に作られているの
かもしれません。
この階段はもっとも幻影の攻撃を
受ける場所です。
ここを乗り切れば一安心というところです。))
レミューズ:((過去の戦いでは階段での攻撃が最も多かった
という意味ですか?))
シェリル:((その通りです。
巫女がいない場合など、十分な幻影対策が
できていないのならば、上るべきではありません。
上の階にたどり着く事はできないでしょう。))
この時レミューズは理解していなかった。
幻影だと分かっているならば対処方法はいくらでもある。
そう考えていたのだ。
シェリル:((それでは上へ向かいましょう。))
そして一行は階段を上り始めた。
レミューズはバーバラから受け取った魔法紙を
聖なる水を撒くのと同時に張り付けて行った。
階段では段差を確認しながら、より慎重に昇った。
それはある程度歩みを進めた時だった。
疲れたのだろうか?
全身に疲労を感じる。
それに抗うように進んで行った。
只の繰り返し作業だった。
1歩進み、明かり飛ばし、聖なる水を撒き、
魔法紙を張り付ける。
一体どれぐらいこの作業を続けただろうか?
こう考えた時、一向に踊り場に到着しないことに不安を感じた。
無意識に上を見上げる。
レミューズが見たものは永遠に続くと思える程の階段だった。
それはまるで天国へと続く階段のように思えた。
その時、下の方から魔獣の唸り声が聞こえた。
反射的に下を見る。
下の光景も同じだった。
永遠に続くと思えるほどの階段が続いていた。
それはまるで地獄へと続く階段のようにさえ思えた。
一緒に上ってきた仲間もいなかった。
とっさに真実の目を発動しようとした。
しかし、何も起きなかった。
レミューズ:((どうした?
何があった?))
しかし、返事はなかった。
レミューズは下へ向かう階段の先に動く影を見た。
影は徐々にその姿を現わした。
魔獣だった。
魔獣がゆっくりと階段を上がってくる。
その姿を見て反射的に腰に下げた剣の柄を握った。
しかし、剣を抜くことは躊躇した。
レミューズ:(これは幻影だろう。
しかし、魔獣は幻影なのか?)
思考を巡らす間、魔獣はゆっくりとだが確実に近づいてくる。
レミューズ:(巫女は攻められる事は無いと言っていた。
しかし、それは過去の結果から導き出した答えだ。
サールが幻影を見た時、巫女は言った。
『これほど早く始まるとは思わなかった』と。
つまり、今までとは違うという事だ。
今までとは違い魔獣が存在することもあり得る。
既に私以外が魔獣に倒され、私に攻撃が移ったとも
考える事もできる。
もし、巫女が倒されていた場合、
魔獣王との戦いは不可能だろう。
新たな巫女が生まれるとも思われない。
私が生き残ったとして何になるのだ?
魔獣王を倒せるのだろうか?)
その時、1匹の魔獣がレミューズに向けて、
ゆっくりと手を伸ばした。
レミューズの柄を握る手に力が入る。
疑問は疑念を生む。
解決不可能な疑問をどうするか?
推測で結論を導く者、疑問を放置して結論を出さない者。
もし、最終的に結論を導き出さなければならないとしたら。
それは頭の良し悪しではない。
信じるか信じないかの違いなのだ。
レミューズ:(巫女を信じよう。
幻獣が幻影だった場合、
私の行動で全てを失いかねない。
幻影で無かった場合、
後に続く者達に全てを託そう。
それはそれで良いではないか。)
そう結論付けると剣の柄から手を離し、目を閉じた。
肩に触れる手の感触を感じた。
その瞬間頭の中が晴れ渡った。
目を開けると、目に入ったのはシェリルだった。
レミューズは大きく息を吐きだす。
シェリル:((大丈夫ですか?))
レミューズ:((えぇ、大丈夫です。
しかし、幻影とは恐ろしいものだ。
もし、肉親や知人が幻影として現れたら、、、。
それに今見ているものが幻影でないとも
断言できない。))
シェリル:((会話ができるのなら幻影かどうかを
知る方法はあります。))
レミューズ:((一体どうやって?))
シェリル:((幻術は、対象者の中で生み出されるのです。
つまり、自分が知っていることは幻影も
知っているのです。))
レミューズ:((なるほど。
自分しか知らない事を質問し、
知っていた場合幻影の可能性が
高いということか。))
シェリル:((その通りです。))
レミューズ:((見た事も無いものの幻影は見ないのか?))
シェリル:((確かにそうですね。
但し、聞いた話を自分の中で想像していた場合、
それを見る可能性はあります。
現れる幻影にも法則があります。
最も現れるものは、恐れるものや嫌いなもの、
その時最も強く思っている物などです。))
レミューズ:((確かに階段に意識がいっていた。
それ故に無限に続くような階段を見たのか。
ところで、現実の中に幻影が見えたり、
幻影の中に現実が見えたりもするのだろうか?
例えば、今見ているこの現実の中で突然私が
幻獣に見えたりするのだろうか?))
シェリル:((もちろんあり得ます。))
レミューズ:((それは厄介だ。))
シェリル:((そうですね。
それに気が付けるかどうかが問題です。
それができない場合は、
巫女を信じていただけるしかないですね。))
レミューズ:((分かりました。
巫女を信じて静かにしているとしよう。))
シェリル:((それがいいですね。
過去の戦いではその多くを巫女が受けていたため、
大事には至りませんでした。
今回はどうやら違うようです。
幻術耐性は生まれつきのものではありません。
精神を鍛えねばならないのです。))
サール:((すみません。
精神を鍛えるとはどういうことでしょう?))
シェリル:((そうですね。
信念というか意志というか、何かを成し遂げる為の
決意と持続力です。
俄ではいけません。
そうですね、最低でも数年~数十年それを
維持しなければならないでしょう。
精神はそうして強くなっていくのです。))
サール:((・・・無理だ・・・))
シェリル:((無理ではありません。
まずは、目標を決める事です。
そして自分に足りないものを見つけ出し、
一つ一つ確実にこなしていくのです。
剣の道や魔術の道と同じです。
剣や魔術を極めた者は、総じて耐性が高いのです。
やり続ける心、諦めない心、萎えない心、
継続こそが、精神を鍛える事に繋がるのです。
何もしなければ耐性は徐々に弱まっていきます。
継続し続けることが最も有効なのです。))
レミューズ:((言っていることは分かります。
しかし、今、この状況をどうすれば良いのか。))
シェリルは少し考えてから言った。
シェリル:((確かにそうですね。
さらに幻術の攻撃があるかもしれません。
巫女は幻影に対抗できます。
対策として、玉座の間の手前まで手をつないで
進みましょう。
アリスはレミューズ。
パインはサール。
私はジェイル。
何かがあったならばその手を握るのです。
手を繋いでいる事を決して忘れないでください。
では、そろそろ先に進みましょう。))
この後、何回か幻影に襲われた。
しかし、巫女達の助けにより被害は皆無に等しかった。
そして無事に階段を登り切った。
そこは廊下のような作りになっていた。
シェリル:((玉座の間への扉は魔法で隠されています。
この通路の壁に埋め込まれた様々な燭台が
見えるでしょう。
この全ての燭台に火を灯すのです。))
シェリルの指示により、所々に点在する燭台に火を灯しながら
進んで行った。
廊下は口の字のように真ん中の部屋(?)を取り囲むように
続いていた。
しかし、1周回ったにもかかわらず、
扉のようなものは存在しなかった。
シェリル:((北側に向かいましょう。))
シェリルの言葉に従い、北側へと進んだ。
そこには、今までには無かった2つの燭台があった。
それはまるで見えない扉を挟みこむように置かれている。
パインとアリスが進み出て、両方の燭台に同時に火を灯す。
その途端、壁の色がまるで溶けるように変わっていった。
そして現れたのは巨大な両開きの扉だった。




