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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
決戦魔獣王城
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血呪草

連合暦20年8月16日


討伐隊は魔獣王城の通路を進んだ。

通路は左へと折れ曲がり、その先は大広間へと繋がっていた。

大広間へ入ると、すぐ左に上の階へと繋がっているであろう

階段があった。

階段はL字形に折れ曲がり上へと向かっている。

階段は不思議なことに人が使うのに適切な段差になっている。

まるで人が昇る事を前提に作られているようだった。

シェリルの指示により階段を無視して広間の中央へと

ゆっくりと進んだ。

その時、突然広間の中に設置されてた何十という石柱の

上部から炎が立ち上った。

その炎の灯りで広間が照らされる。


ドレアル:((ほう。

     どうやら歓迎されてているよう...))

     

何気なく見上げた視線の先に初めて目にする物体が

飛び込んできた。

その異様さに声を失った。

ドレアルは目の前にそびえ立つ巨大な木(?)を目にしたのだ。

それは、巨大な蔓(つる)が幾重にも絡み合い、1本の木の様に

天井へと伸びていた。

太い蔓は緑色をしていたが、その内に赤黒い線が伸びていた。

それはまるで血管の様に分岐し、隅々までいきわたっていた。

木(?)の上部にはまるで実のような何かがぶら下がり、

その実から真っ赤な液体が滴り落ちていた。

全員がその様子を呆然と見ていた。


静寂を破ったのはカイン王だった。

カイン王:((これが血呪草か?))

シェリル:((そうです。

     これが魔獣界の植物、血呪草です。))

ドレアルはこの時、この魔獣界の植物を持ち帰りたい

衝動にかられた。

これは、魔導士としての性(さが)でもあり、

魔導の追究でもあった。

どんどんとその欲求が膨らんでくるのだ。

シェリル:((持ち帰ろうなどと考えてはいけません。

     この植物は人間の手に負えるものではないのです。))

その言葉にドレアルはハッとした。

持ち帰ることが正しくない事は分かっていた。

しかし、あの言葉で我にかえらなければ、

理性よりも欲求が勝っていたかもしれない。

シェリル:((魔獣王の精神攻撃は様々です。

     今この時の心の動きは常に狙われていると

     考えなさい。

     隙を見せる前に燃やしてしまいましょう。))

カイン王:((確かに巫女の言う通りだ。

     すぐ準備にかかれ。))

直ぐに持ってきた油袋を一か所に集め始めた。

レミューズは油袋を置くと、

聖なる水を広間に撒くことを続けた。

バーバラは魔法紙を張り付けて行く。

ドレアルは袋の中から青い色をした砂を取り出し、

それを血呪草の根本に撒いて行った。

サール:((マスタードレアル。

    その砂はなんですか?))

ドレアル:((これか?

     これは、空石*1という石を削った物じゃよ。))

サール:((空石?))

ドレアル:((知らなくても無理はない。

     それほど希少な石ということじゃな。

     この石は空から降ってきたと言われており、

     炎を強化する力があるのじゃ。))

サール:((そんな石があるのですか。))


残った者は油袋を手に取り、血呪草の根本にそれを撒く。

全ての油が撒かれた後、全員が一か所に集まった。

そしてカイン王の合図の元、油に火が放たれた。

炎はその勢いを増しながら血呪草を覆って行った。


カイン王:((よし。

     作戦通り、レミューズと共に西門へと向かう。

     レミューズ隊はレミューズが戻るまで

     ここで待機とする。

     念のため、結界*2を張っておくように。))


そしてカイン王隊とレミューズは西門へと続く通路へと進んだ。

相変わらず、レミューズは聖なる水を撒き、

バーバラは魔法紙を貼り付け、ドレアルは光を飛ばしていた。

途中何事も起こらずに目的の扉まで進むことができた。

扉は閉まっていた。

その巨大な扉の前で結界を張り待機した。

レミューズが扉の前へ進むと聖なる水を勢いよく流し始めた。

そして頃合いをみて呪文を唱える。

聖なる水はその呪文に呼応ように扉の下の隙間から部屋の中へと

流れ込んでいった。


その頃、パイン達はサールの張った結界の中で、

座り込むジェイルの周りに集まっていた。

ジェイルは不安感をぬぐい切れなかった。

死の恐怖は克服してきたつもりだったが、

得も言われぬ不安感が奥底から湧いてくる。

この城に入ってから常にそうなのだ。

一言も話さずにその不安感に耐えてきた。

この待機で一気にそれが噴きでたのだ。

その衝撃でジェイルは床にへたり込んでしまった。


サール:((ジェイル、どうしました?))

ジェイルからの返事は無かった。

彼は、ぼーっと血呪草が燃えるのを眺めていた。


サール:((まさか幻影?))

この時、シェリルはジェイルの心を読むことを考えたが

それを実行に移すことは無かった。

その代わりジェイルの目を見て判断を下した。

シェリル:((いえ、どうやら幻影では無いようです。))

サール:((そうですか。))

シェリル:((念のために鎮静の魔法を唱えておきます。))

そう言って呪文を唱えた。


しばらくして、シェリルは血呪草について話始めた。

シェリル:((魔獣界の植物である血呪草は、魔獣界で生まれた

     植物ではありません。))

サール:((どういうことでしょう?))

シェリル:((魔獣界は精神世界であり、

     生物は存在していませんでした。

     人間が作った魔法陣も同じですが、

     イフリートの作る道は精神体のみを通し、

     生物は通さないのです。))

ドレアル:((ちょっといいかのう。

     精神体しか通さないのであれば、何故ゆえに

     魔獣界に生物が生まれたのじゃ?))

シェリル:((魔獣界に追いやられた魔獣はいずれ

     人間界と魔獣界を繋ぐ方法を作り出す事は容易に

     予想できるものでした。

     対策を検討し、そして導き出した答えは魔獣界と

     繋ぐための魔法文字を作り上げる事でした。

     これは摂理を利用した方法です。

     同一の効果を表す魔法文字は一つしか

     存在できないのです。

     異世界同士を繋ぐ魔法文字を作り上げてしまえば、

     魔獣はその効果を表す魔法文字を

     作り出せない事になるのです。

     この方法を現実のものとするためには4つの制限が

     ありました。

     1つ目は、魔獣界を作り上げた時、

     それに参加している事。

     2つ目は、それを実現したイフリートと同じ属性を

     持っている事。

     3つ目は、人間界に存在している事。

     4つ目は、精神体である事。

     これら全てを兼ね備えたゼロスがその役に

     選ばれました。

     ゼロスは魔法文字を作り上げ、

     多くの巫女達が見守る中で

     最初の実験が行われました。

     通路の大きさは人の頭程度の大きさでした。

     それ以上の大きさは魔獣が通過できる為、

     選択されませんでした。

     通路を開いた後、何日もの間観測が続けられました。

     しばらく後に、それは突然起きました。

     一人の観測者が通路から飛び出た巨大な手に掴まれ、

     魔獣界に引きずり込まれたのです。

     引きずり込まれた観測者は魔導士であり、

     呪術を研究していました。

     この者が血呪草の元となる植物の種を持っていたか

     あるいは服に付着していたのかは分かりませんが、

     その可能性はかなり高いと考えられました。

     彼の研究所に血呪草に近い植物が

     存在していたのです。

     直ちに通路は塞がれました。

     そして、最後にゼロスは己の中の最も深い場所に

     それを隠しました。

     しかしこれは大きな危険をも伴うものでした。

     精神体が人間界に滞在するためには、人間に憑依する

     必要があるのです。

     この憑依による滞在は、憑依した者の光と闇の属性に

     強く影響されるのです。

     それはゼロスの精神体を光か闇のいずれかの方向へと

     浸食していくのです。

     ゼロスを倒す事はお勧めできません。

     ゼロスは精神体の為、死ぬことはないのです。

     憑依した者への攻撃は単に闇を増幅する

     だけなのです。

     そしてゼロスが黒に染まった時に

     隠された魔法文字を知る事になるのです。

     これを防ぐ方法はありません。

     ゼロスは長い年月をかけて徐々に黒く染まって

     いきました。

     そして今のゼロスがあるのです。))

カイン王:((ゼロスは闇を選んで

     憑依しているのではないのか?))

シェリル:((残念ながらそれはありません。

     ゼロスは、源に繋がっていませんし、

     それを知る力は無いのです。

     ただ、ゼロスが闇に近づけば闇属性の魔法を、

     光に近づけば光属性の魔法を唱えます。

     その他の魔法は憑依する者の力を使っているに

     すぎません。))

ドレアル:((悲しい事じゃの。

     ゼロスが闇に近づくという事は、

     多くの人が闇に近づいている事を暗に示している

     ということじゃ。))

カイン王:((巫女よ。

     ゼロスが完全に闇に落ちた場合、

     人間は終わりなのか?))

シェリル:((いえ、終わりではありません。

     ゼロスは最後の救いを己に仕掛けたと言っています。

     隠した魔法文字が覗かれた時それが発動すると。))

カイン王:((それはどのような仕掛けなのだ?))

シェリル:((残念ながらそれは分かりません。

     ゼロスはそれを知られる事を最も恐れたからです。))

カイン王:((確かにそうだな。

     秘密がどこから洩れるかは分からない。

     知らないことが最善という事もあるからな。))

シェリル:((そうですね。

     知らないことが救いであることもあり得るのです。))

しばらくの間沈黙が続いた。


沈黙を破ったのはカイン王だった。

カイン王:((どうやらレミューズの仕掛けも終わったようだ。

     レミューズがそちらへ戻り次第玉座の間へと

     向かってくれ。))


そしてレミューズを待った後でレミューズ隊は玉座の間のある

2階へと向かった。



*1:空石

スカイストーンと呼ばれる石がモデルです。

ターコイズではなく、酸素で出来た石の方です。

酸素石といっても、水に入れると酸素を出す訳ではありません。


*2:結界(簡易結界)

城等大きな範囲を取り囲む結界とは違い、

魔法陣などを使用せずに術者を中心に

一定の範囲(数メートル程度)に効果を及ぼす簡易結界である。

簡易結界と呼ばれるように、その効果は弱く、

魔法を防ぐ目的ではなく気配を消すような

使い方が一般的である。

簡易結界の効果を凝縮し、一方向に集中する方法も存在する。

これは魔法障壁と呼ばれ、魔法緩衝壁としての役割を果たす。

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