決戦前夜
連合暦20年8月15日夕刻、ザイム野営地
ザイムには多くの傭兵が集まっており、
各々即席の簡易的なキャンプを作ってくつろいでいた。
カイン王の一行が前を通過すると、見るからに厳つい顔の傭兵が
こちらへとやってきた。
傭兵:「カイン王。
今回の露払い役を仰せつかった隊長のタロスと申します。」
タロスは形式的な敬礼を行う。
カイン王:「そなたが隊長か。
よくぞ任を果たしてくれた。
魔獣王討伐の折には相応の報酬を支払おう。
今日はゆっくりと休息を取り、明日一番で
転移するよう皆に伝えておいてくれ。」
タロス:「ご厚意には感謝します。
しかし、今回は別の用向きで伺った次第です。」
カイン王:「如何なることか?」
タロス:「任務について、お耳に入れて起きたい事があります。」
カイン王は少し考えると、タロスを自らの天幕へと招き入れた。
タロスが天幕を出た後、
すぐにバーバラとレミューズを呼び出した。
しばらくして、討伐隊全員が呼ばれることとなった。
天幕の中は想像以上に広く、中央に机と椅子が置かれ、
軍議ができるような様相をしていた。
一番奥にはカイン王が険しい顔をして座っている。
両脇の席には深刻な顔をしたバーバラとレミューズが
座っていた。
重苦しい空気の中、全員無言で席に着いた。
バーバラが11人そろったのを確認すると静かに話始めた。
バーバラ:「突然の事で驚くかもしれないが、
作戦の続行、中止を決めるにあたり、
皆の意見を聞きたい。」
その発言に誰もが驚いた。
ドレアル:「一体なにが起こったんじゃ?」
バーバラ:「経路確保任務を遂行したタロス隊長から
報告がありました。
ザイムまでの経路で魔獣に遭遇しなかったようです。」
キャスバル王子:「遭遇しなかったですって。
まさか、事前に移動した?」
バーバラ:「その可能性が一番高いでしょう。
問題は、何故、何処に移動したのかです。
我々の行動を察知して手を打ったのであれば、
この先で大軍と遭遇する可能性が高いのです。
そこで、意見を聞きたいという訳けです。」
予想だにしなかった事態に誰もが混乱していたが、
状況を飲み込めた者から徐々に意見が出始めた。
しかし、そのほとんどが想像のみであり、
魔獣王討伐という使命感が作戦中止を口に出せないでいた。
場の空気はさらに重くなり、長い間沈黙が続いていた。
「カイン王に謁見を、、、。」
そう叫ぶ声がかすかに聞こえた。
レミューズが立ちあがり、天幕の外へと踊りでた。
戻った時、隣にはクライム王国の鎧を着た兵士が立っていた。
その姿に誰もが驚いた。
鎧は汚れ、傷つく腕が戦闘中であったことを物語っていた。
誰もがクライム王国が襲われていると想像していた。
ただ一人、カイン王のみがそれを想定していたかのように、
落ち着いていた。
レミューズ:「クライム国からの使者のようです。」
使者は儀礼を取り、跪こうとした。
カイン王:「儀礼は不要。
要件のみ手短に報告してくれ。」
使者:「はい。
3国混成軍は11日に南西および南東方面から
進軍を開始しました。
14日、魔獣王城との中間地点で魔獣の大軍と遭遇。
現在防戦中であります。
16日の早朝に撤退する旨、お伝えするようにと。
あと、討伐隊の皆様のご武運をお祈りしますとのことです。」
カイン王:「なるほど。
相分かった。
魔獣王の討伐後にお伺いするとお伝え願いたい。」
使者:「はっ、しかと承りました。」
カイン王:「粗末なものしかないが、
しばらく休んでから戻るとよい。」
使者:「いえ、まだ友軍は戦闘中ですので、
このまま帰還します。」
カイン王:「そうか、では、吉報を待っていてくれ。」
使者は、深々と頭を下げると、天幕を後にした。
カイン王:「陽動か、やってくれる。」
そもそも討伐作戦は、クライム国王とその重臣にはその経緯も
含めた報告は済ませており、それを知った上での行動である。
陽動とは、自分の本当の意図を敵に誤認させることを目標として
計画的に実施される作戦行動である。
今回の場合、討伐隊の侵入経路から離れた場所に進軍する事に
よって、敵の注意を陽動部隊に集中させ、討伐隊の侵入経路を
手薄にするという目的で実行されたと考えられる。
陽動作戦は、作戦立案時に案の一つとして出ていた。
しかし、カイン王はそれを却下した。
陽動作戦は、陽動部隊の損害が大きくなる恐れがあり、
無駄な被害を極力出したくなかった。
魔獣の壺は広範囲に点在しているため、細心の注意を払って
行動すれば、敵に気が付かれずに安全域まで到達することが
可能だと判断していた。
討伐隊に事前連絡もなしに決定している点も重要だ。
作戦漏洩を恐れての行動とも読み取れるが、
3国混成軍であることがそれを否定している。
3国間で協議すれば、漏洩の可能性を飛躍的に高めるだろう。
兵士の末端まで情報統制することはまず不可能である。
制約を多くすれば反発する者が必ず現れる。
それは間者を絞り込むには有効ではある。
間者は得てして、同じ様な他の事に目をつむり、
目的の事のみを騒ぎ立てるものなのだ。
これは作戦外の行動により、
より多く考えさせようとしたのだろう。
これらにより、本来の目的が予想できる。
この作戦は、表面的には討伐隊を援護しているように見えるが、
暗に討伐隊の精神的な退路を塞ぐ効果を狙った可能性が高い。
陽動による多くの犠牲を考えさせることができれば、
作戦中止を躊躇させるには十分だろう。
作戦中止は許さないという意味なのであろうと。
元々、作戦中止は基本あり得ないと考えていた。
作戦中止、そのわずかなゆるみを抑え込むきっかけに
なったことは間違いないだろう。
カイン王は思った。
クライム国王とその重臣達であるならば、やりかねないと。
これは、クライム国王と重臣達の事をよく知っているカイン王で
あるからこそたどり着いた結論であった。
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初代のクライム国王は元々盗賊の頭であり、
旅人や荷物を運ぶ商隊を襲い略奪することを生業としていた。
始めの内は少人数であったが、
その生き方にある種の憧れを抱く若者が増え始め、
その人数を増やしていった。
その者達の中にリリスという名の女魔導士がいた。
剣技に自信の無かった彼女は知略と魔法で
のし上がるしかなく、そしてそれが己の生き残る道だと
考えていた。
彼女が拠点に無造作に置かれた不要な戦利品の山を
見たことによって、盗賊団のその後の運命は大きく変わる
事となる。
当時は北側と南側の森は現在より大きく突き出しており、
2つの森の距離が最も近い位置が
カイン王国のあった位置である。
商隊は、伏兵や奇襲を避けるため森を避け行動する。
盗賊団は近くの森に潜伏し、開けた場所を移動する商隊を
襲っていた。
現在のクライム国の近辺には多くの村が点在していたが、
彼等の多くはその村々の出身であったため襲う事は無かった。
ルシード王国では数度に渡り討伐隊を派遣していたが、
その全てが森の中に逃げられ失敗に終わっていた。
彼等は森を熟知している上に、森の中の戦闘では近接戦が中心と
なるため、ルシードの魔導士部隊では歯が立たなかった。
さらに、森の中には多数の罠が仕掛けられていたことも森に入る
ことを避けさせていた。
彼等は、森の木々に印を刻んでいた。
森に入った部隊も罠と木々に刻まれた印を見ると、
何もせずに撤退していった。
実際には、ほとんどの印には何の意味など無かったのだが、
印は疑問を生み、そして猜疑心を生んだ。
彼等は木々1本1本に至るまで正確に書かれた地図を作り、
木々に意味の無い印を刻み、地図にそれを記したのだ。
その地図により罠のある森を自由に行動することができた。
頭の良いものほど意味の無い印に意味を求め出口の無い迷宮を
さまよい続けるのだ。
彼等は現在のカイン王国の北西側の森の中に拠点を置いていた。
拠点が手狭になると、南側の森に新たなる拠点を増やした。
そして、3か所目の拠点を森の外に作る事を考えた。
それは、拠点というよりも、砦と呼ぶに等しい物だった。
拠点を三角形に置き、それぞれが他の2拠点の掩護を
行うというものだった。
それは現在のカイン王国のある場所に位置していた。
砦の建設は当初順調に進んでいた。
しかし、完成間近に迫った時にルシード部隊の攻撃を受けた。
それは遠距離からの魔法攻撃だった。
砦の木々は燃え、石壁は崩れ落ちた。
砦の建築は失敗に終ったのだった。
しかし、彼等は諦めなかった。
2度目の建築では人数を倍増し、急ピッチで砦を作っていった。
しかし、1度目と同様に魔法攻撃を受け失敗に終った。
彼等は大きな痛手を被った。
人数を増やしたため多くの死傷者が出たのだ。
この失策によって彼等は長きに渡って沈黙を続けた。
ルシード王国はこの時、3度目の砦建築はもう無いだろうと
予想していた。
1回目の砦建築の頃、リリスは知略と魔法を駆使して
小隊を率いるまでになっていた。
それからは早かった。
彼女の率いる小隊は、戦うことなく、気づかれることなく、
素早く目的の品を盗みだした。
そして、2回目の砦建築の頃には疾風の盗賊団と
称されるまでになった。
彼女は瞬く間に参謀の地位を得ることとなる。
そして魔法による攻撃とそれを防御する方法を説いていった。
初代クライム王はこの考えに共鳴し、
リリスを妻に迎え迎えると、その知識を吸収していった。
盗賊団の沈黙は1年にも及んだ。
そして生き残るための方法と進むべき道を実行に移した。
手始めに行ったのは3度目の砦建築だった。
砦はルシード国を牽制すると共に、
次の目的の為の足がかりでもあった。
砦の建築は1回目よりもさらに遅かった。
それを知ったルシード国は盗賊団にはもう力は無いと考えた。
1、2度目と同様に完成間近の砦を破壊した方が
精神的なダメージが高いと考え、それを放置することにした。
それよりも森での戦闘の為、近接攻撃部隊を育成することが
急務だったのだ。
ある時から、砦の建築が突然急ピッチで開始された。
ルシード国王は重い腰をあげ、討伐隊を派遣した。
そして最初の攻撃を開始した時、彼等は驚いた。
砦が結界で守られていたのだ。
リリスは戦利品の中に多数の魔晶石を見たのだった。
盗賊団にはそれまで魔導士はいなかったため、
魔晶石の価値を知らなかったのだ。
そしてついに結界を張る事に成功した。
ルシード王国の軍隊は魔導士中心の部隊であったため、
結界によって魔法を封じられた場合無力に等しく、
結界を破壊するには剣を交える以外に方法はなかった。
ルシード軍は戦わずして撤退することとなった。
それは砦攻略は不可能と考えた結果でもあった。
そして砦は完成した。
砦と両脇に張り出した森によって、ルシードの西方への進軍を
抑えるには十二分に機能した。
砦の完成後、盗賊団は驚くべき行動に出た。
現在のクライム国の辺りに点在していた村々を
襲うのではなく制圧し始めたのだ。
盗賊団の部隊は軍隊とまでは言わないものの
統制のとれた部隊であった。
多くの村々は、砦の戦闘でルシード軍が撤退していたことを
知っており、軍が来ない事を理解していた。
そして、戦う事をせずに降伏していった。
全ての村が降伏するまで、さして時間はかからなかった。
そして全ての村を制圧した盗賊団は建国を宣言したのだ。
国の名は、クライム、それは異国の言葉で犯罪や罪を意味する。
何故この名を選んだのか、その真意は分からなかった。
ルシード国王は建国を承諾する以外の道は無かった。
初代クライム国王の気質は豪胆でありながらも緻密であったと
言われており、初代クライム国王の教えは家訓として
代々受け継がれた。
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バーバラ:「陽動ですか、、、。
それにしても我々に連絡もないとは、、、。
カイン王:「それがクライム国王のやり方だ。」
バーバラ:「魔獣が居なかったこともこれで納得できます。
作戦続行ということでよろしいですか?」
カイン王:「いや、作戦を変更しよう。
これだけの大規模行動だ、作戦の詳細が漏れている
可能性は否定できない。
さらに、クライム国に近い位置の魔獣の壺の再設置は
およそ3日だが、ザイム以北の再設置は不明だ。
距離によるものとして試算したが、実際のところ
それよりも早い可能性もある。
折角のお膳立てだ、
この陽動作戦を利用させてもらおう。
すぐにザイムを立つ。」
キャスバル王子:「なるほど。
陽動部隊が明日の朝まで撤退しない
ということは、
今が最も安全な時という訳か。」
カイン王:「そう、この時を逃がす手はない。
準備が済み次第出発する。」
討伐隊の動きは早かった。
直ぐにザイムを出発すると、最も危険なザイム北の森を抜け、
山道へと入り、その夜の内に山頂近くの山小屋に到着した。
陽動が功を奏したのか、魔獣との遭遇は無かった。
山小屋は小さかったが11人が泊まるには十分な広さがあった。
サール:((こんなにあっさり事が運ぶなんて、
びっくりですよ。))
ドレアル:((そうじゃの。
ある意味怖いぐらいじゃ。
何も無ければよいのじゃが。))
サール:((マスタードレアル。
怖い事言わないでくださいよ。
そう言うのをフラグが立つというんですよ。))
ドレアル:((そうじゃったのう。
すまん、すまん。))
11人は、各々床にごろっと横になると、
間近に迫った魔獣王との戦闘に不安を覚えながらも
眠りについた。
C,A:「お久しぶりです。」
C:「色々とありましたが、
ついに魔獣王城の目と鼻の先までやってきました。」
A:「いやー、長かったですね。
もうすぐ4年になりますよ。」
C:「作者も失踪しないように頑張っているようですので
大目にみてあげてください。」




