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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
ベンヌの住まう山
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運命の日3


ルシード:「我々は、シヴァの召喚を待った。

     その間、誰も一言も話さなかった。

     しかし、誰もが勝利することを願っていたことは

     間違いないだろう。

     シヴァが召喚されたとき、

     その大きさと威圧感に圧倒された。

     人間では、到底太刀打ちできないとさえ思った。

     しかし、シヴァでは魔獣の王に勝てない。

     それは属性の問題だった。

     火と氷は相性が悪すぎるのだ。

     魔獣の王は、このシヴァと同等あるいはそれ以上だと

     聞かされていた。

     我は、素直な気持ちを声にした。

      「シヴァが味方であることが救いだ。」と。。。

     それに対して巫女は言った。

      「安心しました。

      シヴァの強さが判るのですね。

      勇気と無謀の違いを知る事は、

      勝利へと近づくことなのです。」

     

     巫女の言っていることが、わかったきがした。

     闇雲な攻撃では、魔獣の王に勝つことは不可能だと。

     今考えれば、扉の前で召喚したことも意味があったと

     わかる。

     この時シヴァを見ていなければ、魔獣の王に恐怖し、

     まともに動くことすら叶わなかっただろう。

     

     巫女は一人一人をじっとみていた。

     気圧(けお)されている者がいないかを

     確認したのだろう。

     そして笑顔を見せると、言った。

     「行きましょう。私達に勝利を。」

     全員が同時に頷くと、両開きの扉の前へと進んだ。

     氷の巫女が、大河の水差を傾け、水を流し始めた。

     床は水であふれ、広がって行く。

     ローゼスが右の扉をガダラルが左の扉を

     押し開いた。

     2人が横にならんで入れるれるほどに開くと、

     2人の巫女は中へと突入した。

     シヴァはというと、扉をすり抜けるように入った。

     我も巫女達に続く。

     

     そこは、よくある王の間の様相をしていたが、

     装飾の類は一切なく、石の柱や石の壁がむき出しに

     なっていた。

     そして、一番奥に巨大な王座があったが、

     それは異様な光景だった。

     巨大な玉座に魔獣の形の穴が開いているように

     見えたのだ。

     我々は、足を止めそれを凝視していた。

     足を止めたのは、驚いたというのもあるのだが、

     足が進むのを拒んだと表現するのが正しいだろう。

     進もうとしても、足が動かないのだ。

     しかしそれが、魔獣の王を凝視するきっかけに

     なったのかもしれない。

     よく見ると、真っ黒い巨大な魔獣が右手を高く上げ

     座っているにすぎなかた。

     

     全員が部屋の中へ入り、魔獣の王を凝視していると、

     右手を振り下げる動作が目にはいった。

     同時に上方に光と熱を感じた。

     上を見上げると、巨大な火の玉が上空にあった。

     それがゆっくりと落ちてくる。

     いや、落ちてくるのではない、

     大きくなっているのだ。

     周りの温度が急激に上昇しているのがわかる。

     

     我々は金縛りにあったように動けなかった。

     その間にも火の玉はどんどん大きくなっていった。

     我が死を覚悟した時、それは起こった。

     

     突然、後方が光ったのだ。

     それは、シヴァが放った光だった。

     目が眩み視界が戻った時には、

     火の玉はそこに無かった。

     そして、キラキラと光る何かが消えてゆくのが

     見えた。

     我々が戸惑っていると、巫女の声が聞こえた。

     「なにをしているの!!」

     我々は正気を取り戻した。

     我と、ローゼス、ガラダルは、魔獣の王に向かって

     突進した。

     ある程度距離を縮めると魔獣の王の詠唱が聞こえた。

     我はとっさに剣を構え、魔獣の王に向かって突進し、

     打ち据えた。

     渦雷の剣から稲妻のような光が現れ、

     魔獣の王を包み込むとバチバチと音をたてた。

     魔獣の王の詠唱が止まった。

     我に続き、ローゼス、ガラダルが攻撃を始めた。

     

     魔獣の王が動き始めると攻撃を与える。

     その繰り返しだった。

     

     攻撃は、順調だった。

     魔法の詠唱を確実に止め、傷も与えている。

     それどころか一切の反撃すら許していない。

     一体どれぐらい攻撃を与えているのだろう?

     巫女の魔法は、後どのぐらいかかるのだろう?

     そのような考えが我の頭の中に浮かんできた。

     無限とも思えるほどに剣を振り続けた。

     ところが、ある時を境に魔獣の王の動きが

     鈍くなった。

     我は、この時の事を決して忘れることは無いだろう。

     

     我の頭の中に1つの考えが芽吹いた。

     我は魔獣の王に傷を与えている。

     このまま倒しきれるのではないか?

     このまま攻撃を続ければ、魔獣の王を倒す事が

     できるのではないかと、、、。

     そのような気持ちが、

     次第に自分の中に広がって行く。

     それが強く、確信が持てるように変わって行く。

     それに合わせるように、攻撃の手数が増えて行く。

     最初は、魔獣の王の詠唱や動きに合わせて

     攻撃をしていたが、今は攻撃の手を休めることなく、

     たえず攻撃をしていた。

     それが自分の力では無いにも関わらずだ。

     自分に酔いしれていた。

     

     そして、それは突然襲い掛かった。

     突然目の前が真っ暗になったのだ。

     そう、我の意識が飛んだのだ。

     

     これから話すことは、後にメルクリウスから

     聞いたことだ。

     最初に異変に気が付いたのは、メルクリウスだった。

     それは、我の攻撃の手数が増えている事だった。

     メルクリウスは、何が起こっているのか

     すぐに分からなかった。

     精神を安定させる魔法の詠唱に入ったのは、

     しばらくしてからだった。

     この時の判断の遅れが自分のミスだと後に語った。

     魔法が発動する直前、我が倒れるのを見た。

     魔獣の王は、それを見逃さなかった。

     我に向けて一撃を放とうとしていたのだ。

     横にいたガラダルの動きは早かった。

     ガラダルは、我の落とした渦雷の剣を取ると、

     魔獣の王に向けて剣を振りかぶった。

     しかし、魔獣の王の攻撃はそれよりも早かった。

     ガラダルを薙ぎ払ったのだ。

     その一撃で吹き飛ばされ壁に激突した。

     渦雷の剣も壁の側に転がる。

     

     この時、巫女の詠唱が完了した。

     

     魔獣の王の周囲が光り輝く。

     魔獣の王は、悲鳴をあげ苦しみだした。

     そして、詠唱を開始した。

     ローゼスは、渦雷の剣を取りに走った。

     魔獣の王の身体が足の方から真っ黒い霧状に

     変化してゆき、その霧が窓から外へと流れてゆく。

     魔獣の王が完全に霧状になる前に、

     渦雷の剣で攻撃を加えられていれば、

     悲劇は起きなかっただろう。

     ローゼスが剣を手にし、魔獣の王に攻撃を

     加えようとした時、魔獣の王の全てが霧状となり、

     攻撃は当たらなかった。

     魔獣の王の詠唱は完了してしまった。

     シヴァが唱えたのだろう、転移の魔法が発動し、

     我々は、城の外へと飛ばされた。

     

     その場所は、平原に近い山の山頂だった。

     アーテが見渡せる位置だ。

     すぐにメルクリウスが、我を起こした。

     横では巫女達がガラダルの治療を始めていた。

     

     メルクリウスが空を見上げている。

     我もその方向を見上げる。

     空には、真っ黒い円形の穴が開き、

     その周りをベンヌが飛んでいた。

     真っ黒い霧は、その穴に吸い込まれるように

     流れ込んでいた。

     全ての霧が穴に吸い込まれると、穴は閉じた。

     空は、何事もなかったように青かった。

     

     この時、魔獣の王を撃退したことを確信した。

     そして、アーテの方を見た。

     アーテの上空に無数の火の玉があった。

     それが落ちてゆくのが見えた。

     火の玉はアーテに次々に落ちてゆく。

     アーテが燃えていた。

     それはまるで、地獄の業火のごとく、

     全てを焼き払う炎だった。

     声にならなかった。

     我は呆然とそれを見ているしかなかった。

     全ての火の玉が落ちた後には、

     アーテはそこには無かった。

     

     ここでまた、意識が飛んだ。

     次に目覚めた時には、3年の年月が流れていた。

     魔獣の王の攻撃は、徐々に精神を侵食してゆく。

     直すためには、多くの時間が必要だったのだ。

     メルクリウス、ローゼス、炎の巫女が治療の為、

     この地に残った。

     氷の巫女は、次の戦いの為、眠りについたらしい。

     魔獣の王の攻撃を直接受けたガラダルは助からなかった。

     我が眠っている間に、メルクリウスがアーテを

     訪れたが、アーテは完全に壊滅していた。

     生き残りは、アーテの外にいた者達のみだった。

     

     この時、我は死をもって償うことを選んでいた。

     しかし、次の戦いに備えることで償うようにと

     皆に諭された。

     これを乗り越えるために多くの時間を要したが、

     心の傷が癒えた頃に我々は山を下りた。

     そしてアーテの外にいた人々と共に、

     同じ場所に国を作ったのだ。

     

     そして、何を成すべきかを考えた。

     神殿、魔法具を守る事。

     魔獣の王との戦い方を残す事。

     巫女の子孫を増やす事。

     やるべきことは、多岐にわたった。

     我らはそれらを確実にこなすために、いくつかの

     制約を子孫に残した。

     さらに、それらをゼロスと呼ばれる者から

     守らなければならなかった。

     ありとあらゆることを想定し、

     その対抗策を練らなければならなかった。

     真実と虚偽を織り交ぜ、ゼロスを惑わし、

     道標を残すことによって、秘密裡に伝えてゆく。

     そうやって、それらを守ろうとした。

     伝統や風習、伝承や伝説等として

     後世に残すしかなかったのだ。

     

     我らは、役割を3つに分けた。

     国王となり、神殿を守る者。

     ベンヌと魔法具を守る者。

     真実へと導く者。

     そして、その役割を誰が成すべきかを巫女に

     選んでもらったのだ。

     

     ここにたどり着いたという事は、それらが今もなお

     成されているという事だ。

     我らは、それを誇りに思う。

     

     最後に言う。

     魔獣の王を撃退する事は、さして難しい事ではない。

     個々が己の役割を全うするだけなのだ。

     決して奢るべからず。

     1人では、魔獣の王を撃退することは叶わないのだ。

     我は祈ろう。

     全ての人々が魔獣の恐怖から解放される事を。」


ここでルシード王の意識の流入は途絶えた。

同時にそれを受け入れていた者達の意識も断ち切られた。

各々が意識を取り戻したとき、

己が神殿の前に倒れていることを知った。

全員の意識が戻るのを待ってから、ルシード王国へと戻り、

事の次第をルシード王に報告した。

しかし、国王の反応は意外な程にそっけないものだった。

レミューズを除く者は、その反応に驚いていた。

今回の件については、カイン国王と魔獣王討伐隊のみの限定公開

とすることが条件となった。

そして、ドレアル、レミューズ、バーバラの3人は、

ルシード王国を後にし、カイン王国へと戻っていった。


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