運命の日2
ルシード:「北から城に向かうには大きく迂回する必要があった。
その道のりは険しかった。
途中何回も滑落しそうになりながら、城を目指した。
魔獣がいないことが、せめてもの救いだった。
山頂に到達した時、最初に目に飛び込んできたのは
真っ白な地面と巨大な城だった。
真っ白というのは雪ではない。
真っ白な砂のようなものが一面に広がっていたのだ。
巫女は、突然立ち止まり、目を閉じて祈りを捧げた。
我々も巫女に倣い黙祷した。
巫女が祈りを終えた後、理由を聞いてみたが、
ただ悲し気な顔をするだけで、何も答えなかった。
我々は、その白い砂の上を歩いて進んで行った。
元々は城壁が存在していたのだろう。
その痕跡のみが所々真っ白い砂の上に突き出ている。
城には、目立った損傷は見られない。
修復したのか、あるいは魔法で守られているのかは
わからなかった。
我々は1つの疑問を巫女達に投げかけた。
「城壁がこれだけ破壊されていては、城門も破壊され、
門番もいないのではないか?」
巫女の回答は至極当然の回答だった。
門番は城の入口まで後退しているというのだ。
つまり門番との戦闘は、城の中ということだ。
上を見上げると、巨大な城がそそり立っていた。
巨大というのは城全体の大きさの事ではない。
部分部分の大きさの事だ。
人間が利用するにはあまりにも大きすぎるのだ。
階段にしても、段差は2倍以上の高さがあった。
何も知らずにここを訪れたならば、自分達が小人に
なったように錯覚してしまうだろう。
北門の近くまで来ると、城門は破壊されその機能を
果たしていなかった。
しかし、破壊されたとはいえ、その城門の大きさに
驚きを隠せなかった。
巫女達の言葉を信じていないわけでは無かった。
しかし我々は、罠ではないかと疑ってかかった。
この時、巫女だけは、その疑いを否定していたが、
我々の不安を解消するためか、それ以上は何も
言わなかった。
我々はしばらくの間、北門の辺りを探索・調査した。
しかし、罠どころか、魔獣の気配すらなかった。
北門を越え、少し進むと城の入口があった。
入口は開いていた。
巫女達は警戒を怠らない我々を横目に、
何のためらいもなく入口から中へと入って行った。
我々もそれに続いた。
城の中に入ると、そこは巨大なエントランスだった。
本来ならここに門番がいたのだろう。
しかし、巫女達の言う通り魔獣の姿は無かった。
エントランスには、何も置かれておらず、
静かすぎる状況からも、
過去の遺物としか思えなかった。
入口の反対側に、開け放された扉が見える。
巫女達は、無言でそちらへと進んでゆく。
我々もそれに従った。
扉を通ると巨大な廊下だった。
左右へと道が続いている。
ここで巫女が注意を促した。
左右の扉を決して開けるなという事だった。
左右の部屋は、様々な大きさの壺が置いてあり、
近づくだけで魔獣が召喚されるということだった。
さらに、この廊下は他のエントランスにも
繋がっている。
間違って開け放てば、門番と戦う事になるのだ。
その言葉に我々は恐怖した。
巫女は、歩きながら話を続けた。
「魔獣の王は、既に我々の存在に気が付いています。
しかし、我々を魔獣に襲わせることは無いでしょう。
それが、魔獣の王の流儀ですから。」
我々は、昨晩の話を思い出し、納得した。
廊下を進むと直角に曲がっていた。
その角に中へと続く廊下が繋がっていた。
どうやら、廊下は城を周回するように作られている
ようだった。
我々は、城の中心へ続く通路を進んだ。
通路を抜け、最初に見えたものは異様な光景だった。
それは、柱の様に天井へと向かう巨大な植物だった。
近づくにつれ、それが腕ぐらいの太さのツタが
幾重にも絡まってできていることが確認できた。
巫女は何も語ってはいなかったが、我々はこれが
血呪草であることを確信していた。
太いツタのようなものから、血の様に赤い液体が
滴り落ちていたのだ。
突然巫女が言った。
「さっさと終わらせてしまいましょう。
この様なものは長く見るのもではないのです。」
その声にメルクリウスが動いた。
どこから出したのか、幾つもの革製の水入れを床に
並べている。
どうやら中には油の類が入っているらしい。
メリクリウスの指示の元、それを血呪草に
撒いて行った。
全てを撒き終わると少し離れたところから、
火の魔法を唱えた。
一気に燃え上がる。
ゴウゴウと燃える血呪草。
巫女はそれを悲し気な表情で眺めながら語り始めた。
それは初めて城が現れた時の話だった。
人間と魔獣の戦いも終盤を迎えていた。
人間は大軍を率いて魔獣の城を取り囲んだのだ。
そして、全軍で城壁・城門を攻撃した。
攻撃は順調に進んだ。
次々と崩れ去る城壁・城門。
城自体にも攻撃が行われたが、
結界が張られているのか、それは無傷だった。
十分に損害を与えた後に、攻撃の中止が
行われようとしていた。
その時、西門側から悲鳴のような声がきこえた
災難から逃れた人々は後にこう語った。
その声は、次第に大きくなり、そして近づいてきた。
声のする方を見ると、人々が真っ白な石像に
変わってゆくのが見えた。
それを見た魔導士達は、次々と帰還の魔法を唱えた。
そう、城の周りの白い砂は石像となった人間が
朽ち果てたものなのだ。
さらに、その砂は血呪草の糧となる。」
もし、レミューズの顔を見ていた者がいたならば、
その顔がみるみる青く変わってゆくのがみれただろう。
ルシード:「その後、何体かの石像を回収し、
石化について調査を行った。
しかし、それが明らかになったのは、
魔獣の王を撃退した後のことであった。
それは、石化を解くことが出来る。
という事だった。
彼等は石像の回収に向かったが、
城の存在した場所には何も存在していなかった。
城と石像は魔獣の王と共に消え失せていたのだ。
魔獣の王と共に魔獣界に消えたとした思えなかった。
彼等は次に魔獣の城が現れた時のために、
巫女に石化の解除を託した。
巫女は悲し気な顔をしてそれを承諾した。
しかし、次に魔獣の城が現れた時に巫女が見たものは
石像の森ではなく、真っ白い砂のみだった。
巫女は理解し、そして泣いた。
呪いはあくまでも生命に帰順する。
つまり、石化していても寿命は存在する。
寿命が尽きれば崩れ去るのだ。
もし、石化された者がいるのならば、まず回収せよ。
決して魔獣界へ連れ去られてはならない。
血呪草が燃えている間、巫女は祈りを捧げていた。
そして、それが燃え尽きた時、我らの方を向き
一言だけ言った。
「決着をつけるときが来ました。」
その言葉に我は覚悟を決めた。
人間は今までに幾度となく撃退してきたのだ。
負けることは無いと己に言い聞かせた。
そして、部屋を周回するように作られた階段を
上り始めた。
不思議なことに巨大な通路とは異なり、人間サイズの
階段だった。
まるで人間を招いているように思えてくる。
我々はゆっくりと階段を上がっていった。
階段を上るにつれ、高熱でうなされている時の様に
意識に靄がかかってゆく。
体が重い、疲労の頂点に達しているようだった。
考える気力さえ失われてくる。
しかし、いくら上っても一向に2階に
たどり着かないのだ。
何度見上げても、階段は真直ぐに遥か上方まで
続いていた。
なにかが明らかにおかしかった。
我々の困惑に気が付いたのか、巫女が言った。
「これは幻影です。
惑わされてはなりません。
戦いは始まっているのです。」
そう言って大河の水差の水を床にこぼした。
その水が床の上を広がり我の足まで広がった時、
見えていたものが目まぐるしく変わり、
突然巨大な扉が現れた。
その扉を見た瞬間、冷水を浴びたように、
意識がはっきりとした。
そして、巫女が言っていた、魔獣の王との戦い方を
思い出していた。
・・・そう、それは昨日の夜の話だった。
「結局のところ魔獣の王とは、どう戦えばよいのか?」
巫女は言った。
「扉の前でシヴァを召喚し、扉を開けて突入します。
魔獣の王は、最強の炎の呪文を仕掛けてくるはず。
シヴァの魔法でこれを防ぎます。
ルシード、ローゼス、ガダラルの3人は、魔獣の王に
近づいて直接本体に攻撃してください。
特にルシードの攻撃は重要です。
魔獣の王は、魔法を唱えようとします。
この詠唱を渦雷の剣で止めてください。
私達は、魔獣の王を封印する魔法を唱えます。
詠唱中は完全に無防備です。
決して魔法を唱えさせてはなりません。
魔獣の王は、短詠唱の魔法は唱えません。
よほどのことがない限り、
詠唱を止めることができます。」
・・・
横では、巫女がシヴァの召喚を始めていた。
目の前の扉の奥に魔獣の王がいる。
武器を持つ手に力が込められた。」
魔獣の王との戦いは目前に迫っていた。




